パートの雇用保険の加入条件

「パートを雇用保険に加入させる義務はある?」「パートを雇用保険に加入させると、企業にメリットはある?」こういった疑問をお持ちの労務担当者の方は、多いのではないでしょうか?雇用形態にかかわらず、労働者を1人以上雇っている企業の場合、雇用保険は一定条件を満たす労働者を加入させなければなりません。

今回は、雇用保険の加入条件と加入させる企業側のメリット、手続き方法などを解説します。

この記事を読めば、雇用保険の手続きがスムーズに進められるようになります。雇用保険の手続きに悩んでいる方は、ぜひ最後までご覧ください。

雇用保険とは?

雇用保険とは、労働者が失業したときや教育訓練を受ける場合などに、国から給付が受けられる制度です。雇用保険の給付は、労働者の生活や雇用の安定を図り、再就職への援助を行うことなどを目的としています。

給付の例は、失業手当や再就職手当、育児休業手当などです。雇用保険に加入した加入者は、毎月保険料を支払うことによって、必要なときに給付を受け取れます。

毎月の保険料は、事業主と労働者で支払います。労働者負担分は、毎月の給与から天引きされることが多いです。

労働者を1人でも雇っている企業は、雇用保険の加入手続きが必要です。雇用保険は正社員やパートなどの雇用形態に関係なく、加入条件を満たした労働者が加入対象となります。

パートを雇用保険に加入させる義務はある?

雇用保険

事業主には、一定の条件を満たすパートを雇用保険に加入させる義務があります。なぜなら、雇用保険法で定められているからです。事業主や労働者の意志に関係なく、条件を満たす労働者を被保険者として、届出しなければなりません。

届出が適切に行われていないと、労働者が失業した場合など必要なときに給付が受け取れません。本来受け取れるはずの手当が受け取れないと、労働者が不利益を被ります。

また、届出をしていないと、最大で6ヶ月の懲役または30万円の罰金を与えられる可能性があります(雇用保険法 第八章 罰則)。加入条件を満たすパートがいる場合は、必ず雇用保険に加入させましょう。

パートの雇用保険への加入条件

ここからは、パートの雇用保険への加入条件について解説していきます。パートの雇用保険への加入条件は次の2つです。

加入条件

1. 週の所定労働時間が20時間以上
2. 31日以上働く見込みがある

この2つを満たす労働者は、雇用形態や加入希望の有無にかかわらず、原則としてすべて被保険者となります。それぞれの条件を、具体的に解説していきましょう。

週の所定労働時間が20時間以上

週の所定労働時間が20時間以上の労働者は、雇用保険の被保険者となります。

週の所定労働時間とは、就業規則や雇用契約書などにより、定められている労働時間のことです。つまり、通常の週に勤務すべきとされている時間を指します。通常の週は、祝祭日や年末年始の休日などの特別休日を含んでいない週です。

1週間の所定労働時間が短期的かつ周期的に変動する場合は、1周期における所定労働時間の平均を週の所定労働時間とします。

31日以上働く見込みがある

31日以上働く見込みがある従業員は、雇用保険に加入させる必要があります。

たとえば、雇い入れ時に31日以上の雇用期間を定めて契約をした場合、31日以上働く見込みがあると判断できます。雇用期間の定めがなく雇用する場合も同様です。

31日未満の雇用期間を定めて雇用する場合は、更新する旨が契約書に記載されていると、31日以上の雇用見込みがあるとみなされます。

一方で、更新する旨が明示されていないと、31日以上働く見込みがあると判断できません。その場合、過去に同様の契約に基づき雇用されている者が、更新により31日以上雇用されている実績があれば、31日以上雇用見込みがあると判断されます。

契約書に更新しない旨が明示されている場合は、31日以上働く見込みがないと判断できます。

参照元:第4章 被保険者について(厚生労働省)

