雇用契約書の記載事項

企業における人事や労務担当の方は、雇用契約書について正しく理解していますでしょうか。

雇用契約書は、労使間で雇用契約を締結する際に必要な書類です。契約書としての役割を担うため、内容に不備があると従業員とトラブルになる可能性があります。

今回は雇用契約書について、雇用契約書の書き方や記載事項、雇用契約の内容を変更する際の注意点などを解説します。

雇用契約書が原因で従業員と揉めることのないよう、雇用契約書に対しての理解を深めていきましょう。

雇用契約書とは

雇用契約書とは、雇用主(企業や経営者)と労働者との間で交わされる契約書のことです。

雇用契約書は、労使間が雇用契約に対して同意済みであることを示すための重要な書類になります。

ただし、雇用契約書は労働条件通知書(後ほど解説)とは違い、法律上は書面での交付が義務化されていません。

とはいえ、労使間でのトラブルを防ぐためにも、多くの企業では雇用契約書を書面にて労働者へと交付し、労働契約を結んでいます。

雇用契約書の記載事項

ここまで雇用契約書の概要について解説してきました。では、実際に雇用契約書にはどのような記載事項があるのでしょうか。

雇用契約書の記載事項は、主に以下の7つです。

雇用契約書の記載事項

・契約期間
・就業場所
・業務内容
・就業時間
・賃金
・休日・休暇・休憩
・退職

雇用契約書の作成は義務ではないため、法令による記載事項はありません。

ただし労使間でのトラブルを避けるためには、上記7つの記載項目が重要です。では、雇用契約書の記載事項について、1つずつ解説します。

契約期間

契約期間は、雇用する従業員の契約期間について記載します。下記のように、労働者の雇用区分に応じた雇用期間を、具体的に記載しましょう。

雇用区分記載事項
正社員・無期パート社員定年や試用期間について、期日を具体的に記載する
契約社員・有期パート社員契約期間および契約更新の基準(更新がある場合)を具体的に記載する

契約社員や有期パート社員の場合は、契約期間だけではなく、契約更新がある場合は更新の基準を記載しなければなりません。

厚生労働省の資料「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準について」においても、「書面により明示することが望ましい」と明記されています。

