有給休暇の付与の条件

離職率の増加を回避し高いモチベーションで従業員に働いてもらうためには、適切な有給休暇管理と有給消化率の向上が必要です。有給休暇の取得は労働基準法で義務付けられている労働者の権利であり、正しく付与し消化を促さなければなりません。

今回は、有給休暇付与の条件や適切な有給の計算方法について解説します。

年次有給休暇の発生条件

年次有給休暇は、一定の条件を満たした労働者が受けることのできる、給与の支払いが発生する休暇日を指します。有給休暇の発生条件は、主に次の2つです。

働き始めてから6ヶ月以上が経過していること

有給休暇を受けるためには、まずその職場で働き始めてから6ヶ月以上が経過している必要があります。いわゆる継続勤務日数と呼ばれるもので、労働者が雇用されてからカウントを始めます。

継続勤務日数は、その会社に雇用されてからの日数であるため、雇用形態は問いません。そのため、アルバイトから正社員に変わった場合でも、アルバイト期間も勤続勤務日数に含まれるため、正社員になったらカウントはゼロになるということはありません。

再雇用者の場合も同様で、労働契約を結び直す場合であっても、労働者がこれまでどれくらい勤続したかを踏まえた有給計算が必要です。

上記期間中の8割出勤していること

もう一つの条件は、上述の期間中、労働者が勤務日数の8割を出勤して過ごしていることです。

極端な例ですが、たとえ雇用されてから6ヶ月が経過している場合でも、労働日のうち2割しか出勤していない場合、有給休暇は適切に付与されない点に注意が必要です。

労働日については育児休暇や産後休暇、労働中の事故が原因で休養していた日数も出勤とカウントされます。そのため、これらの事情も踏まえて適切に勤務日数をカウントしなければ正しい有給の付与が行われず、労働基準法に違反する可能性があります。

年次有給休暇の付与日数

有給休暇は、その付与日数が労働者の勤続年数や雇用形態に応じて異なります。ここでは、フルタイムの労働者とパートタイムの労働者に分類し、正しい付与日数の計算方法を知っておきましょう。

フルタイムの労働者の場合

フルタイムの労働者は、週5日以上の労働日数や、所定の週あたりの労働時間が30時間以上のケースを指します。

フルタイムの労働者の場合は、6ヶ月以上の勤務で1年あたり10日の有給消化が可能です。1年6ヶ月になると11日、2年6ヶ月で12日と、連続勤務日数が増えるごとにその大きさが増大していく点に注目です。

パートタイムの労働者の場合

上記の要件を満たさない労働者は、アルバイトやパートタイムの労働者です。

週あたりの所定の労働日数に応じた有給の付与が行われ、1年間の所定労働日数が48日から72日の場合、半年で1日、121〜168日の所定労働日数で半年働いた場合は3日と、調整が行われています。

そのため、フルタイム労働者とパートタイム労働者の両方を雇用している場合、それぞれを区別して管理する必要があります。

半日休暇・時間単位年休の扱い

給与明細に記された有給休暇残日数

有給休暇の付与を考える際、1日単位でカウントしない休暇の付与も可能です。ここでは、半日休暇と時間単位年休の扱い方について、解説します。

半日休暇の場合

有給休暇は基本的に1日単位でのカウントが一般的ですが、午前休や午後休のような半日休暇も付与できます。

半日休暇については法定規則がないため、会社のルールに合わせた付与を行えます。

時間単位年休の場合

また、時間単位で有給を付与できる時間単位年休も存在します。こちらは法定規則が定められており、年5日の範囲内での取得となっているだけでなく、分単位での取得は認められていない点に注意しましょう。

年次有給休暇の時季変更権とは

有給休暇には、時季変更権と呼ばれる法定規則が存在します。これは使用者が労働者に対して行使できる権利の一つで、特定期間に休まれてしまうと業務に重大な支障をきたす場合、有給の取得時期を変更できるというものです。

