やりがい搾取とは

労働者の「仕事に対するやりがい」を悪用し、低賃金や長時間労働で働かせる「やりがい搾取」について、経営者や管理職、人事担当の方は正しく理解できていますか?

仕事に対するやりがいがあるのは素晴らしいことですが、「やりがいがある働き方」と「やりがい搾取」では意味が変わります。特に企業における管理職や人事担当の方が、やりがい搾取について正しく理解しておく必要があるでしょう。

今回は、やりがい搾取が起きる原因や職種別の事例、対処法などについて解説します。やりがい搾取を放置して企業のイメージダウンにつながらないよう、ぜひ最後までご覧ください。

やりがい搾取とは

やりがい搾取とは、経営者が労働者に対し、「仕事に対するやりがい」を悪用することで、低賃金や長時間労働を強いる行為のことです。

たとえば、次のような言葉で労働者を洗脳し、不当な長時間労働や低賃金労働で利益を搾取します。

  • 「うちは給与は低いが、やりがいがある仕事だ」
  • 「うちは長時間労働だけど、やりがいのある仕事だ」

仕事に対する「やりがい」は、労働者のモチベーションを上げるためにも必要なものです。しかし、その「やりがい」を経営者が悪用し、労働者を不当に扱う行為はハラスメントに該当します。

場合によっては従業員から訴訟され、裁判沙汰へと発展するケースもあるでしょう。やりがい搾取が労働災害に該当すると認められれば、賠償責任も伴います。

やりがい搾取が起きる原因

では、やりがい搾取が起きる原因にはどのようなものがあるのでしょうか?やりがい搾取が起きる主な原因には、次の4つが挙げられます。

原因

・人件費の削減
・名ばかり管理職の横行
・封建的な業界構造
・夢や希望の悪用

それぞれ詳しく解説していきましょう。

人件費の削減

やりがい搾取が起きる一番の原因は、経営者による意図的な人件費の削減です。業務内容に見合わない低賃金で労働者を雇い、「やりがいがある仕事だ」と洗脳することで、低賃金でも文句を言わずに働く労働者を生み出し、人件費を削減することが狙いです。

特に労働への意欲が高く、なおかつ人件費の安い20代の若手社員を、やりがい搾取のターゲットとして扱うことが多くあります。一般社員と同等、もしくはそれ以下の賃金で雇用しているにもかかわらず、「やりがいがあるから」といって責任のある仕事を与えるケースも珍しくありません。

本来なら仕事内容や経験に合わせて昇進や昇給させなければならないところを、低賃金のまま「やりがい搾取」することで、人件費を抑えているのです。

名ばかり管理職の横行

いわゆる「名ばかり管理職」の横行も、やりがい搾取を生み出す原因の一つです。あえて管理職としての能力を伴わない従業員を「名ばかり管理職」として登用し、「管理職だから」という理由で長時間労働させることが狙いです。

「管理職を任された」という労働者のやりがいを悪用し、実際は管理職として十分な待遇を与えることはありません。

しかも、あえて能力の低い労働者を登用することで、「自分は管理職として認められている」と労働者に勘違いをさせやりがいを搾取します。

能力の低い人には、役職やポストにこだわりが強い人もいます。そういった心理を利用した名ばかり管理職への登用と、やりがい搾取の実施は、まさに悪質と言わざるを得ない行為です。

封建的な業界構造

企業や業界自体が、封建的な業界構造になっている場合にも、やりがい搾取が起きやすくなります。

  • 経営者や上司の命令は絶対
  • 上下関係を過剰なほどに重視する

上記のような業界構造になっている場合は、個人の自主や権利がないがしろにされるため、やりがい搾取が起きやすいといえます。特に、職人や料理人といった師弟関係が基本となる業界においては、弟子のうちは低賃金かつ長時間労働に陥りやすいため、やりがい搾取につながる可能性が高いといえます。

夢や希望の悪用

カリスマ性のある経営者や上司などが、夢や希望を抱く若手社員に対して洗脳することで、やりがい搾取へと発展する場合もあります。労働者に対し「自分も〇〇さんみたいになりたい」と夢や希望を抱かせることで判断力を鈍らせ、経営者にとって都合の良い存在へと成長させます。

