懲戒解雇

懲戒解雇は、会社から従業員に対する懲戒処分の中で最も重い処分です。従業員の規律違反に対して、解雇を行います。懲戒解雇は従業員にとって非常に厳しい処分であるため、容易にできないよう労働法で定められています。

今回は、懲戒解雇の要件や会社側のデメリット、注意点などについて解説します。

懲戒解雇とは

懲戒解雇とは、従業員の違反行為に対する制裁として、解雇を行うことです。違反行為の例として、金銭の横領等の不正行為や無断欠勤、ハラスメント行為などが挙げられます。

懲戒解雇の目的は、企業の秩序を維持することです。そのため、懲戒解雇は従業員が企業の秩序を著しく乱した場合にのみ実行することができます。

懲戒解雇は会社から従業員に対する懲戒処分の中で、最も重い処分です。懲戒解雇は従業員にとって非常に厳しい処分であるため、容易にはできません。

普通解雇との違い

懲戒解雇と普通解雇の違いは、解雇の目的や退職時の待遇にあります。

懲戒解雇は従業員への制裁が目的ですが、普通解雇は従業員との雇用契約を終了させる目的で行います。普通解雇と異なり、懲戒解雇は解雇予告手当や退職金などを支払われないことが多いでしょう。

また、失業保険の受給も、普通解雇より不利になっています。普通解雇の場合、会社都合の退職として扱われますが、懲戒解雇は自己都合退職と同じ扱いになります。自己都合退職は会社都合退職と比較して給付期間が短く、金額が少なくなりやすいでしょう。

懲戒解雇の要件

懲戒解雇は大まかな規定しかなく、具体的な条件は記載されていません。懲戒処分には複数の種類があり、すべての処分を具体的に記載することは難しいためです。

しかし、労働契約法や過去の判例から重要だとされている要件はあります。労働契約法では、第十五条と第十六条で懲戒について規定されています。

第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様 その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用した ものとして、当該懲戒は、無効とする。

第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

引用元:平成十九年法律第百二十八号 労働契約法

では、懲戒解雇で重要だとされている要件について解説していきましょう。

要件

・要件1: 正当性があること
・要件2:平等であること
・要件3:二重に処罰していないこと
・要件4:適正に手続きがされていること
・要件5:過去にさかのぼって処罰されていないこと
・要件6:従業員個人に対して行われていること

要件1: 正当性があること

懲戒解雇をするには、社会的に見て、解雇に正当性があることが必要です。漠然とした理由や個人的な理由では正当性がないため、認められません。

たとえば、「向上心がないから」や「営業成績が悪いから」といった理由ではできません。犯罪行為があった場合や経歴詐称など、就業規則に定められた要件を満たす場合のみ、懲戒解雇が認められます。

また、就業規則に明記されていないと、基本的に懲戒解雇はできません。過去の判例をみて、正当性を判断しましょう。

要件2:平等であること

対象の従業員が、他の従業員と平等である必要があります。

懲戒処分の対象である従業員と同じ規則違反をした従業員は、同じだけ重い処分を課さなければなりません。処分の重さが異なると、平等ではなくなるためです。

たとえば、1人は懲戒処分なのに、もう1人は一定期間の給与減額だと不平等です。平等性を証明するために、私情を挟まずに処分を行うことが大切です。

要件3:二重に処罰していないこと

1つの原因に対して複数の処罰があると、二重処罰になります。二重処罰になると、懲戒解雇処分ができません。

憲法39条の「一事不再理」の原則により、同じ行為に対し、二重に処罰することができないとされています。会社内の懲戒も同じように考えられているため、他の懲戒処分をした上で懲戒解雇はできません。

要件4:適正に手続きがされていること

懲戒解雇には、就業規則に従って適正に手続きがされていることが必要です。たとえば、「懲戒解雇の前に従業員を呼び出して、弁明の機会を与える」などです。

手続きに不備があると、権利の濫用として解雇が無効になるため、適正に手続きを行う必要があります。

要件5:過去にさかのぼって処罰されていないこと

懲戒解雇は、過去にさかのぼって処罰できません。たとえば、懲戒解雇の規定が定められる前に起きたことを理由として、懲戒解雇はできません。

あらかじめ懲戒解雇に値する行動があれば、就業規則に定めておく必要があります。

要件6:従業員個人に対して行われていること

懲戒解雇は、従業員個人の行動に対して制裁を行うための制度です。そのため、責任を全体に取らせる形で組織を懲戒解雇することはできません。連帯責任として、行動に関与していない従業員を懲戒解雇することは、不当解雇となります。

懲戒解雇による会社側のデメリット

懲戒解雇による会社側のデメリットは、不当解雇と判断されると懲戒解雇が無効になることです。客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められないと、不当解雇とみなされます。

懲戒解雇が無効になると、解雇時にさかのぼって給与を支払わなければなりません。また、場合によっては慰謝料を請求される可能性もあります。

さらに、問題のある従業員を解雇できないため、職場環境が悪化する可能性が高いです。このように、不当解雇と判断されると懲戒解雇が無効になり、さまざまなデメリットが生じます。

懲戒解雇による会社側のメリット

懲戒規定

懲戒解雇による会社側のメリットは、事業所内の規律を守れることです。なぜなら、懲戒解雇は、従業員の意志に関係なく実行できるからです。

通常の退職の場合、従業員から退職願や退職届を受け取る必要がありますが、懲戒解雇は即日で解雇ができます。たとえば、懲戒解雇になった理由が暴力など不正行為の場合、その従業員を雇い続けると、企業の秩序を乱す可能性が高いです。

