退職者に渡す書類

「退職を希望する社員に渡す書類がわからない」「退職の申し出があったらどんな手続きをすれば良いの?」このように悩んでいる人事労務の担当者様もいるのではないでしょうか?従業員が退職することが決まると、書類の発行手続きだけではなく、さまざまな手続きが発生します。

そこで今回は、従業員が退職する際に準備をすべき書類や手続きについて解説します。従業員から回収する必要のある書類や備品についても紹介するので、退職を申し出る社員がいた際の業務の参考にしてみてください。

従業員が退職する際に渡す必要がある書類

従業員が退職する際に渡す必要のある書類には、主に次のようなものがあります。

退職の際に渡す必要のある書類

・離職票
・雇用保険被保険者証
・特別徴収に係る給与所得者異動届出書
・健康保険被保険者資格喪失確認通知書
・年金手帳(会社が保管している場合)
・源泉徴収票

それぞれ詳しく解説しましょう。

離職票

離職票は、正式には「雇用保険被保険者離職票」と呼ばれます。退職者が一般的な失業手当の給付を受ける際に必要な書類です。

転職先など、次の職場が決まっている場合は発行不要の書類であるため、退職者に離職票の発行を希望するかどうかを確認しておきましょう。ただし、退職者が59歳以上の場合、高年齢雇用継続給付金の給付額を決めるために離職票を必ず交付しなければなりません。

雇用保険被保険者証

雇用保険被保険者証は、退職者が次の職場へ提出したり、教育訓練給付金の支給を受けたりする際に必要となります。会社でこの書類を預かっている場合は退職者に返却しましょう。

特別徴収に係る給与所得者異動届出書

特別徴収に係る給与所得者異動届出書は、退職者が住民税の徴収手続きをするために必要な書類です。転職するかしないかに関わらず、住民税の納税に関する必要な書類なので、必ず発行しましょう。

健康保険被保険者資格喪失確認通知書

健康保険被保険者資格喪失確認通知書とは、退職者が加盟していた健康組合から抜け、社会保険資格を失ったことを証明する書類です。

従業員は退職すると同時に、健康保険と厚生年金保険の社会保険資格を失うことになります。退職者が健康保険に入り続けることを希望し、退職後に国民健康保険へ切り替える際に必要となる書類です。

年金手帳(会社が保管している場合)

年金手帳とは、厚生年金の加入者であることを証明する書類です。

一般的に、年金手帳は従業員が自己管理するものですが、会社で預かっている場合は返還が必要です。退職者が国民年金に変更する際に必要となるため、退職者に返却してください。

源泉徴収票

源泉徴収票は、退職者が所得税の確定申告をする際に必要になります。転職先が決まっている場合は転職先に提出することになりますので必ず発行してください。

その年の1月1日から、退職した日までに支給した給与や賞与、控除した社会保険料などを記載します。

退職時に従業員から提出してもらうもの

退職手続き

退職を申し出た従業員には退職の意思を表明した退職届を提出してもらい、同時に会社から従業員へ貸与しているものはすべて返却してもらう必要があります。従業員から提出してもらうものは主に次のものです。

退職時に提出してもらうもの

・退職届
・健康保険証
・名刺
・会社の備品
・書類やデータ

それぞれ解説していきましょう。

退職届

退職は、従業員からの口頭での意思表示でも成立します。民法上では、2週間前(14日前まで)に退職の意思表示をすれば、2週間後に退職の効力が生じると定められています。

しかし、口頭での意思表示のみで退職が決まってしまうと、後々「言った」「言わない」のトラブルに発展しやすく、お互いが気持ち良く退職できなくなることもあるでしょう。そのため、退職届を作成し、提出してもらうことをおすすめします。

退職届は、「退職願」と混同されることもよくありますが、両者はまったく異なる書類です。

退職願は、会社(あるいは経営者)に対して、退職を願い出るための書類であり、却下される可能性もあります。一方で、退職届は一方的に自分の退職を通告するための書類で、一度出してしまうと撤回はできません。

社内で決まった退職届のフォーマットがない場合は、「退職の意思・退職の理由(一身上の都合など)・退職日・氏名」を記載して押印したものを提出してもらうことが一般的です。

なお、退職の理由が契約社員やパートなどの契約期間終了による雇止めの場合には、退職届を提出してもらう必要はありません。

また、退職の理由が会社都合での解雇や懲戒解雇の場合は、逆に会社側から解雇通知書(解雇予告通知書)を退職者に渡す必要があります。退職者から請求があった場合は、解雇理由証明書の交付が必要になります。

