企業や自治体の業務ではさまざまな紙の書類を扱います。国は環境保全のためにペーパーレス化を推進しており、企業や自治体は紙の削減に取り組まなければなりません。
しかし、どのように進めたらよいのかわからない人もいるのではないでしょうか。
この記事では、ペーパーレス化の成功事例や重要性、成功させるためのポイントについて解説します。円滑に進めるためにはどうすればよいのか、ぜひ参考になさってください。
ペーパーレス化の成功事例3選【企業編】
自社でペーパーレス化を円滑に進めるには、まず他社の事例を知ることが大切です。企業のペーパーレス化の成功事例を3つご紹介します。
1. 電子契約システムを導入し、在宅勤務ができる環境を整備
ある企業では、社内外で在学勤務者が増えたことで、従来の押印・書類作成のために出社をする手間や、取引先から求められた電子契約に対応できないことが課題でした。
契約業務のペーパーレス化を実現するため、導入を決めたのが電子契約システムです。
PDF化してメールで送信するよりもかかる工程が少ないため、人的ミスも減らせる期待があります。
電子契約システムの導入により、押印や申請をほぼデジタル化。取引先との継続契約も電子化を実現したことで在宅勤務でも契約業務にスムーズに対応できるようになりました。
関連記事:電子契約書とは?作り方やメリット、デメリットなどを紹介
2. オンライン文書管理サービスを導入し、保管庫を占めていた紙書類を削減
ある企業では大量にある紙の書類の保管方法に悩んでいました。そこで目をつけたのが、オンライン文書管理サービスです。
オンライン文書管理サービスは、紙の書類を電子データで保管するサービスです。クラウド型のため、在宅勤務中でも必要な書類にすぐアクセスできるメリットがあります。
オンライン文書管理サービスの導入により、電子化が可能な書類を選別できたことで紙書類の削減に成功。書類の保管に使用していたキャビネットも不要となったことから、オフィススペースも広く使えるようになりました。
3. ペーパーレス会議システムを導入し、会議を効率化
ある企業では、会議前に紙の資料を用意することが負担になっていました。会議を始めるときは、用意された資料を見ながら行うため、必然的に会議時間も長くなります。
そこでペーパーレス会議システムの導入を決めました。作成した資料データをクラウドで共有できるシステムです。会議の規模にもよりますが、配布する資料を作成して印刷するのはそれなりの時間を要します。
また、資料によっては会議終了後にシュレッダーにかける負担もあります。
ペーパーレス会議システムの導入により、事前に資料を確認できるようになったことから、会議時間の短縮が実現。資料の印刷も不要となったため、担当者の負担軽減に役立ちました。
ペーパーレス化の成功事例3選【自治体編】
自治体では、ペーパーレス化にどのように取り組んでいるのでしょうか。ここでは自治体のペーパーレス化の成功事例を3つご紹介します。
1. ペーパーレス会議システムを導入し、印刷費用・工数を削減
長野県長野市では、以前から各業務の効率化を図ることを目的にシステム化やデータベース化に取り組んでいました。しかし、うまく活用できていないことから、具体的に業務に生かせるシステムの導入を検討していました。
そこで導入されたのがペーパーレス会議システムです。ペーパーレス会議システムの導入は、紙代と印刷費用の削減だけではなく、資料の差し替えや保管、破棄などの負担も抑えられるという期待がありました。
紙書類を多く使用する会議から導入を進めたところ、紙代約14万円と約300万円の印刷費用の削減を実現。会議の準備時間も短縮できたことから、業務効率化の面でも成功を収めています。
2. ペーパーレス会議システムを導入し、紙の使用量・印刷費用を削減
青森県弘前市は、業務に使用する紙の使用量の削減が大きな課題とされていました。もっとも多く使われていたのは会議用資料です。
2015年にペーパーレス会議システムの導入を実施。約1.4万枚の紙と約14.2万円の印刷費用の削減に成功しました。
システムの導入により、資料の準備時間もほとんどなくなり、セキュリティ面でも強化されるなど多くのメリットを得ています。
ペーパーレス会議システムはクラウドサーバー上で保管できるため、資料紛失の不安もありません。会議資料以外に情報共有やプレゼンにも活用されています。
3. 電子決裁システムを導入し、電子決裁率を99.1%に引き上げ
茨城県庁は、以前から電子決裁システムを導入していたものの、紙決裁と混在するといった満足のいく活用ができていませんでした。
行政文書の電子化を進めるため、知事がリーダーシップを発揮し、既存システムを活用して電子決裁率100%を目標とした取り組みをはじめました。
電子決裁システムを活用した電子決裁を100%にするには、ルールづくりが必須です。
段階的に取り組んだことで、2019年4月時点で13.3%だった電子決裁率を4カ月後の7月には99.1%まで引き上げました。
電子決裁システムの導入により、文書検索の効率化や改ざん防止などさまざまなメリットを得ています。
ペーパーレス化の重要性
ペーパーレス化が推進されている理由のひとつとして、環境保全があげられます。紙の製造や処分に二酸化炭素が発生するため、地球温暖化をとめるには紙の削減が急務です。
そのため、企業や自治体は紙の削減に着手し、環境への負担が少ない運営が求められています。
また、電子帳簿保存法改正の対応へ向けた整備も必要です。電子帳簿保存法の対象書類は、国税関係書類だけではなく、決裁関係書類、取引関係書類などがあげられます。
こうした重要書類の電子化にともなって、雇用契約書などの電子化を進めている企業もあります。
関連記事:雇用契約書は電子化できる?注目される背景や効果、懸念点などを徹底解説!
