深夜労働とは

飲食店をはじめとして、深夜労働を行っている企業は多くあります。しかし、深夜労働を行うためには、割増賃金や条件などをきちんと認識して運用することが大切です。

今回は、労働基準法における深夜労働の定義や制限がかかる労働者、計算方法、企業がすべきことについて解説します。

労働基準法における「深夜労働」とは

労働基準法における深夜労働の定義は「午後10時から午前5時までの時間帯で労働を行うこと」です。この時間帯を深夜労働として明記しているのは、人間は心身の健康を保つために、日中は活動し、夜に休息を取るのが望ましいからです。

しかし、業務の性質上、この時間帯に働かざるを得ない場合もあります。そのため、労働を禁止するのではなく、年齢の制限をかける、割増賃金を支給するなどが定められています。

なお、「深夜労働」の他にも「深夜業」「深夜業務」などの呼び方もありますが、いずれも同義です。

割増賃金の必要性

従業員に対して企業が深夜の時間帯に業務を行わせる際には、25%以上の割増賃金を支払う必要があります。割増賃金の比率も、労働基準法によって定められています。

そのため、25%を下回る割増賃金で業務を行わせた場合には違法となります。加えて、深夜労働が休日労働と重なっている場合や、時間が労働に重なっていた場合には、深夜労働の割増手当に上乗せして割増賃金を支払う必要があります。

深夜労働が許される年齢

深夜労働が許されている年齢は、満18歳以上に限られています。満18歳以上の理由は、年少者の酷使を防止させるためです。特に年少者の心身の発達には、深夜労働は適さないとされています。

しかし、満18歳以上であれば、高校生であっても深夜労働は原則として可能です。ただし、高校生の場合は親の同意や学業への影響なども大きくなるため、雇用を避ける企業も多くあります。

満18歳に満たない者への労働の禁止は、労働基準法第61条1項に定められています。また違反者に対しては「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科せられます。

18歳未満は原則禁止

繰り返しになりますが、18歳未満の年少者に対して、深夜労働を行わせることは原則として禁止されています。割増賃金を支払っていたとしても違反になってしまいます。

しかし、例外として次のような場合は18歳未満でも深夜労働が可能としています。

  • 交替制で勤務する満16歳以上の男性である場合
  • 交替制で労働させる事業について、行政官庁の許可を受けた場合(午後10時30分まで、もしくは午前5時30分から働くことができる)
  • 災害その他非常事由により行政官庁の許可を受けて労働時間を延長し、または休日に労働させる場合
  • 農林業、畜産業・水産業、病院・保健衛生業、電話交換業務の事業・業務に従事する場合
  • 厚生労働大臣が労働が必要であると認めた場合

例外ケースとして当てはまる企業や事業は多くないため、基本的には満18歳に満たない年少者に対しては、深夜労働をさせないと考えておくと良いでしょう。

深夜労働の制限

一部の例外を除き、満18歳未満への深夜労働は固く禁じられています。さらに、労働者への心身の保護を目指すために、労働基準法ではさまざまな規定が設けられています。

具体的には次のようなケースです。それぞれのケースについて、解説していきます。

制限されるケース

・女性労働者の場合
・育休中の労働者の場合
・介護中の労働者の場合

女性労働者の場合

女性労働者の場合は、労働基準法第66条3項によって「使用者は、妊産婦が請求した場合においては、深夜業をさせてはならない。」と定められています。

法律上、妊産婦は妊娠している女性はもちろん、出産後1年が経過していない女性を指しています。加えて、男女雇用機会均等法9条3項には「女性労働者が妊娠や出産を理由に休業、深夜労働を免除を求めることに理由に、解雇や不利益取扱い(減給、降格、不利益な異動など)をしてはならない」と定められています。

そのため、妊産婦は午後10時から午前5時までの深夜労働を拒否できることに加え、企業側も業務命令等はできないようになっています。

また、男女雇用機会均等法によって、深夜労働を行う女性労働者の安全を確保するために必要な措置を講じることが企業に求められています。

男女雇用機会均等法施行規則 第13条

事業主は、女性労働者の職業生活の充実を図るため、当分の間、女性労働者を深夜業に従事させる場合には、通勤及び業務の遂行の際における当該女性労働者の安全の確保に必要な措置を講ずるように努めるものとする。

