企業が副業を「禁止」にする理由

2018年、厚生労働省から「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が発行され、それまでの「モデル就業規則」に記載のあった「副業禁止の規定を削除」したことにより、副業解禁の流れが広まっていきました。

しかし、多くの企業ではいまだに副業禁止を掲げています。企業に勤めるサラリーマンの方の中には、「自社が副業禁止だから副業をやりたくてもできない」という人も多いでしょう。

今回は、企業が副業を禁止にしている理由や、副業禁止でペナルティになってしまうケース、企業が考えるべきことについて解説していきます。

副業禁止は法律上問題ないのか?

副業とは、本業以外で仕事を行い、収入を得ることを指します。インターネットを活用した収入から、週末に店舗を運営して得た収入まで、さまざまなものが副業に該当します。

結論をお伝えすれば、企業が副業禁止を定めることは禁止となります。しかし、改正前の「モデル就業規則」には、「原則、副業禁止」とされていたため、多くの企業が就業規則などにそのまま副業禁止と明記しているのです。

リクルートキャリアが2018年に行った調査によれば、副業を原則禁止していると回答した企業は71.2%にまで上っています。そのため、多くの企業がまだまだ副業解禁の対応が行えていないといえるでしょう。

憲法上副業の禁止ができない

憲法では、副業の禁止を定めることはできません。なぜなら、日本国憲法第22条1項で、「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転および職業選択の自由を有する」と定められているからです。

職業選択の自由が憲法上認められているため、終業後や休日に副業を行うことは、国民の自由意志として尊重されます。そのため、憲法では企業が副業の禁止を定めることは違憲とされます。

労働基準法等では副業の禁止の条文はない

労働基準法や労働組合法でも、副業を禁止する条文は盛り込まれていません。残業時間や法定労働時間など、従業員の健康を守るための条文は定められていますが、副業に関する規定は明記されていないため、副業を行うことで法律違反などにはなり得ません。

一方で、本業の就業中に副業の業務を行った場合は「職務専念義務」の違反として解雇などの処分を受ける場合もあります。

公務員の副業は法律で禁止

公務員の副業は、「国家公務員法」や「地方公務員法」によって制限されています。なぜなら、公務員は国民への奉仕者であることが定められており、副業を行うことで特定の業種に対して利益を発生させる行為が望ましくないからです。

公務員が副業を行いたい場合は、国家公務員であれば人事院、地方公務員であれば任命権者の許可が必要になります。

企業が副業を禁止している理由

企業が副業を禁止している理由は、主に次の5点が挙げられます。それぞれの理由について解説していきます。

  • 従業員の長時間労働を助長してしまうため
  • 従業員の労働時間の管理と把握が困難になるため
  • 情報漏えい・技術流出のリスクがあるため
  • 人材流出のリスクがあるため
  • 利益相反のリスクがあるため

従業員の長時間労働を助長してしまうため

副業は本業での業務時間外に他の業務を行うことのため、本来であれば休むべき時間帯を業務に充てていることになります。

リクルートキャリアが行った「兼業・副業に対する企業の意識調査」においても、副業を禁止する理由として最も多かったのが、「社員の⻑時間労働・過重労働を助⻑するため」でした。

従業員が副業に積極的に行ったとしても、疲労を深めてしまい、本業での業務に支障をきたしてしまっては、企業側にとっては本末転倒になってしまいます。そのため、副業を禁止とし、労働時間外は休養に充てて欲しいと考えているのです。

従業員の労働時間の管理と把握が困難になるため

働き方改革法案の施行によって、年5日の有給休暇の取得や残業時間の上限規制などが企業により厳格に求められるようになりました。

働き方改革法案では、従業員の労働時間の把握ができずに、長時間労働を従業員に課していた場合は罰則が与えられるなど、企業側は従業員の健康管理を担う責務を負うものとなっています。

労働基準法第38条1項には、次のような規定があります。

  • 労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。

つまり、複数の企業で就労している労働者は、就労しているすべての企業の就労時間を合わせて対応する必要があります。そのため、従業員に副業を認めてしまうと、自社以外での労働時間の把握が難しくなってしまい、管理も困難になってしまいます。そのため、副業を禁止としている企業も多くあります。

情報漏洩(ろうえい)・技術流出のリスクがあるため

自社の従業員が外部の組織に従事する場合でも、単独で何かの副業を行う場合でも、これまで本業の企業で培ってきた知識や技術が他の場で活用されてしまいます。また、万が一自社の重要な機密情報などが流失してしまった場合、大きなダメージは避けられません。

