副業とは

副業は、本業とは別の仕事で収入を獲得することです。近年、クラウドソーシングやリモートワークの普及により、オンライン上で完結できる仕事も増加しています。

一方で、情報漏洩のリスク増大や長時間労働への懸念から、副業を解禁している企業は多くありません。副業解禁によって、どのようなメリットが望めるでしょうか?今回は、副業解禁に向けてのポイントや、企業の事例などを紹介します。

副業とは

副業とは、本業の仕事を行いながら、別の仕事で収入を得ることを指します。たとえば、日中は電子部品を扱う会社の営業マン(正社員)として働く一方で、夜間や休日にアルバイトでフードデリバリーを行うようなものがあります。

「企業経営悪化に伴う収入減の補填」「将来に向けての貯蓄」など、本業での収入が減り、新たな収入源を獲得するために副業を始める方も珍しくありません。ただし、本業の仕事がメインとなるため、本業よりも仕事量や収入は少なくなります。

一方、メインの仕事を複数掛け持ちする場合は「複業」に該当し、「副業」と区別するため「パラレルワーク」と呼ばれています。パラレルワークは、ライティングとブログ執筆を同時に行うなど、主にフリーランスの方などが収入源を複数確保するために選択する働き方です。

近年、PC(パソコン)があれば始められる仕事も増えており、以前よりも副業を始めるハードルは低くなっています。

表:複業や兼業との違い

副業複業(パラレルワーク)兼業
概要・メインの仕事とは別に新たな仕事に就き、収入源を獲得すること ・日中は会社員として働いているケースが一般的・2つ以上の仕事を並行して行い、収入を獲得する働き方 ・複数の仕事へ同じ位の比重を分配・本業以外に別の事業を営む働き方
働き方の事例・夜間や週末でのアルバイト ・在宅ワーク ・隙間時間を活用したポイントサイトや物品売買・ライターとマーケター ・デザイナーとブロガー ・YouTuberと動画編集・会社員と農家 ・農家とカフェ経営

副業の種類

副業の種類を下の表にまとめました。

表:副業の種類と特徴

種類主な仕事内容メリットデメリット
インターネット系・プログラミング
・動画編集
・ライティング ・フリマアプリ
・クラウドソーシングを活用すると、未経験でも案件を獲得可能
・スキルアップによって高単価案件にも挑戦可能
・PCがあればできる仕事も多く、初期費用を大幅に削減
・隙間時間で収入を獲得
・クラウドソーシングを活用した場合、手数料が発生
・本格的に稼げるまでには、一定の時間が必要
・取引をした相手とトラブルに発展する可能性
肉体労働系・フードデリバリー
・清掃員
・運送代行
・警備員
・特別なスキルや免許が無くても仕事を獲得可能
・労働時間が長いほど、高収入を獲得
・初期費用が掛からない仕事も多数
・運動不足解消
・勤務時間中に事故や怪我のリスクが発生
・長時間労働を強いられるケースが多く、体調不良を招くリスクが発生
投資系・株式
・不動産投資
・FX
・暗号通貨
・元手資金の数倍以上の収益を獲得
・取引は短時間で終了
・失敗すると、多くの資金を損失
・金融や投資の専門的な知識が必要
・投資を始めるには、一定金額以上の資金が必要

インターネット系の副業はPCで完結する仕事も多く、ノーリスクで始められることが魅力です。自分のペースで始められるため、本業へ支障を及ぼす可能性も低く、多くの方が挑戦しています。

一方、肉体労働系も特別な資格やスキルを必要とせず、比較的簡単に始められる点がメリットです。一方で、長時間労働を強いられるケースが多く、体調管理の徹底が求められます。勤務中の事故にも気をつけなければなりません。

また、投資系の副業は、短時間で元手資金の数倍以上の利益を稼げることが魅力です。ただし、投資に関する専門的な知識や多くの資金が必要であるため、上記2つに比べるとややハードルが高くなっています。

副業解禁に伴うメリット:従業員側

副業を始めることで従業員が得られるメリットは、主に次の3点です。

従業員のメリット

・新たな収入源を得られる
・スキルアップを図れる
・キャリアの選択肢が拡がる

本業とは別に収入源を得られるため、金銭的な不安の軽減につながります。また、本業とはまったく異なる仕事に挑戦すれば、新たなスキルや知識を獲得でき、本業にも役立ちます。

新たな収入源を得られる

新たな収入源の獲得によって、生活水準向上や金銭的不安を軽減できる点が、副業を始めるメリットの一つです。副業で得た収入を生活費や子どもの教育費、将来への貯蓄など、さまざまな用途に充てられます。