雇用契約書の電子化とあわせて、マイナンバーカードのペーパーレス化も求められています。
関連記事:マイナンバーの正しい管理方法!中小企業の特例措置やシステム化のメリット
関連記事:マイナンバーカードの「ペーパーレス化」とは?メリットや手順を解説
企業や自治体は、こうした重要書類の電子化に対応するため、セキュリティ対策も踏まえたシステムの導入を検討しなければなりません。
ペーパーレス化のメリット・デメリット
ペーパーレス化を導入するには、業務の見直しや新たなシステムの導入など検討しなければならないことが多くあります。ここでは、ペーパーレス化のメリット・デメリットについてご紹介します。
ペーパーレス化のメリット
ペーパーレス化するメリットは以下のとおりです。
- 紙の保管・管理のコストや負担の軽減
- 業務効率化や生産性の向上
- 多様な働き方への対応
紙の書類は保管場所の確保や管理する人の手間など、多くのリソースが必要です。ペーパーレス化によりこうしたリソースが空くことで、業務効率化や生産性の向上が期待できます。
またインターネット環境があればアクセスできるため、テレワークなど多様な働き方にも柔軟な対応が可能です。
関連記事:ペーパーレス化のメリットとは?推進の背景や円滑に進める方法を解説
ペーパーレス化のデメリット
多くの期待ができるペーパーレス化ですが、以下のようなデメリットもあります。
- 導入までに時間とコストがかかる
- システム障害のリスク
- 機器故障時の対応
ペーパーレス化を進めるには、まず電子化する書類の選定が必要です。さらに電子データを保管するためのシステムを導入しなければなりません。
導入費用はシステムごとに異なるため、慎重な決定が必要となります。
基本的にインターネット回線に接続して使用するため、システム障害のリスクやパソコンの故障によってデータが消えてしまうおそれもあります。
ほかにも誤入力のおそれもあるため、ヒューマンエラーについても対策を講じなければなりません。
関連記事:ヒューマンエラーはどのようにして起こる?主な原因や対策の具体例を徹底解説
ペーパーレス化を成功させる3つのポイント
ペーパーレス化を成功させるには、以下の3つのポイントがあります。
- 必要性を社内に周知する
- 社内外ともに段階的に進める
- 試運転や研修を実施する
ポイントを押さえて円滑に進められるようにしましょう。
1. 必要性を社内に周知する
ペーパーレス化を進めるときは、なぜ紙の書類を電子化しなければならないのか必要性を社内に周知することがポイントです。
これまでの業務の進め方を変えることに、反発する従業員も少なくありません。従業員から理解を得られないままペーパーレス化を強行すると、うまく運用できない可能性が高くなります。
そのため、すべての従業員が納得したうえで導入できるように、ペーパーレス化の成功によって得られる効果を提示することが大切です。
また、運用ルールなども周知して、理解と協力を得られるようにしましょう。
2. 社内外ともに段階的に進める
ペーパーレス化に取り組むときは、社内外への周知を含めて段階的に進めることがポイントです。電子化する紙書類には、発注書や請求書など取引先に関わるものもあります。
何も伝えず進めてしまうと、取引先が対応できないことで関係に亀裂が生じるおそれがあるため、社内だけではなく取引先にも影響が出ることも考えなければなりません。
取引先にもペーパーレス化に取り組む旨を説明し、どの書類を電子化してもよいのか確認しておきましょう。理解を得ながら進めることで信頼関係の維持につなげることが可能です。
3. 試運転や研修を実施する
ペーパーレス化は早急に進めると、従業員の理解を得られず運用に失敗するおそれがあるため注意が必要です。運用方法を誤ると、行き違いが生じるなどコミュニケーションが失われてしまう可能性も想定しなければなりません。
