HRテックとは

近年、業務のDXということばとともに「HRテック」というワードもよく耳にするようになりました。企業の人事担当をはじめ、採用活動や研修、組織管理をする方にとって、HRテックを活用してくことは今後重要な取り組みとなっていきます。

今回は、「テクノロジーを活用しながら上手に人事業務を推進していきたい」「人事部の人手が不足しているので、IT技術を使って業務量を調節したい」といったことにお悩みの方にむけて、HRテックについての説明や具体的な導入方法を伝授します。メリット・デメリットを踏まえながら活用していきましょう。

HRテックの概要

はじめに、HRテックとは何か、詳しい解説や現在抱えている課題について説明していきます。正しく理解したうえで導入してくことが重要です。

HRテックとは何か?

「HR」(Human Resources/人材活用・人事)と「テクノロジー」を掛け合わせて「HRテック」と呼ばれています。ただテクノロジーを導入することが目的なのではなく、AI(人工知能)やIT技術を通して課題を解決に導き、より効率の良い業務を推進していけるようにする取り組みのことを指しています。

これまで人の手を介して行うことが多かった人事業務を、ツールやシステムに置き換えていく動きが推進されています。

HRテックとDX

HRテックは、DXと非常に強く結びついています。DXとは、Digital Transformationの略称です(トランスが交差の意味を持つため、DTではなくDXと呼ばれます)。

デジタル化をとおして人々の生活を豊かに変える動きをDXと呼んでおり、ビジネスでは業務をデジタルツールに移行することで効率化し、生産性を上げるために行います。DXが広い意味合いで使われている中で、人事領域に絞ったIT・テクノロジー活用のことをHRテックの位置づけにしているのです。

HRテックの導入は作業時間を削減するような変化だけではなく、経営戦略に影響を与えたり、新しい事業拡大に貢献したりという結果をもたらすことにもつながります。

HRテックの課題

HRテックの課題には、次の2点が挙げられます。

  • 煩雑化している業務内容
  • 活用する人材不足

煩雑化している業務内容

1つ目は、そもそも業務の洗い出しが行われていないため、属人的な管理になっており、全体像を誰も把握できていないケースです。「業務量が多くて複雑になっている」ということしかわかっておらず、HRテックの導入が本当に必要なのか判断ができなくなります。

この場合、業務の洗い出しを行うだけで解決します。すべての作業を整理してみましょう。

活用する人材不足

2つ目は、活用する人材が不足しているという状況です。この場合、ITに詳しい人材を補充するか、苦手なスタッフでも活用できるくらいシンプルで簡単なツールを探すことで解決します。

カスタマーサポートのようなサービスがついたシステムも多いため、重視して探してみても良いでしょう。

主なHRテックの種類

HRテックには3つの種類があります。具体的なサービスの種類と特徴について解説していきます。

労務・勤怠管理システム

1つ目は労務・勤怠管理を行うシステムです。コロナ禍をきっかけにテレワークを行う企業が増えていることで、これまで以上に勤怠管理が複雑になっているため需要が増加しています。

また、労務管理システムを導入することで、入社手続きや年末調整など、これまで人事や事務を圧迫していた作業時間を大幅に短縮させることが可能です。ミスを減らすことにもつながり、結婚や引っ越し時の書類提出や有給申請などをシステム上で完結させることができるようになります。

採用管理システム(ATS)

2つ目は採用管理システムです。採用活動は、求職者の個人情報を扱う次のようなシーンが多くあります。

  • 求人原稿の作成/管理
  • 応募受付対応
  • 応募者管理

採用管理システムを導入することで、応募者の個人情報や選考の進捗が正確に把握できるようになります。

具体的には、次の作業をサイト上で完結させることができ、複数の担当者で同じ目線を持ちやすくなります。

  • 求人原稿の作成・入替・管理
  • 履歴書や職務経歴書など、応募者の個人情報管理
  • 応募者との面接設定のやりとり・スケジュール登録の一括管理
  • 面接評価の社内共有
  • 面接結果の通知・管理

たとえば、派遣会社のように募集案件が膨大にあり、それぞれの案件に応募が来る場合、ペーパー管理では人的ミスによるトラブルが起きやすくなるため採用管理システムの導入は必須です。

人材管理・タレントマネジメントシステム

3つ目は人材管理やタレントマネジメントシステムです。システムを導入することで、社員の能力を項目別に数値化して管理することができるようになります。

売上や目標の達成率のような数値化できるものはもちろん、勤務姿勢や論理的思考などの定性的な部分も自己評価と上司による評価で数値に置き換えることで能力値を管理することが可能です。

昨年と比較してどの程度数値が上がったか確認することで、昇給や昇格の目安になったり、個々の能力を集めて組織作りに活用したりします。特に、部署異動や新規事業立ち上げの人事などに活用していきましょう。

これまで感覚的な人事だった企業も、タレントマネジメントを使うことで能力を総合的に判断することができるようになり、実際に人事異動を行う際に社員の説得にも活用しやすくなります。

