名ばかり管理職

管理職なのにもかかわらず、管理職としての権限がない、いわゆる「名ばかり管理職」についてお悩みでしょうか?今回は、名ばかり管理職に問題がある理由や、実際に問題となった事例、名ばかり管理職を生まないための対処法について解説します。

名ばかり管理職とは、「管理職」としての裁量や権限がないのに「名ばかり」の管理職を与えられている労働者のことです。また、実際に名ばかり管理職の存在がきっかけで、自社のイメージダウンにつながった企業も多くあります。

自社のイメージダウンにつながらないよう、名ばかり管理職についてしっかり理解しておきましょう。

名ばかり管理職とは?

名ばかり管理職とは、管理職としての権限が裁量を十分に与えていないにもかかわらず、名ばかりの管理職として働かせる違法行為です。名ばかり管理職かどうかの判断材料としては、次のようなものがあります。

名ばかり管理職かの判断材料

・時間あたりの賃金が一般社員よりも下回っている
・役職手当が不十分である
・部下がいないのに管理職となっている
・アルバイトやパートなどの採用権限がない(飲食や小売など)
・勤務時間の裁量がない

名ばかり管理職の多くは、企業が「残業代を支払いたくない」ために悪用されています。なぜなら、労働基準法において、管理職の場合は残業代を支払わなくても問題がないためです。

ただし、残業代の代わりに、管理職には基本給とは別に管理職手当が支給されます。業務に重い責務を伴うことが多いため、その職務内容の重要さに対して支給されるものです。

名ばかり管理職には、この「管理職手当」が十分ではないケースが多く見受けられます。

管理職手当が十分ではないにもかかわらず、残業代の支払いがありません。また、名ばかり管理職は勤務時間の裁量権限もないため、長時間勤務となることがほとんどです。

結果として、長時間労働を強いられる上に残業代がないため、一般社員の時間給よりも管理職であるはずの社員の方が、時間給が低くなってしまいます。

名ばかり管理職が悪質といわれる理由は、ここにあります。当然ながら、管理職に該当する「管理監督者」は、一般社員よりも上回る賃金を支払う必要があります。管理監督者としての権限がないのに管理職として扱い、残業代を支払わず人件費をカットする「名ばかり管理職」の悪用は、立派な違法行為です。

名ばかり管理職が問題となる理由

名ばかり管理職の存在が企業にとって問題となる理由は次の5つです。

問題となる理由

・管理職としてのスキルが育たないから
・離職率が高まるから
・訴訟されるリスクがあるから
・過労やストレスで倒れるから
・ブラック企業の烙印を押されるから

自社が名ばかり管理職に該当するような勤務体制になっている場合、これらのような問題点により自社ブランドが大きく傷つく可能性があります。それぞれ詳しく見ていきましょう。

管理職としてのスキルが育たないから

名ばかり管理職は、正確に言うと管理職ではないため、管理職としてのスキルが育ちません。

名ばかり管理職の中には、部下がいないにもかかわらず管理職として扱われることも多くあります。当然ながら部下がいないため、管理職に必要とされる部下のマネジメントスキルは身につきません。

また、管理職は一般社員とは違い、企業の経営部分にも大きく関係する立場です。しかしながら、名ばかり管理職では経営権への口出しもできないケースも多いため、管理職として重要な経営スキルが身につきません。

名ばかり管理職では、本来必要とされる管理職としてのスキルが育たないため、結果として組織力の弱体化につながります。

離職率が高まるから

名ばかり管理職の存在がいることで、離職率の増加につながります。当然ながら、名ばかり管理職として勤務する本人が、待遇に不満を持ち離職につながることはあるでしょう。

しかし、それ以上に危険なのが、一般社員における離職率の増加です。名ばかり管理職がいるような職場において、「自分も管理職になりたい」と思う一般社員はまずいません。「ここにいたら名ばかり管理職になってしまう」と感じ、転職を検討するのが自然でしょう。

優秀な人材ほど、すぐに転職先が見つかるものです。優秀な人材を採用したとしても、名ばかり管理職の存在が原因で同業他社へと転職してしまうかもしれません。

さらに、職場の離職率が高いと、求職者からも「あそこはブラック企業かもしれない」と思われるようになり、募集をかけても人材が集まりにくくなります。

名ばかり管理職の存在は離職率を高める上に、優秀な人材の漏洩や新規採用の困難化を招きます。必然的に組織は弱体化し、最悪の場合、倒産や廃業といった恐れもあるでしょう。