具体的には、次の措置を取ることが規定として求められています。

  1. 通勤および業務遂行の際の安全確保
  2. 子の養育又は家族の介護等の事情への配慮
  3. 仮眠室、休憩室の整備
  4. 健康診断の実施

該当の労働者が拒否しているのにも関わらず、業務命令などを行った場合は、労働基準法違反になるため注意が必要です。

育休中の労働者の場合

育休中の労働者に対しても、企業側は事業に支障が出ない程度に、労働者側に対して深夜労働の制限を行う必要があります。育休中の期間は、小学校就学前までとされています。

労働者側は、育休中に該当するのであれば、何度でも請求を行うことが可能です。請求期間は、1回につき6ヶ月間となっており、制限を適用して欲しい日付の1ヶ月前までに申請が必要です。

なお、申請には下記の情報を記した書面での提出が求められます。

  • 請求の年月日
  • 労働者の氏名
  • 子供の氏名、生年月日、続柄
  • 制限を開始する日および制限を終了する日
  • 子供が養子の場合は養子縁組の効力が発生した日
  • 育児ができる他の家族がいないこと

企業側は所属している従業員の誰が対象となるのか、請求の内容が問題ないかなどを確認していきます。

一方で、労働者側の条件として、深夜労働の制限対象外になる場合もあります。具体的には、下記に該当している労働者は、深夜労働の制限を請求することはできません。

  • 継続した雇用期間が1年未満の人
  • 子供の育児を行える同居家族がいる人(16歳以上の同居家族で深夜に働いていない、怪我などで育児ができない状況ではない、産前産後でないこと)
  • 合理的な理由があると判断された人(1週間の所定労働日数が2日以下、もしくは所定労働時間が全部深夜であること)
  • 日雇いで雇用契約を結んでいる人

雇用形態によっても条件が変わる場合もあるため、労働者が請求を行う際は、事前に該当しているかをきちんと確認することが大切です。

介護中の労働者の場合

育児と同じように、介護が必要な家族がいる労働者も深夜労働の制限を請求することが可能です。また、企業側も請求に対しては、きちんと残業を含んだ深夜労働を制限することが必要です。

請求の条件や期間に関しては、育休中と同様に回数の制限はなく、期間は6ヶ月間です。

なお、深夜労働の制限を請求できる状態は、要介護状態であることが定められています。要介護状態は、法律で次のように明記されています。

  • 「日常生活動作(歩行、排泄、食事、入浴、着脱衣の5項目)」を「自分で可」「一部介助」「全部介助」で評価し、全部介助が1つ以上、一部介助が2つ以上でその状態の継続が認められる場合
  • 「問題行動(攻撃的行為、自傷行為、火の扱い、徘徊、不穏興奮、不潔行為、失禁の7項目)」を「重度」「中度」「軽度」で評価し、1項目以上が重度または中度でその状態の継続が認められる場合
  • 「日常生活動作」「問題行動」のいずれかに該当する場合

また、要介護の認定を受けた家族は配偶者、父母、子供、配偶者の父母の場合に申請が可能です。祖父母や兄弟で制限申請を行う場合には条件があるため、事前の確認が必要です。

深夜労働の場合の計算方法

深夜労働の場合、さまざまな割増賃金が該当する場合があります。ここでは、それぞれのケースに沿って計算方法を解説していきます。

深夜手当の計算式

深夜手当の計算式は以下のように計算します。

  • 深夜手当=1時間あたりの賃金×深夜割増率(25%)×深夜労働時間数

1時間あたりの賃金を算出する際に、月給制の場合は次のように計算します。

  • 1時間あたりの賃金=月給÷1年間における1ヶ月の平均所定労働時間

該当の労働者ごとに深夜手当の該当金額を算出していきます。そして、算出した金額を基本に、時間外手当などの割増賃金が加算されていきます。

法定労働時間外の深夜労働の場合

法定労働時間とは、1日8時間の労働または週に40時間の労働が該当します。この時間を超えて働き、かつ、その労働時間が深夜の時間帯に該当する場合は、「深夜手当」に「時間外手当」が通常料金に加算されます。

時間外手当の割増率は25%であるため、深夜手当と同様の割増率です。そのため、時間外手当の25%と深夜手当の25%が合算され、通常賃金に50%以上を上乗せした割増賃金が必要になります。