優秀な組織を作ることができるようになれば、事業拡大や経営成長なども見込めるようになります。人事は会社の将来を決める重要な判断になるため、最適化が可能なHRテックの導入が推進されているのです。

HRテックの市場規模

HRテックの市場規模は、どんどん拡大しています。デロイトトーマツミック経済研究所が発表した「HRTechクラウド市場の実態と展望 2021年度版」によると、2021年度は578億円、2026年度までに2,270億円に拡大すると予測しています。

採用管理クラウド/人事・配置クラウド/労務管理クラウド/育成・定着クラウド以上、それぞれの分野で広がりをみせていくでしょう。

コロナ禍も後押しして今後ますますHRテックの市場規模は膨らんでいき、日本でも大手から中小企業にも浸透していく可能性が高いです。こうした予測を踏まえても、未導入の企業は検討を進める必要があります。

HRテックを導入するメリット

HRテックの導入を検討している企業にとって、目標設定や将来像をイメージするためにも、得られるメリットは気になるポイントでしょう。ここでは、3つのメリットを解説していきます。

採用活動を効率化できる

採用管理システム(ATS)の導入により、採用活動を大幅に効率化することができます。

応募から面接までのフローでスピード感のある対応が可能になったり、進捗管理が正確にできるようになったりします。それにより、求職者への連絡漏れや、人事担当と上司や現場など社内間での情報連携が早くなるでしょう。

また、面接後に評価のデータを記録しておくこともできるため、これまで伝達や共有に使っていた時間を別の業務に割くことができます。これまで個人情報管理のために出社が義務化されていた企業でも、セキュリティの強いATSシステムを活用すれば、テレワークでの業務も可能です。

社員や組織の管理が可能になる

タレントマネジメントシステムの導入は、社員や組織の数値化や最適化につながります。

社員の能力を評価するのは上司の裁量で、プロセスと結果のバランスも定性的な場合がまだまだ多いのが現状です。そこで社員の能力を項目ごと数値にあてはめることで、偏った評価を失くすことができます。

組織を作るときにも、不足を補いながらバランスの良いチームを作ったり、新規事業のために突破力の高いチームを作ったりとデータをベースに最適化することが可能です。

労務管理が簡略化できる

労務管理の簡略化も、人事にとって大きなメリットです。

元々、年末調整の資料作成や提出確認は繁忙期を作り出す大きな要因になっていました。しかし、労務管理システムを導入することで、従業員に期日までに入力作業を任せるのみとなったり、ミスがないか確認する手間が省けたりします。

また、有給の申請やテレワーク時の勤怠管理など、複雑化しつつある働き方にも柔軟に対応しやすくなります。

HRテックを導入するデメリット

HRテックを導入する際に、デメリットについても把握しておく必要があります。きちんと理解して打ち手や対策を考えておきましょう。

導入・ランニングコストがかかる

HRテックの導入には、初期費用や月額のランニングコストがかかります。初期費用が無料のものや、トライアルプランがあるサービスもありますが、0円〜40万円が相場です。

月額料金は、1ユーザーごとに料金が決まっているケースが多く、従業員数や企業規模で見積金額が変わります。経営陣に理解してもらえなければ、「コストをかけずにこれまで同様アナログな手作業で進めていけ」といわれてしまう可能性があります。

決裁を取る際には、HRテックの導入で中長期的にどのくらい人件費がカットでき、作業効率があがるのか、トラブルやミスが減少するかについて明確な数値を出して提出することが重要です。

周りの理解・協力が必要となる

HRテックの導入に、人事部以外の理解や協力は不可欠です。経営陣を動かすだけではなく、他部署にもシステムの活用方法を理解してもらい、協力を呼びかけた際に応じてもらう必要があります。

一概にはいえませんが、人事部の社員は個人情報を扱っていたり、給与や評価について把握していたりすることもあるため、あえて他部署との交流を取ってない場合もあります。そうした状況を逆手に取り、普段機会が少ないからこそチャンスだと捉えて発信・説得をすることが重要になります。

課題を提示し、導入背景やゴールをきちんと伝えることで、人事業務への理解や巻き込みを成功させることが可能です。仕組みを作り、積極的に周囲へのアプローチを行っていきましょう。

情報漏洩のリスクがある

HRテックを活用していく中で、情報漏洩のリスクがあることは十分に理解しておく必要があります。求職者や社員の個人情報を管理するシステムから、万が一情報が漏れてしまうと大きなトラブルに発展してしまいます。

ただ、情報漏洩のリスクについてはペーパー管理でも同じことがいえます。リスクを承知した上で、セキュリティレベルの高いシステムを選んだり、トラブル防止のための契約書の取り交わしなど社内ルールの整理を行ったりしていきましょう。

HRテックの導入フロー

実際にHRテックを導入しようと決めたら、どのようなステップで進めていけば良いのでしょうか?ここでは、5段階に分けて導入フローについて解説していきます。

現状の人事制度の課題を抽出する

最初に重要なのは、現状把握です。

業務を洗い出し、それぞれにどれだけの時間と人材を費やしているか確認しましょう。その中で、課題となる点が見えてくるはずです。

  • 作業時間が多い
  • ミスが多い
  • 社内共有が上手くいっていない
  • 組閣に偏りがある

など、人事に関連することをピックアップし、俯瞰して見ることが重要です。

目的や目標を決める

業務の中で課題を発見することができたら、それらすべてを解決したらどういった未来が描けるか考えていきましょう。課題を解決するだけではなく、目標を選定することが重要です。