夢や希望をエサに、低賃金や長時間労働でも文句も言わずに働く労働者を生み出すことが狙いです。こういった企業では精神論や根性論を振りかざす傾向が強いため、やりがい搾取されないためにも、客観的かつ論理的な思考力を身につけることが大切です。

やりがい搾取の職業別の事例

やりがい搾取

続いて、やりがい搾取の職種別の事例を5つ紹介します。

  • クリエイター
  • テーマパークスタッフ
  • コンビニ店長
  • 介護士
  • 保育士

上記の5つの職業は、いずれもやりがい搾取が起きやすいとされています。それぞれ解説しましょう。

クリエイター

ゲームクリエイターやウェブデザイナーといったクリエイター職は、次の理由からやりがい搾取が起きやすいとされています。

  • 納期に余裕がない
  • 長時間労働になりやすい
  • 制作費と求められるクオリティが釣り合わない
  • スペシャリストとしての責任がのしかかる など

特にアニメーターのような、業界自体が低賃金にもかかわらず希望者が多い職業は、やりがい搾取の対象になりやすいといえます。自分の特技や好きなことを仕事にしたいと考える人は多いため、特技や趣味を活かせるクリエイターは人気職種の一つです。

「クオリティを追求するためには、低賃金や長時間労働も仕方ない」と考える人がいることも、やりがい搾取が起きる原因です。

テーマパークスタッフ

テーマパークのスタッフも、やりがい搾取が起きやすい職業といえます。

テーマパークで働くスタッフの多くは、元々勤務先のテーマパークのファンであることが多いといえます。そのため、「憧れの場所で働ける」という喜びから、長時間労働や低賃金でも働きたいと考える人も少なくありません。

就職サイト等でテーマパーク業界の口コミを見てみると、「長時間労働かつ低賃金だけどやりがいはある」といった声が多く投稿されています。雇用する側もその心理を理解しているため、結果として経営者にとって都合の良い「やりがい搾取」が起きやすくなるのです。

コンビニ店長

コンビニの店長職も、やりがい搾取が起きやすい職業の一つです。コンビニの店長は「経営者」としてのやりがいを感じやすい一方で、長時間労働や人手不足によるやりがい搾取が横行しやすい特徴があります。

また、「名ばかり管理職」が増えやすいことも、コンビニ業界の特徴の一つです。アルバイトやパートの穴埋めで店長が勤務することも多く、長時間労働に陥りがちになります。

さらに、長時間労働にもかかわらず、コンビニ店長は管理職のため残業手当がつきません。その結果、時間給では一般社員を下回るようなケースもあります。

介護士

介護士の仕事は、介護者から直接感謝される機会も多いため、やりがいを感じやすい職業だといえます。その一方で、長時間労働や深夜勤務が多く、なおかつ業界自体の給与水準も低いため、やりがい搾取が起きやすい職種でもあります。

「困っている人の助けになる」という責任感を感じやすい特徴から、不当な長時間労働や低賃金であっても、受け入れて働く労働者も少なくありません。

保育士

保育士の仕事も、やりがい搾取が起きやすい職業の一つです。保育士は「子どもを扱う」という重要な役割を担う一方で、業界自体の給与水準は決して高いとはいえません。

また、保育士の多くは責任感が強いこともあり、「子供のためなら仕方がない」と考え、不当な長時間労働や低賃金でも受け入れてしまいがちになります。このような状況もあり、近年は保育士の過酷な労働環境について、より問題視されるようになりました。

保育士の待遇改善へ向けて、政府も積極的に取り組んでいます。

やりがい搾取に見られる共通点

続いて、やりがい搾取に見られる共通点を4つ紹介します。

やりがい搾取に見られる共通点

・従業員の善意を利用する
・仕事を断ると従業員が不利益を被る
・根性論や精神論を押し付ける
・固定残業やみなし残業が多い

自社に上記の共通点が見られた場合は、知らないうちにやりがい搾取となっている可能性もあります。経営者や人事担当者の方が特に気をつけたいポイントです。

従業員の善意を利用する

やりがい搾取の多くは、従業員の責任感や労働意欲といった善意を不当な形で悪用しています。

仕事にやりがいを感じて働くことはまったく問題ではありませんが、働きに見合った待遇を出さないのは問題です。

従業員の善意を利用し、利益を搾取する行為は「やりがい搾取」に該当します。職場に長時間労働を美徳とするような古い考え方が浸透していないか、経営者や管理職は実態を確認しておくのも重要です。

