働き方改革と副業

2016年に政府から発表された働き方改革実行計画で、副業を積極的に推進する方向性が明確化されました。また、2019年4月から施行されている働き方改革関連法案によって、時間外労働の上限規制やフレックスタイム制の導入推進など、ワークライフバランス改善に向けた改定が行われました。

近年、クラウドソーシングやフリマアプリの普及に伴い、在宅でできる仕事も増えており、以前よりも副業挑戦へのハードルは低くなっています。ですが、副業解禁によってどのようなメリットとデメリットが生じるかわからない方も多いでしょう。

今回は、副業解禁に向けての注意点も交えつつ、企業と労働者双方の視点から副業解禁に伴うメリットとデメリットについて解説していきます。

働き方改革に向けた政府の動き

政府は、2019年4月から働き方改革関連法案を順次施行し、自由な働き方の実現や長時間労働是正に取り組んでいます。働き方改革関連法案は、労働基準法や労働安全衛生法、労働契約法など、多くの法改正が絡んだこともあり、大きな話題を呼びました。

また、時間外労働の上限規制や有給休暇の取得義務化、フレックスタイム制の拡充など、ワークライフバランス改善に向けて多くの規制が設けられました。

2023年4月からは、月に60時間を超える時間外労働に対しての割増率が引き上げられるため、業務体制の見直しや業務効率化ツールの導入など、残業削減に向けての努力が各企業に求められています。

副業・兼業促進に関するガイドラインとは

副業・兼業促進に関するガイドラインは、2017年に厚生労働省から発表された副業解禁に向けての指針です。副業解禁に向けた準備内容や解禁後の運用方法などが記されています。

政府は、新たな収入源の獲得や労働者のスキルアップ、新たなイノベーション創出など、副業解禁が労働者と企業双方に多大なメリットをもたらすと見込んでいます。

しかし、就業規則の整備や正確な労働時間の把握、情報漏洩の対策など、副業解禁に向けて多くの内容を準備しなければなりません。企業の負担を軽減できるよう、準備の進め方や相談窓口などをガイドラインに記載しています。

また、2020年には副業・兼業促進に関するガイドラインが改定されました。

主な改定内容としては、雇用契約を後から結んだ企業が、36協定の締結や割増賃金の支払い、時間外労働の上限遵守に関して責任を負う形となりました。つまり、副業先が時間外労働の管理や割増賃金の支払いに対応していく形となります。

ただし、企業から業務委託で仕事を請け負うフリーランスとして副業に取り組む場合、労働時間の適用対象からは外れます。

副業を行うメリット:労働者側

副業を行うことによって労働者が得られるメリットは、主に次の4点です。

労働者のメリット

・新たな収入源を得られる
・新たなスキルを習得できる
・セルフマネジメント能力を磨ける
・リスクを抑えて将来的な準備ができる

副業解禁によって本業とは別に収入源を確保でき、生活レベルの向上や金銭的不安を軽減できます。また、転職や起業に向けての準備をローリスクで進められる点も、副業を始める大きなメリットの一つです。

新たな収入源を得られる

副業解禁に伴い、労働者は新たな収入源を獲得できます。本業での収入減をカバーできるだけでなく、生活費や子どもの教育費、住宅ローンの返済など、様々な用途に副業で得た収入を充てられます。

また、デザインやライティング、アプリ開発など、専門的なスキルを駆使する仕事を副業で行う場合、スキルアップや実績獲得によって、高単価案件へ挑戦することが可能です。副業を続けていくうちに効率的に高収入を獲得できるようになり、収入アップとプライベートの時間確保を両立できるようになります。

新たなスキルを習得できる

本業とは別の内容の仕事に副業でチャレンジした場合、新たなスキルの習得につなげられます。

たとえば、日中は食品メーカーの営業マンとして働く方が、副業でWebライターに挑戦したとしましょう。Webライターはわかりやすい文章を構成する能力に加え、WordPressを扱うスキルやSEO対策に関する知識も必要です。

また、クライアントとは、チャットツールを介したやり取りがメインとなるため、テキストメッセージでのコミュニケーション能力も重要です。副業で文章作成能力やコミュニケーション能力を磨けると、本業にも活かせます。

