雇用保険を含むさまざまな社会保険の電子申請が行われるようになりました。電子申請は義務化となっているため、対象の企業はシステムの整備やワークフローの整備などの対応が必要になってきます。
今回は、企業が雇用保険の電子申請を行う方法から、電子申請を行うことによるメリットや注意点などについて解説します。
社会保険の電子申請とは
2020年4月1日から、大企業に対して電子申請の義務化がスタートしています。従来までは、CD-Rなどの電子媒体での提出も認められていましたが、電子申請の義務化によって電子媒体での提出は認められなくなり、電子申請のみが認められるようになりました。
電子申請を行うためには、電子証明書の取得が必須となっており、e-Govに対応したものでなければなりません。そのため、電子証明書を受け取り、申請を行うために、システム化への対応などが必要となるため、これまでの申請方法と大きく変わることになりました。
電子申請とは
電子申請とはその名のとおり、インターネットを活用して申請業務を行うことです。
オンライン上での申請になるため、行政手続きのために役所の窓口へ出向くことがなくなります。また、紙での発行を行う必要もなくなるため、コストの削減にもつながります。
紙の発行がなくなることは、書類の紛失のリスクなどもなくなり、セキュリティの向上にも貢献します。他にも、時間帯にかかわらず24時間いつでも申請ができることや、インターネット環境がある場所であればどこからでも申請が行えることなど、さまざまなメリットがあります。
電子申請の義務化対象となる手続き
電子申請で義務化の対象となる手続きは、主に次の4つの社会保険です。
- 健康保険
- 厚⽣年⾦保険
- 労働保険
- 雇用保険
それぞれの社会保険で必要な書類は次のとおり、厚生労働省により定められています。
<健康保険・厚生年金保険>
- 被保険者賞与支払届
- 被保険者報酬月額算定基礎届
- 健康保険被保険者報酬月額変更届
- 厚生年金被保険者報酬月額変更届
- 70歳以上被用者 算定基礎・月額変更・賞与支払届※厚生年金保険のみ
<労働保険>
※継続事業(一括有期事業を含む。)を行う事業主が提出する以下の申告書
- 年度更新に関する申告書(概算保険料申告書、確定保険料申告書、一般拠出⾦申告書)
- 増加概算保険料申告書
<雇用保険>
- 被保険者資格取得届
- 被保険者資格喪失届
- 被保険者転勤届
- ⾼年齢雇用継続給付支給申請
- 育児休業給付支給申請
対象となる企業
電子申請の対象となる企業は大法人と定められています。
大法人とは「資本金の額または出資金の額が1億円を超える法人並びに相互会社、投資法人及び特定目的会社にかかる適用事業所」とされており、資本金額によって対象が決まります。自社が対象になっているかどうかは、改めて確認をしておくと良いでしょう。
雇用保険の電子申請の方法
雇用保険の電子申請の方法には、次の3つの方法があります。それぞれの申請方法について解説していきましょう。
- 直接入力による申請
- 連記式による申請
- APIによる申請
直接入力による申請
直接入力による申請とは、申請サイトであるe-Govの入力画面に必要事項を直接入力して申請を行う方法です。e-Govシステムからの申請を行う際は、パソコンのスペック等が適しているかブラウザの動作が問題ないかなどを、きちんと確認してから申請を行うと安心ができます。
他にも、申請を行うための専用プログラムをインストールする必要もあるため、申請を行うまでに少し手間がかかってしまうことが難点です。
また、直接入力による申請の場合は、1つの申請につき1被保険者の届出のみが受け付けられます。そのため、データ量が多い大企業などは、入力に時間がかかってしまうことやヒューマンエラーなども起きやすいため注意が必要です。
入力には時間がかかってしまいますが、これまで紙の申請を行っていた様式がパソコン上の入力画面に移行したようになっているため、初めて申請を行う場合でも迷うことなく進めることが可能です。
連記式による申請
連記式による申請とは、電子申請を行うためのCSVファイルを用意し、用意したCSVファイルをe-Govシステムに添付を行う申請を行う方法です。直接入力を行わないため、時間はかからずヒューマンエラーが起こる心配も少なくなります。
