努力義務とは

2019年7月、働き方改革関連法が施行され、「勤務間インターバル制度」が努力義務として制定されました。勤務間インターバル制度とは、終業時間から次の始業時間まで一定時間を設けることにより、従業員の生活時間や休息時間を確保するための制度です。

では、努力義務にはどの程度の強制力があるのでしょうか?また、努力義務に違反した場合は、どんな制裁・罰則を受けるのでしょうか?努力義務についてしっかりと理解していなければ、企業として大きなリスクを負ってしまうおそれもあります。

そこで今回は、努力義務についての基礎知識・配慮義務や義務との違い・違反した場合の制裁や罰則について詳しく解説していきます。お伝えする内容を参考に、努力義務についてしっかりと理解し、健全な企業を目指して努力義務を遂行していきましょう。

努力義務規定とは

努力義務規定とは、法律の条文にて「〜するよう努めなければならない」「〜するよう努めるものとする」と規定されている項目のことです。努力することが義務付けられており、あくまでも当事者の自発的な行動を促すような内容となっています。

そのため、法的な拘束力はなく、違反しても罰則を受けることはありません。

ただし、法的拘束力がないからといって「違反しても良い」「努力しなくても良い」と考えてはいけません。努力義務を怠った場合は一定のリスクが発生することを覚えておきましょう。

「努力義務」「配慮義務」「義務」の違い

努力義務への対応.

日本の法律における義務規定には、努力義務規定以外に、配慮義務規定・義務規定が挙げられます。3つの義務規定の概要は次のとおりです。

努力義務配慮義務義務
条文における記載「〜するよう努めなければならない」
「〜するよう努めるものとする」
「〜するよう配慮しなければならない」
「〜するよう配慮するものとする」
「〜しなければならない」
「〜してはならない」
法的拘束力なしなしあり
違反した際の制裁・原則なし
・努力義務違反により損害を受けた第三者から損害賠償請求を受ける場合がある
・努力義務違反により行政から指導や勧告を受ける場合がある
・社会的な制裁を受ける場合がある
・原則なし
・配慮義務違反により損害を受けた第三者から損害賠償請求を受ける場合がある
・配慮義務違反により行政から指導や勧告を受ける場合がある
・社会的な制裁を受ける場合がある
・あり
・条文にて義務違反に対する制裁が併せて定められている場合がある

努力義務規定

努力義務規定では、努力することが義務付けられています。強制的な義務ではなく、当事者の自発的な行動を促すにとどまり、違反に対する罰則は定められていません。

ただし、努力を行わなかったことにより損害を受けた第三者から損害賠償を請求されたり、行政指導や勧告の対象となったりするケースもあるのです。

また、努力義務は、法律の趣旨として守ることが望ましいが、義務として立法化する合意が得られず努力義務にとどまったものが多く、今後義務規定として制定される可能性は大いにあります。

<努力義務規定の具体例>

労働時間等の設定の改善に関する特別措置法
第2条 第1項
事業主は、その雇用する労働者の労働時間等の設定の改善を図るため、業務の繁閑に応じた労働者の始業及び終業の時刻の設定、健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間の設定、年次有給休暇を取得しやすい環境の整備その他の必要な措置を講ずるように努めなければならない。
※引用元:労働時間等の設定の改善に関する特別措置法|e-GOV法令検索

配慮義務規定

配慮義務規定は、条文にて「〜するよう配慮しなければならない」「〜するよう配慮するものとする」と定められた項目です。法的拘束力はなく、原則罰則などの規定はありませんが、強制力は努力義務よりもやや上位にあります。

努力義務同様、配慮を怠ったことにより損害を受けた第三者から損害賠償を請求されたり、行政指導を受けたりするケースも考えられます。配慮義務も、将来的に義務として制定される可能性があることを覚えておきましょう。

<配慮義務規定の具体例>

労働契約法
第5条
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
※引用元:労働契約法|e-GOV法令検索

義務規定

義務規定は、条文にて「〜しなければならない」「〜してはならない」と定められた項目です。法的拘束力があり、違反した際は注意指導や勧告だけでなく、行政罰や刑事罰などの制裁を受けることがあります。

また、努力義務規定・配慮義務規定と同様に、違反したことにより損害を受けた第三者から損害賠償請求を受けるおそれがあるのです。3つの義務規定のうち最も強制力が強く、「必ず守らなければならない」項目となっています。

<義務規定の具体例>

労働基準法
第15条
①使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
②前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
③前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
※引用元:労働基準法|e-GOV法令検索

