ハラスメントとは、相手に不利益や心身のダメージを与える言動を指します。ハラスメントの種類によって、相手に与えるダメージは異なります。ハラスメントが発覚すると企業のイメージダウンにつながるため、対策を強化しなければなりません。
今回は、ハラスメントの種類や発生した場合のリスクや対策法などについて解説します。
ハラスメントとは
ハラスメントとは、相手に不利益や不快感を与える言動を指します。ハラスメントは嫌がらせやいじめの意味合いを持ち、広義では人権侵害と訳されます。日本では労働者の人格を傷付け、職場環境を悪化させることばとして広く知られています。
ハラスメントは心身にダメージを与える行為ですが、ダメージの程度はハラスメントによって異なります。また、近年はハラスメントに対する社会の捉え方も変わってきており、以前よりも多くの分野でハラスメントが定義づけされてきました。
価値観の相違によってハラスメントを起こさないよう、定期的に知識を習得することが重要です。
ハラスメントの6つの類型
厚生労働省が発表した指針によると、ハラスメントは次の6つのタイプに分けられます。
・身体的な攻撃
・精神的な攻撃
・人間関係からの切り離し
・過大な要求
・過小な要求
・個の侵害
6つのタイプは、職場での発生頻度が高いパワーハラスメントを想定して定義づけされています。
身体的な攻撃
身体的な攻撃とは、殴打や足蹴りなど、特定の従業員に対し暴力を加える行為です。
精神的な攻撃
精神的な攻撃とは、暴言や侮辱、名誉棄損など、人格を激しく傷付けられる行為を指します。大声で同僚の前で説教する行為、長時間叱責する行為なども精神的な攻撃に含まれます。
人間関係からの切り離し
人間関係からの切り離しとは、特定の従業員に対し、別室での隔離や無視など、職場から孤立させる行為を指します。指示に従わない従業員を仕事から外し、一定期間自宅研修を命じることも含まれます。
過大な要求
過大な要求とは、達成困難な仕事量や業務目標を課し、達成できなかった場合は激しく叱責する行為です。長時間の時間外労働が前提となる業務量の押し付け、過大なノルマ要求などが該当します。実務と関係のない雑用を命じた場合も、過大な要求に含まれます。
過小な要求
過小な要求とは、合理的な理由もなく、スキルや実績に見合っていない業務の遂行を命じる行為です。まったく仕事を与えないケースも含まれます。
個の侵害
個の侵害とは、従業員のプライベート事情に必要以上に立ち入る行為です。パートナーの有無や個人情報の流出などが該当します。
職場で発生しやすい主なハラスメントの種類
続いては、職場での発生頻度が高い9つのハラスメントを紹介しましょう。
・パワーハラスメント
・セクシャルハラスメント
・マタニティハラスメント
・パタニティハラスメント
・モラルハラスメント
・エイジハラスメント
・リストラハラスメント
・アルコールハラスメント
パワーハラスメント
パワーハラスメント(通称:パワハラ)とは、職場内の地位や人間関係の優位性を利用して、心身に苦痛を与える行為を指します。
パワハラは職場で最も起こりやすいハラスメントの一つです。上司から部下、正社員からパートに対してなど、職場は地位の優位性が発生しやすく、いつパワハラが起きても不思議ではありません。
また、上記で挙げた6つの類型に当てはまる行為全般がパワハラに該当します。業務上の適正な範囲を超えているかどうかが、パワハラを判断する基準です。
2022年からは中小企業にもパワハラ防止法が施行されており、パワハラ防止対策の強化が各企業に求められています。
セクシャルハラスメント
セクシャルハラスメント(通称:セクハラ)とは、性的な言動によって相手に不快感を与えることです。女性従業員にスリーサイズを聞く行為や、異性の従業員にボディタッチを繰り返す行為などが該当します。
セクハラは、男性から女性に対して発生するケースが一般的です。しかし、近年は女性から男性に対するセクハラ、同性間でのセクハラに至った事例も発生しています。
また、セクシャルハラスメントは、対価型と環境型の2種類に分けられます。特徴は下の表のとおりです。
表:セクハラの種類
対価型セクシャルハラスメント | 環境型セクシャルハラスメント | |
---|---|---|
概要 | 性的な言動や嫌がらせを拒否したことで、減給や降格処分などを受ける | 性的な言動によって職場の雰囲気が悪化し、業務効率低下や人間関係が悪化する |