仕事を断ると従業員が不利益を被る

やりがい搾取の共通点としてよく見られるのが、従業員が仕事を断ると不利益を被ることです。昇進や昇給に影響するなどと従業員を脅し、やりがい搾取による不当な長時間労働などを続けさせようとします。

特に、仕事を休むことを「悪」とするような会社によく見られる特徴です。

根性論や精神論を押し付ける

「やればできる」といったような、経営者の根性論や精神論を従業員に押し付けることも、やりがい搾取が横行している企業に見られる特徴です。

特に、カリスマ性の高い経営者がいる企業によく見られるケースで、経営者のカリスマ性に感化された労働者を、やりがい搾取という形で悪用して利益を搾り取ります。

また、新入社員の研修などにおいても、経営者を賛えるような洗脳まがいの研修を実施するケースも見受けられます。

固定残業やみなし残業が多い

基本給に含まれる固定残業代やみなし残業代が多いことも、やりがい搾取を実施する企業に見られる共通点の一つです。

固定残業代やみなし残業代が多いということは、その時間分はどれだけ残業しても給料が変わらないことを意味します。また、基本給を低く設定することで、ボーナスの支給額を減らせるといった経営者側の利点もあります。

そもそも固定残業やみなし残業を多く確保している時点で、「残業を改善する気がない会社」として判断できます。固定残業代やみなし残業代が多い会社は、不当な長時間労働によるやりがい搾取が横行しやすい職場であるといえるでしょう。

やりがい搾取を生まないための対処法

最後に、やりがい搾取を生まないための対処法について解説しましょう。やりがい搾取を生まないための対処法には、次の4つが挙げられます。

やりがい搾取を生まないための対処法

・経営者や管理職の意識改革
・長時間労働の見直し
・相談窓口の設置
・社内DXの推進

経営者や管理職の意識改革

やりがい搾取を生まないためには、経営者や管理職の意識改革が一番重要だといえます。

  • 経営者や管理職の考え方を押し付けない
  • 精神論や根性論で従業員を指導しない
  • 経営者や管理職の思い込みで、従業員もやりがいを持っていると決めつけない

上記の項目に該当する場合は、経営者や管理職の意識改革が必要です。

仕事にやりがいを見出すのは従業員本人であり、経営者や管理職が押し付けるものではありません。やりがい搾取の根本の原因をなくすためには、経営者や管理職の意識改革が必要不可欠です。

長時間労働の見直し

やりがい搾取の多くは、長時間労働が原因で生まれます。

そもそもの業務量が適切な範囲であれば、長時間労働をする必要がないため、やりがい搾取も生まれません。職場でのやりがい搾取をなくすためにも、経営者や管理職は自社の労務管理が適切かどうか、チェックを怠らないようにしましょう。

相談窓口の設置

やりがい搾取と感じている従業員が相談できるように、社内や社外に相談窓口を設けることも重要です。人事部が相談窓口になるのも良いですし、自社の産業医や外部機関に窓口を設置することも効果的でしょう。

労働者が悩みを抱えることなく、働きやすい職場だと感じることで、やりがい搾取などをしなくても、自然と従業員がやりがいを見出すようになります。

社内DXの推進

社内DXを促進し業務の効率化を図ることも、やりがい搾取を防ぐのに有効な手段です。

社内のDXが進むことで、作業人数の減少や作業時間の短縮、作業の可視化などが可能となり、業務の生産性が大幅に向上します。また、作業人数も減らすことで人件費の削減にもつながります。

そのため、名ばかり管理職のような人件費削減を目的とした存在も生まれにくくなります。

まとめ

やりがい搾取が起きる原因や職種別の特徴、対処法などについて解説しました。やりがい搾取の多くは、企業が長時間労働や低賃金で利益を搾取するために実施されるものです。

したがって、少人数でも業務の生産性が向上し、利益が上がるのであればやりがい搾取も起こりにくくなります。

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