退職手続き

従業員から退職届を提出されたとき、会社側は速やかに手続きを行わなければなりません。手続きにはそれぞれ期限が定められており、対応が遅れると退職した従業員に迷惑がかかるからです。

そのため、退職手続きは抜け漏れなくスムーズに進める必要があります。今回は、会社側が行う退職手続きの流れや具体的な手続き内容、注意する点を解説します。退職にはさまざまな事務作業が発生するため、事前に確認しておきましょう。

退職手続きの流れ

退職手続きは企業ごとに異なります。ここでは、一般的な退職手続きの流れを紹介します。退職手続きは送れると退職する従業員に迷惑がかかるため、計画的に進めていくことが大切です。

退職手続きは、次の5つの手順で完了します。

退職手続きの流れ

ステップ1:退職届または退職願を受け取る
ステップ2:退職手続きのチェックリストをつくる
ステップ3:手続きに必要な書類を準備する
ステップ4:最終出社日に会社への返却物を受け取り年金手帳を返却する
ステップ5:保険料や税金の手続きを行う
ステップ6:源泉徴収票や雇用保険被保険者資格喪失確認通知書、離職票を送付する

退職届を受け取り退職が確定したら、まずチェックリストを作成し、抜け漏れのないように退職手続きを進めていきます。一つひとつの手順を具体的に解説していきましょう。

ステップ1:退職届または退職願を受け取る

就業規則で定めた期間までに、退職届または退職願を受け取ります。

原則として、従業員は退職日の2週間前までに退職届を届出ることが必要です。このことは、民法第627条で定められています。

ただし、企業によっては就業規則で退職届を提出するタイミングを定めている場合もあるため、企業のルールに従って受け取りましょう。

実際には、業務の引継ぎが必要となるため、従業員と上司が相談して退職日を決めた後、退職届を提出することが一般的です。

退職届には、退職日や退職理由、提出日を書いてもらいます。自社のフォーマットがあれば、そちらに記入を依頼しましょう。

退職手続きを進めるために、従業員の退職が決まったら早めに受け取りましょう。退職届が提出される前に手続きを進めてしまうと、書類内容の修正が必要になる可能性があります。

退職届や退職願を受け取るタイミングで、今後の退職手続きの流れを簡単に従業員に伝えておくと、スムーズに手続きが進められます。

ステップ2:退職手続きのチェックリストをつくる

企業や退職する従業員によって必要な手続きは異なるため、退職手続きのチェックリストをつくります。退職手続きに抜け漏れがないようにするためです。

退職手続きに抜け漏れがあると、退職した後に従業員に連絡して出社や郵送をしてもらうことになり、負担をかける可能性があります。また、退職手続きが適切に完了していないと、失業手当の受給や転職先での手続きが進められず、迷惑をかけることになります。

退職手続きのチェックリストには、「退職証明書が必要か本人に確認する」など、退職手続きに必要な行動を具体的に記載していきます。作業が終わったらチェックをしていき、すべてにチェックがついたら退職手続きが完了するように作成しましょう。

ステップ3:手続きに必要な書類を準備する

チェックリストに沿って、手続きに必要な書類を準備します。一般的に必要な書類としては、次のものがあります。

必要書類

・健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届
・雇用保険被保険者資格喪失届
・雇用保険被保険者離職証明書
・給与支払報告に係る給与所得異動届

この中でも「雇用保険被保険者離職証明書」は記入した後、従業員に確認してもらう必要があります。そのため、早めに作成し署名をもらいましょう。

マイナンバーの記載が必要な書類もあるため、退職する従業員のマイナンバーのコピーを処分する前に記入しておきましょう。

ステップ4:最終出社日に会社への返却物を受け取り年金手帳を返却する

従業員の最終出社日に会社への返却物を受け取り、年金手帳を返却します。会社への返却物は抜け漏れがないように、あらかじめ退職する従業員に対して何を貸与しているか確認しておきましょう。

返却物の例としては、次のようなものがあります。

返却物の例

・健康保険証
・貸与品(パソコンや携帯、鍵など)
・資料やデータ
・社員証
・名刺

健康保険証は、退職日の翌日から5日以内に健康保険組合に返却する必要があるため、必ず回収しましょう。年金手帳は入社時に従業員から預かっている場合、返却が必要です。

ステップ5:保険料や税金の手続きを行う

従業員が退職したら、保険料や税金などの公的な手続きを行います。手続きが必要なものは、社会保険と雇用保険、住民税です。企業によっては、確定拠出年金などの手続きが必要な場合もあります。

社会保険は年金事務所、雇用保険はハローワーク、住民税は各市町村に対して、手続き書類を送付します。手続きにはそれぞれ期限があるため、期限を守って提出しましょう。期限に遅れると、退職した従業員が行う失業手当の受給や転職先での手続きに悪影響を及ぼす可能性があります。

ステップ6:源泉徴収票や雇用保険被保険者資格喪失確認通知書、離職票を送付する

退職手続きが完了したら、従業員に対して源泉徴収票や雇用保険被保険者資格喪失確認通知書、離職票を送付します。

源泉徴収票は年末調整や確定申告の際に必要となるため、最後の給与支給が完了したら送付しましょう。源泉徴収票には、1年間の給与金額と支払済みの税額が記載されています。