ペーパーレス化に取り組むときは長期間の計画を立てたうえで、小規模から導入するなど試運転を実施することがポイントです。導入前にシステムの使い方や運用ルールを周知するために、従業員向けに研修を実施してもよいでしょう。
ペーパーレス化を進める上での留意点
ペーパーレス化を進めるときは、電子化にできない書類やシステム障害のリスクなども考慮しなければなりません。ペーパーレス化を進める上での留意点について解説します。
ペーパーレス化ができない書類もある
企業や自治体で扱う多くの紙の書類がペーパーレス化できますが、以下の公正証書は電子契約には対応していません。
- 事業用借地権設定契約書
- 農地の貸借契約書
- 任意後見契約
また、手書きで作成された領収書や請求書もペーパーレス化には対応していないので注意しましょう。スキャナ保存は可能ですが、紙の原本は保管しなければなりません。
業務で使用する書類で何が対象外なのか、事前に選定しておくことが大切です。
システム障害が発生するリスクがある
ペーパーレス化で電子データ化した書類は、パソコンやタブレットなどの端末がなければ閲覧できません。そのため、端末が故障したり、システムに不具合があったりすると業務に支障をきたすおそれがあります。
システム障害が起きたときに備えて、定期的なデータのバックアップや電子化した書類の原本を一定期間破棄しないといった対策を講じることが大切です。
多くのクラウドサービスは独自のセキュリティ対策を行っていますが、サービスだけに頼らず、自社でもリスクに備えておきましょう。
失敗しない!ペーパーレス化の進め方
円滑にペーパーレス化を進める方法について解説します。業務効率化や経費削減につなげるには、段階的に進める必要があります。
1. 自社で行っている紙業務を洗い出す
まずは、自社で何にどれだけ紙を使用しているのか、紙業務を具体的に洗い出します。おもに以下のような書類が紙でやり取りされているのではないでしょうか。
- 報告書
- 稟議書
- 契約書
- 請求書
- タイムカード
これらの書類を作成するうえで使われている紙の量や印刷機の稼働時間、インク代を部署ごとに定量的に調査を実施します。現状の紙の使用量と用途を可視化することで、ペーパーレス化を導入すべき業務や部署が明確になります。
2. ペーパーレス化の対象業務を選定する
紙の量や用途を洗い出したら、ペーパーレス化できる業務を検討します。選定のポイントとしては、ペーパーレス化することで影響が大きい書類を対象とすることです。
毎月作成される書類や多くの社員から必要とされる紙の書類は、ペーパーレス化の効果が期待できます。
しかし、書類によっては法的にペーパーレス化が難しいものもあるため、利便性だけで判断しないように注意しましょう。
選定時には部署長など、現場で働く従業員にも意見を聞いた上で検討することが大切です。
3. 自社の目的に合うシステム・ツールを導入する
ペーパーレス化に対応するために導入するシステムやツールを選ぶときは、目的に合わせた選定が大切です。
- 電子契約システム
- オンライン文書管理サービス
- ペーパーレス会議システム
- 電子決裁サービス
- ワークフローサービス
- ファイル共有サービス
- クラウド勤怠管理サービス
- チャットツール
これらのシステム・ツールはそれぞれ機能が異なります。多機能だから利便性が高いというわけではありません。
不要な機能が多いと操作も複雑になりがちですし、利便性が低下して活用されなければ、コストがかかるだけということになります。目的に合ったシステム・ツールを導入することが大切です。
まとめ:ペーパーレス化の推進には目的に合ったサービスの導入を
社内でペーパーレス化を推進するときは、対象業務と書類を洗いだしてから、目的に合ったサービスを導入することが大切です。
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