雇用保険料は誰が払う

労働保険の一種である雇用保険は、従業員を雇っている事業者であれば多くの場合加入が必要な保険制度です。

保険料の支払いは定期的に発生するため、従業員の数が増えれば増えるほど大きくなるものですが、雇用保険に関しては必ずしも事業主だけが負担するものというわけではありません。

今回は、雇用保険という制度の仕組みや、雇用保険料の計算方法などについて解説します。

雇用保険とは

雇用保険制度は、労働者の生活の安定や、雇用の安定を図るために設けられている労働保険の一種です。

労働者が安心して雇用先で働くだけでなく、万が一失業した場合でも再就職に向けて、失業給付などの手当を受けながら就職活動に励んだり、就職に向けたスキル取得に力を入れたりすることができるという制度です。

雇用保険は、労災保険と併せて「労働保険」という名前で一括りにされていますが、事実上どちらもほぼ強制的に加入が義務付けられています。雇用保険は労働者の雇用と生活の安定、労災保険は労働者の健康を守るための保険という役割分担が行われています。

雇用保険で受け取ることができる労働者の給付金

雇用保険に加入していた労働者が失業した場合、労働者は次の給付金を受け取ることができます。

求職者給付

求職者給付は、失業中も安心して就職活動や職業訓練に臨めるよう、失業者の生活を保証する給付金です。いわゆる「失業保険」として知られている給付金であり、失業中の生活の支えとなります。

就職促進給付

就職促進給付は、失業中の労働者が早期に再就職先が決まった際、早期就職のインセンティブとして支払われる給付金です。一定の条件を満たすことで支払われる給付金で、失業保険の受給のみを目的とした長期失業者の増加を防ぐ狙いがあります。

教育訓練給付

教育訓練給付は、再就職に伴い何らかの技能が必要で、その技能訓練を受けるための料金を負担してくれる給付金です。

特別な技能を身につけたいと考える人も、教育訓練給付を受け取ることで、経済的負担を心配することなく訓練を受けることができます。

雇用継続給付

雇用継続給付は、育児や介護などの理由で、一時的に再就職ができない人に向けて支払われる給付金です。雇用の意思はあるが、事情により就職ができない場合に支払われ、通常の求職者給付と併せて受け取ることができます。

雇用保険で受け取ることができる企業の助成金・補助金

雇用保険

雇用保険は基本的に労働者の生活を守るために設けられている保険制度ですが、一方で雇用保険を通じて企業もいくつかの助成金制度を利用することができます。その代表例を紹介しましょう。

雇用調整助成金

雇用調整助成金は、何らかの事情により事業の縮小を余儀なくされた事業者に対して支払われる助成金です。

事業縮小が行われても現在の雇用を維持するため、休業手当などを支払うために用いることができます。

業務改善助成金

業務改善助成金は、中小企業や小規模事業者が既存事業の生産性向上を推進するための予算を賄うための助成金です。

設備投資などを通じて労働環境の改善や収益を向上させ、一定額以上の賃金向上に貢献した場合に申請することができます。

既存不適合機械等更新支援補助金

既存不適合機械等更新支援補助金は、収益改善や業務効率化の主にとなっている既存不適合機械の更新が、経済的な理由から進まない際に利用できる補助金です。

補助金を元手に現場の改善に努め、企業の成長を促すことができます。

産業保健関係助成金

産業保険関係助成金は、企業のヘルスケアを促進するために立ち上げられた各種助成金の相性です。

代表例としては、職場環境改善計画助成金、心の健康づくり計画助成金、ストレスチェック助成金や小規模事業場産業医活動助成金などが挙げられます。

人材確保等支援助成金

人材確保等支援助成金は、人材不足が悪化する企業を支援する目的で提供される助成金です。主に雇用管理の改善や雇用の創出を目的とした助成金制度で、人材確保に向けた労働環境の改善を促す働きがあります。

時間外労働等改善助成金

時間外労働等改善助成金は、残業や休日出勤などのハードワークを解消するための労働環境改善に向けた助成金です。

時間外労働時間の削減や賃金の引き上げを実現した企業に対して、条件を満たした場合に支給される制度です。

雇用保険の加入対象者

雇用保険の加入条件はある程度限定されていますが、結論をお伝えすると、事業主は従業員を雇用している場合、ほぼ確実に雇用保険の加入が必要になります。

雇用保険に入らなくて良いケースは、パート・アルバイトの場合であればいくつか当てはまる場合もありますが、正規雇用の場合は、基本的に加入は義務ということを覚えておきましょう。

