人事業務をアウトソーシング

人事業務のアウトソーシングは、給与計算や社会保険の手続き、人材採用など、人事業務全般を外部企業に委託することです。豊富なノウハウを持つ専門会社に業務を依頼することで、人事担当者の業務負担軽減や労働力不足解消を図れます。

しかし、人事アウトソーシングを利用したことがない場合、どのようなメリットが望めるか、どのような点に注意すべきかわからない点も多いでしょう。そこで今回は、人事業務のアウトソーシングを利用するメリットやポイント、企業事例などに関して解説します。

人事業務のアウトソーシングとは

人事業務のアウトソーシングとは、給与計算や勤怠管理、社会保険の手続きなど、人事業務全般を外部企業に委託することです。工数の掛かる業務を依頼することで、人事労務担当者の業務負担軽減やコア業務へのリソース集中を図ることができます。

2019年4月の働き方改革関連法施行に伴い、残業時間の上限が規制されました。2023年4月からは、中小企業でも60時間を超える時間外労働に対し、割増率引き上げが適用されます。

残業に対する視線は年々厳しくなっており、各企業は残業時間削減に向けた取り組みが必要です。長時間労働是正やワークライフバランス改善の一環として、人事業務のアウトソーシングが注目されています。

アウトソーシングできる人事業務

専門会社にアウトソーシングできる業務内容は、主に次の4種類です。依頼できる業務内容を詳しくみていきましょう。

  • 勤怠管理と給与計算
  • 社会保険の手続き
  • 人材採用
  • 人材育成

勤怠管理と給与計算

毎月必ず必要になる勤怠管理と給与計算はアウトソーシングすることができます。

勤怠管理は、労働時間や時間外労働、有給休暇の取得状況管理などを依頼できます。正確な勤怠データの管理が期待できるので、コンプライアンス違反を回避できる点が大きなメリットです。

一方、給与計算は、工数の掛かる社会保険や所得税の控除額算出を依頼できることがメリットです。割増率が異なる時間外労働や深夜残業、休日出勤も含めた形で、正確な給与計算が望めるので、トラブル発生を心配する必要もありません。

社会保険の手続き

健康保険や雇用保険、厚生年金など、社会保険関連の手続きを依頼できます。社会保険関連の手続きは、従業員の入退社時に必ず行わなければなりません。手続きや提出書類も多く、人事労務担当者に多大な負担が掛かります。

法律への高い理解力も求められるので、アウトソーシングを利用すると業務負担軽減やコンプライアンス遵守を実現できます。

人材採用

求人掲載や選考会場準備、面接日程の調整など、人材採用に関わる業務全般をアウトソーシングできます。採用業務では、幅広い業務に対応しなければなりません。アウトソーシングを利用することによって、コア業務に自社リソースを集中できます。

また、採用に関するノウハウが豊富な専門会社を利用すると、採用計画立案や面接代行など、優秀な人材獲得につながる対応を望めます。

人材育成

研修企画立案や人事評価制度構築など、人材育成に関する業務もアウトソーシングできます。大企業への人材集中やフリーランスの増加などによって、市場で優秀な人材を獲得するのが困難な状況です。

人材育成の重要性は高まっていますが、専門的なノウハウや客観的な視点がなければ、個々の能力や適性を正しく評価できません。人材育成代行の実績が豊富な企業に業務を依頼すると、プロの視点に基づいた社内研修や人員配置が期待できます。

個々のスキルアップやパフォーマンスアップが期待でき、組織力強化につながります。

人事業務をアウトソーシングするメリット

人事業務をアウトソーシングすることで得られるメリットは、主に次の4点です。

  • コスト削減
  • 人事担当者の業務負担軽減
  • 労働力不足解消
  • 法改正へのスムーズな対応

豊富な実績を持つ専門会社に依頼すると、労働力不足解消や人事担当者の業務負担軽減を図れます。人事担当者の業務量を減らすことで、採用活動や人員配置など、組織力強化に直結するコア業務に多くのリソースを割けます。

また、法改正への対応も望めるので、仮に法改正が起きたとしても、現場で大きな混乱は発生しません。

コスト削減

人事業務のアウトソーシングによって得られるメリットは、コスト削減です。

専門会社に人事業務を委託すれば、労務管理や勤怠管理システムを導入する必要はありません。システム導入に掛かる初期費用やランニングコストの発生を回避できます。

また、高品質な仕事ぶりが望めるプロに業務を任せることで、人件費や残業代削減にもつながります。

人事担当者の業務負担軽減

人事担当者の業務負担を軽減できる点も、人事業務をアウトソーシングするメリットの一つです。

人事担当者は、人員配置や人事評価制度運用、社内研修実施など、幅広い内容の仕事をこなしています。人的リソースに限りのある中小企業の場合、人事担当者が社会保険の手続きや給与計算など、労務管理を兼任している場合も珍しくありません。