努力義務への対応方法

義務規定とは異なり、努力義務には法的拘束力がないため、企業としての対応方法が難しい項目です。「努力したかどうか」の基準は人によって異なり、自分自身が「努力した」と思っていても、他人から見ると「努力していない」と判断されるケースがあります。

そのため、企業としては、努力義務に反した行動が発生しないよう、慎重に対応する必要があるのです。ここでは、企業としての努力義務への対応方法について解説します。

対応方法

・該当の条文をよく読み、趣旨を理解する
・努力義務に関する裁判例を調べる
・社内での規定に反映する

該当の条文をよく読み、趣旨を理解する

まずは、該当する法律や契約の条文をよく読みましょう。条文の原文を読むことで、実際に定められている努力の内容が把握でき、行動に移しやすくなります。

条文を読む際は、該当の項目のみではなく、同条に規定されている項目をすべて読みましょう。これにより、努力を行わなくてはならない背景や目的を合わせて理解でき、本質的な対応ができるようになります。

努力義務に関する裁判例を調べる

さらに努力義務についての理解を深めるために、努力義務に関する裁判例を調べて確認してみましょう。どのような行為が努力義務違反になるのか、努力義務違反によりどのような制裁や損害賠償請求が行われたのか、具体的なイメージを持つことができます。

社内での規定に反映する

努力義務の内容を理解したら、社内での基準を定め、規定に反映させましょう。これにより、社員や外部の人から「努力をしている」と判断される基準を作れるというメリットが考えられます。

ただし、社内の規定を変更するのは簡単な作業ではないケースが多いでしょう。その場合は、基準を定めて社員に共有するだけでも、企業としての努力義務の遂行につながります。

努力義務に違反したらどうなる?

努力義務には法的拘束力がなく、違反しても過料などの行政罰・刑事罰などを受けることはありません。ただし、罰則がなくても、努力を怠った場合や、努力義務とは正反対の行動をした場合には、次のようなさまざまなリスクが発生します。

  • 損害を受けた第三者から損害賠償請求を受ける可能性がある
  • 行政・監督官庁からの指導や勧告を受ける可能性がある
  • 社会からみた企業の評価が下がる可能性がある

努力義務に違反したことにより、損害を受けた第三者がいる場合は、その第三者から損害賠償請求を受けるおそれがあります。また、法的な罰則を受けることはありませんが、行政からの指導や勧告を受けることもあります。

指導や勧告に従わなくとも、罰則はありません。ただし、受けた指導に対しては必ず従い、誠意ある行動が必要となります。

努力義務に違反した場合、社会的な制裁を受けるケースもあるでしょう。努力義務違反があるという事実や噂が、取引先や顧客に伝わった場合、企業全体の周りからの評価が大きく下がるおそれがあります。

社会的な評価の低下は、信頼が重要な企業としては致命的でしょう。罰則がないからといって、努力を怠ることがないよう注意が必要です。

働き方改革法における努力義務

努力義務の代表的な例として、2019年7月に施行された働き方改革関連法の「勤務間インターバル制度」が挙げられます。勤務間インターバル制度とは、終業時刻から次の始業時刻の間に一定時間以上の休息時間を設けることにより、従業員の生活時間や睡眠時間を確保するための制度です。

勤務時間ではなく、休息時間に焦点を当てた新しい考え方で、企業には勤務間インターバルを設ける努力義務が課せられるようになりました。国は休息時間の目安として、9時間〜11時間を推奨しています。

勤務間インターバル制度に基づき、努力義務を遂行するためには、従業員への明確な説明や勤務管理の徹底、従業員の労働時間の削減が必要です。また、努力義務として制定されている内容は、今後義務規定へと改正される可能性があるため、早めに従業員の勤務状態を見直し、行動に移すのが重要となるでしょう。

まとめ

努力義務は、条文にて「〜するよう努めなければならない」「〜するよう努めるものとする」と定められている項目を指します。

努力義務は、義務とは異なり法的拘束力がなく、違反した際の罰則もありません。しかし、罰則がないからといって努力義務に違反しても良いというわけではなく、企業として積極的に行動に移すことが求められます。

2019年7月に施行された働き方改革関連法では、「勤務間インターバル制度」が努力義務として制定されました。

勤務間インターバル制度は、労働時間ではなく、休息時間に焦点を当てた新たな制度です。勤務間インターバル制度では、終業時間から次の始業時間まで一定時間のインターバルを設けることにより、従業員の生活時間や睡眠時間を確保します。

この制度を適切に企業に取り入れるためには、従業員への明確な説明や徹底した労働管理、従業員の労働時間の削減が重要です。

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