労働保険への加入は義務

従業員を雇用している場合、加入義務が発生するのが労働保険です。労働者の生命や生活を守る労働保険は、使用者が加入を怠ることによってそれらが守られなくなるリスクがあるだけでなく、使用者側にも罰則が課されます。

今回は、そんな労働保険の加入義務の仕組みや加入義務を怠った際の罰則、そして労働保険への各種加入方法について解説します。

労働保険とは

労働保険とは、労災保険と雇用保険という、労働者が加入する保険制度の総称です。それぞれで異なる役割を果たしているため、まずはこれらの違いを把握しておきましょう。

労災保険

労災保険は、労働者が通勤中、あるいは業務中に不慮の事故に遭ったり病気を患ったりしたことで、負傷あるいは死亡した際に給付金が送られる保険制度です。

労災保険は労働者の保護、または労働者の家族を保護するために給付金が支払われ、被災内容に応じてさまざまな支援を受けられます。

労災保険が下りることで受けられる給付金としては、次のようなものが挙げられます。

  • 療養給付
  • 休業給付
  • 障害給付
  • 遺族給付

いずれも、療養給付は治療費や入院費といった通常療養のために充てられ、休業給付は事故に伴う休業分の補填を行うために支払われます。また、生涯給付は負うことになった障害の等級に合わせた給付金が労働者に支払われ、遺族給付は被災労働者が死亡した場合に遺族へ支払われます。

あるいは、傷病年金の受け取りも労災保険に加入することによって可能となり、療養開始後1年6ヶ月を経過しても治癒しない場合に支払われる制度です。傷病年金対象者に介護が必要な場合は、別途介護給付も支給されます。

労災保険は労働者が被った被害のほとんどをカバーできる制度であるため、非常に優れた保険制度であるといえます。

雇用保険

雇用保険は、労働者が解雇や退職によって失業した際、失業中の労働者の生活の安定を守り、再就職の支援を促進するための制度です。主な支援内容としては、次のものが挙げられます。

  • 基本手当
  • 就職促進給付
  • 教育訓練給付
  • 雇用継続給付

基本手当は「失業手当」として知られている給付金で、失業時の生活を保証するための手当が得られます。就職促進給付は、期間内に再就職を達成するなどの条件をクリアすることで得られる、早期の社会復帰を促すインセンティブのような制度です。

資格の取得などを検討している場合は、教育訓練給付を活用できます。これは、教育訓練受講に支払った費用の一部を支給してもらえる制度で、スキルアップの負担軽減につながります。雇用継続給付は、育児や介護などの何らかの事情で働くことができない場合、別途支払われる給付金です。

これらの制度を労働者が等しく受けるため、雇用保険への加入は非常に重要です。

労働保険への加入は義務?

労働保険の加入は任意ではなく、基本的に条件を満たしている企業とそこで働く従業員は、すべて加入義務を果たす必要があります。ここでは、労災保険と雇用保険の加入条件について解説します。

労災保険の加入条件

労災保険については、あらゆる事業者は一人でも従業員を雇った場合、労災保険の加入対象となります。個人事業主に仕事を委託するなどでは義務こそ発生しないものの、正規雇用の社員はもちろん、パート・アルバイトの従業員ももれなく労災保険の加入対象となるため、必ず雇用の際には保険手続きを行う必要があります。

雇用保険の加入条件

雇用保険は、労災保険の加入対象者であり、なおかつ1 週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ31日以上の雇用見込みがある場合に加入が必要な保険制度です。

日雇いの労働者などであれば雇用保険は必要ありませんが一つの職場で長期にわたって働いてもらう場合には、パート・アルバイトであっても雇用保険への加入が必要になります。

参照元:厚生労働省「労働保険適用促進パンフレット」

このように、労災保険も雇用保険も、従業員を雇っている事業者はほぼ確実に加入が必要な制度であることがわかります。すでに従業員を雇っているが、保険加入手続きをした覚えがないという場合には、速やかに加入手続きを進めなければなりません。

労働保険の加入義務を怠った場合の罰則

労働者名簿

労働保険への加入義務を怠った場合、労災保険と雇用保険で異なる罰則が適用されるだけでなく、労災保険については状況に応じた罰則が課されることとなります。ここでは、それぞれの罰則の内容について解説します。

労災保険に未加入で事故が起こった場合

労災保険に未加入の状態で事故が起こった場合、基本的に労働者は労災に未加入の状況でも労災保険を受給することができます。この際、事業者は保険料未納で労災申請をすることとなるため、未納分の保険料の追加徴収が行われます。

ただ、追加での徴収や最大過去2年間分となりますが、これに加えて未加入での労災申請は、労働保険料額の10%の追徴金が課せられるため、未加入であることのメリットはありません。

重大な過失を抱えながら労災保険に加入しなかった場合

労災保険に未加入の場合も、その時々に応じて異なる罰則が課されます。たとえば、労基署の監督官による指導が行われないまま、労災保険加入対象者となって1年以上経過している場合、重大な過失による労災保険未加入と認定されます。

この場合、未加入の事業者には労災保険を給付する際の40%の費用を負担することとなるため、場合によっては大きな損失をもたらす可能性もあるので注意が必要です。

故意に労災保険へ加入しなかった場合

労災保険への加入勧告があったにも関わらず、それでも無視して労災保険に加入しなかった場合には、事業者が故意に加入しなかったとして、労災保険の給付金の全額を事業者が支払うこととなります。