そのため、人事業務を専門会社に依頼することで、人事労務担当者は別の作業に時間と労力を割けます。また、作業実績豊富な専門会社へ人事業務を依頼すると、正確性を保ちつつスピーディーな業務完結を期待できます。

労働力不足解消

社内に人事業務を任せられる人材が少ない場合、専門の会社を活用すれば労働力不足を解消できます。

労働者の安定志向や少子高齢化によって、優秀なスキルを持つ人材は大企業に集中しています。人事担当者の業務負担軽減に向け、人事や労務関連の実務経験豊富な即戦力を獲得したいと考えていても、市場での新規人材獲得は困難な状況です。

また、人事業務は、コミュニケーション能力や情報管理能力、法令知識など、さまざまなスキルを求められます。仮に新卒採用で人材を獲得できても教育係がいない場合、新入社員は業務に必要なスキルや知識を習得できません。

結果として、特定の従業員への依存度が高まり、業務の属人化を招きます。人事業務をアウトソーシングすれば、業務負担を軽減でき、新人教育に割く時間を確保できるようになります。

法改正へのスムーズな対応

人事業務をアウトソーシングすると、法改正へのスムーズな対応が望めます。

専門会社に在籍するスタッフは、法律に関する豊富な知識を兼ね備えています。法改正に応じた柔軟な対応が望めるため、コンプライアンス違反の発生を心配する必要はありません。

特にここ数年は、長時間労働是正に向け、労働に関する法改正の動きが活発化しています。法改正の動きを正確に把握していないと、賃金未払いや違法労働を招きます。

人事業務を専門会社に依頼すれば、法改正が起きても業務への支障やトラブルの発生を回避できます。

人事業務をアウトソーシングするデメリット

人事業務のアウトソーシングによって発生するデメリットは、主に次の3点です。

  • 社内にノウハウが蓄積されない
  • 情報漏洩のリスクが高まる
  • 必ずしもコスト削減につながる保証ははない

専門会社に依頼する業務量が多いほど、社内にノウハウは蓄積されず、費用も高くなります。また、従業員の個人情報を渡す形になるため、情報漏洩対策を事前に講じておく必要があります。

社内にノウハウが蓄積されない

人事業務をアウトソーシングすると、社内にノウハウが蓄積されにくくなります。

たとえば、新卒採用や中途採用を専門会社に委託していたとしましょう。採用活動は、求める人物像の策定やスケジュール管理、求人票を掲載するメディア選定など、多くの業務をこなさなければなりまません。また、面接官には、人材を見極める目やコミュニケーション能力が求められます。

自社で採用業務を内製化していた場合、担当者に掛かる負担は大きくなりますが、ノウハウや実務経験は蓄積されます。一方で、アウトソーシングを利用した場合は、業務負担を削減できるメリットがあるものの、特定の業務完結に必要なスキルや知識は習得できません。

したがって、内製化する業務と専門会社に任せる業務内容の見極めが重要になります。

情報漏洩のリスクが高まる

人事業務のアウトソーシングによって、情報漏洩のリスクが高まります。給与計算や年末調整、勤怠管理などを依頼していた場合、従業員の個人情報を多く渡す形になります。

情報管理が杜撰な専門会社に業務を委託すると、機密情報の漏洩に発展するため注意が必要です。情報漏洩が一度発生してしまうと、取引先や顧客からの信頼を失い、今後のビジネスに多大な悪影響を及ぼします。また、DLPやEDRなど、セキュリティツールを導入し、内部漏洩の対策強化に努めることも重要です。

必ずしもコスト削減につながる保証ははない

専門会社に人事業務を委託することが、必ずしもコスト削減につながるとは限りません。専門会社の料金体系は「月額制」と「業務単位」の2種類ですが、どちらも依頼内容が増えるほど料金は高くなります。

クラウド型の勤怠管理や給与計算、労務管理システムを導入した方が、コスト削減につながる場合もあります。また、担当者とスムーズな情報共有ができないと、コミュニケーションコストが多く発生し、業務効率化は期待できません。

