2018年の働き方改革法案の成立によって、従業員が年次有給休暇を年5日取得することを企業側に義務付けられました。法令違反を起こしてしまうと、罰則にも至ってしまう厳格なものとなっています。
しかし、有給休暇の取得は従業員の裁量に任せているため、どのように有給休暇の取得を促せば良いかわからない、また有給休暇の管理を行えば良いかわからないという企業は少なくありません。そこで今回は、年次有給休暇の義務化の理由から、対象者は誰か、実際の運用方法について解説します。
年次有給休暇とは
年次有給休暇とは、労働基準法によって定められた条件を満たした労働者すべてに与えられる休暇のことです。条件は以下のように定義されています。
- 雇い入れ日から6ヶ月が経過し、継続勤務している
- 全労働日の8割以上に出勤をしている
4月から入社した新入社員や中途社員がいた場合には、6ヶ月後の10月から有給休暇の付与が発生します。また、年次有給休暇の付与日数は勤続年数が多ければ多いほど、与えられる日数が増えていきます。
加えて年次有給休暇の付与については、付与を行うタイミングや繰越についても規定があるため遵守することが求められます。規定は次のとおりです。
- 労働者が請求する時季に付与を行うこと
- 年次有給休暇の時効は2年間、なお前年度の未取得日数は翌年に繰り越すこと
- 賃金の減額など不利益な取り扱いを禁止すること
従来、従業員のタイミングに合わせて取得を任せる企業がほとんどでしたが、社会的背景が変わってきたことで、企業による年次有給休暇の管理が求められてきました。
年次有給休暇が重要な背景
年次有給休暇は労働者が得られる正当な権利です。年次有給休暇の取得はすべての企業が対象となり、きちんと休むことによって生産性向上などを促しています。
制度の目的は、従業員の心身の疲労を回復させ、ゆとりのある生活を保証することです。従業員の心身に関するメリットはもちろん、企業側にとっても企業イメージの向上などにつながります。
そのため、適切な年次有給休暇が与えられる環境は、従業員の長時間労働の防止や企業イメージ向上による新たな人材の確保などに重要になってきます。
有給休暇5日取得の義務化と罰則
働き方改革法案の成立によって、2019年4月以降、事業者は所属して条件を満たしている全従業員に対して、年5日の年次有給休暇を取得させなければならなくなりました。
しかし、事業者側が日時を指定し有給休暇を取得させることは望まれておらず、従業員の意見を聞くことが義務付けられています。そのため、できる限り従業員側の希望に合う日時に取得できるようにしなければなりません。
また、違反した場合には、罰金による罰則が規定されています。年5日の有給休暇取得義務の規定と罰則については、具体的に次のとおりです。
・年次有給休暇が10日以上付与される労働者が対象(管理監督者や有期雇用労働者を含む)
・有給取得を行う時季について、従業員への意見聴取義務
・就業規則の規定義務
・年次有給休暇管理簿の作成と3年間の保存義務
・事業者が違反した場合には、従業員1人つき、罰金30万円
参照元:年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説(厚生労働省)
罰金については、従業員1人につき30万円なので、10人発生した場合には300万円にもなってしまいます。そのため、一層の注意が必要です。
年5日の有給休暇取得義務が施行された理由
働き方改革法案によって、年5日の有給休暇取得義務が施行された理由は、主に次の3点が挙げられます。それぞれの理由について解説していきます。
・有給取得率の改善のため
・ワークライフバランス改善のため
・職場環境改善のため
有給取得率の改善のため
日本は、先進国の中でも有給取得率が低いことで知られています。エクスペディアが2021年に行った調査によると、日本の有給取得率は60%となっており、調査対象国16ヶ国中14番目の取得率となっています。
欧米各国では有給取得率は高く、アメリカでは80%、フランスで83%、イギリスで84%です。また、ドイツやカナダはさらに高く、93%となっています。
こういった状況から日本の有給取得率は低いことがわかり、改善の一つとして捉えられてきました。そのため、年5日の有給休暇取得義務が施行されたのです。
ワークライフバランス改善のため
ワークライフバランスとは、仕事上の業務はきちんとこなしながら、育児や子育て、趣味や自己啓発の時間を持てる健康的な生活を目指すものです。
しかし、昨今の日本では、長時間労働を行なっている労働者は少なくありません。長時間労働では心身に不調をきたしてしまい、生産性のある仕事を行うことはできないでしょう。
日本では、1時間当たりの労働生産性が先進7ヶ国の中で、最下位という調査結果もあります。
参照元:労働生産性最下位について(日本商工会議所)
加えて、厚生労働省の調査によれば、有給取得にためらいがあると回答した労働者の割合は65.5%と半数以上に上りました。
参照元:長時間労働抑制策・年次有給休暇の取得促進策等について(厚生労働省)
こうしたプライベートと仕事の時間を適正なバランスで、十分に確保ができないなどの背景から有給休暇取得義務が施行されています。
職場環境改善のため