離職票はそのまま転職する従業員には不要です。雇用保険被保険者資格喪失確認通知書と離職票は、ハローワークで雇用保険の手続きをした際に受け取れます。

退職する際の社内手続き

従業員が退職する際の社内手続きは、従業員から受け取るものと従業員に渡すものの2種類に分類できます。社内手続きは退職日までに対応を完了させ、不備のないように気をつけましょう。

不備があると、従業員に退職後連絡をして出社や郵送をしてもらうことになり、負担をかける可能性があります。では、退職する際の社内手続きの詳細を解説していきましょう。

従業員から受け取るもの

従業員から受け取るものは、主に3つあります。

従業員から受け取るもの

①健康保険証
②貸与品
③その他

①健康保険証

本人の健康保険証と、被扶養者がいる従業員の場合、被扶養者の健康保険証も回収します。また、「高齢受給者証」や「健康保険特定疾病療養受給者証」、「健康保険限度額適用・標準負担額認定証」などを持っている従業員がいれば、こちらも回収しましょう。

②貸与品

パソコンや携帯などの電子機器、机やロッカーの鍵、備品などを回収します。ノートやハサミなどの備品も会社のものなので、忘れずに返却してもらいます。

③その他

社員証や名刺など、会社に関するものを与えている場合、返却を依頼します。会社のマニュアルや取引先の名刺などの機密書類も返却してもらい、会社で保管または廃棄します。

退職した後に利用されると、トラブルに発展する可能性があるからです。返却してもらった後は、速やかに廃棄します。

従業員に渡すもの

従業員に渡すものは、年金手帳と雇用保険被保険者証です。年金手帳は従業員の入社時に、なくさないように預かっている場合が多いです。

従業員は退職した後もその年金手帳を使うため、必ず返却しましょう。雇用保険被保険者証は、失業給付・教育訓練給付金の受給や再就職の際に必要です。

従業員が雇用保険に加入したときに、ハローワークから企業に渡されています。そのまま預かっている場合は、従業員に返却しましょう。

退職する際の公的な手続き

年金手帳

ここまでは、従業員が退職するときの社内での手続きについて解説しました。社内手続きには従業員から受け取るものと渡すものの2種類があります。

従業員が退職する際には、社会保険や雇用保険、住民税などの公的な手続きも必要です。手続きごとに提出先や提出期限が異なるため、しっかりと確認しておきましょう。

社会保険(健康保険・介護保険・厚生年金保険)

社会保険(健康保険・介護保険・厚生年金保険)の手続きは、「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」を管轄の年金事務所に提出します。提出の期限は、退職日の翌日から5日以内です。

全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入している場合、健康保険証も同封します。他の健康保険組合に所属している場合は、加入している健康保険組合の手続き方法を確認し、対応しましょう。

健康保険証が回収できない場合は、「健康保険被保険者証回収不能届」を添付します。「健康保険被保険者証回収不能届」には、被保険者情報と被保険者証を返納できない理由の記載が必要です。

社会保険は、退職日の翌日が資格喪失日になります。資格喪失日の前月まで、社会保険料は発生し、日割り計算にはなりません。

そのため、月末最終日に退職すると、最後の給与で2か月分の保険料を控除する必要がある可能性があります。給与の締め日と支払のタイミングによるため、注意が必要です。

雇用保険

雇用保険は、「 雇用保険被保険者資格喪失届」と「雇用保険被保険者離職証明書」を所轄のハローワークに対して提出します。雇用保険の提出書類は、退職から10日以内が提出期限です。

「雇用保険被保険者離職証明書」は離職票が必要な従業員のみ提出します。退職後の転職先が決まっている場合は、離職票の発行が必要ありません。

「雇用保険被保険者離職証明書」は事前に退職する従業員に内容を確認してもらい、異議がなければ署名をしてもらう必要があります。署名がもらえなかったらその事由を記載した証明書を、代わりに提出します。

雇用保険は毎月給与の支払額に応じて徴収しているため、最終給与支払時にも回収が必要です。

住民税

住民税は、退職する従業員の住民税を支払っている市区町村に「給与支払報告に係る給与所得異動届」を提出します。住民税はその年の1月1日時点での居住地の自治体へ、前年の所得に応じた金額を納付するため、引っ越しをした従業員の場合、引っ越しする前と引っ越し後の市区町村の両方に届出を提出する必要があります。

フォーマットは各市区町村のホームページから、ダウンロードが可能です。退職する際には、住民税の徴収方法を特別徴収から変更する必要があるため、書類を提出します。

変更を忘れると、特別徴収税の支払い義務が継続するため、督促状が来る可能性があります。そのため、忘れずに手続きを行いましょう。

退職時期によって、住民税は手続き方法が異なります。

1月から5月に退職する場合、住民税は最後の給与で一括徴収します。一括徴収とは、未納分の住民税を一度で徴収することです。

6月から12月に退職する場合、給与では通常通り1ヶ月分の住民税を徴収し、残りは普通徴収として従業員に直接市区町村に支払ってもらうように手続きをします。

最後の給与が少ない場合、給与の振り込みがマイナスになってしまう可能性があるため、事前に確認をしておきましょう。

年金

厚生年金以外に、任意の年金制度がある企業は、従業員の資格喪失の届出をしましょう。任意の年金制度には、確定給付企業年金や確定拠出年金、中小企業退職金共済制度・特定退職金共済制度などがあります。

