パワハラ防止法の罰則

労働者の定着率を高める上では、労働者が働きやすいと感じる職場づくりが大切です。その一方で、ハラスメントのような問題は、定着率はもちろん、現場の生産性や会社のブランド認知にも悪影響を与えるため、一刻も早い改善や予防が求められます。

今回は、そんな事態を回避するために設置されているパワハラ防止法に関して、その義務や罰則、そして対策のポイントを解説します。

パワハラ防止法とは

パワハラ防止法は、パワーハラスメント(=パワハラ)の蔓延を回避するため、2020年より設けられた企業の義務です。正式名称は「改正労働施策総合推進法」と呼ばれるもので、厚生労働大臣が必要と判断した際には、対象企業への指導や是正勧告が行われます。

事業者は雇用管理の一環として、パワハラの発生を回避するための環境づくりが求められています。パワハラ防止法によって定められた義務の遵守によって、会社そして労働者を守らなければなりません。

パワハラ防止法の導入背景と現状

パワハラ防止法が導入された背景には、パワハラが日本の社会問題となっていることが大きな理由に挙げられます。

パワハラ防止法が施行された背景

パワハラ防止法が施行されたのは2020年ですが、パワハラの問題が本格的に表面化したのは2017年のことです。

同年に厚生労働省より公開された「職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書」によると、パワハラに関する総合労働相談コーナーへの相談増加や、ひどい嫌がらせ等を理由とする精神障害等での労災保険の支給決定件数の増加が見られ、社会問題として企業や労働者を苦しめている実態が明らかになりました。

パワハラを個人や組織内の問題ではなく、社会問題として取り上げることで、国を挙げてのハラスメント解決に動きつつあるのが現状です。

企業におけるパワハラの現状

パワハラ防止法が施行されて2年以上が経過しましたが、今もパワハラの報告は各企業から相次いでおり、減少の兆しを見せていません。

2020年に厚生労働省により行われた調査によると、セクハラの件数こそ比較的減少傾向にあるものの、パワハラの相談件数は減っていないとしています。また、ハラスメント対策の課題として、企業は「ハラスメントかどうかの判断が難しい」ことを挙げています。

性的な嫌がらせを指すセクハラは、その振る舞いの危険性や線引きが認知されている一方、パワハラはその境目がわからないため、相談件数が減っていないのです。

参照元:令和2年度 厚生労働省委託事業職場のハラスメントに関する実態調査報告書(厚生労働省)

このことから、パワハラ防止法という仕組みを有効活用するためには、まず現場で「パワハラとはどういうものか」ということを広く認知する必要があるといえるでしょう。

パワハラの定義とは

パワハラ

そもそも、パワハラの定義とはどのようなものが挙げられるのでしょうか。厚生労働省では、パワーハラスメントの定義を次の3つに該当するものとしています。

パワハラの定義

・優越的な関係を背景とした言動
・業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
・労働者の就業環境が害されるもの

参照元:パワーハラスメントの定義について(厚生労働省)

優越的な関係を背景とした言動

優越的な関係を背景とした言動とは、立場の強い人間が弱い人間に対して、相手が抵抗できない立場であることに漬け込んだ振る舞いをすることです。

上司に当たる人物が部下に当たる人物へ暴力的な言葉や行為をぶつけたり、業務を必要以上に押し付けたりするような行為はパワハラに当たります。

業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの

業務に必要のない言動や雑務を過度に押し付ける行為も、パワハラに当たります。

意味もなく早朝に出社させたり、本来の業務とは関係のないトイレ掃除を強要したりすることなどは、これに該当します。

労働者の就業環境が害されるもの

その他、労働者の就業を意図的に阻害する行為はすべてパワハラとみなされます。労働者への暴言や人格否定、無視、怒鳴るといった行為は、就業意欲を低下させたり、精神疾患を患わせたりする可能性があります。

