高度プロフェッショナル制度

人材不足の解消や生産性の向上に向け、国内企業には多様な働き方の推進が求められています。そんな中、新しい働き方を法的に認めるルールとして、新たに「高度プロフェッショナル制度」と呼ばれるものが導入されつつあります。

高度プロフェッショナル制度は、従来の働き方とはどのように異なり、どう制度を活用すれば良いのでしょうか?今回は、そんな高度プロフェッショナル制度の仕組みや、活用のポイントについて解説します。

高度プロフェッショナル制度とは

高度プロフェッショナル制度は、専門的なスキルを有する人材に対して、通常の正規雇用とは異なる勤務形態や報酬形態を提供し、多様な働き方の実現と生産性の向上を促す制度です。

従来の平日出勤、18時退社のような働き方は、かつての高度経済成長期のように、画一化された業務の遂行が最優先だった時代であれば有効とされていました。しかし、今日では社会のIT化が進み、人材の流動性が高まり、求められる能力もバラバラになったことから、このような働き方では成果を生む上で障害となるケースも見られます。

だからといって、残業や休日出勤が横行するような組織文化は、社員の健康や会社の健全性を維持する上では認められるものではなく、既存の制度では取り組みに限界もありました。

そこで、2019年4月に登場したのが高度プロフェッショナル制度であり、特定の業務やスキルを持った人物にのみ適用できる仕組みが設けられました。制度を有効活用することにより、型に当てはめた働き方では得られない成果を、合法的かつ労働者の同意もある中で実現することができます。

裁量労働制との違い

高度プロフェッショナル制度と似たような仕組みの一つに、裁量労働制が挙げられます。裁量労働制もまた、高度プロフェッショナル制度と同様に、労働者を勤務した時間で評価するのではなく、仕事の質や結果によって評価するものです。

どちらの制度も、労働者が自身の能力を存分に発揮するモチベーションを高める効果が期待でき、意欲的な労働者の確保につながります。

一方で、高度プロフェッショナル制度と裁量労働制の相違点は、労働基準法が適用されるかどうかや、年収、残業手当の有無などにあります。

裁量労働制は、従来の雇用形態を少し発展させたような制度であるため、労働基準法で定められた法定休日は適用され、深夜手当や休日出勤手当も発生します。

一方で、高度プロフェッショナル制度下において、労働者は労基法に基づく休憩・休日の制度を含め、一切のルールが適用されません。仕事や個人の都合に合わせて休憩や休日を確保する必要があり、場合によっては休日がないまま過ごす日々が続くこともあるでしょう。もちろん、深夜手当や休日出勤手当も発生することはなくなります。

ただ、その代わりとして、高度プロフェッショナル制度を適用できる条件の一つに、年収の設定が挙げられます。詳しくは後ほど解説しますが、同制度には不当な低賃金労働を回避するためのセーフティネットとして年収の基準が設けられており、相応の給与が支払われることとなっています。

裁量労働制ではこのような年収の目安が示されていないため、高度プロフェッショナル人材とは給与面で大きな違いがあります。

高度プロフェッショナル制度の対象職種・業務

高度プロフェッショナル制度

高度プロフェッショナル制度は誰にでも適用できるわけではなく、対象職種は限られています。ここでは、どのような業務を遂行する職に適用できるのか解説しましょう。

対象業務の前提条件

高度プロフェッショナル制度の適用対象となる業務の前提条件として、次の2つの基準が定められています。

対象業務の前提条件

・高度で専門性の高い業務であること
・業務に従事した時間と成果に関連性がないこと

高度で専門性の高い業務であること

1つ目は、業務内容の専門性が高く、通常のスキルセットでは対応することができない業務です。

具体的な例は後ほど紹介しますが、わかりやすい例が企業の研究開発に携わる研究員です。薬品や食品などの商品開発は非常に専門性が高く、時には人の命にも関わるような繊細な判断や取り扱いが求められます。

こういった業務に携わる場合、人員の代替を探すことが極めて困難であり、個人の長年の経験にも依存することから、高度プロフェッショナル制度の適用条件に当てはまります。

業務に従事した時間と成果に関連性がないこと

2つ目は、業務に従事した時間と成果に関連性がないことです。

大抵の業務は、長時間取り組めば成果が出るものと考えられています。作業労働などはその典型であり、時間はかかるものの、逆にいえば時間さえかければ必ず成果につながるでしょう。

一方、先ほど紹介した研究開発のような業務は、時間をかけたからといって必ず成果につながるとは限りません。何度も試行錯誤を繰り返し、苦労の末満足のいく商品を誕生させられることもあれば、あっけなくプロジェクトを達成できることもあるでしょう。