雇用保険の加入条件

雇用保険の加入条件は、厚生労働省は加入対象者として次の条件に当てはまるすべての労働者を挙げています。

雇用保険の加入条件

・31日以上雇用される見込みがある
・雇用保険が適用される事業である
・1週間に20時間以上働いている
・学生でない

これに伴い、雇用主は雇用保険の加入に伴って、次の2つが義務付けられており、加入対象者がいる場合には速やかに手続きを進める必要があります。

雇用保険の加入に伴う義務

・労働保険料の納付
・雇用保険法に関連する各種の届出

また、雇用保険の加入条件には業種や規模などの指定はないため、他の保険制度や年金制度では適用外とされている場合でも、雇用保険には加入する必要があります。

65歳以上の雇用保険加入について

雇用保険制度は適宜制度改正が行われており、最近行われた改正内容の中で重要なのが、65歳以上の労働者の雇用保険加入についてです。

これまでは加入対象に含まれなかった65歳以上の労働者ですが、2017年1月より雇用保険の加入義務が課せられています。

また、2020年より64歳以上の労働者にも雇用保険加入を義務付けるなど、適用範囲は拡大しています。少子高齢化の影響が雇用保険にも及んでいる点には注意が必要です。

パート・アルバイトの雇用保険加入について

先ほど挙げた雇用保険加入の適用条件を見てみると、正規雇用はともかく、パート・アルバイトの場合は雇用保険の加入対象者とならないケースも見てとれます。

一見すると、雇用保険はパート・アルバイトには必要のない保険制度と勘違いしてしまいがちですが、実は次の条件に当てはまる場合、パート・アルバイトの従業員も雇用保険に加入する義務が発生します。

パート・アルバイトの雇用保険加入条件としては、次の2点が挙げられます。

パート・アルバイトの雇用保険加入条件

・31日以上雇用される見込みがある
・1週間に20時間以上働いている

気になるのは「31日以上雇用される見込み」という文言でしょう。これは、雇用期間に定めがない場合や、有期雇用であっても1ヶ月以上の雇用が取り決められている場合、これまでに同様の契約を結んだ労働者に、31日以上働いていたケースがある場合などが当てはまります。

したがって、パート・アルバイトには雇用保険の加入義務はないと考えるのは誤りであり、状況によっては加入の必要性がある場合を覚えておきましょう。

雇用保険に加入しない場合の罰則

先ほどお伝えしたように、雇用保険の加入は従業員を雇用している大半の事業主が義務付けられている制度です。雇用保険の加入条件を満たしているのにもかかわらず、雇用保険の加入手続きを行わなかった、あるいは届出に虚偽の記載をしていた場合には、雇用保険法83条1項により、事業主は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。

雇用保険に加入しないことで得られるメリットはないため、加入義務の対象となった場合には速やかに手続きを行いましょう。

参照元:企業発展支援協会「雇用保険の加入

雇用保険料の計算方法

続いて、雇用保険料の計算方法について解説していきましょう。

算出のための計算式

雇用保険料を算出する際に用いられるのが、次の計算式です。

  • 雇用保険料=雇用保険に入っている労働者の賃金総額×雇用保険料率

たとえば、10人雇用している労働者の賃金が1人当たり月額20万円で、雇用保険料率が0.003%の場合、次のように計算されます。

  • 雇用保険料=20万円×10名×0.003%=6,000円

労働者が支払う雇用保険料の総額は6,000円で、一人当たりの雇用保険料は600円となります。

賃金総額に含まれるもの・そうでないもの

賃金総額には、基本的にすべての給与と手当が含まれます。基本給はもちろん、賞与や通勤手当、扶養手当、技能手当、失業手当など、あらゆる手当も賃金総額の対象です。

また、社会保険料を事業主が労働者分を負担している場合には、社会保険料も賃金総額に含まれますし、前払いで受け取る退職金がある場合には、それも賃金総額に含まれます。

逆に、賃金総額に含まれないものには、臨時で支払われる賃金が挙げられます。たとえば、従業員が結婚した際の結婚祝金、被災した際の災害見舞金、死亡した際の死亡弔慰金、退職金といった賃金です。