パワハラ防止法で遵守すべき義務

上述のパワハラの定義を理解した上で、このような事態に発展させないためにはどのような対処が必要なのでしょうか。厚生労働省は、次の4つの義務をパワハラ防止法で定めています。

パワハラ防止法で遵守すべき義務

・事業主の方針の明確化およびその周知・啓発
・相談(苦情を含む)に応じ適切に対応するために必要な体制の整備
・職場におけるパワーハラスメントにかかる事後の迅速かつ適切な対応
・上記3つまでの措置と併せて講ずべき措置

参照元:労働施策総合推進法の改正 (パワハラ防止対策義務化)について(厚生労働省)

事業主の方針の明確化およびその周知・啓発

事業主の方針の明確化およびその周知・啓発は、その職場においてパワハラをしない・させない環境であることを明らかにすることを指します。

労働者に対してパワハラをしないよう就業規則で定めたり、発覚した場合には厳正な処分を下すことを周知したりします。

相談(苦情を含む)に応じ適切に対応するために必要な体制の整備

パワハラが万が一発生した場合、あるいはその疑いがある場合に迅速かつ適切な対処ができるよう、窓口を設置することも義務付けられています。

窓口の存在を労働者に周知するだけでなく、窓口の担当者が適切に対処できる能力を持っていることも義務の範疇です。

職場におけるパワーハラスメントにかかる事後の迅速かつ適切な対応

パワハラが発覚した場合、適切かつ厳正に対処できる組織であることは、パワハラ防止において大きな抑止力となります。事実関係を正しく迅速に把握し、加害者を厳しく取り締まる仕組みを整備することで、被害を最小限に抑えたり、再発防止したりすることに役立ちます。

上記3つまでの措置と併せて講ずべき措置

上記3つに加えて講ずべき措置として、相談者やパワハラ行為におよんだ人物のプライバシーにも配慮することが求められます。両者のプライバシーに配慮することで、パワハラの相談そのものがリスクある行為となってしまわないようにするためです。

パワハラ防止法に罰則はある?

パワハラ防止法の制定に伴い、厚生労働省はパワハラの定義やパワハラ防止法において果たすべき義務を厳格に明示しています。あらゆる事業者が対象となるパワハラ防止法ですが、これを破るとどのような罰則があるのでしょうか?

パワハラ防止法に罰則はない

結論をお伝えすると、パワハラ防止法には具体的な罰則があるわけではありません。企業の自助努力でパワハラを回避・防止できる仕組みを構築し、できる限り回避することが求められています。

社名が公になる可能性はある

法的な罰則のないパワハラ防止法ですが、事態が深刻である場合、厚生労働大臣の許可のもとに社名が公になる場合があります。

是正が必要な会社として一般公開されるため、企業のブランド認知に大きな傷がついてしまう可能性は免れません。

パワハラ防止法の遵守を怠った場合のリスク

パワハラ防止法の義務を守れなかった場合でも、企業は法的な罰則を受けることはありません。ただし、遵守できなかった際には次のリスクを被る可能性があることは覚えておきましょう。

