厚生年金の加入義務

一定の条件を満たしている事業者は、たとえ個人事業主であっても従業員を厚生年金保険に加入させる義務があります。また、厚生年金保険の加入義務は今後拡大が予定されており、これまで対象ではなかった事業者も含まれるため、改めて対象となる条件を確認しておく必要があります。

今回は、厚生年金の加入義務が発生する事業者や、具体的な厚生年金の加入手続きの進め方について解説します。

厚生年金保険とは

厚生年金保険は、会社などに勤めている従業員を対象とした社会保険の一種です。20歳以上、60歳未満が加入する国民年金に対して上乗せする形での加入となっており、従業員の給料、そして会社から折半する形で保険料を納めます。

国民年金は被保険者全員が加入する義務がありますが、厚生年金保険については個人事業主などには加入義務がないため、基本的には会社員が負担することとなる保険制度として知られています。

厚生年金保険に加入するメリット

社会保険制度の一種である厚生年金保険は、保険料支払いの負担こそ発生するものの、それに応じたメリットも期待することができます。

法人企業にとっては負担ばかりに目が行きがちですが、厚生年金保険に加入するメリットにも目を向け、うまく活用するための方法を検討しましょう。

事業者のメリット

厚生年金保険を事業者が従業員に加入させるメリットは、従業員に安心感を与えられることにあります。一定額を国民年金と併せて毎月積み立てられる制度であるため、将来の不安を募らせる従業員にとっては、不安を緩和できる要素となります。

また、厚生年金保険は従業員と保険料を折半して会社が納付することになりますが、会社側の支払い負担は経費として認められる点も覚えておきましょう。

被保険者のメリット

厚生年金の恩恵を受ける、被保険者である従業員側のメリットは、国民年金よりもお得に制度を活用できる点が挙げられます。

国民年金とは異なり、厚生年金は会社と折半して保険料を納めるので、国民年金よりも費用負担は小さくなるケースがあります。また、被保険者の配偶者は保険料の負担を支払う必要がないため、すでに家族がいるという従業員にとっては嬉しい制度といえます。

加えて、厚生年金に加入している場合は、被保険者が死亡した場合の遺族年金、あるいは被保険者が障害を抱えてしまった際の障害年金の給付対象となります。老後の対策としてはもちろんですが、被保険者の身に何かあった際の保険として機能することがメリットです。

厚生年金保険の加入が義務付けられている事業者

年金手帳

厚生年金保険への加入は必ずしも任意ではなく、特定の事業者に対しては加入が義務付けられています。ここでは、厚生年金保険への加入義務が発生する事業者の条件について解説します。

法人事業者

まず、法人事業者の場合は基本的に例外なく厚生年金保険への加入が義務付けられています。たとえ経営者以外に従業員がおらず、自分一人で法人として事業を行っている場合でも、厚生年金へ加入しなければなりません。

インボイス制度の施行などに合わせて法人成りを検討している場合は、厚生年金保険の負担が発生することを踏まえた検討を進めましょう。

5人以上の従業員を抱える個人事業者(例外あり)

たとえ法人ではなくとも、複数の従業員を抱えている個人事業者は、経営者や従業員を含めて厚生年金保険の加入を進めなければなりません。

製造業や金融、教育、通信などを含む法定16業種に含まれる事業を営んでいる場合、そして5人以上の従業員を抱えている場合、厚生年金保険への加入が必要です。

ただ、複数の従業員を抱えていても、その人数が5人未満であったり、法定16業種に含まれない事業者であったりする場合は、厚生年金保険への加入義務は発生しません。法定16業種に含まれない事業とは、ホテル業やクリーニング業、飲食店、理容店などが挙げられます。

自身の事業が厚生年金保険の加入対象となるかどうかが不明な場合、各自治体や厚生労働省に確認を取ることをおすすめします。

加入義務を怠った場合の罰則

厚生年金保険への加入が義務化されている上、義務を怠ることでペナルティを貸される場合もあります。

加入義務を怠った場合、最大で6ヶ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金を科される恐れがあります。ただ、このようなケースは再三の通告にもかかわらず、加入を怠った場合に課されるものであるため、加入していないからといっていきなり適用される可能性は低いです。

参考:日本年金機構「厚生年金保険・健康保険などの適用促進に向けた取組

とはいえ、いずれは加入義務を適用事業者は果たす必要があるため、早い段階から加入に向けて準備を整えておくに越したことはありません。行政から目をつけられてしまわないためにも、早期に加入手続きを進めましょう。

厚生年金保険の加入義務適用拡大について

これまで、厚生年金保険は会社員として雇用されている従業員が加入する社会保険として機能してきました。しかし、2022年10月以降、厚生年金保険の加入義務対象者は拡大しており、従来では適用されてこなかった労働者にも加入させる必要が出てきています。

厚生年金保険の加入義務適用拡大は、段階的に行われています。具体的な条件拡大の内容について解説します。

2022年10月以降の適用条件

今回の厚生年金保険の加入義務適用拡大による最大の変化は、パート・アルバイトの従業員でも厚生年金に加入できる条件が大幅に緩和されている点です。

これまで、厚生年金保険の加入社は正規雇用されている従業員か、パート・アルバイトの場合は1週間の所定労働時間と1ヶ月の所定労働日数が、通常の従業員の3/4以上の際に適用されることとなっていました。