従業員が退職したことを届け出しないと、退職後も対象の従業員の分の掛け金や手数料がかかることになります。自社に独自の年金制度がある場合は、忘れずに手続きを行いましょう。

退職手続きで発行する書類・回収する書類

続いては、退職手続きで会社側が発行する書類と、回収する書類について解説します。

発行する書類

退職時に会社側が発行する書類は、次の3つです。

会社が発行する書類

・源泉徴収票
・退職証明書
・離職票1・2

それぞれの書類の概要を解説しましょう。

源泉徴収票

源泉徴収票は、転職先の年末調整または再就職しない場合は確定申告で使用するため、退職者に必ず配布しましょう。源泉徴収票には、1年間の給与金額と支払済みの税額が記載されています。

退職証明書

退職証明書は、勤めていた企業から退職した事実を証明するための書類です。失業手当の手続きや保険の手続きなどで利用できます。

退職証明書の内容は法律で定められていないため、必要な項目があるか従業員に確認してから作成しましょう。退職証明書は離職票よりも早く発行できるため、退職したことをすぐに証明する必要がある場合に使います。

離職票1・2

離職票1は退職者に雇用保険の資格を失ったことを通知する書類、離職票2は「雇用保険被保険者離職証明書」の控えです。ハローワークで雇用保険の資格喪失手続きを行うと、会社に交付されます。離職票は失業手当を受給する際に必要なため、受け取ったらすぐに送付しましょう。

回収する書類

従業員から回収する書類は、退職届です。退職届がなければ、退職日や退職理由がわからないため、手続きを進められないからです。

退職届には、退職日や退職理由の他、書類提出日を記入してもらい、本人の署名をした状態で提出してもらいましょう。

退職時の対応で会社側が注意するポイント

退職時の対応を誤ると、トラブルに繋がる可能性があります。トラブルを防ぐために会社側が注意するポイントは次の3点です。

注意点

・退職後も一定期間書類を保存しておく
・退職した従業員のマイナンバー情報を削除しておく
・保険証は退職日までに必ず返却してもらう

退職後も一定期間書類を保存しておく

従業員退職後も、一定期間書類を保存しておきましょう。なぜなら、書類の保存は会社の義務だからです。

書類の種類にもよりますが、保管期間が定められている書類がいくつかあります。たとえば、労働者名簿や賃金台帳などの重要書類は5年間(当面の間は3年間)保存しなければならないと、労働基準法で定められています。

保管期間が定められている書類を確認し、保管が必要な書類は保存しておきましょう。

参照元:厚生労働省 改正労働基準法等に関するQ&A

退職した従業員のマイナンバー情報を削除しておく

従業員が退職したら、退職した従業員のマイナンバー情報を削除しておきましょう。マイナンバーは不要になったら廃棄する義務があるからです。

退職時の公的手続きなどでマイナンバーは必要ですが、手続きが終わった後は不要になります。手続きが完了したら、紙の書類の場合はシュレッダー、データの場合は削除を行いましょう。

ただし、保管が定められている書類にマイナンバーが記載されている場合は、保管期間が過ぎてから廃棄します。

保険証は退職日までに必ず返却してもらう

保険証は、退職日までに必ず返却してもらいましょう。

保険証は、健康保険被保険者資格喪失届とともに、全国健康保険協会(協会けんぽ)に送付します。送付期限は退職日の翌日から5日以内のため、退職日までには保険証を返却してもらう必要があります。

また、従業員が保険証をもっていても、退職日を過ぎると病院で保険証は使えません。そのため、保険証は従業員から退職日までに必ず返却してもらいましょう。

まとめ

退職手続きに必要な準備や作業は多くあり、退職が決まったら迅速に抜け漏れなく対応する必要があります。特に、社会保険の手続きはそれぞれ書類の提出期限が定められているため、すぐに手続きを行いましょう。

他に会社側がする手続きには、社内で従業員に対して渡すものと回収するものの2種類があります。回収し忘れがあると、退職した従業員に連絡し、来社や郵送を依頼することになる可能性があります。チェックリストをつくるなど、回収し忘れが無いように管理をしましょう。

退職手続きは迅速に抜け漏れなく対応する必要があり、担当者にかかる作業負担が大きいです。人事・労務担当者の作業負担を軽くするために、「人事労務コボット」の導入がおすすめです。

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担当者は対象の従業員の氏名とメールアドレスを登録し、従業員が入力した情報を確認するだけで手続き書類を作成することが可能です。従業員は、担当者から送られてきたWebフォーマットに情報を入力するだけなので、書類を受け取って記入、郵送する手間を省けます。

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