また、プログラミングやWebデザイン、動画編集など、専門的なスキルを活用する副業に取り組んでいた場合、スキルアップによって高単価案件に挑戦できるようになり、効率的に収入を得られます。

スキルアップを図れる

本業とはまったく異なる仕事に副業で挑戦すれば、新たなスキルや知識を獲得できます。

たとえば、普段は営業マンとして働く方が、Webライティングの仕事に挑戦したとしましょう。Webライターの仕事は、分析力や情報理解力、文章作成能力など、わかりやすい文章を構成するためのスキルが求められます。

また、クライアントとはチャットでのコミュニケーションが主流となるため、テキストメッセージを使ったコミュニケーション能力も重要です。ライティングで得た上記のスキルを営業の仕事で活用すれば、成約率向上や営業活動の効率化が望めます。

たとえば、顧客に提示する商談資料を作成する際、どの内容を強調すれば相手の関心を高められるか、重要なポイントは何かなど、相手視点で情報を発信する意識が強くなります。必要な情報だけを資料に掲載でき、商談時間をコンパクトにしつつ興味を惹きつけることが可能です。

また、テキストメッセージでのコミュニケーション能力が磨かれると、取引先とのメールのやり取りがスムーズになり、他の作業に多くの時間を割けるようになります。

このように、本業とは別の仕事に挑戦すると、新たなスキル獲得につなげられます。

キャリアの選択肢が拡がる

将来的な転職や起業に向けての準備ができることも、副業を始めるメリットの一つです。本業で生活資金を獲得できるため、金銭面での不安を抑えつつ自身のやりたいことにチャレンジできます。

副業での経験を通じて、転職や起業に向けての方向性が定まるだけでなく、今後どのようなスキルを身につけるべきか明確化できます。一方で、描いていたイメージと異なった場合でも、早期にキャリアプランの軌道修正を図れるため、ダメージはほとんど残りません。

副業解禁に伴うメリット:企業側

副業解禁によって企業側が得られるメリットは、主に次の3点です。

企業のメリット

・従業員のスキルアップが期待できる
・優秀な人材の確保につながる
・人脈や取引先の拡大が望める

従業員が副業で培ったスキルやノウハウを本業で活かすことで、成果物の品質や業務の正確性向上が期待できます。また、従業員が副業で得た人脈を活用し、事業提携や商品開発など、業績拡大に向けた動きを取ることもできます。

従業員のスキルアップが期待できる

副業での仕事を通じて、従業員のスキルアップを望めることが副業解禁によって得られる企業側の大きなメリットの一つです。

副業で培ったスキルを活用し、業務効率改善や成果物の品質向上を実現できます。また、主体性や積極性の向上も期待でき、組織全体の活性化が望めます。

優秀な人材の確保につながる

副業解禁によって、優秀な人材の流出を防ぐ効果も期待できます。

近年、フリーランスの増加や大企業への人材集中などが原因で、労働力不足に悩まされる企業が増加しています。優秀な人材を市場で獲得するのも難しい状況です。

そんな中、副業禁止の状態が続くと、従業員が収入面や業務内容に不満を持った場合、引き留めが難しくなります。一方、副業解禁によって、本業で収入を得ながらさらなる収入アップや自己実現を追求できる環境が整えば、従業員のエンゲージメントが高まり、離職率を下げられます。

また、「働き方の自由度が高いホワイト企業」とのイメージを印象付けられ、企業のイメージアップや入社希望者増加へつなげることが可能です。

人脈や取引先の拡大が望める

副業に取り組む従業員から得た情報や人脈を事業に活用できることも、企業にとって大きなメリットです。販売経路拡大や事業提携、新商品開発など、業績拡大につながる動きを取れます。

また、提携した企業から新たなノウハウやスキルを吸収でき、企業の競争力が高まります。

副業解禁に伴うデメリット:従業員側

副業解禁は、従業員にデメリットになることもあります。従業員側のデメリットは、主に次の3点です。

従業員のデメリット

・体調管理やスケジュール管理が困難
・確定申告が必要
・雇用保険の適用外

体調管理やスケジュール管理が困難

副業解禁によって労働時間が長くなるため、体調不良を招くリスクが高くなります。

疲労の蓄積や睡眠不足が重なると注意力や判断力、思考力が低下し、本業のパフォーマンスが著しく低下します。本業で低調なパフォーマンスが続くと、取引先からの信頼喪失や人事考課でのマイナス評価につながるため、体調管理の徹底が必要です。