また、雇用契約を結んでいない役員への役員報酬も、賃金総額には含まれません。業務上発生する出張旅費や宿泊費、工具手当や寝具手当といったものも、賃金には含まれないため、従業員にたて替えてもらった場合などは注意が必要です。

雇用保険料率とは

雇用保険料率は、事業の種類によって3つに分けられている保険料計算時に適用される一定の割合です。雇用保険料率は毎年変動しており、2022年度の10月から2023年度の5月まで適用される最新保険料率は次のようになっています。

雇用保険料率労働者負担事業主負担
一般事業13.5/10005/10008.5/1000
農林水産・清酒製造の事業15.5/10006/10009.5/1000
建設の事業16.5/10006/100010.5/1000

注意したいのは、近年雇用保険料率は増加傾向になっている点で、労働者と事業主のどちらも均等に割合が増えています。

特に、これまで雇用保険料を支払っていた経験のある事業者の方は、保険料が少しずつ増えているため、従業員を一気に増やすと保険料の負担もいきなり大きくなってしまう可能性があります。事業の規模を拡大する予定がある場合は、各種助成金を活用するなどして、必要最低限の人材確保で保険料負担を抑える工夫が求められます。

参照元:厚生労働省「令和4年度雇用保険料率のご案内

雇用保険加入手続きの進め方

最後に、雇用保険に加入する際の手続きの進め方について解説します。

加入に必要な書類

まず、雇用保険に加入する際に必要な書類ですが、次の3通が最低必要になります。

  • 保険関係成立届
  • 雇用保険適用事業所設置届
  • 雇用保険被保険者資格取得届

手続きを進めるにあたっては、後ほど次の書類も必要になってくるため、あらかじめ準備しておきましょう。

  • 労働保険保険関係設立届の控え
  • 労働保険概算保険料申告書の控え
  • 履歴事項全部証明書の原本1通
  • 労働者名簿

必要書類の提出先・期限

雇用保険の申請を進める場合、まずは所轄の労働基準監督署に保険関係成立届を提出します。その後、保険関係成立届の控えと雇用保険適用事業所設置届をハローワークに提出し、雇用した従業員の雇用保険被保険者資格取得届もハローワークに提出します。

特に、雇用保険被保険者資格取得届の提出は従業員を雇うたびに発生する手続きであるため、雇用契約時には忘れずに行いましょう。

また、各種書類の提出期限は次のように設定されています。

書類提出期限
保険関係成立届保険関係が成立した日の翌日から起算して10日以内
雇用保険適用事業所設置届適用事業所設置日の翌日から起算して10日以内
雇用保険被保険者資格取得届雇用日あるいは雇用保険の加入要件を満たした日の翌月10日

いずれの手続きも提出期限までに十分な猶予はないため、速やかに提出を完了させる必要があります。

参照元:厚生労働省「労働保険の成立手続

雇用保険料の納付方法

雇用保険料の納付は、労災保険と併せて6月1日から7月10日の間に管轄の労働基準監督署に行います。労働者の保険料は毎月の給料から差し引きますが、実際の支払いについては1年分をまとめて納付することになっている点に注意しましょう。

ただ、例外的な事例に当てはまる場合は、雇用保険料を含めた労働保険料の分割納付が可能です。

労災保険料と雇用保険料の総額が40万円を超える場合、あるいは労働保険事務組合に労働保険事務を委託している場合は、年3回に分けて支払いを行うことができるため、経済的負担を過度に心配する必要はありません。

金額に応じて納付方法が変わってくるため、まずは正しい保険料の計算を行い、それから納付方法を確認すると良いでしょう。

まとめ

雇用保険制度の仕組みや雇用保険料の計算方法、そして支払い負担の内訳について解説しました。

雇用保険料は基本的に事業主と労働者の双方が負担する保険制度であり、必ずしもすべての負担を事業主が負うわけではありません。また、保険料の支払い分は経費としても認められるため、ある程度事業への影響も小さく抑えられる制度です。

なお、雇用保険への加入を怠った場合、状況によっては罰則が課される場合もあります。雇用保険の加入条件は労災保険とは異なるだけでなく、制度改正によってその適用条件は拡大しています。

最新の雇用保険の加入条件を見直し、正しく加入手続きを済ませておきましょう。

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