日本では少子高齢化社会に突入しており、2020年には7,300万人いた生産年齢人口が、2050年には4,418万人にまで落ち込んでしまうと示唆されています。
参照元:生産年齢人口(内閣府)
そのため、労働者側はより良い条件を求めて転職などに至るケースが増えてきました。こうした状況に対応するために、企業側は従業員に適切な職場環境を提供することが求められるようになっています。
有給休暇の取得も、職場環境改善の一環です。有給が付与されたとしても、利用率が低ければ意味がありません。つまり、有給休暇を取得しやすい環境が求められています。
有給取得率が高い企業は、ワークライフバランスが整っており、職場環境がきちんとしていると認識されるでしょう。そのため、有給休暇取得義務が施行されています。
有給休暇5日取得義務の対象者
年5日の有給取得義務が発生する対象者は次のとおりです。
・年次有給休暇が10日以上付与される労働者(管理監督者や有期雇用労働者を含む)
正社員のみならず、派遣社員やパート社員、アルバイトや管理観察者も対象になります。細かく見ていくと下記のように分けられますが、すべてが対象になるため、例外はありません。
・入社後6ヶ月が経過した正社員、フルタイム契約社員
・入社後6ヶ月が経過した週30時間以上勤務のパートタイマー
・入社後3年半以上経過した週4日出勤のパートタイマー
・入社後5年半以上経過した週3日出勤のパートタイマー
有給休暇5日取得義務に対応するための運用方法
年5日の有給休暇取得義務に違反をしてしまうと、罰則を受けてしまいます。
そのため、本章では罰則を受けず、労働基準法に対応するための運用方法について解説していきます。具体的には、次の5点です。それぞれの運用方法について解説していきます。
・年次有給休暇取得計画表の作成
・個別指定方式の導入
・有給休暇未消化の従業員へアナウンス
・年次有給休暇管理簿の作成・保存
・勤怠管理システムの導入
年次有給休暇取得計画表の作成
年次有給休暇取得計画表とは、四半期ごとや月間ごとの中で、大まかな年次有給休暇を付与するタイミングや取得するタイミングを記載している計画表です。従業員は年次有給休暇取得計画表を見ることで、希望日に有給休暇を申請しやすくなります。
また、企業側もどの従業員がどのタイミングで有給休暇を取得するかが可視化されるため、業務計画の予定が立てやすいというメリットがあります。なお、年次有給休暇管理は、年度の後半になればなるほど管理が難しくなるため、四半期や月間などの細かく作成することが大切です。
個別指定方式の導入
個別指定方式とは、企業側が従業員に対して日付を指定して有給休暇を取得させるものです。
前述したように、有給取得に関しては従業員への意見聴取義務があるため、コミュニケーションをきちんとしたうえで決定する必要があります。有給取得の利用促進はもちろん、柔軟な対応が可能なのも魅力的な方式です。
従業員の有給取得状況を確認し、年5日に達していない従業員の割合が少ない企業におすすめです。
有給休暇未消化の従業員へアナウンス
有給休暇を促すために、年5日に達していない未消化の従業員に対してアナウンスをかけることも大切です。該当の従業員はもちろん、該当従業員の上司に対してもアナウンスをすることで、有給取得を促していきます。
なお、期限の後半になればなるほど、取得するのが難しくなってくるため、自社内で期日を決め、余裕を持ったアナウンスをすると良いでしょう。また、同時にアナウンスがきちんと行える体制や職場環境作りも大切です。
年次有給休暇管理簿の作成・保存
年次有給休暇管理簿とは、年次有給休暇が10日以上発生する企業に対して、実際の有給取得状況を管理するためのものです。
企業には、年次有給休暇管理簿の作成と管理、従業員に対して有給休暇を付与した期間中および期間満了から3年間の保存を行う義務があります。
管理簿には、従業員ごとの有給休暇を取得した時期や日数、基準日が記載されている必要があります。指定のフォーマットなどはないため、システム上で管理することも紙で管理することも可能です。しかし、従業員の有給取得について確認を行うものであるため、勤怠管理システムなどで効率的に作成・保管することがおすすめです。
勤怠管理システムの導入
勤怠管理システムを導入することで、自社の従業員の正確な出勤時間や退勤時間、労働時間や有給休暇の取得状況までを一括で管理することが可能です。そのため、管理者の手間や負担が大幅に軽減されることにつながります。
勤怠管理システムの中には、有給休暇の取得状況が芳しくない従業員に対してアラート通知を送信し、自動的に有給取得を促す機能が付いているものもあります。加えて、年次有給休暇管理簿作成機能も付いているため、業務効率化につながります。
また、勤怠管理システムの多くが、働き方法案などの改定などにスムーズに対応できるため、法令違反のリスクが格段に減少されます。
勤怠管理システムの「有給管理機能」を活用する
勤怠管理システムには、「有給管理機能」が備わっていることが一般的です。この有給管理機能を活用することで、従業員の有給取得について効率的に管理することが可能です。
具体的には、次の3点で効果を発揮します。
・有給休暇の情報を一元管理
・有給休暇を未消化の従業員へのメール配信
・年次有給休暇管理簿の作成が容易
有給休暇の情報を一元管理