法定休日の深夜労働の場合

法定休日とは、使用者から与えられる少なくとも毎週1回の休日、もしくは4週間を通じて4日以上の休日のことです。

こうした法定休日に深夜労働を行った場合は、通常賃金に「休日手当」と「深夜手当」が加算されます。休日手当の割増率は35%のため、深夜手当の割増率と合わせて60%以上が上乗せされた割増賃金が必要になります。

なお、法定休日の該当日については、土日休みの企業であっても、土日の両方が法定休日ではなく、土日のどちらかが法定休日になるため注意が必要です。

深夜労働が日付をまたぐ場合

日付をまたぐとは、単純に0時を超えて働いていたということではありません。厚生労働省では、1日を午前0時から午後12時までの暦日を指しています。

そのため、労働者が勤務の始業時刻を開始としたした日から、2暦日に渡って仕事を行った場合には、日付をまたぐ労働とされます。具体的には次のケースです。

  • 始業時刻:午前9時
  • 終業時刻:午後6時(休憩1時間)
  • 勤務時間:6月1日午前9時〜6月2日午前10時

割増賃金計算について

  • 6月1日午後6時~午後10時:時間外手当(25%)
  • 6月1日午後10時~6月2日午前5時:時間外手当(25%)+深夜手当(25%)
  • 6月2日午前5時 ~ 午前9時:時間外手当(25%)

管理監督者の深夜労働の場合

管理監督者の場合は、深夜の時間帯に働いた「深夜手当」のみが適用されます。時間外手当などは適用対象外になります。なぜなら、労働基準法第41条2号によって管理監督者は労働時間、休憩および休日に関する規定は適用除外となるからです。深夜手当の割増率は、労働者と変わらず25%です。

固定残業代制の深夜労働の場合

固定残業代制とは、一定の決まった金額を残業代として支払う制度です。企業側は、毎月の残業代を計算することがないため、多くの企業が導入しています。

しかし、固定残業代としても、基本給と深夜手当の区別は必要です。そのため、固定残業代のうちどの部分が基本給であり、どの部分が深夜手当なのか区別しておくことが大切です。

根拠がなければ、きちんと運用できているとはいえないため、就業規則等で明確にすることが求められます。

みなし労働時間制の場合

みなし労働時間制とは、実際の労働時間ではなく、すでに一定の時間は労働したことにするとみなす制度です。みなし労働時間制の場合でも、基本的な時間と深夜帯の時間帯は分けて考える必要があります。

労働基準法規則24条の2第1項によって、みなし労働時間制が適用される場合でも、使用者は深夜残業割増賃金・休日労働割増賃金について支払義務があると明記されているからです。

深夜労働への対応に向けて企業がすべきこと

深夜労働への対応は規則を取り入れることはもちろん、ツールや職場環境を改善することも大切です。中でも、企業がやるべきことには次の2点が挙げられます。それぞれについて解説していきます。

企業がすべきこと

・労働時間の把握
・業務効率化への改革

労働時間の把握

どの従業員が深夜労働を行っているかは、正確に把握しなければいけません。そのためには、雇用契約を結んでいるすべての従業員の労働時間をきちんと把握することが求められます。

しかし、規模が大きくなればなるほど、労働時間の把握などは難しくなっていきます。紙やExcel(エクセル)で管理をしている場合は見落としなどが発生することもあり、知らないうちに罰則の対象になっている可能性もあります。

そのため、勤怠管理システムなどのツールを導入することで、労働時間の把握を行うことがおすすめです。システム上ですべての従業員の労働時間を把握できるのはもちろん、違反につながる前にアラートなどによって通知を行ってくれるからです。

健全な労働環境を整えるのであれば、勤怠管理システムなどを活用して労働時間の把握を行うと良いでしょう。

業務効率化への改革

残業等により深夜労働が増えている場合は、業務効率化への改革へ動くことも大切です。残業などは従業員の長時間労働につながってしまうため、休む時間も取れず、生産性も低下してしまいます。

アナログで行っている業務をデジタル化するなど、業務効率化を図ることで、深夜労働にまで至らなくすることも良い方法だといえます。

まとめ

深夜労働は、一部の企業や事業を除き推奨されているものではありません。残業等によって深夜労働が行われているのであれば、組織の抜本的な改革は速やかに行うべきでしょう。

また、深夜労働に対する割増賃金などをきちんと支払わなければ、大きな罰則を受けてしまいます。そうならないためにも、ツールを導入するのは良い選択です。

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