ただ、時季変更権を行使するのは奥の手であり、ただ繁忙期だからという理由で権利を行使することはできません。どうしても人手が確保できない、一斉に労働者が有給を取得してしまい、現場から人がいなくなるような場合に行使できるものです。

こういった事態を回避するため、労働者にはあらかじめ有給の取得時期を計画した上で取得してもらう制度を採用している企業もあります。「年次有給休暇の計画的付与」と呼ばれるもので、あらかじめ有給取得期間を共有し、現場の混乱を回避する方法です。

有給の取得は義務化されているため、こういった対策を施した上で、事前にトラブルを回避しましょう。

有給休暇の取得率を高めるメリット

有給休暇の取得は、現場から人がいなくなるためデメリットが大きいようにも思えますが、長期的に見れば多くのメリットが期待できます。ここでは、有給休暇の取得率を高めるメリットについて解説しましょう。

メリット

・従業員のモチベーションが向上する
・生産性向上や業務効率化につながる
・企業ブランド認知の向上につながる

従業員のモチベーションが向上する

有給の取得は、単純に従業員の労働意欲向上につながります。基本的に任意のタイミングでリフレッシュ期間を定休日とは別途設けられるため、休暇に向けて頑張る機会を増やすことができます。

これまで有給休暇の付与に消極的であった場合、積極的な有給取得の文化を広めるだけで、職場の雰囲気が大きく変わる可能性もあります。

生産性向上や業務効率化につながる

有給休暇の取得でモチベーションを高められれば、日々の業務の生産性向上にも期待できます。また、休みの取得に合わせて、限られた時間でしっかりと業務をこなすスケジュール管理も必要になり、従業員が効率よく働くためのきっかけを作れます。

企業ブランド認知の向上につながる

有給休暇の取得率が上がると、従業員の生活を優先するホワイト企業としての認知度も高まります。多くの企業は人材不足に悩まされていますが、人材確保の重要なポイントとなるのが働きやすい職場環境です。

有給を正しく取得し、無理なく働ける職場であることをアピールするきっかけとなるため、優秀な人材からの注目も集められます。

有給休暇を付与した際の賃金計算方法

有給休暇は、いわゆる賃金が発生する休暇であるため、有給取得の際には正しい賃金の計算が必要です。有給休暇を付与する場合には、主に次の3つの方法で賃金の計算を行います。

通常出勤と同額を支払うケース

最も簡単なのは、通常出勤と同額を支払うものです。無断欠勤などとは異なり、有給休暇の取得時も出勤とカウントし、通常通り月給を支払います。管理の際の負担は最も小さいので、わかりやすい制度といえます。

平均賃金を基準に支払うケース

通常出勤とは差別化したい場合、平均賃金を基準にするという方法があります。平均賃金とは、直近3ヶ月間の賃金総額を3ヶ月の日数で割ったものです。

有給取得時の日数分をこの数字で補填し、最終的な支給額を決定します。ただ、労働日の少ない職場などでは最低保証額に抵触する恐れもあるため、この点に注意の上算出しましょう。

標準報酬月額を用いるケース

他にも、標準報酬月額を有給に適用する方法があります。標準報酬月額は健康保険料の算定に使われている等級ごとの報酬を指すもので、社会保険に加入している場合はすでに算出されています。

この算出額を日割り計算するだけなので、すでに計算済みの場合は比較的実施が容易です。

年次有給休暇を付与する際の注意点

年次有給休暇を付与する場合には、次の点に注意のうえ実施する必要があります。

注意点

・労働基準法違反に注意する
・年5日の有給休暇取得は義務化されている
・有給休暇の買い取りはやむを得ない場合のみにする

労働基準法違反に注意する

まず、有給休暇は労働基準法で定められている制度であるため、ルールに違反すると罰則が適用されます。このことは同法39条にて規定されており、所定の有給休暇を与えなかった場合には6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金刑が課せられることとなります。