該当例 | ・異性従業員の身体に意味もなく触れる ・パートナーの有無や結婚の予定に関して尋ねる ・女性従業員へスリーサイズや下着の色に関して尋ねる ・職場で性的な内容に関する噂を流す ・性的な写真やポスターを貼る |
マタニティハラスメント
マタニティハラスメント(通称:マタハラ)とは、妊娠や出産をした女性従業員に対し、不愉快な言動や嫌がらせをすることです。制度利用の拒否や退職勧告、心身に苦痛を与える言動などが該当します。
マタハラに該当する事例は下の表のとおりです。
表:マタハラの事例
制度利用に対するマタハラ | 状態に対するマタハラ | |
---|---|---|
事例 | ・産休や育児休業の利用を申請した従業員に対し、上司が退職を促す ・時短勤務で働いていたところ、同僚や先輩から不快な言葉を繰り返し浴びせられる | ・妊娠報告をした従業員に対し、上司が退職を促す ・「仕事量が多い時期での妊娠は避けるべきだった」と、上司から精神的苦痛を伴う言動を浴びせられる |
特徴 | 男女問わず発生する | 男性が多い |
マタハラは、労働基準法や男女雇用機会均等法など、複数の法律に違反する行為です。妊娠や出産を理由に従業員が不当な利益を被る行為は認められていません。
パタニティハラスメント
パタニティハラスメント(通称:パタハラ)とは、育児休業の取得や時短勤務を利用する男性従業員に対し、嫌がらせをすることです。マタハラの男性版です。
子育てを積極的に行う男性従業員に対し、人事でのマイナス評価や配置転換など、不利益となる行為がマタハラに該当します。仕事優先の価値観を持つ男性、育児参加への理解に乏しい男性が部下を持った場合に発生するケースが多いです。
モラルハラスメント
モラルハラスメント(通称:モラハラ)とは、言動や態度によって相手に精神的な苦痛を与える嫌がらせです。暴言や無視、睨みつけなど、相手の前で不機嫌な態度を取り続けます。性別や職位の有無を問わず発生するハラスメントです。
モラハラは、暴力ではなく言動や態度による嫌がらせであるため、モラハラに該当するかどうかの判断が非常に難しいです。厚生労働省では、相手の人格を傷つける行為や心身に苦痛を与える振舞いをモラハラと定義しています。
特定の従業員に対する誹謗中傷や陰口、過剰な叱責を見つけた場合は、すぐに対応へ踏み切りましょう。放置すると職場環境が悪化し、従業員のモチベーション低下や離職者の増加を招きます。
参照元:メンタルヘルス関係(モラルハラスメント)(厚生労働省)
ジェンダーハラスメント
ジェンダーハラスメント(通称:ジェンハラ)とは、男らしさや女らしさを強要する嫌がらせです。「男なのに重いものが持てない」「女なのにお茶も入れられない」など、性別から連想される基準から外れた場合、行動を非難するものです。
性別への固定観念や差別意識が職場全体に強く残っていると、ジェンハラが発生しやすくなります。
エイジハラスメント
エイジハラスメント(通称:エイハラ)とは、年齢や世代を理由に差別的発言や嫌がらせをすることです。たとえば、20代の従業員に「ゆとり世代だから仕事ができない」「若手は雑用をこなすのが当たり前」などの発言をすることが該当します。
一方、中高年の従業員に対して、年齢を理由に仕事のダメ出しや仕事を任せないといった行為もエイハラに該当します。何気ない会話がきっかけで加害者になる可能性もあるため、組織全体で意識改革へ取り組むことが重要です。
リストラハラスメント
リストラハラスメントとは、リストラ対象者に対して会社側が嫌がらせを行い、自主退職に追い込むことです。窓際部署への異動や仕事をまったく与えないなど、会社に残りにくい環境を作っていきます。
他の従業員より給与が高い管理職階級が、リスハラの対象者となるケースが多いです。
アルコールハラスメント
アルコールハラスメント(通称:アルハラ)とは、飲酒に関連する嫌がらせや迷惑行為のことです。アルコールや薬物の課題解決に取り組む特定非営利活動法人ASKでは、次の6つの項目をアルハラと定義しています。
表:アルハラの定義
項目の種類 | 主な内容 |
---|---|
1.飲酒の強要 | ・上下関係や所属部署の慣習など、心理的な圧力によって飲酒を強要 ・挑発行為や侮辱的な発言を織り交ぜ、飲酒せざるを得ない状況を整備 |
2.イッキ飲ませ | ・注がれた酒を一口で飲み干すよう強要 ・早飲み競争 ・罰ゲームを付けて飲酒 |
