勤務間インターバル制度

日本において働き方改革の推進が始まっていますが、その取り組みの一環として、労働者の休息に関する制度化が挙げられます。勤務間インターバル制度は、そんな労働者の休息の取り方をルール化した制度で、正しい休息の獲得で業務効率化や労働者のモチベーション向上を促すことができます。

今回は、そんな勤務間インターバル制度の仕組みやメリットを解説しながら、実際の企業における導入事例を紹介します。

勤務間インターバル制度とは?義務化されている?

勤務間インターバル制度は、2017年3月より働き方改革の一環として始まっている、労働者の休息時間の設け方を仕組み化した制度です。

労働者の前日の終業時間から次の始業時間の間が極めて短い時間とならないよう、インターバルを一定時間以上空けなければならないということを定めた制度です。

勤務間インターバル制度の導入以前、労働者によっては0時に退勤し、次の始業は7時からというケースも見られました。終業時刻が遅く、それでいて始業時間が早いという状態は過労の大きな原因となりかねません。

勤務間インターバル制度は、こういった事態の常態化を回避する上で重要な制度です。

働き方改革関連法で努力義務が求められる

勤務間インターバル制度は2017年より開始している制度ですが、2019年に施行された働き方改革関連法により、各企業は努力義務が求められています。

よくある疑問として、

  • 勤務間インターバル制度は義務化されているのか
  • 違反すると罰則があるのか

といったものがあります。結論をお伝えすると、勤務間インターバル制度はあくまで努力義務であるため、義務を怠ったからといって罰則が適用されることはありません。

ただし、努力義務として定められている以上、企業は勤務間インターバル制度の導入に向けて取り組む必要があり、今後の法整備によっては罰則規定のある義務化が行われる可能性もあります。

労働者の健康やワークライフバランスに注目が集まる以上、これらを健全に提供するための取り組みとして、勤務間インターバル制度の導入に力を入れることは重要です。

勤務間インターバル制度で定められた確保時間

勤務間インターバル制度では、労働者に対して最低限確保すべき時間を具体的に示していません。しかし、同制度においては従業員の一般的な生活時間や睡眠時間を確保することが求められているため、それを実現するための十分な時間を確保すべきでしょう。

一般的な時間として参考になるのは、10時間〜12時間前後のインターバルです。睡眠時間は7〜8時間、それ以外の余暇に2〜3時間割り当てるとなると、最低限これくらいの時間を確保すべきだと考えられます。

どのように確保するかは企業によってさまざまですが、深夜の業務を減らすなどして、朝方の働き方を推進する取り組みが例として挙げられます。規定の終業時間より業務が伸び、夜遅くまで業務に取り組んでいた場合、その労働者の翌日の始業時間は通常よりも遅くするような柔軟な制度設計を取り入れることも有効です。

勤務間インターバル制度が登場した背景

勤務間インターバル制度の活用

勤務間インターバル制度が登場した背景には、長時間労働と過労死の関連性が大きく取り沙汰されるようになったことがあります。

終電で帰宅し始発に近い時間から出社が求められるような環境が常態化している企業活動は、労働者の健康はもちろん、組織の長期的な生産性を低下させる可能性があることから、国をあげてこのような働き方の改善が求められるようになりました。

また、過労死の問題は、企業が遺族から多大な損害賠償を請求されるケースにも発展します。こういった法的な問題を回避する上でも、健全な就業時間の遵守や休息の確保が企業に必要とされています。

勤務間インターバル制度を導入するメリット

勤務間インターバル制度の導入は、義務だから導入するというよりも、そのメリットに注目することが大切です。勤務間インターバル制度の導入では、次のようなメリットを期待できます。

メリット

・労働者の健康維持・増進につながる
・生産性向上に貢献する
・定着率改善が期待できる
・ワークライフバランスの実現につながる

労働者の健康維持・増進につながる

勤務間インターバル制度は、労働者の健康維持や増進を実現できることが最大のメリットです。

健康的な労働者の生活は、毎日一定のパフォーマンスを維持する上で非常に重要です。そのためには、労働者の自助努力による健康管理はもちろん、企業も休息時間の確保に努めるなどして、フレームワークの構築に取り組まなければなりません。

勤務間インターバル制度は、最低限の休息時間を与える上では重要な役割を果たし、過剰な市場競争によって労働者の負担が肥大するリスクを回避させます。

生産性向上に貢献する

十分な休息を労働者に与えることは、より多くのパフォーマンスを求める上でも非常に重要です。健康でなければ本来の力を発揮することはできず、多くの成果を求める場合にこそ重視すべきポイントです。