顧客や取引先とのメールのやり取りがスムーズに進み、他の作業に充てる時間を捻出できます。

さらに、どの内容を提案資料に掲載するべきか、どういった順番で話を進めるべきかなど、相手の視点に立って商談を進められるようになり、商談時間をコンパクトに抑えつつ相手の関心を高めることが可能です。

このように、副業での仕事を通じて新たに習得したスキルは本業にも活かすことができます。

セルフマネジメント能力を磨ける

副業を始めると、今まで以上にセルフマネジメント能力が重要になります。仮に体調不良で仕事を数日間休まざるを得なくなった場合、本業と副業の双方に支障が発生します。

特に、副業は本業と違い、本人の代わりに仕事を進めてくれる存在がいないため、常に安定して働けるよう健康を保たなければなりません。

そのため、生活リズムや食生活、運動習慣に気を配るようになり、体調不良や生活習慣病の発症リスクを軽減できます。また、副業に割く時間を確保するため、本業でのタスク管理や仕事の進め方を見直し、より効率的に仕事を進められるようになります。

リスクを抑えて将来的な準備ができる

将来的に転職や起業を考えている場合、リスクを抑えながら将来の準備を進められる点も、副業解禁に伴う大きなメリットの一つです。本業で収入源を確保できているため、金銭的不安を気にせず自身のやりたい仕事に挑戦できます。

また、副業での仕事を通じて、今後身につけておくべきスキルや独立に向けて準備すべき内容を明確化できます。仮に自身が思い描いていた内容とギャップがあったとしても、コストは掛かっておらず、早期にキャリアプランの軌道修正を図ることが可能です。

副業を行うデメリット:労働者側

副業を行うことによって労働者側に発生するデメリットは、主に次の4点です。

労働者のデメリット

・労働時間が長くなる
・本業に支障が発生する
・確定申告の手続きが必要になる
・成果が出るまで時間が掛かる

本業の仕事が終わってから副業をこなすため、長時間労働が発生するリスクが高まります。疲労回復の時間を十分確保できないと集中力や判断力が低下し、本業にも支障が発生します。

また、副業で年間20万円以上の収入を得た場合、必ず確定申告を行わなければなりません。期限内に確定申告の手続きを済ませないと、無申告加算税や延滞税の支払いを求められます。

労働時間が長くなる

本業が終わった後の時間や休日を使って副業に取り組む形となるため、必然的に労働時間は長くなります。仮に正社員として働く従業員が8時間勤務を終えた後、4時間副業に励んだ場合、12時間労働となります。

睡眠時間や疲労回復に充てる時間を十分確保できないと、蓄積疲労が抜けず満足に働けません。また、欠勤をした場合は多くの企業が無給扱いとしており、欠勤日が増えるほど給与から減額される賃金の額が大きくなるため注意が必要です。

本業に支障が発生する

夜間や休日に副業に励むことで、心身をリフレッシュする時間を十分確保できないと、本業でのパフォーマンスも低下します。睡眠不足の状態が続くと、判断力や思考力、記憶力が低下し、ケアレスミスや対応漏れが増えます。

本業で低調なパフォーマンスが続いた場合、取引先からの信用低下や人事考課でのマイナス評価につながるため、本業と両立可能な副業を選択する必要があります。

確定申告の手続きが必要になる

副業で得た所得が年間20万円以上になると、確定申告の手続きが必要になります。確定申告とは、1年間で得た所得税を納める手続きです。収入から経費や控除を差し引き、残った金額が課税所得となります。

普段、会社員として働いている場合、毎月の給与や賞与で発生する所得税は天引きされた状態で支給されるため、確定申告を行う必要はありません。ですが、副業の場合、確定申告の手続きを自ら行わなければなりません。

近年、クラウド型の会計ソフト普及やe-taxでの申請受付によって、手続きが効率化されていますが、慣れるまでには一定の時間や手間が掛かります。

成果が出るまで時間が掛かる

クラウドソーシングを活用して、アプリ開発やWebデザイン、ホームページ制作など、専門的なスキルを活用する仕事を副業として選んだ場合、成果が出るまで一定の時間が必要です。成果物をクライアントに納品して初めて報酬が発生する仕組みとなっており、多くの報酬を獲得するためには、まとまった製作時間を確保する必要があります。