雇用保険の適用対象外となるパートの条件

加入条件を満たすパートは雇用保険の適用対象者となりますが、適用対象外となる場合もあります。適用対象外となる条件は次のとおりです。

雇用保険の適用対象外となるパートの条件

1. 季節的に雇用される者(4ヶ月以内の期間を定めて雇用される者または1週間の所定労働時間が30時間未満の者)
2. 学生
3. 特定漁船以外の漁船に乗り組む船員
4. 国、都道府県、市区町村などの事業に雇用される者のうち、離職した場合に、他の法令、条例、規則などに基づいて支給を受けるべき諸給与の内容が、雇用保険の求職者給付および就職促進給付の内容を超えると認められる場合

上記の条件を満たす場合、基本的に雇用保険の適用対象外となります。ただし、例外的に被保険者となる場合もあるため、判断が難しいときは管轄のハローワークに確認を取るようにしてください。

パートを雇用保険に加入させるメリット

パートを雇用保険に加入させるメリットは、主に次の3つです。

メリット

1. さまざまな給付金を受給できる
2. 未加入によるトラブルを避けられる
3. 社会的な信用が高まる

給付金には、雇用保険に加入している企業しか申し込めないものが複数あります。

また、対象者の雇用保険加入は企業の義務のため、適切な手続きが行われていないと、従業員とのトラブルが発生する可能性があります。あらかじめ雇用保険に加入することで、そういったトラブルを未然に防げます。

では、パートを雇用保険に加入させるメリットを一つひとつ確認していきましょう。

さまざまな給付金を受給できる

雇用保険に加入している事業主は、さまざまな給付金を受給できます。受給できる給付金の例として、次のような給付金があります。

  • 雇用調整助成金
  • 労働移動支援助成金
  • トライアル雇用助成金

雇用調整助成金は、新型コロナウイルスにより事業の縮小を余儀なくされた事業者に対して、休業手当などの一部を助成する助成金です。このように、予期しない事態が起きたときでも、雇用保険に加入していると助成金が受け取れます。

また、トライアル雇用助成金は、職業経験や技能から安定的な就職が困難な求職者を一定期間試行雇用すると受け取れる助成金です。企業側からすると助成金を受け取りつつ、求職者と企業のマッチ度をはかることができるメリットがあります。

これらの給付金は、雇用保険に加入していなければ申し込めません。雇用関係の助成金を受け取れるのは、雇用保険に加入する大きなメリットです。

参照元:トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)(厚生労働省)

未加入によるトラブルを避けられる

雇用保険加入により、未加入によって発生するトラブルを避けられます。

トラブルの例としては、雇用保険未加入による従業員とのトラブルがあります。雇用保険の加入対象である従業員が雇用保険未加入だった場合、失業手当が受け取れません。

本来受け取れるはずだった手当が受け取れなければ、従業員は不利益を被ることになります。そのため、トラブルに発展する可能性があります。

また、対象者が雇用保険に未加入だった場合、法律で罰金を科せられる可能性があります。届出をしなかったり、偽りの届出をしたりするなど、一定の条件に該当する場合に限りますが、最大で6ヶ月の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。

雇用保険に加入対象者を加入させるのは、雇用主の義務です。雇用主としての義務を守り、未加入によるトラブルを未然に防ぎましょう。

社会的な信用が高まる

雇用保険に加入していると、社会的な信用が高まります。なぜなら、雇用保険は労働者の生活を守るための制度だからです。

雇用保険に加入していることによって、労働者は万が一トラブルに見舞われても給付が受け取れます。そのため、労働者は安心して業務に打ち込むことが可能です。

雇用保険に加入して、労働者が安心して働ける環境を整えている企業だと、社会的に信用されます。さらに、企業が加入している保険は求人を行う際に求人票に記載するため、雇用保険に加入している企業で働きたい求職者からも応募が来やすくなるでしょう。

パートを雇用保険に加入させるデメリット

パートを雇用保険に加入させるデメリットは、次の2つです。

  1. 保険料がかかる
  2. 加入手続きに時間と手間がかかる

パートを雇用保険に加入させると、保険料や加入手続きの負担が増加します。企業の状況によっては負担が大きくなる可能性があるため、確認が必要です。それぞれ具体的に解説していきましょう。