人事業務をアウトソーシングする前に押さえておきたいポイント

人事業務を専門会社に委託する前に、把握しておきたいポイントは主に次の3点です。それぞれについて解説していきましょう。

  • 委託する業務領域を限定する
  • 料金体系を確認する
  • 作業実績が豊富な企業を選択する

委託する業務領域を限定する

専門会社を利用する前に、どの範囲まで業務を依頼するのか社内で共有しましょう。

依頼内容が広範囲にわたると、業務負担軽減にはつながりますが、費用は高くなります。また、人材採用や給与計算など、専門的なスキルが問われる業務のノウハウを身につけられません。

費用面とのバランスや人事業務の内製化を考慮しつつ、委託する業務領域を決めてください。

料金体系を確認する

月額制と業務単位、どちらの料金体系が自社に合っているか確認してください。

月額制は毎月支払う費用が決まっており、コスト管理がしやすい点がメリットです。半面、依頼する業務量が少ない場合でも、同じ費用を支払わなくてはいけません。

一方で、業務単位の場合は、給与計算や社会保険の手続き、人材育成など、依頼する業務内容や作業量に応じて金額が変動します。依頼する業務領域が明確な場合、無駄な費用の発生を避けられることがメリットです。

ただし、業務量が多いと想定よりも費用が高くなります。初期費用を設定している企業もあるので、併せて確認してください。

作業実績が豊富な企業を選択する

依頼したい業務内容の作業実績が、豊富な企業を選択するようにしましょう。

実績が乏しい企業を選ぶと、コミュニケーションコストや修正作業の手間が多く発生し、高い費用に見合った効果が得られません。ミスマッチを避けるためにも、選定時に実績や企業事例を必ず確認してください。

また、教育体制や研修内容を確認すると、スタッフの育成にどの程度注力しているかを把握できます。教育体制が充実している企業はスタッフの質も高く、業務の正確性とスピードの両立が高いレベルで望めます。

人事業務のアウトソーシングに成功した企業事例

最後に、人事業務のアウトソーシングに成功した企業事例を4社紹介します。今後の参考として活用してみてください。

  • 株式会社AIRDO
  • 株式会社ベネッセコーポレーション
  • プルデンシャル生命保険株式会社
  • 株式会社notecco

株式会社AIRDO

株式会社AIRDOは、東京と北海道の空港をつなぐ航空サービスを提供している企業です。同社は、従業員の給与計算をアウトソーシングしています。

以前は税理士を活用しながら、給与計算を自社で行っていました。しかし、複雑な勤務体系を採用する従業員も多く、給与計算に多くの工数が掛かっていました。

アウトソーシングを利用してからは、人事労務担当者の負担軽減や業務効率改善に成功しています。

株式会社ベネッセコーポレーション

株式会社ベネッセコーポレーションは、通信教育や教科書販売を手掛ける企業です。

同社の事例は、4つのWebサイトの運用と管理を外部に委託したことです。以前は、複数の企業にWebサイトの制作や運用、管理を任せていましたが、コミュニケーションコスト増大や品質のばらつきが発生していました。

4つのWebサイトの運用と管理を1つの企業に依頼することで、品質向上と業務効率改善につながりました。

プルデンシャル生命保険株式会社

プルデンシャル生命保険株式会社は、生命保険サービスを提供する企業です。

同社は、営業マンに関する人事業務全般を外部に委託しています。アウトソーシングを利用するきっかけは、人事担当者の相次ぐ退職です。

労働力不足解消と業務品質安定のため、アウトソーシングを決断しました。専門会社に人事業務を一任することで、業務の正確性を保ちつつ全体のスピードアップに成功しています。

株式会社notecco

株式会社noteccoは、ライドシェアサービスを提供する企業です。

同社は経費精算や給与計算に加え、情報収集業務もアウトソーシングしています。情報収集の方法や内容調査は、パートやアルバイトにも任せられる業務ですが、管理負担の大きさを考え見送っていました。

アウトソーシングの利用によって、管理負担軽減やコア業務へのリソース集中に成功しました。

まとめ

人事業務のアウトソーシングを利用すると、業務負担軽減や労働力不足解消を図れます。給与計算や社会保険の手続き、人材採用など、工数の掛かる業務を依頼できるため、コア業務へリソースを集中できます。

法律に関する知識も豊富で、賃金未払いや残業時間超過が起きる心配も要りません。実務経験やノウハウも豊富に持つ企業も多く、業務のスピードアップと正確性向上が望めます。

しかし、コスト削減や情報漏洩防止のため、人事業務を内製化したい企業も多いでしょう。

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