訴訟されるリスクがあるから

名ばかり管理職の存在がきっかけで、企業が従業員から訴訟される可能性があります。

労働者に訴訟され裁判するような事態になると、メディアに取り上げられ世間の注目を浴びることになりかねません。実際に名ばかり管理職などの労働問題がきっかけで、訴訟となりメディアに取り上げられた企業は数多く存在します。

いずれも判例により、未払いの残業代等の支払いを命じられたケースがほとんどです。従業員に訴訟されメディアに報道されることで、企業の大幅なイメージダウンにつながるでしょう。

過労やストレスで倒れるから

名ばかり管理職として働く従業員は、過労やストレスで体調を崩し勤務中に倒れるといったケースも珍しくありません。なぜなら、名ばかり管理職の多くは残業代のカットを目的に悪用されるためです。

長時間勤務をさせることを前提に、名ばかり管理職として従業員を登用します。長時間勤務が原因で労働者が倒れると、職場は人手不足へと陥ります。

さらに「従業員を酷使する会社」として、企業のイメージダウンにもつながるでしょう。裁判で労災が認定されれば、損害賠償金の支払いを命じられることにもなります。

ブラック企業の烙印を押されるから

名ばかり管理職がもたらす一番のリスクが、世間からブラック企業としての烙印を押されることでしょう。

厚生労働省では、労働基準関係法令違反に係る公表事案として、いわゆる「ブラック企業」のリストを公表しています。リストに掲載されたり、メディアの報道などで世間からブラック企業の烙印を押されたりしてしまうと、イメージを払拭することが困難になります。

一度落とした信用は、ゼロから信用を築くより遥かに難しいものです。世間からブラック企業扱いされることが、名ばかり管理職を放置する一番の問題点といっても過言ではありません。

管理監督者としての判断基準

管理監督者としての判断基準は、主に3つあります。

管理監督者としての判断基準

・経営に関与できる
・出退勤や業務量に裁量が持てる
・一般社員以上の賃金を受け取っている

自社の管理職が上記の判断基準に該当していない場合は、名ばかり管理職となっている可能性があります。1つずつ詳しく解説していきましょう。

経営に関与できる

管理職に該当する管理監督者には、経営に携わる権限が与えられます。

管理監督者は、経営者に近い立場で仕事をする存在です。管理職にもかかわらず、経営についての権限が与えられていないのであれば、名ばかり管理職に該当する可能性が高いでしょう。

社長や役員などの経営陣に対し、現場社員の意見を吸い上げ伝えること、また経営陣からの指揮命令を、現場の一般社員に浸透させることも管理職の仕事です。経営についての権限も与えられず、ただ言われたことをやるだけの名ばかり管理職は、管理職とは呼べません。

出退勤や業務量に裁量が持てる

管理職である管理監督者には、出退勤や業務量に対しての裁量権限が与えられています。

管理職は残業代がつかない代わりに、一般社員とは異なり、労働時間に対しての管理を求められないことが基本です。管理職にもかかわらず、出退勤や業務量に対しての裁量権限がなく、長時間労働を強いられている状態は、もはや管理職としての姿ではありません。

遅刻や早退でペナルティがあったり、上司の指示で業務量の制限ができなかったりする場合は、名ばかり管理職に該当する可能性が高いでしょう。

一般社員以上の賃金を受け取っている

管理職は、業務に責任が伴う代わりに一般社員以上の賃金を受け取ることが基本です。一般社員と大差ないような収入であれば、それは管理職とは呼べません。

また、残業手当の代わりとなる「管理職手当」についても、十分な支給額でなければなりません。5,000円といったような少ない支給額では、管理職手当とは言えないでしょう。

「管理職になったら一般社員より収入が減った」という事態は、名ばかり管理職にありがちなケースです。一般社員以上の収入を得られているかも、管理職か名ばかり管理職かを判断する材料の一つです。

名ばかり管理職が問題となった事例

重労働の女性

次に、実際に名ばかり管理職の存在が問題となった事例を2つ紹介しましょう。

  • 日本マクドナルド
  • 紳士服のコナカ

上記2社は、世間一般でも広く知れ渡っている大手企業ですが、名ばかり管理職が問題で裁判となった事例があります。

日本マクドナルド

「名ばかり管理職」の実態が広く知れ渡ることになった事例が、2008年に起きたマクドナルドの現役店長による訴訟問題です。原告である店長が、「管理監督者」に該当するかが争点となった裁判です。