契約更新をしない「雇止め」は労使間のトラブルになりやすいため、自社の実情にもとづき基準を明確に記載しましょう。

就業場所

就業場所については、入社直後に配属となる勤務先の住所を記載します。

また、転勤を伴う採用の場合は、契約書にも転勤の可能性がある旨を記載しておきましょう。

雇用契約書に転勤についての記載がないと、従業員が転勤を拒否した場合、裁判所の判決においても転勤命令が認められない可能性があります。

転勤の有無は従業員とトラブルになりやすい原因の1つです。転勤を伴う採用の場合は、必ずその旨を契約書に記載しておきましょう。

業務内容

業務内容も就業場所と同様に、入社直後の配属先の業務内容を記載します。また、配置転換により業務内容が変わる可能性がある場合は、その旨も併せて記載しておきます。

配置転換は転勤と同様に、従業員とトラブルになりやすい原因の1つです。契約書に記載することはもちろん、採用面接の際にもしっかりと伝えるようにしましょう。

就業時間

就業時間については、始業時刻と終業時刻を記載します。また、所定労働時間を超える労働がある場合は、その旨も記載します。

ただし、所定労働時間を超える労働(いわゆる残業)を命じるためには、会社と従業員代表との間での36協定の締結と、労働基準監督署への届け出が必須です。

36協定や残業については、以下の記事で詳しく解説しています。

賃金

賃金については、主に「賃金の支払い方法」「賃金の決定および計算方法」「賃金の締切・支払時期・昇給」などを記載します。

また、試用期間中で賃金が異なる場合や、固定残業代(いわゆるみなし残業代)が含まれる場合は、その旨も契約書に記載することで労使間でのトラブルを防げます。

休日・休暇・休憩

労働基準法にもとづき、休日・休暇・休憩時間を明記します。就業規則に記載する内容と同一のものを、雇用契約書にも記載すれば問題ありません。

また、有給休暇とは別に自社独自の休暇制度などがある場合は、その旨も記載しておきましょう。

退職

退職については、「解雇事由」「定年退職の年齢」「自己都合退職の際の通告日数」などを記載しましょう。

特に「解雇事由」については、明確に事由を記載しておく必要があり、労働契約法においても厳しく制限されています。

中でも有期雇用労働者については、労働契約法第17条において、やむを得ない事由がない限り契約期間中の解雇はできないとされています。

法的に問題がないかしっかりと確認した上で、雇用契約書へ記載しましょう。

雇用契約書の内容変更

ここまで雇用契約書の事項について解説していきました。では、雇用契約書に記載した内容を変更する際には、どのような注意点があるのでしょうか。

雇用契約書を変更する際の注意点は、主に次の3点です。それぞれ詳しく解説します。

内容変更

・労使の合意のもとで変更する
・労働者に有利な変更条件なら合意なしでも可能
・覚書で対応する

労使の合意のもとで変更する

労働契約法第8条により、雇用契約書の内容変更は「労使の合意のもと」であれば変更可能です。

ただし、労働基準法に違反したり、就業規則や労働協約の定めよりも労働者に不利な労働条件となったりする変更は、認められていません。

労働者に有利な変更条件なら合意なしでも可能

労働契約法に基づく雇用契約書の場合、契約書の変更は原則として、従業員と雇用者の合意が必要です。

ただし、法律や契約書にもとづき変更内容が従業員にとって不利益とならないケースに限り、企業によっては従業員の合意を得ずに内容を変更できる場合もあります。

ただし、その場合は各従業員が雇用契約書の内容が変更されたことを確認できるよう、周知徹底が必要です。

覚書で対応する

雇用契約書を新しく作成し直すのは、変更内容によっては手間となる場合があります。その際に便利なのが、「覚書」を用いた対応です。

覚書は契約書と同じ効力を持つ書類で、契約書の補助的な役割を果たします。また覚書も契約書と同様に、労使双方の署名捺印が必要です。

雇用契約書の作り直しが負担となる場合は、覚書での対応も検討してみましょう。

雇用契約書と労働条件通知書の違い

会社や経営者が従業員を雇用する際は、雇用契約書とは別に「労働条件通知書」も必要となります。

労働条件通知書と雇用契約書は、似て非なる書類です。両者の違いは以下の通りです。

法律上の作成義務法令による記載事項労使間の署名・捺印未交付による罰則
労働条件通知書
雇用契約書

労働条件通知書は労働基準法第15条により、事業者が労働者を雇用する際には交付が義務付けられています。

そのため、法律上の作成義務がない雇用契約書とは違い、法令による記載事項や未交付による罰則が存在します。

もし労働条件通知書の交付を怠った場合は、労働基準法の規定にもとづき、以下のような罰則が事業者へ適用される可能性があります。

・労働基準法第13章第117条 1年以上10年以下の懲役、または20万円以上300万円以下の罰金

  ・労働基準法第13章第118条 1年以下の懲役、または50万円以下の罰金

・労働基準法第13章第119条 6ヶ月以下の懲役、または30万円以下の罰金

・労働基準法第13章第120条 30万円以下の罰金

参照元:労働基準法 | e-Gov法令検索

また、労働条件通知書は労働条件の「明示」が目的のため、労働契約の締結が目的の雇用契約書とは違い、双方による署名や捺印は必要ありません。

雇用契約書と労働条件通知書を兼用する際の注意点

雇用契約書は労働条件通知書と兼用して交付もできます。ここでは、雇用契約書と労働条件通知書を兼用する際の注意点を解説します。

注意点

・絶対的明示事項は必ず記載する
・相対的明示事項は必要に応じて記載する
・パートタイマーや契約社員は追記項目に注意する
・電子交付は適用条件に注意する

特に絶対的明示事項や相対的明示事項の記載は、契約書を作成する上で重要なポイントです。では、1つずつ解説します。

絶対的明示事項は必ず記載する

労働基準法第15条において、事業者が労働者に対して明示しなければならない「絶対的明示事項」が規定されています。

労働基準法第15条にて規定された絶対的明示事項は、以下の通りです。

契約期間に関すること

期間の定めがある契約を更新する場合の基準に関すること

就業場所や従事する場所に関すること

始業および終業時刻、休憩や休日に関すること

賃金の決定方法、支払時期などに関すること

退職に関すること(解雇事由も記載)