また、プログラミングやライティング、デザインなど、専門的なスキルを活かした案件を副業で手掛けている場合、製作完成までにある程度まとまった時間が必要です。しかし、本業が忙しくなると、案件に注力する時間を十分に確保できず、納期遅延や品質低下につながり、クライアントからの期待を裏切る形になります。

徹底したスケジュール管理やクライアントとの丁寧なやり取りが求められるため、製作に割くリソースを十分に確保できない場合は、他の副業を選ぶか、副業の挑戦を見送る必要があります。

確定申告が必要

副業によって年間で得た収入が20万円以上になると、確定申告の手続きが必要となります。確定申告は、1年間で得た所得税を納める手続きです。1月1日〜12月31日で得た収入から経費や控除を差し引き、残ったお金が所得税となります。

会社員として企業に勤めている場合、毎月の給与で発生する所得税は天引きされた状態で給与が支給されるため、自ら確定申告を行う必要はありません。しかし、副業によって得た収入の所得税は、従業員自ら計算する必要があります。

確定申告を期限内までにしなかった場合、納税額に対して15〜20%を掛けた無申告加算税や延滞税を支払わなければなりません。近年、低コストで利用できる会計ソフトも普及していますが、確定申告の手続きを完了するために、一定の手間やコストが発生します。

雇用保険の適用外

1週間で所定労働時間が20時間以下の仕事を複数行う場合、雇用保険の適用対象外として扱われます。

雇用保険は、失業や育児、介護などが原因で収入が減った場合、労働者の生活を安定させるため、さまざまな支給金を受給できる制度です。仮に育児や介護で仕事ができなくなった場合、雇用保険が支払われるのは本業の会社からのみとなり、十分な援助が期待できません。

副業解禁に伴うデメリット:企業側

副業解禁によって発生する企業にとってのデメリットは、主に次の3点です。

企業のデメリット

・業務効率や正確性の低下
・離職者の増加
・情報漏洩のリスク増大

仕事の疲れを癒す時間を確保できないと、本業でのパフォーマンス低下を招きます。また、本業で得たデータを副業先で使用する可能性があるため、情報漏洩を起こさないよう秘密保持契約の締結や機密情報の取り扱いに関する指導を実施してください。

業務効率や正確性の低下

従業員が夜間や休日に副業へ取り組無場合、心身のリフレッシュに充てる時間を確保しにくくなります。睡眠時間や疲労回復に充てる時間を十分に確保できないと、就業時間中の集中力が低下し、業務効率悪化や成果物の品質低下を招きます。

働き方の自由度を高めたにもかかわらず、本業でのパフォーマンス低下が発生した場合、企業にとっては副業解禁に踏み切ったメリットをほとんど得られません。

離職者の増加

副業解禁によって優秀な人材が流出する可能性も生じます。自社で仕事に励むよりも副業の仕事にやりがいを見出した場合、離職する可能性が高くなるからです。市場で優秀なスキルを持つ人材の確保が難しい状況となっている昨今、企業にとっては大きな損害です。

ただし、副業を禁止した場合でも離職者がいなくなる保証はありません。離職者を最小限に抑えるため、ブログ運営やフリマアプリでの個人売買など、副業の種類を限定することも一つの選択肢だといえるでしょう。

情報漏洩のリスク増大

機密情報の流出する可能性が高まることも、副業解禁に伴うデメリットの一つです。従業員が本業で獲得した取引先の情報や自社のデータを副業で活用した場合、情報漏洩に発展します。

情報漏洩が起きると、社会的信用低下やブランドイメージの失墜を招き、今後の経営が大変厳しい状況に追い込まれます。副業に励む従業員には自社や取引先の情報を漏らさないよう、周知の徹底が重要です。

副業解禁に向けて企業側が意識すべきポイント

副業解禁前に、企業は注意すべきポイントをしっかりと押さえておくべきです。主に次の3点があります。

ポイント

・副業の範囲を限定する
・副業の内容や労働時間を把握する
・秘密保持契約を締結する

副業解禁で発生するトラブルやデメリットの影響を抑えるため、いずれのポイントも重要です。

副業の範囲を限定する

長時間労働が慢性的に発生する副業を許可した場合、蓄積疲労に伴う集中力や判断力の低下で、本業でのパフォーマンス悪化が懸念されます。業務効率や成果物の品質への悪影響を避けるため、許可する副業の内容や範囲を限定してください。

たとえば、クラウドソーシングを活用したアンケートやデータ入力など、在宅でできる仕事に限定すれば、長時間の拘束を避けられるだけでなく、隙間時間に作業を行えます。従業員の健康保護や本業への支障を回避するためにも、副業と本業が両立できる範囲で副業解禁を検討してください。