また、決められた就業時間で業務を終わらせる習慣を定着させられれば、インターバルの確保に合わせ、短時間で高い生産性を得られることになります。12時間かけなければ100の成果が得られなかったものを、8時間で得られるよう仕組みづくりを進めるような改善が理想でしょう。

定着率改善が期待できる

過剰な労働時間の常態化は離職率の増加につながり、慢性的な人材不足に陥ります。休息を正しく確保できる仕組みが整備されれば、負担が小さく働きやすい職場として、離職を求める声も少なくなる効果を期待できます。

人材不足は現場への負担を増加させ、更なる離職を招くリスクがありますが、短い時間で業務をやりくりできる仕組みが整うことで、新たに人手を確保せずとも現場を落ち着かせることができるでしょう。

ワークライフバランスの実現につながる

ワークライフバランスの実現は、多様な働き方を推進する上で重視される考え方です。仕事も私生活も充実した人生を送ることは、多くの労働者にとって理想的なライフスタイルと考えられています。

勤務間インターバル制度の導入は、労働者の私生活の時間を守る上でも重要です。制度の導入と推進をアピールできれば、定着率の改善はもちろん、若手労働者の獲得や優秀な人材の確保にも貢献するでしょう。

勤務間インターバル制度を導入するデメリット

勤務間インターバル制度には多くのメリットが期待できる一方、導入前に注意しておくべき懸念点もあります。ここでは、勤務間インターバル制度を導入するデメリットについて解説しましょう。

デメリット

・業務フローの見直しが必要になる
・一時的なパフォーマンス低下が懸念される

業務フローの見直しが必要になる

まず、勤務間インターバル制度の導入に当たっては、業務フロー全体の見直しが必要です。

特に残業体質の企業や休日出勤が頻繁に発生している企業においては、規定の就業時間内で業務を終わらせるための仕組みづくりに多くの時間をかけることになるでしょう。既存システムの見直しや人材配置など、多くの課題に対処しなければなりません。

一時的なパフォーマンス低下が懸念される

勤務間インターバル制度を導入したからといって、すぐに労働者が新しい働き方に適応できるとは限りません。就業時間内に終わらなかったら残業すれば良いという考え方が強く残っているケースも多く、残業ありきの働き方を是正する必要があります。

勤務間インターバル制度や残業の取り締まりに厳しい企業では、19時を過ぎると強制的に社内PCの電源が落とされるような仕組みを導入しているケースもあります。ある程度強制的にでもルールを遵守させる取り組みも大切です。

勤務間インターバル制度の導入プロセス

続いて、勤務間インターバル制度を実際に導入する場合、どのような手順で進めていけば良いのかについて解説しましょう。

導入プロセス

・ステップ1:労働時間や業務内容の現場を把握する
・ステップ2:インターバル時間を設計する
・ステップ3:就業規則の改訂や労働協約の締結を進める
・ステップ4:試験導入と改善を実施する

ステップ1:労働時間や業務内容の現場を把握する

勤務間インターバル制度の導入前には、まず労働時間や実際の業務内容を把握するところからスタートしましょう。勤務間インターバルに問題を抱えていると感じる場合、そもそも業務量は適切なのか、それぞれのタスクにどれくらいの時間がかかっているかを把握しなければなりません。

業務内容を見直し、削減できるものや効率化できるポイントを見極め、新しい業務フローを構築する必要があります。

ステップ2:インターバル時間を設計する

必要な業務量や業務時間が固まったら、どれだけのインターバルをどの時間に確保するのかといった設計を行います。

多くの企業では、朝に出社し夕方や早い夜の時間に退勤できるスケジュールを構築した上で、夜の時間帯にインターバルを挟める設計にしています。取引先とのミーティングなどが多い場合、活動時間は日中がメインとなるため、今まで深夜に取り組んでいた業務を昼や朝に回すといったアレンジが必要です。

ステップ3:就業規則の改訂や労働協約の締結を進める

業務スケジュールが変わると、これまでの就業規則を改定したり、労働協約を締結し直したりする必要も出てくるでしょう。

勤務間インターバル制度を導入する際には、制度導入を前提として組織の規則や労働者との契約をまとめる必要が有ります。労働者には具体的にどのような点が変わったのか、業務フローや給与にどんな影響があるのかなど、変更点についての正しい理解と賛同を得られるよう努めましょう。