CSVファイルの作成が必要になりますが、e-Govシステムに対応する給与ソフトなどから作成が行うことができます。自社のシステムが対応しているかどうかは、導入しているベンダー企業に確認などを行いましょう。連記式による申請が行えれば、直接入力よりも時間を短縮して申請できます。
APIによる申請
雇用保険では、APIからの申請も行えます。
APIとは「Application Programming Interface」の頭文字を取ったもので、簡単にいえばプログラムとWebサービスなどをつなぐものです。多くのWebサービスではAPIが用いられており、雇用保険の電子申請でもAPIによる申請が可能になっています。
APIによる申請を選択することで、申請するためのデータ作成から申請処理、公文書の取得までの流れがすべてWeb上で完結することができます。申請するためのデータとして、自社で活用している人事データを活用することもできるため、より効率的に申請作業が可能です。
API対応が行われているソフトは、ソフトウェアをリリースしている各ソフトウェア会社から連携が可能かどうかを確認することができます。自社のシステムが対応しているか、またシステムの改修や入れ替えを行う際に、対応したものを選択するかなどを自社の用途に照らし合わせて選択することが大切です。
雇用保険の電子申請の流れ
雇用保険で電子申請を行う流れは、次のように進んでいきます。それぞれの流れで、具体的にどのような動きをしていくかのかについて解説していきましょう。
- アプリをインストールする
- e-Govアカウントを取得する
- マイページから申請をする
- 手数料を納付する
- 公文書を取得する
アプリをインストールする
まずは、電子申請を行うための専用アプリをインストールします。e-Gov電子申請のページから上記タブの利用準備を選択し、e-Gov電子申請アプリケーションのダウンロードを選択します。
e-Gov電子申請アプリケーションはWindows版、macOS版がそれぞれあるため、自社で利用しているOSに合わせて選択をしてください。該当のアプリケーションを選択すると、画面表示が操作案内になるため、案内に沿ってインストール作業を進めていきます。
e-Govアカウントを取得する
インストールが完了したら、ログインのためのe-Govアカウントを取得します。アカウントの取得も画面案内が表示されるため、スムーズに取得することが可能です。
マイページから申請をする
アカウントを取得し、マイページへログインを行います。ログインを行うとさまざまな電子申請を行うことができるため、該当の手続きを選択します。
手続きを選択後、申請届出様式の入力画面が表示されるため、申請内容の入力を行って申請を行っていきます。申請時に必要な添付書類などがある場合には、きちんと添付するようにしましょう。申請内容や添付書類等が問題なければ、提出ボタンをクリックして申請を行います。
電子申請を行う際に、手続きを行う内容によっては、電子署名が必要なケースが出てきます。電子署名が必要になった場合には、認定局からの電子証明書の発行を受ける必要があるため、必要に応じて発行を受けてください。
手数料を納付する
申請時などに手数料が必要なケースもあります。その際は、手数料の納付の手続きが発生するので対応するようにしましょう。
なお、Pay-Easy対応の金融機関を利用している場合は、インターネットバンキングを活用しての電子納付も可能になっています。銀行ATM等での納付も可能なので、自社の状況に合わせて納付を行ってください。
公文書を取得する
電子申請が無事に受理されると、公文書が発行されます。公文書の取得はマイページから行えるため、必要に応じてダウンロードを行い、自社内での保存を行うと良いでしょう。
公文書の取得が完了したら、すべての手続きが完了です。
雇用保険を電子申請するメリット
雇用保険を電子申請で行うメリットは、主に次の4点が挙げられます。それぞれのメリットについて解説していきましょう。
- いつでも申請ができる
- 事務所からの申請ができる
- 情報漏洩のリスクを軽減できる
- 手数料などを電子納付できる
いつでも申請ができる
電子申請のため、窓口に申請書類を持っていくなどの必要がありません。そのため、窓口の営業時間などを気にすることなく、いつでも好きな時間に申請を行うことが可能です。
また紙での申請を行う場合、郵送という手段もありますが、郵送だと到着まで時間がかかってしまうなどのデメリットがあります。一方で、電子申請では24時間の対応が可能で、申請後に即時に受付がされます。
