残業時間が月45時間を超えたら

36協定を締結している場合、残業時間は月45時間・年360時間が上限です。2019年の労働基準法改正に伴い、残業時間の上限が罰則付きで規制されました。残業時間が月45時間を超えると罰則に加え、さまざまなリスクが発生します。

今回は、残業時間が月45時間を超えた場合のリスクや残業時間について解説します。

残業時間の上限は月45時間・年360時間

36協定を締結していると、月45時間・年360時間まで残業を命じることができます。年360時間の上限を守るためには、残業時間を平均月30時間以内に抑えなければなりません。

仮に毎月45時間まで残業を命じていた場合、45時間×12ヶ月=540時間と規定を大幅に超過します。また、働き方改革関連法の施行に伴い、2020年4月から中小企業でも残業時間の上限が、罰則付きで規制されました。36協定の上限時間を超えた場合は、労働基準法違反とみなされ罰則が科せられます。

36協定とは

36協定とは、時間外労働や休日労働に関する協定届です。36協定の締結と届出が行われていない場合、法定労働時間を超える労働を従業員に命じることができません。

法定労働時間は労働基準法によって、1日8時間・週40時間と定められています。

36協定は労使協定を締結した後、締結した内容を労働基準監督署に提出してはじめて有効とみなされます。36協定を提出せずに時間外労働を命じた場合は労働基準法違反となり、罰則が科せられます。

残業時間が月45時間を超えても違反にならないケース

36協定の上限時間である月45時間・年360時間は、遵守するのが原則的なルールです。しかし、次の5つのケースに該当する場合は、上限時間を超えても労働基準法違反とはみなされません。

違反にならないケース

・特別条項の締結
・高度プロフェッショナル制度を導入
・国家公務員
・公立教員
・管理監督職

特別条項の締結

特別条項付きの36協定を締結した場合、残業時間が月45時間を超えても違反とはみなされません。

特別条項は、36協定の上限時間を超える労働を命じる場合に締結します。特別条項を締結すると、臨時的な特別な事情がある場合のみ上限時間を超える労働を命じられます。

臨時的な特別な事情とは、通常予測できない業務量の大幅な増加が見込まれるケースです。

クレーム対応やシステム障害復旧作業などが該当します。「慢性的な人手不足」や「業務上の都合」など、曖昧な理由では適用を認められません。

特別条項の適用が認められた場合、時間外労働を年間720時間まで命じることができるようになります。ただし、複数の規定をすべて遵守しなければなりません。一つでも満たせない場合、労働基準法違反に該当します。

特別条項の規定

・適用回数は年6回
・時間外労働の上限時間は年720時間
・時間外労働+休日労働の合計時間は月100時間未満
・2~6ヶ月平均で時間外労働+休日労働の合計時間は月80時間以内

高度プロフェッショナル制度を導入

高度プロフェッショナル制度とは、成果と労働時間の関連性が薄く、高度な専門知識を使って業務を進めていく業種に適用される制度です。書面によって業務範囲が明確に定められており、年収1,075万円以上の労働者が適用対象です。

新商品の研究開発や市場のデータ分析、コンサルティング業務などが、適用対象となります。高度プロフェッショナル制度を導入した場合、労働時間の制限が撤廃されます。つまり、残業や休日労働の扱いがなくなる状態です。

企業側は、36協定の締結や割増賃金を支払う必要がなくなります。ただし、労働時間の正確な管理や年間104日の休日確保など、過重労働を防ぐための措置は講じなければなりません。

国家公務員

労働基準法は、企業と雇用契約を締結している労働者を守るための法律です。企業の雇用者と労働者との関係をまとめた法律であるため、国家公務員には適用されません。

国家公務員には、「一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律」が適用されます。この規定によると国家公務員の労働時間は1日7時間45分、週換算では38時間45分です。