健康保険証

社会保険の場合、社員は会社を通じて健康保険に加入しています。そのため、会社を退職すると同時に、所持している保険証は無効になります。

また、保険証は日本年金機構に返却する必要があるため、健康保険証は退職日に必ず返却してもらいましょう。

健康保険証を提出しなければならないのは、会社が保険資格喪失手続きに使用するためです。雇用者側は従業員の退職日から5日以内に手続きを行わなくてはならないため、必ず退職日に受け取りましょう。

特に扶養家族がいる場合は、家族全員分の保険証を提出する必要がありますので、スケジュールの調整に注意が必要です。

なお、保険証は退職日いっぱいまで有効です。社員から「退職日に使うので翌日返したい」という申し出があった場合には、保険証のコピーを渡し、保険証本体は当日預かると良いでしょう。

名刺

名刺には社名が入っているため返却対象です。会社で作成した場合はもちろん、自作した名刺も同様です。

取引先からもらった名刺も併せて返却をしてもらいましょう。会社にとって最も重要な個人情報の一つであるため、必ず受け取るようにします。

会社の備品

会社の所有権がある備品を従業員に貸与している場合は、必ず返してもらいましょう。

貸与品はパソコンや携帯電話(スマートフォン)、制服、セキュリティカードなど、会社によって異なります。退職者が支給品だと勘違いしていることもあるため、会社の方から返却物のリストを渡しておくと抜け漏れなくスムーズに回収ができるでしょう。

書類やデータ

書類やデータは「機密情報」にあたります。サンプル品や提案済みの資料、過去のレポート、ボツになった開発データなど、後々トラブルになる可能性があるものは回収するのか、破棄するのか、あらかじめ指示しておきましょう。

退職時に必要な手続き

退職時に必要な手続きには次のようなものがあります。

退職時に必要な手続き

・雇用保険の資格喪失手続き
・住民税の手続き
・所得税の手続き
・健康保険と厚生年金の資格喪失手続き
・源泉徴収票の発行

それぞれの手続きについて解説しましょう。

雇用保険の資格喪失手続き

退職手続きをする上で、会社側がすべきことの1つ目は、雇用保険の資格喪失手続きです。

雇用保険の資格喪失手続きをする際には、「雇用保険被保険者資格喪失届」と給付額等の決定に必要な「 雇用保険被保険者離職証明書」を準備しておきましょう。従業員の退職日の翌々日から10日以内に、事業所を管轄する最寄りのハローワークに2つの書類を提出して手続きを行います。

雇用保険資格喪失手続きが行われていないと、退職者は次の勤務先で雇用保険に加入することができません。退職者にも新しい勤務先にも迷惑がかかることになるため、遅滞なく行う必要があります。

厚生労働省のホームページにおいて、雇用保険の資格喪失手続きに関する詳しい内容が解説されています。書き方が分からない場合などは、参考にしながら手続きを進めましょう。

参考:厚生労働省「雇用保険被保険者離職証明書についての注意

住民税の手続き

退職手続きをする上で、会社側がすべきことの2つ目は住民税の手続きです。住民税の手続きはすぐに転職しない場合と転職する先が決まっている場合によって手続きが異なります。それぞれ分けて解説しましょう。

すぐに転職しない場合

退職者の転職先が決まっていない場合、退職後は退職者自身で住民税を納税しなければなりません。基本的に、住民税は会社に所属している間、給与から天引きして会社が代わりに市町村に納付する特別徴収という形が取られています。

従業員が退職すると、代わりに納付する特別徴収ができなくなるため、普通徴収に切り替える手続きを市町村に届け出ます。

届出の際は「給与支払報告」と「特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を作成する必要があります。届け出をすることで、退職者に住民税の通知が郵送され、退職者自身で住民税を納入することになります。

なお、住民税は6月で年度が切り替わる仕組みとなっているため、退職月によって扱いが異なります。すぐに転職しない場合であっても、普通徴収に切り替わらないことも一定期間あります。

転職先が決まっている場合

退職後、再度別の会社に就職して新しい就業先から住民税の天引きをする場合は、新たな就業先が「特別徴収継続の届出」を提出します。

このような場合は、「給与支払報告」と「特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を退職者が新たな就業先に提出しなければなりません。そのため、この2つの書類を会社は作成して退職者に渡します。