勤怠管理システムには当然ですが、自社で雇用契約を結んでいる全従業員の勤怠についての情報が入っています。そのため、どの従業員でも勤怠管理システムの管理画面を見れば、有給休暇の取得状況や申請状況について確認することが可能です。
たとえば、「有給休暇取得状況の確認機能」では、管理者がリアルタイムで従業員の有給休暇取得状況を確認することが可能です。未取得の従業員にソートをかけるなどすることで、現在の状況を正確に把握することにつながります。
また、従業員側も自身の取得状況について確認ができるため、取得漏れの防止につながります。
有給休暇を未消化の従業員へのメール配信
今年度年5日の有給休暇を未消化の従業員に対して、有給取得を促すメールを配信することが可能です。これらのメールは、管理者がシステム上から対象者に対して一件一件送信するのではなく、システム上でアラート設定した日付までに取得が足りていない場合に、自動で送信されるものです。そのため、管理者側は常に従業員の有給休暇取得状況を認識している必要はありません。
また、メールの配信で有給休暇を促したとしても、実際に従業員が有給休暇申請を行わなければ意味がありません。アラートから数日経っても申請がない場合などは、個別にコミュニケーションを取り、有給休暇の取得を依頼することが必要です。
年次有給休暇管理簿の作成が容易
前述したように年次有給休暇管理簿の作成は、労働基準法によって定められています。
フォーマットは決まっていないため、どのような形での作成でも問題ありませんが、勤怠管理システムを活用することで容易に作成が可能です。勤怠管理システムのデータから簡単に出力・作成ができ、他のExcelシートなどに転記する必要がないからです。
有給管理機能を搭載している勤怠管理システム
有給管理機能を搭載している勤怠管理システムは、主に下記の3点が挙げられます。それぞれの勤怠管理システムについて解説していきます。
・ジョブカン勤怠管理
・KING OF TIME
・タッチオンタイム
ジョブカン勤怠管理
株式会社Donutsが提供するジョブカン勤怠管理は、給与計算や採用管理なども手がけるジョブカンシリーズの一つです。そのため、既存システムとしてジョブカンシリーズを導入している場合には特におすすめの勤怠管理システムです。
ジョブカン勤怠管理では、有給管理機能はもちろん、自社独自の休暇タイプなどがあった場合には細かく設定することも可能です。また、働き方改革法案等にも対応しているため、法令違反のリスクを心配することなく運用することにもつながります。
料金プラン
- 1人200~500円/月
公式サイト
KING OF TIME
株式会社doubLeが提供するKING OF TIMEは、18年以上の運用実績を誇るクラウド型の勤怠管理システムです。
有給管理機能では、基本的な有給管理はもちろん、代休や振休、夏季休暇や会社独自の休暇設定とその有効期限の設定も可能です。加えて、従業員ごとに有給残日数が可視化できるため、年5日の有給取得に至っていない従業員がすぐにわかります。
こういった管理は、離れた拠点があったとしてもリアルタイムで管理できるため、即座に対応可能です。
他にも、フレックスなどの変形労働制にも対応しているため、従業員の個別スケジュール作成も容易に行えます。また、残業管理機能には普通管理や休日残業、割増残業など未払い賃金などが起こらないように設定されています。そのため、過剰な残業防止にも役立ちます。
料金プラン
- 1人300円/月
公式サイト
Touch on Time
株式会社デジジャパンが提供するTouch on Time(タッチオンタイム)は、導入企業が40,000社以上を誇るクラウド型の勤怠管理システムです。
有給管理機能では、さまざまな休暇の設定や有給の自動付与が可能です。また、従業員毎の有給取得状況の確認ができるため、年5日の有給取得に至っていない従業員を容易に把握することが可能です。
加えて、有給休暇の期限設定ができ、期限までに取得できていない有給休暇については、お知らせメールの送信ができます。そのため、取得漏れが起こりにくくなります。
Touch on Timeでは、ICカード認証や携帯やパソコンからの打刻、指静脈認証などさまざまな打刻の方式があるため、自社の業務体系に合わせて運用ができることも魅力的なポイントです。
料金プラン
- 初期費用無料、1人300円~/月
公式サイト
まとめ
日本の有給休暇取得率はまだまだ低いままといわざるを得ません。企業は従業員に対して有給休暇の取得を促すことはもちろん、有給休暇を取得しやすい職場環境を整えることが大切です。
年5日の有給取得がなければ、罰則を受けてしまいますが、勤怠管理システムを導入するなど対策を行えば、きちんとした運用が行えます。有給休暇の取得は、従業員側にも企業側にもメリットが大きいので、ぜひ適切な運用を行ってみてください。
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従業員もスマートフォンで内容確認や署名が行えるため、スムーズに作業を終えられます。個人情報の回収〜管理もWeb上で行えるため、従業員と何度もやり取りを交わす必要はありません。労務管理システムを検討している方は検討してみてください。