週休2日制の適用が原則的なルールです。上記を超える労働を命じた場合は、残業として扱われます。

公立教員

公立教員は地方公務員に該当するため、労働基準法が適用されます。ただし、36協定は適用されません。時間外労働や休日労働に関する規定は、「公立学校教育職員の給与等に関する特別措置法(給特法)」が適用されます。

給特法では、時間外労働手当や休日手当の代わりに、月給の4%が教職調整額として支払われます。規定では学校行事や職員会議、生徒の実習などが発生した場合のみ、教職調整額が支払われる形です。

しかし、実際は授業の準備や書類作成など、日々の残業も教職調整額で支払われる形になっており、労働量に見合った報酬が得られていません。

管理監督職

管理監督者とは、労務管理に関して経営者と一体的な立場にある者を指します。つまり、労働時間や休憩時間、休日など、労務管理を自ら調整できる立場にいます。

一般従業員と異なり、管理監督者に労働基準法の規定は適用されません。

管理監督者の定義は、組織内で重要な職務を担い、職務内容に見合った相応の地位や待遇を与えられている状態です。課長や店長など、企業独自の判断で定める管理職と必ずしも一致するわけではないことに注意してください。

残業時間が月45時間を超えた場合に生じるリスク

残業時間が月45時間を超えると、従業員と企業双方にさまざまなリスクが生じます。次の5つのリスクが生じることを認識しておきましょう。

リスク

・6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる
・従業員の健康リスクが増大する
・従業員のモチベーションが低下する
・人件費が高騰する
・自社のイメージが悪化する

6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる

特別条項を締結せずに残業時間が月45時間を超えると、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。違反者1人につき罰則が科せられます。違反者が増えるほど罰則も重くなるため、注意しましょう。

また、特別条項の規定をすべて満たせなかった場合も、上記と同様の罰則が科せられます。2019年の労働基準法改正に伴い、罰則付きで残業時間の上限規制が定められています。

法改正前と異なり、特別条項を締結すれば無制限に時間外労働を命じられる状況ではありません。労働基準法違反とならないよう、従業員の労働時間を正確に管理することが重要です。

従業員の健康リスクが増大する

残業時間が月45時間を超えると、従業員の健康リスクが増大します。残業時間が過労死ラインに達していた場合、早急な改善が必要です。

過労死ラインは病気や過労死に至った原因が、長時間労働に起因すると定める基準のことです。次の2つが過労死ラインの基準です。

  • 発症前1ヶ月間の時間外労働が月100時間
  • 発症前2~6ヶ月間の時間外労働が平均80時間

既にさまざまな研究結果によって、長時間労働の危険性が示されています。労働時間が週55時間以上、または月の時間外労働が60時間を超えると、脳や心臓疾患のリスクが2〜3倍高まります。

慢性的な長時間労働によって睡眠時間が不足すると、メンタルヘルス不調やがんの発生リスクを高めるとの発表もあり、非常に危険な状態です。

従業員の健康を守るためにも、過労の初期症状が見られた場合、すぐに休暇を取得するよう命じてください。共に働く他の従業員が異変を察知できるよう、普段からコミュニケーションを交わしておくことも重要です。

表:過労の初期症状

主な体調不良の症状業務への影響
・不眠症
・倦怠感
・食欲不振
・頭痛
・めまい
・吐き気
・胃腸障害
・記憶力や判断力の低下
・ケアレスミスの増加
・人間関係でのトラブル増加
・ハラスメントの発生リスク向上

従業員のモチベーションが低下する

長時間労働が慢性化すると、従業員のモチベーションが低下します。仕事に多くの時間を割かなければならず、ストレス発散や疲労回復に充てる時間を十分に確保できません。オンとオフの切り替えができず、業務効率や成果物の品質が伸び悩みます。

職場環境が改善されないと、企業への帰属意識や忠誠心が薄れ、退職を選ぶ従業員も出てくるでしょう。優秀な人材の流出を防ぐためにも、残業時間削減に向けた取り組みが必要です。