所得税の手続き

退職手続きをする上で、会社側がすべきことの3つ目は所得税の手続きです。「源泉徴収票」を退職者に渡し、所得税の手続きを行います。

退職するその年の1月1日から最終支給給与(退職金は除く)までの源泉徴収票と、退職金がある場合は退職金の源泉徴収票を退職後1ヶ月以内に発行します。

退職者が退職した年に転職をした場合は、新たな就職先に源泉徴収票を提出して、新たな就職先での源泉徴収額と合わせて年末調整をします。

健康保険と厚生年金の資格喪失手続き

退職手続きをする上で、会社側がすべきことの4つ目は、健康保険と厚生年金の資格喪失手続きです。

従業員は退職すると同時に、健康保険と厚生年金保険の社会保険資格を失うことになります。退職後、5日以内に「健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届」を事業所の所在地を管轄する日本年金機構または健康保険組合に届け出なければなりません。

また、扶養家族分がある場合は、すべての健康保険証を回収して併せて返却します。手続きに必要な書類は次のとおりです。

手続きに必要な書類

・健康保険厚生年金保険被保険者資格喪失手続届
・退職者本人の健康保険証
・被扶養者がいる場合には、被扶養者の健康保険証
・健康保険証を添付できない場合は、健康保険被保険者証回収不能届・滅失届

まず、退職者から健康保険証を回収し、次に、厚生年金保険の被保険者期間を確認します。退職日によって被保険者期間が変わるため注意が必要です。厚生年金保険の被保険者期間は1ヶ月単位となっており、「退職日の翌日に属する月の前月まで」と定められています。

たとえば、退職日が9月30日の場合には、退職日の翌日は10月1日となるため、10月の前月である9月までが被保険者期間となります。会社と退職者は、9月分までの厚生年金保険料を支払います。

続いて健康保険の被保険者期間を確認しますが、こちらも退職日によって被保険者期間が変わります。健康保険は退職日の翌日に資格を失うと定められているため、たとえば、退職日が9月30日の場合には、翌日の10月1日に資格を失うこととなります。会社と退職者は、9月分までの厚生年金保険料を支払います。

源泉徴収票の発行

年が変わるタイミングである12月31日に退職する以外の人は、その年1年間の給与の合計が確定していないうちに辞めることとなるため、年末調整を行うことができません。

そのような退職者の年末調整は、次の勤務先で行うことになります。次の仕事に就かない場合は、翌年3月に従業員本人が確定申告をする必要があります。

そのため、退職者には、退職後1か月以内に「給与所得の源泉徴収票」を交付する必要があります。なお、源泉徴収票は退職者だけでなく本人の住所地の市区町村に提出します。市区町村への提出は翌年1月末までです。

退職手続きを行う際の注意点

注意点

・返却が必要なものは期限を設定する
・保険証は退職日に必ず返却してもらう

続いて、退職手続きをスムーズに行うための注意点について解説しましょう。

返却が必要なものは期限を設定する

返却が必要なものは、期限を設定することでスムーズに回収しやすくなります。

返却率を高めるためには、退職者にきちんと知らせておく必要があります。可能であれば、返却物リストを作り、あらかじめ渡しておくと良いでしょう。

必ず返して欲しい物には提出期限をつけ、必ず期限内に提出してもらうように促します。

保険証は退職日に必ず返却してもらう

保険証は日本年金機構から貸与されているため、退職した場合にはすみやかに同機構へ返却する必要があります。この手続きは会社が行うため、保険証は確実に返却させるようにしましょう。

会社は退職日から5日以内に、「資格喪失届」と健康保険証を日本年金機構に提出する必要があります。本人が直接日本年金機構に郵送することも可能であるため、提出期限が迫っている場合には、こちらの方法をすすめましょう。

また、保険証は扶養家族がいる場合、全員分返却してもらう必要があります。もし、保険証の一部または全部がやむを得ない事情で返却できない場合には、「健康保険被保険者証回収不能届」を提出しなければなりません。

退職手続きを効率化するなら労務管理システムがおすすめ

退職に際して、作成する書類は多くあります。貸与品の回収など、スケジュール管理が非常に重要なものも多くあります。従業員の退職や入職は日常的に発生するため、各々の関連機関へ連携や書類の作成はなるべく効率化したいところでしょう。

手続きをスムーズに完結させ、時間も業務も効率化したい場合は、労務管理システムを導入することをおすすめします。

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まとめ

従業員が退職する際に準備をすべき書類や手続き、従業員から回収する必要のある書類や備品について解説しました。

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