しかし、本業での仕事をこなしながら製作時間を継続的に確保するのは、簡単ではありません。就業時間中のタスク管理や業務効率化が求められます。また、スキルアップや実績を多く積み上げないと、高単価案件には挑戦できません。効率的に稼げるようになるためには、地道な努力が求められます。

副業を許可するメリット:企業側

副業を従業員に許可することによって企業側が得られるメリットは、主に次の4点です。

企業のメリット

・従業員のスキルアップが望める
・優秀な人材を確保できる
・ブランディング確立につなげられる
・労働者が副業で得た人脈を活用できる

それぞれについて解説しましょう。

従業員のスキルアップが望める

副業での仕事を通じて従業員のスキルアップを望めることが企業側の大きなメリットです。本業では習得できない分野のスキルや知識の習得が期待でき、新たな商品開発やビジネスモデルの構築に役立てられます。

また、副業で培ったコミュニケーション能力や積極性、マネジメント能力を活用し、生産性アップや成果物の品質向上も期待できます。

優秀な人材を確保できる

副業解禁によって働き方の自由度を高められると、優秀な人材の流出を防げます。収入アップや自己実現の追求、キャリアアップなど、従業員一人ひとりが自身の目的を達成するために、副業に取り組める環境が整い、従業員のエンゲージメントが高まります。

ブランディング確立につなげられる

副業解禁によって、「自由な働き方を実現できるホワイト企業」とのイメージを世間に印象付けられることもメリットの一つです。企業のイメージアップにつながり、入社希望者増加や商品認知度向上を期待できます。

労働者が副業で得た人脈を活用できる

従業員が副業を通じて知り合った人脈や情報を活用できる点も、企業にとってはメリットです。従業員が知り合った企業や団体とコンタクトを取り、コラボ商品開発や共同出資、販路拡大など、事業拡大に向けてのさまざまな動きにつなげられます。

副業を許可するデメリット:企業側

副業を従業員に許可することによって企業側に発生するデメリットは、主に次の3点です。

企業のデメリット

・長時間労働に伴いパフォーマンスが低下する
・情報漏洩のリスクが高まる
・労働時間の管理が難しくなる

長時間労働が慢性的に発生する影響に伴い、本業でのパフォーマンス低下が懸念されます。さらに、複数の企業で従業員が働く場合、労働時間の管理が複雑化するため、正確な労働時間を把握できるよう、従業員とコミュニケーションを積極的に取ってください。

また、取引先の情報や自社の技術データなど、機密情報の漏洩を招かないよう、従業員に機密情報の取り扱いに関する指導を行ってください。

長時間労働に伴いパフォーマンスが低下する

副業解禁によって長時間労働が慢性化すると、従業員の本業でのパフォーマンスが低下します。蓄積疲労によって就業中の集中力が低下し、業務効率悪化や業務の正確性低下を招きます。

他の従業員への負担が増大するだけでなく、取引先との信頼関係にも関係してくるため、本業との両立が可能な範囲に副業の許可を限定してください。

情報漏洩のリスクが高まる

従業員が本業で得た情報を副業の仕事に活用する可能性もあり、情報漏洩のリスクが高まります。機密情報の情報漏洩が発生すると、社会的信用低下や企業ブランドの失墜を招き、今後の企業経営が大変厳しい状況に追い込まれます。

副業を希望する社員に対し、機密情報の取り扱いに注意するよう指導を徹底してください。

労働時間の管理が難しくなる

本業での労働時間と副業での労働時間は別々に管理するため、労働時間の管理が複雑になります。ただし、本業と副業によって労働時間が法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える場合、雇用契約を後から締結した企業が割増賃金の支払いに対応する形になります。

本業で1日8時間、週40時間を超える労働が発生しない限り、時間外労働の管理や割増賃金の支払いを気にする必要はありません。ですが、本業で時間外労働や休日労働が発生した場合は、他の従業員と同様に割増賃金を支払う必要があります。