副業の内容や労働時間を把握する

副業に取り組む社員から、どのような仕事に取り組み、どの程度労働時間が発生しているか報告を義務付けるようにしてください。トラブルを回避するためです。

たとえば、フードデリバリーの仕事を副業として選んだ従業員がいる場合、長時間労働や事故の発生するリスクが生じます。仮に事故が発生した場合、従業員から何も報告を受けていないと、会社としても適切な対応を取ることができません。

また、副業に励む従業員の労働時間は、「本業と副業での労働時間を合算した形で計算する」と、労働基準法によって規定されています。仮に自社従業員が8時間勤務をした後、4時間アルバイトに励んだ場合、労働時間は12時間となります。

割増賃金の支払いや36協定の締結に関しては、副業先が対応する形になるため、問題ありません。ただし、業務体制の再整備や担当顧客の変更など、過重労働防止に向けた処置を行う必要があります。また、他の従業員から不満が生まれないよう、公平な人事評価制度を導入することも求められます。

秘密保持契約を締結する

自社の情報を副業先で利用する可能性がある場合、従業員と秘密保持契約を締結しておきましょう。秘密保持契約は、他社への情報開示禁止や開示情報の範囲を限定する契約です。

秘密保持契約を締結したにもかかわらず、自社の従業員が情報漏洩を行った場合、情報の差止や損害賠償請求を行えます。自社の機密情報を守るためにも、秘密保持契約の締結を検討してください。

副業を解禁した企業事例

最後に、副業を解禁している企業事例を4つ紹介します。自社の参考情報にご活用ください。

副業を解禁した企業の事例

・ソフトバンク株式会社
・ヤフー株式会社
・ロート製薬株式会社
・サイボウズ株式会社

ソフトバンク株式会社

ソフトバンク株式会社は、2017年11月に自社独自の働き方改革「Smart & Fun!」を推進し、改革の一環として副業を解禁しました。

同社が副業解禁によって期待している点は、新たなアイデアの創出や組織の活性化です。従業員のスキルアップにつながる副業であれば、本業に支障が出ない限り、基本的に許可する方針を打ち出しています。

その他のルールに関しても、雇用契約を締結しない、就業時間中に副業の仕事をしないなど、同社が用意したガイドラインの内容を従業員と定期的に共有しており、互いの認識のズレを無くしています。

副業解禁からわずか1ヶ月で、127件の申請が認められました。承認事例としては、大学の非常勤講師やNPO法人の理事、書籍の執筆など、さまざまな事例が認められています。

ヤフー株式会社

ヤフー株式会社は、副業に対して積極的に取り組んでいる企業の一つです。スキルアップや新たなイノベーション創出を目的に、従業員の副業を認めています。

許可基準は、同社が設定している競業避止義務に抵触しないかどうかで、副業先での雇用も認められています。また、ヤフーでの副業を希望する人材を「ギグパートナー」として受け入れており、これまで130人以上のギグパートナーと業務委託契約を締結しています。

ロート製薬株式会社

ロート製薬株式会社は2016年2月から「社外チャレンジワーク」制度を導入し、終業後や土日祝日での副業を認めています。副業解禁の目的は従業員のスキルアップを促し、社内への還元や今後のキャリア開発に役立てるためです。

副業解禁から約4年が経過した2020年12月時点で、81人の従業員が副業にチャレンジしています。これまでの副業事例としては、地ビールの醸造やデザイン会社の運営、プログラミング教室の開催など、さまざまな仕事にチャレンジしていることが伺えます。

サイボウズ株式会社

サイボウズ株式会社は2012年から副業を解禁している企業です。

同社のルールはシンプルで、時間や情報、ブランドイメージなど、自社資産を毀損する可能性がない限り、副業が認められています。また、同社のブランドを使用する場合は、従業員に副業申請アプリの利用を命じ、情報漏洩やブランドイメージの失墜を防いでいます。

これまでに、小説の執筆やLINEスタンプの販売、YouTuberへのチャレンジなど、さまざまな成功事例が生まれています。

まとめ

副業解禁は、従業員と企業側双方に多大なメリットをもたらします。従業員は副業を通じて新たなスキルやノウハウ、収入源を獲得できます。一方、企業にとっては働き方の自由度を高め、優秀な人材の流出を防ぐことが可能です。

ただし、副業解禁によって勤怠管理が複雑になり、人事担当者への業務負担が増大します。ディップ株式会社が提供する「人事労務コボット」を導入すれば、入社手続きや雇用契約締結に関する業務時間を85%削減することが可能です。

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