近年は労基法が極めて厳格に取り締まられており、大企業では無理矢理にでも有給を取得させるケースも見られます。うっかりミスで労基法に違反してしまわないよう、細心の注意を払いましょう。

年5日の有給休暇取得は義務化されている

労働基準法では、年次有給休暇の付与条件を達成している労働者は、1年あたり5日の取得が義務付けられています。つまり、1年間に最低5日は必ず取得させなければなりません。

また、有給休暇の未消化分は来年度に繰越となるため、何日消費し、何日繰り越されるのかも適切に管理する必要があります。年5日の有給を取得させなかった場合、労基法違反となり30万円以下の罰金が課せられます。

有給休暇の買い取りはやむを得ない場合のみ許される

有給休暇を消化できずに退職する従業員がいる場合、選択肢として挙げられるのが有給の買取です。

基本的に、有給休暇の買取は本来の有給制度の意図とは反するため、違法とされています。使用者が「有給を買い取るから」と持ちかけるのはもちろん、労働者から有給の買取を提案された場合も、基本的には断らなければなりません。

ただし、例外的に有給休暇の買取が認められるケースもあります。主な例として、次のようなものが挙げられます。

例外的に有給休暇の買取が認められるケース

・退職が決まっていて退職日までに有給を消化できない
・有給の有効期限が近い
・法定基準よりも多い有給が与えられている

退職日が確定したけれど、どうしてもその日までに有給を消化できないという場合は、使用者と労働者が交渉することができますし、退職しない場合も2年間の有給の有効期限を消化しないまま迎えようとしている場合、買取を交渉できます。

また、上で解説した法定基準よりも多い有給休暇を社員に与える場合、その余剰分は買取を行うことができます。年5日の有給は必ず従業員に取得してもらうことは絶対として、どうしても有給が消化できない場合は上記のケースに当てはまるかどうか確認しましょう。

有給休暇管理に勤怠管理システムの導入がおすすめである理由

先ほどお伝えしたように、有給の管理は丁寧に行わなければ罰則が課される可能性もあり、ミスやどんぶり勘定が許されない領域です。そのため、多くの企業では勤怠管理システムを導入し、正しい有給休暇管理を実現しています。

最後に、有給休暇の管理に勤怠管理システムがおすすめの理由について解説します。

勤怠管理システムがおすすめの理由

・業務を自動化できるから
・ケアレスミスが激減するから
・名簿や賃金台帳と連携できるから

業務を自動化できるから

勤怠管理システム導入の最大のメリットは、業務を自動化できる点です。

タイムカードとシステムを連携すれば、勤怠情報を自動で更新してくれるため、そこから有給日数の自動計算も行われます。勤怠情報とエクセルを突き合わせながら計算する必要がなくなるため、非常に便利なサービスです。

ケアレスミスが激減するから

勤怠管理システムではほぼ全ての入力作業が自動化されるので、ヒューマンエラーが発生することもなくなります。ケアレスミスが原因で業務に支障をきたす心配がなくなり、効率化に貢献します。

名簿や賃金台帳と連携できるから

勤怠管理システムは既存の労働者名簿や賃金台帳とも連携できるので、社内のデータベースを統一するきっかけにもなります。データベースが煩雑化しており、情報の管理や検索が困難になっている場合、勤怠管理の自動化から進めていくと良いでしょう。

まとめ

有給休暇の発生条件や付与日数、賃金計算の方法などについて解説しました。有給休暇の消化は会社にとってメリットが大きいだけでなく、従業員にとって働きやすい職場づくりにも役立つため、積極的な日数管理と消化の促進が必要です。

有給休暇は賃金の発生する休暇ですが、通常通り賃金を支払う以外にも、平均賃金や標準報酬月額を使って計算する方法もあります。計算の手間と予算の都合を考えて、最適な計算方法を採用しましょう。

また、有給休暇を適切に管理していない、あるいは義務付けられた日数を消化できていない場合、労働基準法違反に抵触する可能性もあるため、組織の規模に関わらず適切な管理を実現しましょう。

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