労働時間の合算によって発生した残業代は副業先が支払う一方、自社で時間外労働や休日労働が発生した場合は、従来と同様に割増賃金の支払い義務が発生するため混同しないよう注意が必要です。

企業が副業を解禁する上での注意点

最後に、副業を許可する前に企業側が把握しておくべき注意点を5つ紹介します。

注意点

・副業を許可する範囲を事前に決めておく
・労働時間の正確な把握が必要になる
・徹底した健康管理が求められる
・人事評価制度への見直しが必要になる
・秘密保持契約の締結も検討する

副業を許可する範囲を事前に決めておく

本業でのパフォーマンス低下や過重労働を防ぐため、許可する副業の種類を事前に決めておいてください。

たとえば、クラウドソーシングを活用して事務作業の仕事を受注した場合、オンラインで作業やコミュニケーションが完結するため、長時間の拘束を避けられます。一方、警備員や清掃員など、肉体労働系の仕事を副業で始める場合、特別なスキルは必要ないものの、長時間労働を強いられるケースが多く、睡眠不足を招く可能性が高くなります。

本業への影響を避けるためにも、従業員へ許可する副業の範囲を明確化することが重要です。

労働時間の正確な把握が必要になる

本業と副業双方での正確な労働時間の把握が重要です。本業と副業で法定労働時間以上の労働が発生した場合、割増賃金の支払いは副業先の企業が対応するため問題はありません。

しかし、時間外労働の時間数に関しては、個々の企業が管理する必要があります。36協定を結んでいた場合は月45時間、年360時間の遵守が求められ、特別条項付きの36協定を締結しても、複数の規定を全て満たさなければなりません。時間外労働が規定を超えた場合は、コンプライアンス違反に該当することには注意が必要です。

また、本業と副業での労働時間の上限をあらかじめ設けておくと、労働時間の管理負担を軽減できます。

特別条項付きの36協定を締結した場合

・適用回数は年6回
・臨時的な特別な事情がある場合のみ適用可能
・時間外労働の上限は年720時間以内
・時間外労働+休日労働の合計は月100時間未満
・2~6ヶ月平均で時間外労働+休日労働の時間は80時間以内

徹底した健康管理が求められる

副業へ挑戦する従業員には徹底した体調管理が求められます。仮に体調不良で数日間休んだ場合、本業と副業先双方に迷惑が掛かります。安定して働ける状態を保てるよう、規則正しい生活リズムの構築や十分な睡眠時間の確保などを意識してください。

また、オンとオフのメリハリがなくなると、仕事へのモチベーションが低下します。友人と過ごす時間や趣味に没頭する時間を確保し、心身のリフレッシュに努めてください。

人事評価制度への見直しが必要になる

外部の企業やクラウドソーシングを活用して副業に取り組んでいる場合、人事評価は本業でのパフォーマンスや勤務態度が評価基準となります。

しかし、他部署の仕事を経験する社内副業を導入した場合、社内副業を含めた形で人事評価を下している企業も少なくありません。社内副業を実施する場合は、人事評価制度の見直しが必要になります。

秘密保持契約の締結も検討する

機密情報の漏洩を防ぐため、従業員と秘密保持契約を締結するのも一つの選択肢です。秘密保持契約は、開示した情報のコピーや特定用途以外の利用、情報開示自体を禁止する契約です。

秘密保持契約を締結したにもかかわらず、従業員が違反行為を取った場合は、情報差止や損害賠償請求を行うことができます。自社の情報資産を保護するためにも、秘密保持契約の締結を検討してみてください。

まとめ

政府は働き方改革の推進によって、自由な働き方の実現やワークライフバランス改善を目指しています。自由な働き方を実現する一つの手段として副業推進を掲げており、徐々に副業解禁に踏み切る企業が増えてきました。

副業解禁は、労働者のスキルアップや新たな収入源の獲得、優秀な人材確保など、労働者と企業の双方にメリットをもたらします。しかし、長時間労働の慢性化や本業でのパフォーマンス低下、情報漏洩のリスク増大など、解決しなければならない課題も多くあります。

副業解禁を検討している企業は、副業・兼業促進に関するガイドラインや今回挙げた注意点を参考に、副業解禁に向けての準備を進めてください。

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