リスク

・職場の生産性低下
・離職率の増加
・被害者による損害賠償請求

職場の生産性低下

職場におけるパワハラの横行は、生産性低下につながる恐れがあります。

たとえば、生産性の低い労働者を非難するような行為であっても、モチベーションの上昇にはつながらず、現場の士気を下げてしまう可能性があるのです。

離職率の増加

パワハラ被害者が長くその会社にいたいと感じることはないため、必然的に離職率は増加します。

また、パワハラ被害を受けた人だけでなく、周囲の労働者のモチベーションも低下させるため、離職を促進する場合があります。

被害者による損害賠償請求

事態が深刻な場合、パワハラ被害者は企業や加害者に対して損害賠償請求を行う可能性もあります。

パワハラが発生した事実がある時点で、企業は義務を怠っていたことになるため、事実が認められれば請求に応えなければなりません。

パワハラ防止法に抵触する主なケース

先ほども少し触れたように、パワハラの定義を踏まえた上で、どのような振る舞いがパワハラ防止法に抵触するのか、もう一度確認しましょう。

パワハラ防止法に抵触する主なケース

・身体的な攻撃
・精神的な攻撃
・過大・過小な要求
・個の侵害
・不合理な人間関係の切り離し

身体的な攻撃

最もわかりやすいパワハラが、身体的な攻撃です。ビンタや殴る蹴るといった暴力はもちろん、小突くような振る舞いも、関係性や頻度によってはパワハラとなり得ます。

手を出してしまう社員や文化がある場合、直ちに是正が必要です。

精神的な攻撃

パワハラは身体的な攻撃のみを指すと勘違いされていることもありますが、暴言なども対象になります。激励する目的であったとしても、暴言を吐いたり大声で怒鳴ったりする行為は、例外なくパワハラに該当します。

過大・過小な要求

その労働者には到底対処できない、課題要求を意図的に押し付けることも、パワハラに当たります。その日では到底処理できない業務を強要する行為は、パワハラに該当します。

また、労働者が明らかに持て余すと考えられる過小要求を繰り返すこともパワハラです。重要性が低く、ものの数分で終わるようなことばかりをやらせて、労働者のモチベーションやプライドを傷つけるような行為を意図的に行うことは回避しなければなりません。

個の侵害

個人のプライバシーを侵害するような行為も、セクハラやパワハラに該当します。許可なく個人情報を第三者に言いふらしたり、性的嗜好を勝手に第三者に伝えたりするような行為は、すべてパワハラに当たります。

不合理な人間関係の切り離し

意図的な無視や村八分のような行為もパワハラに当たります。人間関係を構築させないような振る舞いは、精神的に労働者を追い詰めるためです。

パワハラ防止法に関する対策のポイント

ポイント

・適用対象は大企業から中小企業に拡大している
・まずは相談窓口の拡充を進める
・加害者への罰則を強化する
・その他再発防止に取り組む

パワハラ防止法の遵守を進めるためには、次の対策ポイントを押さえておくことが必要です。何から始めれば良いのかわからない場合、まずはこちらを確認しましょう。

適用対象は大企業から中小企業に拡大している

パワハラ防止法は、当初大企業向けに施行されたルールでしたが、2022年12月現在、中小企業にも適用対象は拡大しています。

そのため、これまでは適用対象ではなかった企業も、今後はパワハラ防止法に基づく仕組みづくりが義務となるため、パワハラ被害の防止に全力で取り組むことが重要です。

まずは相談窓口の拡充を進める

パワハラによるリスクを回避するためには、まず実態を把握する必要があります。そのためには窓口の設置が効果的であり、現場の声を迅速に集めることができます。

労働者がいつでも相談できる窓口を設け、プライバシーを守ることで、社内の実態調査を進めましょう。

加害者への罰則を強化する

パワハラの抑止力となるのが、加害者への罰則強化です。減給処分や謹慎、解雇などの重い処分を定めておくことで、迂闊な行動を労働者が取ってしまわないよう促すことができます。

その他再発防止に取り組む

万が一パワハラが発覚した場合は、そのことを受け止め厳正に対処することが大切です。また、なぜパワハラが起こってしまったのか調査し、二度と起こらないような職場へ改善していくことも求められます。

再発防止に向けた措置を適宜検討、実施することで、安全な職場づくりを実現しましょう。

まとめ

パワハラ防止法の内容やパワハラの定義、そしてどのように対策すれば良いのか解説しました。

パワハラ防止法には罰則こそないものの、職場の士気低下や損害賠償に発展する可能性もあり、企業としてはパワハラ防止法に遵守した経営を促進したいところです。

パワハラの相談件数が低下しないのには、そもそもどこからがパワハラなのかという理解が社会に浸透していない問題も背景に挙げられます。パワハラへの理解を深め、相談窓口の設置やプライバシーの配慮によって、パワハラの発生を未然に防ぎましょう。

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