このように、時間をかけることが必ずしも成果につながるとは限らない業務は、高度プロフェッショナル制度の適用対象となります。

主な対象職種・業務

高度プロフェッショナル制度の対象職種や業務はさまざまありますが、主な職種としては次のものが挙げられます。いずれも個人のスキルレベルが成果物に大きく影響する業務ばかりであり、時間と成果が比例関係にない点も共通しています。

主な対象職種・業務

・研究開発業務
・取材・編集業務
・士業
・コンサルティング業務
・アナリスト業務
・金融商品の開発業務

また、取材・編集業やコンサルティング業などに携わる人の中には、フリーランスで活躍している人も少なくありません。企業が彼らの能力を評価しており、自社専任で活躍して欲しいと考えている場合、高度プロフェッショナル制度を適用して彼らを雇い上げることで、正規雇用でありながらフリーランスのような働き方を保証することができます。

高度プロフェッショナル制度の対象となる人材

それではここで、高度プロフェッショナル制度の対象となる人材には、どのような条件が求められるのか解説しましょう。高度プロフェッショナル制度を適用できる人材の条件としては、主に次の2つの条件をクリアしていることが大切です。

対象となる人材

・職務の範囲が明文化されている労働者
・1年間の賃金の支払い見込額が平均給与額の3倍を相当程度上回る水準の労働者(年収1,075万円以上の労働者)

職務の範囲が明文化されている労働者

1つ目は、職務の範囲が明文化されている労働者です。

高度プロフェッショナル制度を適用するにあたって、どんな業務に従事するのかが明らかになっていないと、能力を生かせない作業労働などを押し付けられる可能性があり、制度適用の意味がなくなります。

そのため、高度プロフェッショナル制度を適用する人材は、明確に規定されている業務以外は、基本的に手をつける必要がない状態でなければなりません。

1年間の賃金の支払い見込額が平均給与額の3倍を相当程度上回る水準の労働者(年収1,075万円以上の労働者)

2つ目の条件は、1年間の賃金の支払い見込額が、平均給与額の3倍相当程度を上回る水準であることです。おおむね年収1,075万円以上の労働者が高度プロフェッショナル制度を適用できる人材であるとされており、これも低賃金労働を回避するための条件です。

高度プロフェッショナル制度は裁量労働制とは異なり、労働基準法や残業手当などが適用されない決まりとなっています。その分、基本給与の面で好条件を提示する必要があり、バランスを取っているというわけです。

逆に、これだけの給与を支払える人材や事業でなければ、高度プロフェッショナル制度を有効活用できない仕組みになっているともいえるでしょう。

高度プロフェッショナル制度のメリット

高度プロフェッショナル制度の導入は、企業に多くのメリットをもたらします。ここでは、高度プロフェッショナル制度のメリットについて解説しましょう。

メリット

・生産性向上につながる
・不公平感の是正につながる
・ワークライフバランスの実現に貢献する

生産性向上につながる

高度プロフェッショナル制度の最大の導入メリットは、生産性の向上です。専門人材は成果を出すまで業務に従事してくれるため、スキルのある人物であれば一定の結果を期待できます。

個人の能力に成果は依存するものの、高いモチベーションを持って仕事に従事してもらいやすくなるため、従来よりも期待できる環境にアップデート可能です。

不公平感の是正につながる

成果を出せる人が正しく評価される高度プロフェッショナル制度の適用は、能力ある人材の不公平感の是正につながります。成果だけで自分の能力が評価される仕組みを設けることで、「成果を出している人と出していない人の待遇が同じ」ということに不満を募らせる優秀人材の定着率を高められるためです。

頑張れば頑張るほど評価される組織は、結果的に組織そのものの推進力を高めることにもつながるでしょう。

ワークライフバランスの実現に貢献する

高度プロフェッショナル制度は、一見すると働きづめの労働者を生み出しかねない制度にも思えるかもしれませんが、場合によってはワークライフバランスの実現にも貢献します。

繁忙期は仕事に拘束されるかもしれませんが、安定した給与を高い水準で得られるだけでなく、繁忙期を過ぎれば自分のタイミングで休日も取得することができます。

それでいてやりがいのある仕事に時間を投じることもできるため、充実した人生を送る手助けとして、高度プロフェッショナル制度の浸透が期待されています。

高度プロフェッショナル制度のデメリット

高度プロフェッショナル制度はメリットが多い中、注意しておくべき懸念点もあります。ここでは、高度プロフェッショナル制度のデメリットについて解説しましょう。

デメリット

・残業手当などがなくなる
・過剰な長時間労働の温床となりやすい
・評価基準の見直しが必要になる

残業手当などがなくなる

先ほども少し触れたように、高度プロフェッショナル制度では労働者に残業手当などが支払われなくなるため、この点は労働者に丁寧に理解と同意を得る必要があります。

残業手当が当たり前のように支払われていた働き方に馴染んだ人材を高度プロフェッショナル人材として起用する際には、給与面でどのような変化があるかを詳細に伝えておかないと、後ほどトラブルとなる可能性があるでしょう。