3.意図的な酔いつぶし | ・空き部屋やバケツを用意するなど、酔い潰すことを前提に飲み会を開催 ・複数人で囲んで飲酒を強要 ・鞄や靴を取り上げて飲酒を強要 ・アルコール度数の高いお酒を大量に早飲みさせる行為 |
4.飲めない人への無配慮 | ・体質や健康状態を無視して飲酒を強要 ・飲めないことを侮辱 ・しつこく飲み会へ勧誘 ・飲めないことを理由に、プロジェクトメンバーから外す、人事評価へマイナス評価を下すなどの行為 |
5.酔っぱらった上での迷惑行為 | ・異性の従業員へ執拗なボディタッチ ・長時間の説教 ・暴言や暴力 ・悪ふざけ ・他人への絡み酒 ・嘔吐 |
6.20歳未満の人への飲酒を勧める行為 | ・新人歓迎会の場で飲酒を強要 |
ハラスメントが起こる要因
では、ハラスメントが起こる要因にはどういったものがあるのでしょうか?ここでは、ハラスメントが起きる主な要因を3つ解説します。
・働きにくい職場環境
・従業員同士のコミュニケーション不足
・価値観の相違
働きにくい職場環境
ビジネスライクな人間関係、殺伐とした雰囲気など、働きにくい職場環境が形成されるとハラスメントのリスクも高まります。従業員は多大なストレスや緊張感を抱えながら、仕事に励まなければなりません。
常にプレッシャーが掛かっている状態だと、心に余裕がなくなり相手の些細なミスが許せなくなります。また、協調性やチームワークの意識も薄れていくため、組織全体の生産性が高まりません。
従業員同士のコミュニケーション不足
職場内でのコミュニケーション不足も、ハラスメントの発生リスクが高まる要因の一つです。
近年は在宅勤務(テレワーク)の普及率が高まり、チャットやWeb会議でコミュニケーションを図る機会が増えています。オンラインでのコミュニケーションはスムーズな情報共有が望める反面、感情の変化が読みづらくなっています。
信頼関係が確立されていない限り、冗談や軽い言動を発することは避けましょう。場合によっては相手からハラスメントと訴えられる可能性があります。
また、オフィスワークの場合は上司と部下、正社員とパートなど、地位の優位性が発生する場面で注意が必要です。オフィスのフリーアドレス化やリフレッシュスペースの確保など、コミュニケーションを取りやすい環境を整備することが重要です。
価値観の相違
価値観の相違も、ハラスメントを招く要因の一つです。ここ10年でハラスメントへの価値観は大きく変わっており、世代によって指導や教育に対する受け取り方は異なります。
たとえば、50代の方と20代の方を比較してみましょう。50代の方が若手だった頃、軽い体罰や怒号は珍しいものではありませんでした。正当な理由があれば、必要な指導だったと考える方は少なくないでしょう。
しかし、20代の方にかつてと同じような方法で指導しても、思うような効果は得られません。「体罰や怒号はハラスメントに該当する行為」と教育を受けています。最悪の場合はハラスメントと訴えられ、企業側から懲戒処分が下されるかもしれません。
定期的にハラスメント研修を受講し、新しい知識を学んでいくことが重要です。
ハラスメントの発生によって生じるリスク
ハラスメントが発生すると、企業と従業員にとってさまざまなリスクが発生します。代表的なリスクには次の5つがあります。
・離職者の増加
・従業員のモチベーション低下
・自社のイメージダウン
・損害賠償責任
・懲戒処分
離職者の増加
職場でハラスメントが起きると、離職者が増加します。
ハラスメントは被害者だけでなく、周囲の方にも不快感を与える行為です。対応が遅れると、従業員からの信頼を失い、離職する従業員が後を絶たないでしょう。
また、ハラスメントが起きる職場は、働きやすい職場環境が整備されているとはいえない状態です。人間関係や仕事のストレスが原因で、メンタルヘルスの不調に悩む従業員の増加も予想されます。
人材の流出を防ぐためにも、職場環境の課題を正確に把握する姿勢が求められます。
従業員のモチベーション低下
ハラスメントの発生によって、従業員同士の人間関係が崩壊すると、社内の雰囲気は悪くなります。働きにくい職場環境が形成され、従業員の仕事へのモチベーションも低下します。
コミュニケーション不足やチームワークの欠如が目立つようになり、業務に多大な支障が及ぶことは避けられないでしょう。最悪の場合は離職者が相次ぎ、慢性的な労働力不足に悩まされるでしょう。
自社のイメージダウン
ハラスメントの実態がマスメディアやSNSで報道された場合、ネガティブなイメージが世間に印象付けられます。