うっかり労災保険に加入していない場合はその費用負担こそ小さく抑えられますが、労災保険の加入を無視してしまうと、多大な損失を引き起こす場合があります。労災保険に未加入で得られるものはないため、早期の加入が大切です。

雇用保険未加入の場合

続いて雇用保険に未加入の場合ですが、加入義務を怠って未加入のままでいることが判明した場合、加入義務が発生した日まで遡って未納分の請求があったり、追徴金が課されたりすることがあります。

また、雇用保険の手続き内容に虚偽があったり、届出そのものが行われていなかったりする場合には、雇用保険法83条1項に基づき、事業主に対して最大で6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課されます。

労災保険同様、雇用保険の未加入も重い罰則が課されるため、常に保険適用となっているかどうか適切な判断が求められます。

労働保険の各種加入手続き

続いて、労働保険の各種加入手続きについて確認します。労災保険と雇用保険では加入方法が異なるため、別個に対応する必要があります。

労災保険の加入方法

労災保険の加入については、管轄の労働基準監督署などに必要書類を提出し加入手続きを進めます。

初めての労災保険加入の場合、まず必要になるのが保険関係成立届です。必要事項を記入して、事業所の労働保険番号を取得します。その後、その年度分の労働保険料の概算を深刻・納付するため労働保険概算保険料申告書を提出すれば、加入手続きは完了です。

また、これらの書類は種類によってその期限や提出先の条件が微妙に異なります。

まず、保険関係成立届は、保険関係成立時から10日以内に所管の労働基準監督署に提出します。

一方の労働保険概算保険料申告書は、保険関係の成立から50日以内の提出が求められています。また、提出先も労働基準監督署はもちろん、都道府県労働局や日本銀行での手続きも認められているため、必要に応じて使い分けましょう。

雇用保険の加入方法

続いては、雇用保険の加入方法について解説します。雇用保険の加入に際しては、次の異なる書類を複数作成・提出する必要があります。

  • 保険関係成立届
  • 雇用保険適用事業所設置届
  • 雇用保険被保険者資格取得届

保険関係成立届は、保険関係が成立してから10日以内の提出が必要です。保険関係が成立したら、速やかに所管の労働基準監督署に提出しましょう。

雇用保険適用事業所設置届は、適用事業所設置日から10日以内にハローワークへ提出が必要な書類です。保険関係成立届の控えとともに提出を行います。

雇用保険被保険者資格取得届は、雇い入れた従業員の雇用日、あるいは雇用保険の加入要件を満たした日の翌月10日までに手続きが必要な書類です。こちらは雇用保険資格のある従業員を雇うたびにハローワークへの提出が必要であるため、定期的に発生する手続きです。

労働保険料の負担の内訳

労働保険には労災保険と雇用保険の2種類がありますが、実はこれらの保険料負担の内訳についても、制度によって異なります。

労災保険の場合

まず労災保険については、保険料は「労災保険対象従業員の賃金総額 × 労災保険料率」という計算式で算出され、その全額を事業者が負担することとなっています。

雇用保険の場合

一方の雇用保険は、「雇用保険対象従業員の賃金総額 × 雇用保険料率」という式に当てはめて保険料を決定します。労災保険とは異なり、雇用保険の保険料は事業主と労働者で折半となっているため、労働者には給与から天引きする形で保険料を負担してもらうこととなります。

また、雇用保険料はそのまま経費として精算ができるため、直接的な企業の負担とはならない点も注目したいところです。

労働保険料の納付先と方法

最後に、労働保険料の納付先と納付手段について解説しましょう。基本的に労働保険料は毎年概算を立て、それに応じて1年分の保険料を納める方式が採用されています。納付先は労働基準監督署で、毎年6月1日から7月10日の間に手続きを行います。

前年に労働保険料を納めている場合には、前年度に支払った概算保険料と、その年度1年間に支払った賃金総額を基準に計算を行います。この計算を経て確定した保険料との差額を清算し、その上で今年度分の概算保険料を精算する必要があるため、手続きは2年目以降、やや複雑になる点には注意しておきましょう。

保険料の納付ですが、基本的には年度に一度まとめて支払う必要があります。ただ概算保険料が40万円を超える場合には、年度内に3回に分けて納付する方式が認められます。

まとめ

労働保険の加入義務にはどのような条件が含まれているのか、加入義務を怠ることでどんな罰則があるのかについて解説しました。

事実上、労働保険はあらゆる会社が従業員に対して加入させる必要のある保険制度で、加入義務を怠ると相応の罰則が課されます。労災保険と雇用保険で加入条件が異なるだけでなく、加入手続きも別途行う必要があるため、どちらかの加入が漏れてしまうというリスクも回避しなければなりません。

労働保険料の支払いについては使用者と労働者でお互いに負担するような形となる点も、覚えておきたいポイントです。

また、労働保険の各種手続きを検討する上では、事務作業の負担増加を懸念しておくことも大切です。手続き負担の増加による現場の生産性低下を防ぐ上で役に立つのが、当社ディップの提供する「人事労務コボット」です。

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