ステップ4:試験導入と改善を実施する

新しい働き方が定まった際には、まず試験的に導入を進めていくと良いでしょう。一部の部門や期間限定で導入することによって、その導入効果や組織への影響を評価します。

試験導入後、制度の開始によってどんな変化が現れたのか、理想とする目標を達成できたのかを評価する時間も設けましょう。目標を達成できなかった場合、どんな課題が残ったのか、あるいはより高い目標を達成するためのヒントはあったかなど、改善点を探します。

ある程度形が固まるまでは、試験と改善を繰り返し、理想的な業務スケジュールを実現しましょう。

勤務間インターバル制度に使える助成金

先ほど紹介したように、勤務間インターバル制度の導入には、相応の負担が発生します。そんな制度導入の負担を少しでも軽減できる助成金制度として、事業者は「働き方改革推進支援助成金」と呼ばれる制度を活用することができます。

働き方改革推進支援助成金の概要

働き方改革推進支援助成金は厚生労働省が手掛ける助成金制度の一種であり、生産性の向上と労働時間の削減に向けて取り組む企業を支援するものです。

中小企業を対象とした制度であり、勤務間インターバル制度の新規導入、あるいは導入範囲の拡大や時間の延長に成功した場合、成果に応じた助成金を受け取ることができます。

導入規模や成果にもよりますが、最大で480万円もの助成を受けられるため、利用して損はない制度です。

参照元:働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)(厚生労働省)

支給要件と申請方法

働き方改革推進支援助成金の支給要件は、下の項目に該当する中小事業者です。

支給要件

・労働者災害補償保険が適用されている
・すべての対象事業場において、交付申請時点及び支給申請時点で、36協定が締結・届出されている
・すべての対象事業場において、原則として、過去2年間に月45時間を超える時間外労働の実態がある

まだ勤務間インターバル制度を導入していない企業はもちろん、すでに導入している企業でまだ伸び代がある場合にも、助成金を受けるチャンスがあります。

申請に当たっては、交付申請書と支給申請書の提出が必要です。フォーマットは厚生労働省のサイトからダウンロードすることができ、提出は所定の労働局に行います。

参照元:働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)(厚生労働省)

なお、2022年度の申請は2023年1月13日(金)までとなっています。来年度の実施は未定ですが、同じ助成金制度かこれに類する制度が実施されると考えられるため、適宜確認しておきましょう。

勤務間インターバル制度導入の事例

最後に、厚生労働省が発表している勤務間インターバル制度を導入済みの企業を紹介しましょう。

参照元:勤務間インターバル制度(厚生労働省)

株式会社スリーハイ

製造業を営む株式会社スリーハイでは、全社的な勤務間インターバル制度を2018年より導入しています。

最低9時間のインターバルの確保を就業規則に定めている同社では、制度導入後、生産性はそのままに残業を削減することに成功したり、チームワークで社内の課題に取り組む文化の醸成も進んだりしています。

株式会社ニトリホールディングス

インテリアメーカーの株式会社ニトリホールディングスでは、パートタイム従業員を含む全社員に対して、10時間のインターバルを設ける制度を導入しています。同社では2017年より導入を開始しており、20時台になるとオフィスが消灯する仕組みを制度化しており、業務を時間内に完了できる土壌を整備しました。

シフト登録の際、インターバルを確保できていない登録があると警告画面が現れたり、インターバル時間が短い従業員を検知した場合、部門の上長宛に警告が送られたりする仕組みを整えるなど、システムとして働き過ぎを回避できる体制を整えています。

株式会社東邦銀行

地方銀行の株式会社東邦銀行では、全従業員に向けて2016年より11時間のインターバル取得を義務付けています。

同社は勤務間インターバル制度の導入と合わせてフレックス出社制度を採用しており、従業員の都合に合わせた働き方を柔軟に選べる仕組みの整備を進めています。残業や休日出勤による労働時間は、導入以前と比べて50%以上も減少し、職場の生産性向上とワークライフバランスの両立が進んでいます。

まとめ

働き方改革の一環として努力義務が課されている勤務間インターバル制度について解説しました。

労働者に必要かつ十分な休息を与えるための勤務間インターバル制度は、労働者の健康を守って長期的な組織経営を実現するだけでなく、現場の生産性向上やワークライフバランスの達成を目指す上でも重要な取り組みです。

すでに多くの企業が勤務間インターバル制度を導入しており、働き方改革の入口として活用しています。導入時には勤務形態の見直しなども必要になりますが、ある程度時間を割いて取り組むべき課題といえるでしょう。

また、勤務間インターバル制度を有効活用し従業員の休息時間を確保する上では、業務の効率化に向けた取り組みも必要です。当社ディップ株式会社が提供する「人事労務コボット」は、人事採用業務に特化した業務効率化を実現する便利なサービスとなっています。

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