健康保険資格喪失証明書

人事労務や総務担当の方は「健康保険資格喪失証明書」について、正しく理解していますでしょうか?今回は、健康保険資格喪失証明書について、必要になるケースや発行までの流れ、よくあるQ&Aなどを解説します。

健康保険資格喪失証明書は、従業員が退職する際などに必要となる書類です。もし手続きが漏れたり遅れたりすると、従業員とトラブルになる可能性があります。

従業員とのトラブルが原因で会社の信用を損ねないよう、健康保険資格喪失証明書について正しく理解していきましょう。

健康保険資格喪失証明書とは

健康保険資格喪失証明書とは、退職者が社会保険の被保険者ではなくなったことを証明するための書類のことです。事業所は従業員が退職などにより健康保険の資格を喪失した場合、管轄の社会保険事務所や健康保険組合への届出が必要となります。

その届出の際に必要となるのが、健康保険資格喪失証明書です。届出の際には、健康保険資格喪失証明書と一緒に退職者の健康保険証も返却しなければなりません。

また、従業員が新たな健康保険に加入する際にも、健康保険資格喪失証明書が必要です。なぜなら、健康保険資格喪失証明書がなければ、正しい資格の喪失日がわからないためです。

健康保険資格喪失証明書が必要になるケース

では、健康保険資格喪失証明書が必要となるケースについて解説しましょう。健康保険資格喪失証明書が必要になるケースは、主に次の3つです。

必要になるケース

・国民健康保険への加入に必要
・社会保険への加入に必要
・資格喪失日を把握するために必要

国民健康保険への加入に必要

退職した従業員の転職先が決まっていなかったり、個人事業主などで働いたりする場合は、国民健康保険へ加入しなければなりません。

国民健康保険へ加入するには、本人確認書類やマイナンバーの他に、保険の二重加入を防止するために健康保険資格喪失証明書の提出が求められます。また、国民健康保険に加入する際には、併せて国民年金への加入も必要です。

いずれにせよ、どちらの手続きでも健康保険資格喪失証明書の提出を求められます。従業員がスムーズに手続きできるよう、事業者は速やかに健康保険資格喪失証明書の発行を済ませましょう。

社会保険への加入に必要

退職する従業員の転職先が決まっている場合には、転職先の企業へ健康保険資格喪失証明書を提出しなければなりません。転職先の企業が社会保険の切り替え手続きをする際に、健康保険資格喪失証明書が必要になるためです。

ただし、転職先の企業で働くまで期間が開く場合には、国民健康保険へ加入しなければなりません。たとえブランク期間が1日であっても、国民健康保険への加入は必要です。

また、ブランク期間に加入した国民健康保険は、社会保険に加入する際には脱会しなければなりません。社会保険の加入手続きは転職先の企業が実施しますが、国民健康保険への加入や脱会手続きは本人による手続きが必要です。

従業員から健康保険資格喪失証明書の発行を求められた際には、ブランク期間が発生するかヒアリングし、適切にアドバイスできるようにしておきましょう。

資格喪失日を把握するために必要

健康保険資格喪失証明書は、被保険者の資格喪失日を正しく把握するために必要となる書類です。健康保険資格喪失証明書が国民健康保険や社会保険への切り替え手続きにおいて必要になる理由は、「保険の重複加入」を防止するためです。

また、資格喪失日には、健康保険だけではなく厚生年金保険の資格も失うことになります。

厚生年金保険の資格を失う日付により、当然ながら保険料の納付額は異なります。切り替え手続きが遅れ保険料が適切に徴収されないと、従業員とのトラブルを招くだけではなく、会社の信用問題にも関わります。

厚生年金保険についてはこちらの記事で詳しく解説していますので確認してください。

健康保険資格喪失証明書を発行するまでの流れ

健康保険証

続いては、健康保険資格喪失証明書を発行するまでの流れについて、簡潔に解説します。

発行するまでの流れ

・従業員から健康保険資格喪失証明書の発行を依頼される
・健康保険資格喪失証明書の書式を用意する
・従業員本人へ渡す

特に健康保険資格喪失証明書の書式については、加入する国民健康保険によっては指定されている場合があるため、事前に確認しておくことが重要です。

従業員から健康保険資格喪失証明書の発行を依頼される

従業員から健康保険資格喪失証明書の発行を依頼された際には、速やかに発行手続きに取り掛かりましょう。従業員の退職時以外にも、従業員の死亡や雇用形態の変更、事業所の閉鎖や後期高齢者医療の被保険者になる日など、健康保険資格喪失証明書が必要なケースはさまざまです。