企業は、従業員の教育に多くのコストをかけています。そのコストが無駄になってしまうばかりか、副業先が自社の競合先などだった場合、自社のノウハウや技術が流失したことによって、企業の競争力が奪われてしまう可能性もあるでしょう。

こうした情報漏洩や技術流出のリスクがあるため、副業を禁止にしている企業もあります。

人材流出のリスクがあるため

副業に力を入れている従業員の中には、自身のスキルを上げて独立をしたい、転職を目指したいなどを考える人もいるでしょう。また、副業が軌道に乗り始めると、本業よりも力を入れるために、退職をしてしまう従業員も中にはいます。

加えて、副業を積極的に行う従業員は、行動力と向上心を兼ね備えた人材であることが多いため、企業としても手放したくない人材であることがほとんどです。

副業を認めることによって、こうした人材が流出してしまうことは、企業にとって大きな損失になってしまいます。また、副業を始めたことで、他社への引き抜きをされてしまう場合もあります。

どちらにせよ、自社から人材が流失してしまうことには変わりはないため、副業禁止の理由にしている企業が多くあります。

利益相反のリスクがあるため

利益相反とは、自社の同業他社で従業員が副業を行った際に出した成果が、本業で勤めている企業の不利益につながってしまうことです。副業を認めることで、競業となってしまうリスクを負う可能性があります。

企業には自社の利益を守る必要性があるため、副業禁止にしている企業もあるのです。

副業禁止の企業でペナルティになってしまうケースとは

副業禁止の企業に勤めているにも関わらず副業を行い本業の企業に発覚してしまった場合、懲戒処分などの重いペナルティを受けるケースがあります。一方で、就業規則に明記されていない場合などは、原則としてペナルティを受けることはありません。

また、前述したように、副業を罰する法律などもないため、口頭による注意で終わるケースもあります。そのため、副業禁止の企業で副業を行う際には、就業規則に副業についての明記があるかをきちんと確認することが大事です。

なお、副業を行うことで、ペナルティを受けてしまうケースは次のような場合です。それぞれのケースについて解説していきます。

  • 本業に支障を来す場合
  • 企業の信用を著しく損なった場合
  • 企業に不利益を被らせた場合

本業に支障をきたす場合

副業の影響で本業に支障をきたす場合は、懲戒処分などの重い処分が下る場合があります。具体的には、本業の業務時間にも関わらず副業の業務を行う、副業による欠勤や遅刻、早退などが重なってしまうなどです。

他にも、本業の業務中に寝てしまったり、睡眠不足によって集中ができていなかったりするような場合も、本業に支障を来すとみなされる場合があります。

企業の信用を著しく損なった場合

副業によって企業の信用を著しく損なわせた場合も、懲戒処分などの対象になります。

たとえば、副業を通じて反社会勢力に関わる企業で業務を行っていた場合などです。その場合は、本業の企業が公表され社会的信用を失墜させることにつながります。

労働者は、企業との労働契約を結ぶ際に、使用者の名誉・信用を毀損しない義務を遵守することが定められています。こうした契約上の義務違反につながるため、懲戒処分や損害賠償請求などの対象になりえます。

企業に不利益を被らせた場合

企業に不利益を被らせた場合も、懲戒処分などの対象になります。

当然ですが、企業には従業員の個人情報をはじめ、顧客情報や契約に関する情報、機密情報など多くの重要な情報があります。こうした情報を副業によって活用した場合、会社にとっては大きな損害となり、不利益につながってしまいます。

他にも、本業で勤めている企業だからこそ掴めた情報などを、副業で活用してしまった場合、本来であれば企業側が受けるはずだった利益を横取りしたことになります。こうした場合でも企業に対して、不利益を被らせたと見られます。

副業はなぜバレるのか?

本業の企業に隠れて副業を行っている場合でも、ほとんどが企業側にバレてしまいます。主な理由は次の2点です。それぞれの理由について解説していきましょう。

  • 住民税の額が変わるから
  • 社会保険料が変わるから

住民税の額が変わるから

サラリーマンとして企業に勤めている場合、住民税は基本的に企業が給料から天引き(源泉徴収)を行っています。しかし、住民税は所得に応じて自治体に納めるものなので、副業によって出た利益は別途、確定申告を通して納税する必要があります。

住民税は、確定申告によって申告された所得に対して、自治体側が納付額を決定していきます。この決定した住民税の納付額は、本業で務める企業に送付される決まりとなっているため、企業側は所属しているすべての従業員の住民税を知ることになります。