不正行為をした従業員をそのままにすると、他の従業員も規律を守らなくなります。規律違反を許さない態度を見せるために、懲戒解雇は効果的でしょう。そのため、懲戒解雇を行うことで、結果的に事業所内の規律を守れるのです。

懲戒解雇するときの注意点

懲戒解雇するときには、懲戒解雇を不当解雇だと判断されないために、気を付けるべきことがあります。それは、証拠を確保すること、懲戒事由を確認すること、本人に弁明させることの3つです。それぞれ具体的に解説していきましょう。

注意点

・問題行動の証拠が確保できているか確認する
・就業規則の懲戒解雇事由を確認する
・本人に弁明させる

問題行動の証拠が確保できているか確認する

懲戒解雇するときは、問題行動の証拠が確保できているか確認します。証拠がないと、懲戒解雇を認められないからです。

懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠いているとみなされると認められません。労働契約法では、第十五条に記載があります。証拠は、録画や録音、メールなど、記録に残るように確保しましょう。

就業規則の懲戒解雇事由を確認する

懲戒解雇を決定する前に、就業規則の懲戒解雇事由を確認します。就業規則に記載のある理由でなければ、懲戒解雇が認められないからです。

就業規則にある懲戒解雇事由でないと、客観的に合理的な理由を欠いていると判断される可能性が高いでしょう。そのため、就業規則に懲戒解雇事由が記載されているか確認してください。

本人に弁明させる

懲戒解雇を通知する前に、本人に弁明させましょう。弁明の機会を与えないと、「権利を濫用した」と判断される可能性が高いからです。

調査で証拠を集めていたとしても、本人の言い分を聞く必要があります。裁判の際に本人に弁明の機会を与えたか問われる可能性があるため、弁明の機会を与えた証拠として記録を残しておきましょう。

懲戒解雇の手続きの流れ

懲戒解雇の手続きは、5つのステップで完了します。懲戒解雇は適正な手続きを踏んでいないと無効化されてしまうため、一つひとつの手順をしっかりと確認していきましょう。

流れ

・ステップ1:調査と事前検討を行う
・ステップ2:従業員に弁明の機会を与える
・ステップ3:通知書を作成して懲戒解雇を伝える
・ステップ4:職場内で発表する
・ステップ5:退職手続きをする

ステップ1:調査と事前検討を行う

最初に、現状を正確に把握するための調査や証拠の収集を行います。就業規則の懲戒事由をみて、対象従業員の懲戒事由があるか確認しておきましょう。

また、懲戒解雇の手段をとることが相当か、事前検討を行います。

たとえば、無断欠勤を事由として懲戒解雇をする場合、欠勤の理由が会社でのハラスメント行為だと、会社に問題があると判断され、懲戒解雇が無効になります。

懲戒解雇は不当解雇とみなされると無効になるため、調査や証拠集め、事前検討をしっかりと行いましょう。

ステップ2:従業員に弁明の機会を与える

調査と事前検討を行い、懲戒解雇すべきと判断した場合、懲戒事由が事実か本人に確認します。

懲戒免職を検討していることを伝え、本人の言い分をきく目的で行います。

面談の様子は録画や録音で記録し、従業員に弁明の機会を与えた証拠として取っておきましょう。裁判の際に聞かれる可能性があります。

ステップ3:通知書を作成して懲戒解雇を伝える

ステップ1とステップ2の後、懲戒解雇が確定したら、通知書を作成して対象の従業員に懲戒解雇を伝えます。知書は書面で提示し、事業所用の控えとしてコピーをとっておきます。

従業員に通知書を渡す際は、事業所側の控えに受領印をもらっておきましょう。または、通知した様子を録画や録音で記録しておいてください。懲戒解雇を従業員に通知した証拠として必要になります。

従業員と連絡が取れない場合は、就業規則に従って手続きを行います。

ステップ4:職場内で発表する

本人に懲戒解雇を伝えたら、他の従業員に対して、懲戒解雇をすることや懲戒解雇の理由などを発表します。規律違反をした従業員に対して、厳格な態度を取ることを示す目的で行います。職場内の引き締めを図る効果もあります。

社外に通知する場合は、名誉棄損の危険性があるため注意する必要があります。職場内で発表する際も、事業所外に開示しないように注意を促しましょう。

ステップ5:退職手続きをする

従業員を解雇した後は、退職の手続きを行います。退職に必要な手続きには、たとえば次のようなものがあります。

退職に必要な手続き

・健康保険・厚生年金保険の資格喪失届提出
・ハローワークでの手続き(雇用保険の資格喪失届提出)
・特別徴収税の変更手続き
・除外認定を受けていない場合、解雇予告手当の支払い

ハローワークで手続きをした後、失業手当の受給に必要な離職票を従業員に送付します。

まとめ

懲戒解雇とは、従業員の規律違反に対して行う解雇のことであり、企業の秩序を維持する目的で行います。懲戒解雇は不当と判断された場合、解雇時にさかのぼって無効となります。

そのため、不当とみなされないように適正な手続きが必要です。懲戒解雇の手続きは、次の5ステップで行います。

  1. 調査と事前検討を行う
  2. 従業員に弁明の機会を与える
  3. 通知書を作成して懲戒解雇を伝える
  4. 職場内で発表する
  5. 退職手続きをする

1~3の手続きは、不当解雇とみなされないために重要です。手続きを行った証拠として、記録を残すようにしましょう。

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