人件費が高騰する

法定労働時間を超える労働を従業員へ命じた場合、企業は割増賃金を支払わなくてはなりません。従業員の残業時間が増えるほど支払う手当の額は増えるため、人件費が高騰します。

また、2023年4月から中小企業でも時間外労働の割増率が引き上げられます。1ヶ月で60時間を超える時間外労働を従業員に命じた場合、基礎賃金×50%の割増賃金を超過した時間数、支払わなければなりません。

従来は60時間を超えたとしても、基礎賃金×25%で算出した額を支払えば問題ありませんでした。すでに大企業には適用されている制度ですが、資金面や人的リソースに余裕のない中小企業には、猶予期間が設けられていました。

しかし、長時間労働を原因としたメンタルヘルス不調や過労死の事例が散見されています。事態を重く見た政府側が、中小企業にも割増率引き上げ適用を決断しました。

自社のイメージが悪化する

残業時間が多いと、「働きにくい職場環境」や「従業員を大切にしないブラック企業」など、ネガティブなイメージが定着します。価値観の多様化に伴い、ワークライフバランスを重視する労働者は少なくありません。

「労働時間が長い企業」との印象を持たれると、学生やビジネスマンから敬遠される傾向が強くなります。労働力不足解消や若返りに向け求人を掲載しても、思うように応募は集まらないでしょう。

また、労働基準法違反の内容が悪質だった場合、労働基準監督署が企業名を公表します。マスメディアやインターネット上で企業名が報道された場合、自社のイメージダウンは避けられません。

法令違反を犯した企業に対する視線は、年々厳しくなっているのが現状です。社会的信用低下やブランドイメージの失墜を招き、今後の企業経営が大変厳しい状況に追い込まれるでしょう。

残業時間を月45時間以下に抑えるための方法

残業時間を月45時間以内に抑えられると、コスト削減やワークライフバランス改善につなげられます。

残業時間を月45時間以内に抑える具体的な方法は、主に次の4つです。複数の方法を導入すると、業務効率改善につながる確率が高まります。

残業時間を月45時間以下に抑える方法

・クラウド型勤怠管理システムの導入
・ノー残業デーの導入
・業務プロセスのデジタル化
・フレックスタイム制の導入

クラウド型勤怠管理システムの導入

残業時間削減の方法として、クラウド型勤怠管理システムの導入は有効な選択肢です。

クラウド型勤怠管理システムを導入するメリットは、勤怠データを効率的に集計できる点です。労働時間や時間外労働、休日労働など、勤怠データの集計〜反映までをシステムへ一任できます。

システム上には常に最新の勤怠データが反映されており、管理職は部下の勤怠状況をすぐに把握できます。労務担当者と何度もやり取りを重ねる必要はありません。

一方、労務担当者も工数の掛かる業務はシステムに任せられるため、他の作業に集中して取り組めます。残業過多に陥っている従業員を見つけた場合はアラートを発し、過重労働を未然に防げます。

勤怠データに関する管理職からの問合せも減少するため、作業を邪魔される心配は要りません。また、スマートフォンアプリやGPS、Webブラウザなど、打刻方法も豊富に搭載しています。

従業員に貸与するモバイル端末から出退勤時刻を打刻するため、不正打刻のリスクを最小限に抑えられます。生体認証を活用すれば、紛失や盗難の心配も要りません。

そして、クラウド型は低コストで導入できる点も魅力です。ソフトウェアのインストールやインフラ環境構築は必要ありません。オプションを利用しない限り月額費用の他に追加費用は発生しないため、コスト管理も楽になります。

ノー残業デーの導入

残業時間削減の方法として、ノー残業デーの導入も挙げられます。

ノー残業デーは、定時で仕事を終える日を設ける取り組みです。週に1〜2日をノー残業デーとして設ける形が一般的です。

ノー残業デーの導入によって、従業員はプライベートな時間を多く確保できるようになります。家族と過ごす時間や趣味に没頭する時間を確保でき、ストレスを発散できるでしょう。