また、事業所は社会保険喪失の手続きを、退職日の翌日から5日以内に済ませる必要があります。従業員の退職など事前に日にちがわかるものについては、退職日以降にスムーズに手続きができるよう準備を整えておくと良いでしょう。

健康保険資格喪失証明書の書式を用意する

健康保険資格喪失証明書の書式に決まりはないため、企業側で設定できます。ただし、次の項目は記載する必要があります。

記載必要項目

・従業員が加入していた保険証の記号、番号
・従業員が加入していた健康保険の名称
・従業員の氏名、住所、生年月日
・健康保険の喪失年月日
・健康保険を喪失する理由
・扶養家族の氏名、生年月日、続柄
・扶養者の資格喪失日
・扶養者の資格喪失の理由 など

書式のフォーマットについては、厚生労働省のサイトでもダウンロードが可能です。

また、国民健康保険に加入する場合は、書式が定められていることがあります。国民健康保険に切り替える際は、事前に書式が定まっているか確認しておくと良いでしょう。

従業員本人へ渡す

健康保険資格喪失証明書を発行したら、従業員本人へ原本を渡し、コピーを事業所用として保管しておきましょう。

また、国民健康保険や国民年金の加入手続きは、退職日の翌日から14日以内に済ませる必要があります。できるだけ早めに手続きを済ませるよう、従業員に伝えてあげると親切です。

健康保険資格喪失証明書の書き方・注意点

続いては、健康保険資格喪失証明書を作成する際の書き方のポイントや注意点について解説します。次の2点は、健康保険資格喪失証明書を作成する上で必ず押さえておきたいポイントです。

  • 必須の記載項目
  • 資格喪失日は退職日の翌日

必須の記載項目

健康保険資格喪失証明書を作成する上で、必須となる記載項目は次のとおりです。

被保険者に関する項目被扶養者に関する項目事業所に関する項目
・氏名
・生年月日
・住所
・基礎年金番号
・保険者番号
・保険証番号
・入社日(取得年月日)
・退職日(喪失年月日)
※資格の喪失日を記載
・氏名
・生年月日
・続柄
・認定年月日
・喪失年月日
・事業所の名称
・所在地
・代表者名
・電話番号

また、健康保険資格喪失証明書を提出する際は、退職者の健康保険証を添付し忘れないように注意しましょう。

資格喪失日は退職日の翌日

健康保険資格喪失証明書へ記載する資格の喪失日は、退職日ではなく退職日の翌日を記載しましょう。退職日を記載してしまうと、退職者が次に加入する保険の加入日と重なるため、健康保険の二重加入になってしまいます。

二重加入が発生すると、保険料の納付額にも影響が出ます。資格喪失日については、必ず退職日の翌日を記載するように注意しましょう。

健康保険資格喪失証明書のよくあるQ&A

最後に、健康保険資格喪失証明書に関してよくあるQ&Aを紹介します。健康保険資格喪失証明書を記載する際は、ぜひ参考にしてみてください。

資格喪失の前に証明書を発行できる?

健康保険資格喪失証明書は資格を喪失したことを証明するための書類のため、資格喪失日の前の発行はできません。ただし、事前に準備することは可能であるため、退職者から健康保険資格喪失証明書の発行希望があった際には、スムーズに渡せるよう早めに準備しておくと良いでしょう。

証明書の再発行はできる?

証明書の再発行は可能です。健康保険法施行規則34条にて、健康保険に関する書類をその完結の日から2年間保存しなければならないと定められています。

したがって、事業所は健康保険資格喪失証明書に関する記録を2年間は残しておく必要があります。記録したデータをもとに再発行できます。

また、加入していた保険が全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合は、最寄りの年金事務所でも再発行の手続きができます。

ただし、事業所がきちんと被保険者資格喪失届を提出していることが前提です。提出が漏れていた場合は、再発行できない可能性があります。

全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入していた場合の発行手続きは?

全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入していた場合は、身分証明書と資格喪失等確認書、印鑑を持参し管轄の年金事務所にて手続きします。ただし、健康保険資格喪失証明書の即日発行は、退職先の事業所が被保険者資格喪失届を提出していることが条件となります。

また、資格喪失確認書については、日本年金機構のサイトからダウンロード可能です。

健康保険組合に加入していた場合の発行手続きは?

健康保険組合に加入していた場合は、各健康保険組合で定められた方法に則り手続きする必要があります。基本的には、各健康保険組合のホームページから所定の書式をダウンロードし、健康保険証と共に提出する形になります。

健康保険組合によって申請方法が異なる場合もあるため、必ず各組合のホームページを確認しておきましょう。

任意継続被保険者制度を利用する時は?