ハラスメントに対する周囲の視線は、年々厳しくなっているのが現状です。ハラスメントの実態が報道されてしまえば、「働きにくいブラック企業」のイメージが定着してしまうでしょう。社会的信用低下やブランドイメージ失墜を招き、今後の企業経営が厳しい状況に追い込まれるかもしれません。
損害賠償責任
ハラスメントの被害者が訴訟を起こした場合、企業に損害賠償責任が発生します。安全配慮義務や職場環境配慮義務を十分に果たしていないと判断された場合、多額の賠償金を支払わなければなりません。
また、訴訟トラブルが報道されると、自社にとって大きなイメージダウンです。顧客離れや採用コスト増大など、多大なデメリットを被る結果となります。
懲戒処分
企業側は、ハラスメントを起こした従業員に対して何らかの懲戒処分を下さなければなりません。職場内の規律維持やコンプライアンス遵守徹底のためにも、厳しい姿勢を見せる必要があります。
再発防止のためにも、ハラスメントが起きた経緯や事実関係の確認など、十分な調査を進めてから懲戒処分を下しましょう。
また、従業員は諭旨解雇または懲戒解雇処分を受けない限り、企業内に留まることができます。ただし、周囲から今後の態度や仕事ぶりに関して、厳しい視線が注がれるでしょう。
以前からハラスメントに該当する行為を繰り返していた場合、周囲からのサポートは望めません。これまでの意識を改め、仕事や人間関係の構築に取り組む必要があります。
企業が取りたいハラスメント防止対策
働きやすい職場環境を整備するため、企業はさまざまな対策を取らなければなりません。ハラスメントのリスク軽減につながる主な対策には、次の4つがあります。
・ハラスメント研修の受講
・従業員へのヒアリング
・相談窓口の設置
・対処法や懲戒処分などの就業規則への明記
ハラスメント研修の受講
企業が実施すべき一つ目の対策は、ハラスメント研修を定期的に受講させることです。ハラスメントへの価値観は頻繁に変わるため、新しい知識を常に習得する必要があります。
知識を習得する機会に乏しいと世代によって価値観の相違が生まれ、ハラスメントが起きやすくなります。ハラスメント研修を受講し、正しい知識の習得や注意力向上に努めましょう。
また、ハラスメントを起こしやすい立場に就いている管理職に対しては、マネジメント強化につながる研修の受講を命じてください。ハラスメントを避けつつ、個々に合った指導や教育を行えるようになります。
従業員へのヒアリング
ハラスメントの有無や職場環境の改善点を把握するためにも、従業員へヒアリングを実施しましょう。現状や課題を正確に理解できないと、対策を立てることができません。
従業員が意見を発しやすいよう、匿名性を確保した上でアンケートを実施してください。また、単発で終わらせるのではなく、数ヶ月に1回の頻度でヒアリングを重ねていくと、ハラスメントのリスクを減らせます。
相談窓口の設置
相談窓口が社内で設置されていない場合は、早急に専門窓口を設けましょう。相談窓口がないと、被害を受けた従業員は誰にも相談することができません。一人で抱え込む結果となり、メンタルヘルス不調や退職につながります。
相談窓口を設置しておくと、人事異動や担当者変更など、早期対応によって影響を最小限に抑えられます。相談しやすい環境を整備するためにも、個人情報の保護を徹底しましょう。また、男性と女性の担当者を両方置くと、ハラスメントに対処がしやすくなります。
対処法や懲戒処分などの就業規則への明記
ハラスメントが起きた際の対処法や懲戒処分の内容を就業規則へ明記しておきましょう。就業規則へ盛り込んでおくことで、抑止力向上が期待できます。従業員へ周知する場を設けると、普段の行動や言動へも気を配るようになります。
まとめ
ハラスメントに対する社会の価値観はここ数年で大きく変化しており、常に新たな知識を習得することが重要です。価値観の相違は、ハラスメントの発生リスクを高める大きな要因の一つです。
ハラスメント研修を定期的に受講するよう命じ、日頃の言動に反映させることが求められます。パワハラが起きやすい立場に就いている管理職には、マネジメント強化につながる研修の受講を命じ、指導力強化を図りましょう。
また、ハラスメント発生のリスクを軽減するためには、コミュニケーションの活性化や就業規則の見直しなどが求められます。ただし、労務担当者は多くの業務を担当しており、手が回らない業務も少なからずあるでしょう。
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