そのため、企業の給与収入で支払うはずの住民税よりも多くの納税額が知られるため、本業以外でも収入を得ているとわかり、副業がバレてしまうのです。

なお、企業への住民税の通知を防ぐことは可能です。副業の確定申告を行う際に、申告書第二表の「住民税に関する事項」の欄で、「自分で納付」を選択することで防ぐことができます。この場合、企業への通知はされませんが、住民税は自身で納める必要があります。

社会保険料が変わるから

社会保険料が変わることで、企業にバレてしまうケースもあります。社会保険は、次の条件を満たすことで加入義務が発生します。

  • 1週間に20時間以上の勤務時間がある
  • 月の賃金が8.8万円以上である
  • 1年以上勤める予定である
  • 厚生年金に加入している
  • 社会人である、あるいは定時制や夜間学校に通っている

本業の企業で社会保険に加入している場合でも、副業で他の企業に勤め、条件を満たした場合に加入の義務が発生します。また、社会保険は複数社での加入は認められていないため、副業での企業に対しては、「被保険者所属選択届・二以上事業所勤務届」の提出が必要です。

社会保険料は本業と副業を合わせた給与所得によって決定されるため、こうした社会保険料の変化によって、本業の企業にバレてしまいます。

副業は解禁の流れになっている

前述したように、2018年に厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を発行したことで、社会全体で副業は解禁の流れになっています。

学情が行った副業に関するアンケートによれば、20代の約9割が副業を希望しているという結果になっています。そのため、大手企業を中心に副業解禁を始めた企業が増えてきています。

法律の変化

働き方改革法案の施行によって、従業員の労働時間の制限やワークライフバランスを保つことが企業に求められるようになりました。そのため、企業側は従来の36協定を基準とした、長時間労働を従業員に課すことが困難になってきています。

加えて、厚生労働省が「モデル就業規則」で副業を認めると改定しました。こうした法律の変化によって、副業解禁の流れは進んでいます。

働き方に対する意識の変化

昨今、時間や場所、雇用形態に捉われずに働いていきたいと考えている人が増えています。たとえば、フレックスタイム制によってコア時間を含む自身の好きな時間に働いたり、テレワークを活用して会社に出社しなくても業務を行ったりすることが挙げられます。

多様な働き方が認められることで、自身の時間を増やし、作った時間で副業を行いたいなどを考える人が増えてきているのです。また、必ずしも一つの企業に依存するのではなく、自身のスキルを上げることで、より良い企業に転職を目指すという考え方の人もいます。

こうした働き方に対する意識の変化に対応するために、企業は副業解禁の動きを加速させています。

企業が副業を認める規則づくりで考えるべきこと

企業側が副業を解禁する際は、闇雲に解禁をしたとしても企業にとって利益につながりません。なぜなら、副業を解禁することは、前述したリスクなどを受け入れる必要があるからです。そのため、きちんとした規則を作ることが大切です。

経営戦略の一つとして考える

副業は、経営戦略の一つとして考えることが大切です。なぜなら、副業を解禁することでリスクがありますが、従業員が自ら積極的に行うことはスキルアップやモチベーションの向上につながるからです。

たとえば、副業を行うことで本業の仕事にも活きるようなスキルが身につけられたとしたら、本業で成果を出すことにもつながります。そのため、副業によって得た資格を活かす業務に従事させたり、インセンティブを出すなどの規則を作ったりすることも一つの方法です。

副業を経営戦略の一つとして捉えうまく活かすことで、自社の成長につながっていきます。また、副業に対してきちんとした方針やルールを作り、経営層から管理職、現場の従業員までに浸透ができれば、より成果に近づいていきます。

内容の把握、体調の報告方法などを考える

副業のルールを決める際には、副業に関する内容の把握や体調についての報告方法などを定めると効果的です。たとえば、副業を行う申請方法をマニュアル化し、「どのような内容か」「どこに勤めるか」などを把握できるようにすることが挙げられます。

申請を規則とすることで、副業の内容の把握ができることに加え、自社に不利益を与えそうな副業は事前に防ぐことができます。また、本業に支障が出ないように、体調の報告を義務付けることも良いでしょう。

本業に支障が出た場合、どのような処罰を下す可能性があるのかを周知することも大切です。こうしたルールを策定することで、副業へのリスクを減らすことにつながります。

まとめ

今後、副業解禁の流れは大企業から中小企業へと広がり、副業が当たり前の時代に突入していくと考えられます。

企業にとっては、労働時間の管理が難しい点や人材流出のリスクがあるなど対応が求められていきます。しかし、実際に規則やルールをきちんと作り、副業を推進し、自社の成長につなげている企業も出てきています。副業を禁止するだけでなく、どうすれば自社の成長に活かせるかという視点で副業を考えてみてください。