任意継続被保険者制度を利用することで、退職した日の翌日から2年間、健康保険に加入し続けることが可能です。任意継続被保険者制度を利用するためには、従業員が退職日までに2ヶ月以上被保険者であったことが条件となります。

2ヶ月に満たない早期退職の場合は、任意継続被保険者制度の利用はできません。また、任意継続被保険者制度の手続きをするのは、会社ではなく利用者本人です。

所管の全国健康保険協会都道府県支部、または健康保険組合に対し、退職した日の翌日から20日以内に手続きを済ませる必要があります。申請の際には「健康保険任意継続被保険者資格取得申出書」の他、被扶養者がいる場合は被扶養者の収入が確認できる書類が必要です。

詳しい手続き方法などについては、協会けんぽのサイトにて確認できます。

退職証明書や離職票は健康保険資格喪失証明書の代わりになる?

市区町村によっては、退職日が分かる退職証明書や離職票があれば、手続きしてくれる場合もあります。ただし、退職証明書や離職票があれば健康保険資格喪失証明書が不要になるわけではありません。

新たな保険へ加入する際には、退職証明書や離職票に記載された情報をもとに、健康保険資格喪失証明書を作成する必要があります。

なお、離職票の発行などについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

勤務先が倒産したので健康保険資格喪失証明書が発行できない

勤務先の倒産などにより健康保険資格喪失証明書が発行できない場合は、日本年金機構や健康保険組合に事情を説明することで、状況を確認してくれます。健康保険の資格喪失の事実が確認できれば、その場で健康保険資格喪失証明書を発行してくれます。

ただし、発行にあたっては倒産した会社がきちんと社会保険の資格喪失の手続きを完了させていることが条件です。

また、先ほどお伝えしたように、市区町村によっては離職票や退職証明書などで手続きを勧めてくれる場合もあります。いずれも手続きの際には、本人確認書類と印鑑が必要です。

無保険期間中の医療費はどうなる?

無保険期間中の医療費は、全額自己負担となるため注意が必要です。健康保険に加入している場合、自己負担額は3割で済み、残りの7割は組合や協会けんぽが負担します。

しかし、無保険期間で健康保険証がないまま診療を受けると、その医療費は全額自己負担となり、場合によっては高額な医療費を支払う可能性もあります。

ただし、保険加入後に各保険機関へ払い戻しの申請をすれば、医療費の還付が可能です。無保険期間中に払った医療費のうち、7割を還付金として受け取れます。

また、当然ながら資格を喪失している保険証を使うことはご法度です。もし資格喪失日以降に以前加入していた保険証を使った場合は、医療費を返納する必要があります。

心身ともに健康で病院とは無縁であったとしても、交通事故などにより思わぬ治療が発生するかもしれません。後ほど還付金が受け取れるとはいえ、無保険状態だと一時的に高額な出費が発生してしまいます。

退職した従業員に無保険期間が発生しないよう、事業所の担当者はスムーズに手続きを済ませましょう。

まとめ

健康保険資格喪失証明書の概要や必要となるケース、作成時の注意点やよくあるQ&Aなどについて解説しました。

健康保険資格喪失証明書とは、退職者などが社会保険の被保険者ではなくなったことを証明するための書類のことです。従業員が退職などを理由に健康保険の資格を喪失する場合は、事業所は退職日の翌日から5日以内に、管轄の社会保険事務所や健康保険組合へ届け出る必要があります。

また、健康保険資格喪失証明書が必要になる理由は、主に次の3点です。

  • 国民健康保険への加入のため
  • 社会保険への加入のため
  • 資格喪失日を把握するため

上記の他にも、従業員の死亡や雇用形態の変更といった手続きの際にも、健康保険資格喪失証明書が必要になります。今回解説した内容を参考に、企業の人事や労務担当者は健康保険資格喪失証明書について正しく理解し、従業員からの問い合わせにもスムーズに対応できるようにしましょう。

なお、当社ディップ株式会社では、企業の人事や労務業務をサポートする「人事労務コボット」を提供しています。

人事労務コボット

人事労務コボットは、入社手続きや雇用契約といった業務の効率化を目的に開発された、人事労務向けのDXツールです。人事労務コボットを導入することで、入社手続きや雇用契約などの業務を完全ペーパーレス化し、入社時の作業効率を大幅に改善できます。

人事労務コボットの資料請求やお問い合わせは、お気軽に当社ディップ株式会社までご連絡ください。