昇給に関すること

参照元:労働基準法第 15条第 1項

また、上記は正社員を雇用する際の絶対的明示事項です。パートタイマーや契約社員を雇用する際は上記に加え項目が追加(後ほど解説)されます。

相対的明示事項は必要に応じて記載する

絶対的明示事項とは別に、必要に応じて記載する相対的明示事項も存在します。

下記のような規定がある場合は、相対的明示事項として契約書に記載しましょう。

退職手当に関すること 賞与などに関すること

食費や作業用品といった従業員の負担に関すること

安全衛生に関すること

職業訓練に関すること

災害補償などに関すること

表彰や制裁に関すること

休職に関すること  

参照元:労働基準法第 15条第 1項

パートタイマーや契約社員は追記項目に注意する

パートタイマーや契約社員といった有期雇用労働者の場合は、以下の項目が絶対的明示事項に追加されます。

  • 昇給の有無
  • 退職手当の有無
  • 賞与の有無
  • 雇用管理についての相談窓口や担当者名など

パートタイマーなどの有期雇用労働者については、「パートタイム・有期雇用労働法」が適用されるため、上記の追加項目を書面で交付する必要があります。

電子交付は適用条件に注意する

以下の条件を満たせば、労働条件通知書や雇用契約書の電子交付が可能です。

  • 労働者が電子交付を希望していること
  • 下記いずれかの方法で交付すること

交付方法:FAX、Webメールサービス、SNSメッセージ機能など

  • 交付データを出力して保存できること

ちなみにホームページやブログのように、第三者への閲覧を目的とした媒体での明示はできません。

またSMS(ショートメッセージサービス)による明示は禁止されていませんが、文字数等の制限もあるため、望ましくないとされています。

加えて、電子交付する際は送信後にデータを閲覧できたかどうかを、労働者にヒアリングすることも重要です。

雇用契約書をスムーズに作成するなら「人事労務コボット」

人事労務コボット

雇用契約書の作成に役立つのが、当社ディップ株式会社が提供する「人事労務コボット」です。

ここからは、なぜ人事労務コボットが雇用契約書の作成に役立つのか、その理由や機能について解説します。

人事労務コボットとは

人事労務コボットとは、当社ディップ株式会社が提供する人事や労務向けのサポートツールです。

入社手続きや雇用契約といった面倒な手続きをペーパーレス化することで、作業時間を約 85%削減。短時間で入社手続きが完了します。

管理画面の操作もシンプルで、入社手続きする従業員の「名前」と「メールアドレス」を入力し、手続きに必要な書類項目を選ぶだけです。

上記の操作により、簡単に従業員のスマートフォンへと手続きに必要なフォーマットが送られます。

フォーマットを受け取った従業員はスマートフォンを使い、簡単に情報登録や電子サインができます。

では、人事労務コボットが導入するとどのようなことができるのか、次項で詳しく解説します。

人事労務コボットの機能と特徴

人事労務コボットの主な機能や特徴は、以下の通りです。

主な機能内容・特徴
契約書への電子サイン契約書への電子サインが可能です。 雇用契約書や誓約書などの作成、送付、締結までの一連の流れが、オンライン上で完結できます。
個人情報の取得・変更従業員の個人情報を、WEBフォームにて回収できます。 回収した情報は、オンタイムで管理画面へと反映します。
オンライン上での保証人サイン離れた場所に住む保証人の申請手続きについて、保証人に契約書を送信し、電子サインによるオンライン承諾が可能です。
ビザ・運転免許証・雇用契約期限アラート期限が迫った従業員の雇用期間や運転免許証等の期間に対し、アラートにて通知します。
本部と拠点間での情報共有管理画面にて一括操作することで、本部と各拠点間の情報共有がスムーズになります。
マイナンバー管理セキュリティ性の高いマイナンバーについても、システム上で管理可能です。
社労士との共同管理人事や労務担当者と、外部に依頼した社労士による共同管理も可能です。
CSV出力必要なデータをCSV形式にて出力可能です。
スマホ操作対応マルチデバイス対応で、スマートフォンでの操作もスムーズです。

また、上記の機能や特徴に加えて、人事労務コボットはサポート体制も充実しています。

人事労務コボットの導入後は、当社ディップ株式会社のカスタマーサクセスチーム(CS)が、クライアントに専任でサポートいたします。

情報の管理や浸透、運用推進など、人事労務コボットの活用を全面的にサポートし、導入を成功へと導きます。

まとめ

ここまで雇用契約書について、雇用契約書への記載事項や作成時の注意点、労働条件通知書との違いなどを解説してきました。

雇用契約書は、労使間において労働条件への合意を証明するための重要な書類です。

雇用契約書の作成は義務化されていませんが、従業員とのトラブルを未然に防ぎ、万が一の際に企業の立場を守るためにも、作成すべき書類です。

絶対的明示事項や相対的明示事項などの記載項目を正しく理解し、従業員と雇用契約書での締結を交わすことで、双方の認識違いからくるトラブルを防げます。

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