特に、新しいシステムの導入などを行う際に、目的や目標がきちんと定まっていないと周りからの協力を得られにくくなります。既存のシステムに慣れていたり、不具合を感じていなかったりする社員に対しても協力を仰ぎやすいようなゴール設定を意識しましょう。

目標に沿ったサービスを探す

ゴール設定ができたら、さまざまなHRテックサービスを比較検討しましょう。次のようなポイントを踏まえて探すと良いでしょう。

  • 自社にとっての課題をすべて解決できるサービスかどうか
  • 初期費用・ランニングコストの採算は合うか
  • カスタマーサポートは充実しているか
  • サイト設計はシンプルで使いやすいか
  • 自社で使っている既存システムとの連携は可能か

最後におすすめのサービスを紹介しているので、ぜひ最後まで読んでみてください。

既存データを移行しながら活用する

サービスが決まったら、既存データを移行していきましょう。データ量にもよりますが、ここで既存データを漏れなく移行することはその後の活用に影響します。

さらに、新しいシステムを社員に浸透させるためには、次のような取り組みが効果的です。

  • 説明会の開催
  • 役職者から先にマニュアル説明
  • 推進担当を選定

効果を出すためには最大限活用する必要がありますので、継続的に進捗を計っていくことが重要です。

改善点の洗い出し・振り返りを行う

導入後は、振り返りも定期的に行っていきましょう。

たとえば、社員のアンケートなどを実施することで、困っていることが浮き彫りになります。課題を抽出し、打ち手を打っていくことでシステムの活用が進み、高い効果を発揮するようになるでしょう。

また、導入後の変化として改善された点についても、まとめて社内共有することでシステムへの信頼や親和性が生まれやすくもなります。HRテックへスムーズに移行していくためにも、きちんと時間を取って管理していくことが重要です。

HRテック導入企業の事例

最後に、HRテックを導入したことで課題を解決したり、業務効率が実際に上がったりした企業を3社紹介します。成功事例を参考にしながら、自社でどのように活かせるか当てはめて考えてみてください。

株式会社ヨックモックホールディングス

クッキーなどの焼き菓子で有名な株式会社ヨックモックホールディングスでは、従業員の増加によるバックヤード業務の負担増に悩んでいました。

これまで紙ベースの管理をしていたためミスも作業量も多く、営業職なども手を回すほど逼迫している状態でした。

店長が店舗の経営を考えることや、営業が提案を行うという本来のコア業務へ注力できる環境づくりにシフトしなければ、会社としての成長が止まってしまうと考え、HRテックの導入に踏み切っています。

結果として、次のような変化が生まれました。

  • 個人情報や契約書類のデータベース化
  • 雇用契約書類の用意が入社日までに完了
  • 給与明細の発行費用や、マイナンバーの管理費用などがなくなり数十万のコスト削減

複雑な短期アルバイトなどの管理もしやすくなり、コア業務へ注力する時間創出にもつながっています。

株式会社グロップ

人材派遣サービスなどを行う株式会社グロップは、月間1,000名以上の応募者対応を行うこともある大手派遣会社です。

これまでは応募者人数が多すぎてツールがバグを起こしたり、一通りの応募者情報を確認するだけでも午前中いっぱい使ってしまったりと作業効率の悪さに悩んでいました。派遣会社にとって、企業に人材を他社よりも早く入れることが最も重要なミッションです。

これまでの方法を変え、作業負担を軽減させるために採用管理システムの導入に踏み切っています。結果として、次の変化が生まれました。

  • 複数人での作業が可能となり、作業時間が短縮された
  • 求人媒体の管理画面とデータベースの行き来がなくなり、 一元管理ができるようになった
  • zipファイルでの書類の情報共有がなくなり、 社内共有がスムーズになった

毎月の応募数に対して月額料金が変わるシステムを導入したことも、結果的にコスト削減に繋がっている良い事例です。

学校法人阪南大学

大阪府にある私立阪南大学は、60名の職員を抱える学校法人です。人事情報のDXを推進することで他の学校法人との差をつけ、より良いサービスを生徒に提供していける環境作りを目指していました。

これまでExcelベースの人事管理を行っていましたが、タレントマネジメントシステムを導入し、職員の能力評価や目標選定、面談などを実施していっています。結果として、次のような変化が生まれています。

  • リーダーシップを身につける機会創出
  • 組織目標の個人への落とし込み

個々の能力を上げることができれば、組織としても強靭になり経営基盤の安定や成長につながります。

まとめ

HRテックの活用は、今後ますます人材不足が加速する日本企業にとって注目すべき取り組みです。業務負担を軽減するだけではなく、人の活用により組織成長や業績向上などにも結びつくことが試算されるため導入・活用をいち早くすることが他社との差別化にもつながります。

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