名ばかり管理職の扱いを受けていた店長が、マクドナルドに対し残業代と慰謝料の請求を求めました。結果として裁判所は「店長は管理監督者に該当しない」と判断し、日本マクドナルドに対し、約750万円の未払い残業代と慰謝料の請求を命じています。

また、当時はマクドナルドだけではなく、居酒屋チェーンの店長やコンビニチェーンの店長などにおいても、名ばかり管理職の存在が問題となっていました。特にマクドナルドの1件においては、月100時間を超える長時間労働の実態が明らかになったこともあり、「名ばかり管理職」ということばが広まるきっかけとなりました。

紳士服のコナカ

紳士服の業界大手である「コナカ」でも、名ばかり管理職が原因で店長2名から未払い残業代(約1,280万円)の請求を同社に求め、裁判となった事例があります。結果として、裁判所は原告側の主張を認め、店長2人を「名ばかり管理職」に該当すると判断しています。

原告側の店長2人は、管理職としての裁量権限や出退勤の自由がなく、「店長」という肩書だけで管理職として扱われていました。裁判所の判断を受けて、コナカ側は店長2名に対し「解決金」を支払うことで、和解となりました(解決金の額は非公開)。

また、社内規定についても、裁判を受けて「店長は管理職に該当しない」と改訂し、残業代を支払うように認めています。

名ばかり管理職を生まないための対処法

最後に、名ばかり管理職を生まないための対処法を紹介しましょう。

対処法

・給与体系を確認する
・労働時間の裁量を確認する
・部署や部門の管理権限を確認する
・経営についての権限を確認する

給与体系を確認する

管理職の給与体系が、管理監督者としてふさわしいものになっているか確認しましょう。一般社員と比べて十分な収入が確保されているかが一つの基準となります。

ちなみに、前述したマクドナルドの事例においては、店長とそれ以下の年収が44万円しか変わらなかったことも、名ばかり管理職として裁判所に判断される要因の一つとなっています。

長時間労働などの結果、一般社員を下回るような支給額となるようでは、名ばかり管理職に該当する可能性があります。管理職の給与体系や支給額を見直し、管理監督者としてふさわしいものになっているか確認しましょう。

労働時間の裁量を確認する

管理監督者に該当する管理職は、労働時間に対しての裁量権限があります。

一般社員と比べて、労働時間に対しての制限を受けないことが管理職の特徴でもあります。管理職の労働時間については、管理職自らが自律的に管理することが基本です。

管理職に労働時間の裁量を与えていない場合は、名ばかり管理職として扱われ、従業員から訴訟される恐れもあります。人事や労務担当者は社内規定を確認し、管理職の労働時間の裁量権限について、どのように規定されているか確認しておきましょう。

部署や部門の管理権限を確認する

自身が所属する部署や部門の管理権限についても、管理監督者としてふさわしいものか確認する必要があります。

  • 人材採用の決定権がない
  • 部下の人事評価ができない
  • 部下の労務管理について、裁量権が与えられていない

管理職にもかかわらず、上記のような状態になっている場合は、管理職としてふさわしい社内規定へと変更する必要があります。

経営についての権限を確認する

管理職としての経営権についても、ふさわしい内容となっているか確認しましょう。

  • 本社の経営方針について意見できる立場か
  • 部署内や自店舗だけなど限られた範囲でのみでしか権限を与えられていないか
  • 予算会議など経営にかかわる重要な会議に参加できているか

管理監督者であるものは、経営方針などについても相応の意見ができる立場でなければなりません。重要な会議に参加できなかったり、本社の経営方針に意見できないような立場aだったりすれば、社内規定を見直し管理職にふさわしい内容へと変更しましょう。

まとめ

企業における名ばかり管理職が問題となる理由や実際に問題となった事例、名ばかり管理職を防ぐ対処法などについて解説しました。

名ばかり管理職とは、管理職としての権限が与えられていないにもかかわらず、「名ばかり」の管理職を与え長時間労働などを強いられている労働者のことです。

  • 管理職手当が適切でない
  • 勤務時間や労働量の裁量権がない
  • 部下がいないのに管理職扱いされている

上記のような条件に当てはまる場合は、名ばかり管理職である可能性が高いため注意が必要です。人事や労務担当者は社内規定を見直し、管理職としてふさわしい給与や権限を与えているか、必ず確認しておきましょう。

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