しかし、2022年10月以降、この条件は大幅に拡大され、次の項目が当てはまる場合には、厚生年金への加入が義務となります。

厚生年金への加入が義務

・週の所定労働時間20時間以上
・雇用期間2カ月超が見込まれること
・賃金月額が8.8万円以上(年収106万円以上)
・学生でないこと

参考:厚生労働省「被保険者の適用拡大について

また、上記の条件が適用されるのは、2022年10月以降は従業員規模が100人以上の企業です。これまで正社員の数が少なく、その大半をパート・アルバイトが賄っていた場合、大幅な保険料負担が発生する可能性があるため注意が必要です。

制度そのものはすでに開始しているため、適用条件に含まれるのにもかかわらず、まだ対応ができていない企業は、早急に加入手続きを進めましょう。

2024年10月以降の適用条件

現状、上記の条件が当てはまるのは従業員規模が100人を超える企業に限定されていますが、2024年10月からは従業員の数が50人の企業にも適用されることとなります。

適用条件についても上記と同様のもので、100人未満の事業だからといって、加入手続きを進めなくて良いというわけではありません。50人以上となると、適用条件に当てはまる企業の数は急激に増加するケースも想定されるため、早いうちから加入手続きを進めておくことが大切です。

厚生年金保険が適用されない従業員の条件

パート・アルバイト向けの厚生年金保険の適用条件が緩和されたわけですが、それでも厚生年金の適用外となる従業員はどのような条件が挙げられるのでしょうか?

適用拡大以降も厚生年金保険に加入できない従業員の条件は次のとおりです。

厚生年金保険に加入できない従業員の条件

・臨時目的の日雇い労働者
・2ヶ月内の期間に定めて使用される労働者
・所在地が一定しない事業所の労働者
・季節的業務・臨時的事業に使用される労働者

特定の企業で長期にわたって働く予定がない場合は、厚生年金保険の加入対象外となることを覚えておくと良いでしょう。

厚生年金保険に任意で加入できる事業者

厚生年金保険への加入は、義務付けられている事業者ではなくとも、条件を満たせば任意で加入することができます。

半数以上の従業員が加入に同意した事業者

厚生年金保険は、従業員の半数以上が加入に同意した場合、上述した条件に当てはまらない事業者でも加入ができます。

任意での加入の場合、会社の所在地にある年金事務所を直接訪問し、窓口にて申請を行うか、郵送にて申請する必要があります。

同意しなかった従業員も加入対象者に

事業所の半数以上の従業員が厚生年金保険の加入に同意した場合、事業所は組織全体で厚生年金保険への加入を行うこととなります。そのため、仮に厚生年金保険への加入を拒否していた人がいた場合も、強制的に加入手続きを進める必要がある点に注意しましょう。

厚生年金に加入したくない従業員がいる場合、その後のトラブルや離職を避けるためにも、厚生年金に加入する意義やメリットについて、よく理解してもらうことが大切です。

厚生年金保険の加入手続き

最後に、厚生年金保険の加入手続きについて解説します。

提出方法

厚生年金保険への加入申請は、年金事務所の窓口での申請、郵送での申請、そして電子申請という3つの方法で行うことができます。

新規加入でまとめて従業員の加入手続きを行う場合は窓口や郵送での加入も問題ありませんが、従業員が増えるたびに窓口へ行ったり郵送したりするのは手間であるため、電子申請を活用することをおすすめします。

提出書類

提出書類ですが、事業所として新規加入する場合と、新たな加入対象者となる従業員を雇い入れた場合で必要な書類は異なります。

事業所として新規加入する場合「新規適用届」の提出が必要です。一方で、新しい従業員のための申請の際には「被保険者資格取得届」と呼ばれる書類が求められます。

いずれの書類も、以下の日本年金機構のサイトよりPDFでダウンロードできるため、記入要項を確認しておきましょう。

参考:日本年金機構

また、従業員が退職して被保険者の資格を失った際には「被保険者資格喪失届」を作成、提出する必要があります。退職者が現れたときに備えて、併せて確認しておくことをおすすめします。

提出期限

厚生年金保険の加入手続きは、上記のどちらの場合でも、手続きが必要になってから5日以内に提出することが求められています。手続きに十分な余裕があるとは決していえないため、あらかじめ手続きの進め方や記入要項を確認し、迅速に申請が行えるよう備えておくことが大切です。

まとめ

今回は、厚生年金の加入義務の拡大対象や、具体的な加入手続きの進め方について解説しました。厚生年金に加入する場合、加入負担は使用者と労働者が折半する形となるものの、経費としての精算が認められるため、必ずしも直接負担となるわけではありません。

また、厚生年金への加入を怠ることでペナルティが課せられるケースもあるため、加入義務対象の企業、あるいは今後加入対象となることが判明している場合、早急に、加入に向けた手続きを進めることが大切です。

この際、人事労務担当者の負担が新たに発生するため、業務効率化に向けた取り組みも必要になるでしょう。当社ディップ株式会社が提供する「人事労務コボット」は、そんな人事労務部門向けの業務効率化に特化したサービスとなっています。

人事労務コボット

新たに従業員を雇用する際の契約手続きを全てペーパーレス化し、従来よりも簡単かつスピーディな業務の実現に貢献します。

これまでは1週間以上の日数を必要としていた契約手続きも、「人事労務コボット」があれば最短で1日というわずかな時間で完了できます。契約書へのサインや書類への記入作業も、専用のフォーマットからオンラインで行えるので、郵送や返送の必要もありません。

入力した情報は自動でデータベースへと転記され、担当者がデータを入力し直す必要もなく、余計な作業負担を解消できます。今後さらなる人材獲得を検討している場合、大きな活躍を期待できるサービスです。 以下のページより「人事労務コボット」のより詳しいサービス内容を確認できます。業務効率化やデジタル化を検討の際には、導入をご検討ください。