時間に縛られないため、担当者の業務負担の軽減につながります。
どこからでも申請ができる
電子申請を行う場所は、必ずしも職場である必要がありません。インターネット環境につながる場所であれば、どこからでも申請が可能です。その場で申請が行えるため、窓口までの移動時間がかからない、移動費がかからないなどのメリットがあります。
また、紙での申請の場合、複数の行政機関を回ることもありますが、電子申請ではそのような必要はないため、業務効率化につながります。
情報漏洩のリスクを軽減できる
紙での申請を行う際には、情報漏洩のリスクが高くなります。なぜなら、紙の紛失や盗難などの恐れが出てきてしまうからです。申請書類は重要書類のため、紛失してしまった場合、重大なインシデントとなってしまいます。
しかし、電子申請を行えば紙での発行をする必要はなくなるため、紛失や盗難などのリスクを回避できます。そのため、情報漏洩のリスクを軽減することにつながります。
手数料などを電子納付できる
手数料などが必要な場合、窓口では現金のみでしか受け付けられないことが多くあります。手数料を支払うためだけに窓口に並ぶ必要があった場合、時間や手間がかかってしまい、担当者の負担は増えてしまいます。
電子申請では、インターネットバンキングを活用した電子納付が可能です。そのため、自社から電子納付を行うことができるため、手数料を払うためだけに窓口に行く必要はなくなります。自社がインターネットバンキング等を活用していれば、大きなメリットになるでしょう。
雇用保険を電子申請する際の注意点
雇用保険の電子申請はメリットが多くありますが、注意点もあるため押さえておくことが大切です。
注意点は、主に次の3点です。それぞれの注意点について解説していきます。
- 準備を早めに進めておく
- 個人情報の管理を徹底する
- 電子申請書の取得が必要
準備を早めに進めておく
電子申請を行うためには、対応するスペックを持ったパソコンの準備や、申請が滞りなく進めるために内容を把握する必要があります。また、自社で活用しているシステムがAPI連携に対応しているかなど、事前の準備で確認すべき項目がいくつかあります。
他にも、電子申請したデータを適切に保存するために、社内体制の整備なども欠かせません。スムーズな申請を行うためにも、準備を早めに進めておくことが大切です。
個人情報の管理を徹底する
雇用保険では、従業員の個人情報を扱います。そのため、個人情報の管理は細心の注意を払って徹底する必要があります。万が一、個人情報の流出などになってしまった場合、自社の社会的信用が失墜してしまうため注意してください。
電子申請においては、手続きに必要なファイルへのアクセス権を限定するなど、誰もが見られる状態にしないことが大切です。また、電子申請に必要な書類の保存にも気を配る必要があります。
電子帳票として保存する場合、どのように保存を行うか、管理はどのように行うかなど適切な業務体制を整えることも求められます。情報漏洩が起こらないように、個人情報の管理を徹底することが必要です。
電子申請書の取得が必要
電子申請を行う場合は、電子申請書の取得が必要になります。電子申請書は認証局から発行されるため、申請時にはきちんと取得しておくようにしましょう。
なお、電子申請書は、e-Govに対応している電子申請書である必要があります。どの申請書がe-Govに対応しているかは、e-Govサイトから確認ができるため、取得前に確認しておきましょう。
電子申請書には、ファイル形式とICカード形式の2種類があります。APIでの申請を行う場合は、ファイル形式の電子申請書のみが対応しています。そのため、余程のことがない限り、ファイル形式での取得を基本として考えておくと良いでしょう。
まとめ
雇用保険の電子申請を行うことで、担当者の業務負担が大幅に軽減されるなどさまざまなメリットがあります。しかし、電子申請をきちんと行わなければ、無効になってしまう恐れもあるため、注意点をきちんと認識して進めていく必要があります。
電子申請の義務化が行われているのは大法人のみですが、今後中小企業まで対象が広がる可能性もあります。早めに準備を行い、メリットを得られる体制を整えておくと良いでしょう。
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