過剰な長時間労働の温床となりやすい

高度プロフェッショナル制度は成果主義を仕組み化した制度ですが、過剰な長時間労働が発生しやすい点も問題視されています。いくら成果のためとはいえ、自身の健康が損なわれるような働き方は、長期的に見れば組織や労働者に損失を与えてしまいます。

長時間労働が常態化してしまわないよう、労働者を正しく管理できる仕組みづくりが必要です。

評価基準の見直しが必要になる

高度プロフェッショナル制度を適用する場合、人事評価のあり方を別途用意することも求められます。従来の働き方とは大きく異なる上、成果に重点を置いた評価を新たに設けなければならないためです。

制度導入前には評価についても検討し、客観性のある仕組みを用意しておきましょう。

高度プロフェッショナル制度を有効活用するための対策

先ほどお伝えしたデメリットを回避しながら高度プロフェッショナル制度を運用するためには、次のような取り組みが必要だといえます。

有効活用するための対策

・選択的措置の導入
・健康・福祉確保措置の導入

選択的措置の導入

1つは、選択的措置の導入です。選択的措置とは、過剰な長時間労働を回避するために、次の4つの措置から1つを選んで導入することを指します。

  • 勤務間インターバルの確保(11時間以上)と深夜業の回数制限(1ヶ月に4回以内)を設けること
  • 法定時間外労働は1ヶ月に100時間以内、または3ヶ月で240時間以内とすること
  • 1年に1回以上の連続2週間の休日を与えること
  • 臨時の健康診断を実施すること

労基法が適用されない分、こういった措置でカバーすることにより、労働者の権利や健康を守らなければなりません。

健康・福祉確保措置の導入

2つ目は、健康・福祉確保措置の導入です。選択的措置とは別に、次の6つの措置を導入することで、労働者の健康を守ります。

  • (選択的措置として定めた措置を除く)残り3種類の選択的措置のいずれか
  • 医師による面接指導
  • 代償休日または特別な休暇の付与
  • 心とからだの健康問題についての相談窓口の設置
  • 適切な部署への配置転換
  • 産業医等による助言指導又は保健指導

制度上で長時間労働を制限していても、健康を害することはあります。こういった事態を未然に防ぐ、あるいは症状を最小限に抑えるため、これらの措置は不可欠でしょう。

高度プロフェッショナル制度導入の手続き

最後に、高度プロフェッショナル制度を導入する際の手続きについて解説します。次の手続きを実施する必要があります。

導入の手続き

・労働者本人の同意を獲得する
・労使委員会の決議とその内容を労働者に書面で伝える

労働者本人の同意を獲得する

まず、高度プロフェッショナル制度導入の同意を労働者本人から得ることが必要です。制度への同意が得られない場合、高度プロフェッショナル人材として労働者を起用することはできません。

制度導入に伴い働き方や給与はどう変わるのか、どんな業務範囲で活躍するのかなど、疑問が残らないよう正しく内容を伝えましょう。

労使委員会の決議とその内容を労働者に書面で伝える

労使委員会が設置されている場合、高度プロフェッショナル制度の導入には、事前に決議を受ける必要があります。また、その決議内容については、労働者に口頭ではなく書面で伝えて同意を得なければなりません。

従来の働き方とは大きく異なり、高度プロフェッショナル制度は労働者の権利が侵害されるリスクも大きい制度です。正しく同意を得ることが、後々のトラブルを回避するために重要な手続きです。

まとめ

働き方改革の一環として導入が進む高度プロフェッショナル制度の仕組みや活用のポイントについて解説しました。

高度プロフェッショナル制度は、専門的な技能を持った人材を高いレベルで活かすために積極的に導入したい制度です。導入には条件をクリアする必要がありますが、導入ができれば多様な人材の活躍が期待できます。

また、高度プロフェッショナル制度は高いモチベーションを持って働いてもらうことができるメリットがある反面、気をつけるべきデメリットもあります。

特に、制度適用下にある労働者の健康が阻害されることのないよう、セーフティネットの拡充や余計な業務負担の削減にも取り組み、ワークライフバランスを正しく構築できる仕組みづくりが必要です。

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