一方、企業としては、従業員の健康リスクや残業代を削減できる点がメリットです。ワークライフバランス改善に伴い、従業員のモチベーションアップや業務効率向上も期待できます。

ただし、緊急の顧客対応や納期のひっ迫などが発生すると、定時に帰るのは難しいでしょう。交替制の導入や人事評価項目への設定など、ノー残業デーを安定して運用するための仕組み作りが重要です。

業務プロセスのデジタル化

オンラインツールを導入し、業務プロセスのデジタル化を進めることも一つの選択肢です。

オンラインで業務を完結できる体制が整うと、業務効率化やコスト削減が期待できます。たとえば、顧客との商談を対面からWeb会議に変更したとしましょう。

営業担当者は顧客のもとへ移動する必要がなくなり、移動時間や交通費を削減できます。浮いた時間を他の顧客との商談や提案資料作成やメール対応に充てられるため、営業活動の効率化と顧客ロイヤリティ向上の両立が望めます。

一方、顧客側は会議室の確保や移動など、商談に向けた準備を省けることがメリットです。商談資料も画面共有で閲覧できるため、印刷する必要はありません。

上記のように、オンライン上で完結できる業務の幅が拡がると、多くのメリットが得られます。ただし、いきなりすべての業務プロセスをデジタル化する必要はありません。

従業員に多大な負担が掛かるだけでなく、顧客側にも迷惑が掛かるためです。チャットやタスク管理ツールなど、導入しやすい分野からデジタル化を進めると良いでしょう。

フレックスタイム制の導入

フレックスタイム制とは、1日の労働時間をコアタイムとフレキシブルタイムに分ける働き方です。フレキシブルタイムに業務を続けるかどうかは、従業員の判断に委ねられています。

仕事の進捗状況やプライベートの予定に合わせて、1日の労働時間を自由に調整できることがフレックスタイム制の特徴です。担当業務が終わっていれば、フレキシブルタイムに無理して業務を続ける必要はありません。

そのため、メリハリのある働き方を実現でき、プライベートな時間を多く確保できます。一方、企業にとっても残業代削減や業務効率改善、優秀な人材の流出防止など、多くのメリットが見込めます。

注意点としては、勤怠管理が複雑になる点です。フレックスタイム制を導入した場合は、労働時間が1日8時間、週40時間の上限を超えても、ただちに残業扱いになるわけではありません。

労働時間は、1〜3ヶ月単位での清算期間における総労働時間の枠組で管理します。実労働時間が総労働時間の枠組を超えなければ、残業とはみなされません。総労働時間の枠組は暦日数によって変動するため、正確に覚えておきましょう。

表:法定労働時間の総枠

1ヶ月単位2ヶ月単位3ヶ月単位
清算期間 の暦⽇数法定労働時間の総枠清算期間 の暦⽇数法定労働時間の総枠清算期間 の暦⽇数法定労働時間の総枠
31日177.1時間62日354.2時間92日525.7時間
30日171.4時間61日348.5時間91日520時間
29日165.7時間60日342.8時間90日514.2時間
28日160時間59日337.1時間89日508.5時間

残業時間が月45時間を超えると、従業員の健康リスク増大や人件費の高騰など、さまざまなリスクが発生します。特別条項を締結せずに従業員の残業時間が月45時間を超えた場合、労働基準法違反となり罰則が科せられます。

法令違反を犯した企業への視線は厳しく、今後の企業経営に多大な悪影響を及ぼすことは避けられないでしょう。ノー残業デーの導入や業務プロセスのデジタル化など、残業時間削減に向けての取り組みが求められます。

しかし、労務担当者は勤怠管理や給与計算、福利厚生の整備など、多くの業務を抱えています。労働環境の整備にまで手が回らず、悩みを抱えている企業も少なくないでしょう。

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