保険料がかかる

パートを雇用保険に加入させると、加入した人数分の保険料がかかります。具体的には、労働者に対して支払う賃金の総額に、保険料率をかけて計算します。

保険料率は年度毎に変更になる可能性がありますが、2022年12月末時点での保険料率は次のとおりです。

2022年12月末時点での保険料率

出典:厚生労働省 雇用保険料率について 令和4年度 雇用保険料率のご案内

金銭的な負担が大きくなる可能性があるため、確認しておきましょう。

加入手続きに時間と手間がかかる

雇用保険に加入するには、手続きに時間と手間がかかります。加入の際には、毎回人数分の「雇用保険被保険者資格取得届」を作成し、ハローワークに提出しなければなりません。

雇用保険被保険者資格取得届の記入例はこちらです。新たな加入者の氏名や個人番号、資格取得年月日、賃金などを記入して提出します。

加入手続きの負担を軽くするには、電子申請を利用するなど工夫が必要です。今まで雇用保険に加入していなかったパートを加入させるとなると、加入手続きに時間や手間がかかり、労務担当者の負担が増えます。

雇用保険加入に必要な書類

雇用保険加入に必要な書類は、次の4つです。

雇用保険加入に必要な書類

・労働保険関係成立届
・労働保険概算保険料申告書
・雇用保険適用事業所設置届
・雇用保険被保険者資格届

雇用保険被保険者資格届は、労働者が入社するたびに人数分提出が必要です。他の書類は、事業所が雇用保険に加入する際に一度のみ提出します。

ここからは、書類の提出先や提出期限などについて詳しく解説していきましょう。

雇用保険の加入手続き

雇用保険の加入手続きは、次の3ステップです。

雇用保険の加入手続きのステップ

ステップ1:保険関係成立届を労働基準監督署に提出する
ステップ2:保険関係成立届の控えと雇用保険適用事業所設置届をハローワークに提出する
ステップ3:従業員の資格取得届をハローワークに提出する

労働基準監督署とハローワークに対して、書類を提出する必要があります。加入の手順を1つずつ解説していきましょう。

参照元:労働保険の成立手続きはおすみですか(国土交通省)

ステップ1:保険関係成立届を労働基準監督署に提出する

労働者を初めて雇い入れる際、「保険関係成立届」を所轄の労働基準監督署に提出します。労働者を1人でも雇うと、雇用保険の適用事業所になるためです。保険関係成立届の記入見本はこちらです。

労働保険の適用事業所となった企業は必ず提出する必要があるため、忘れずに提出をしましょう。保険関係成立届の提出期限は、保険関係が成立した日から10日以内です。

また、保険関係成立届を提出した後、労働保険料の概算額を申告する必要があります。そのため、「概算保険料申告書」を保険関係が成立した日の翌日から50日以内に、労働基準監督署に提出しましょう。

ステップ2:保険関係成立届の控えと雇用保険適用事業所設置届をハローワークに提出する

雇用保険の適用事業所となった場合は、「保険関係成立届の控え」と「雇用保険適用事業所設置届」を最寄りのハローワークに提出します。保険関係成立届は、手順1で労働基準監督署に提出した書類です。確認資料として持参しましょう。

また、確認資料として次の書類が必要な場合があります。

  • 登記簿謄本(3ヶ月以内の原本)
  • 賃貸借契約書
  • 法人税確定申告書別表一
  • 法人設立届出書、事業開始届
  • 営業許可証(許認可が必要な事業のみ)

詳しくは、管轄のハローワークに確認しましょう。管轄のハローワークはこちらで検索できます。

3. 従業員の資格取得届をハローワークに提出する

労働者を雇用した際は、「資格取得届」をハローワークに提出します。資格取得届は、雇用保険に加入する全員分を提出する必要があります。

書類の提出期限は、労働者が被保険者となった日の属する月の翌月10日までです。確認書類として、次の書類の提出を求められる場合があります。

  • 労働者名簿
  • 出勤簿またはタイムカード
  • 賃金台帳
  • パートの「雇用契約書」または「雇入通知書」
  • 雇用保険被保険者証(雇用保険加入経験者)

書類の提出を求められた際にすぐ提出できるよう準備をしておきましょう。

まとめ

 雇用保険の加入対象者であるパートの条件と、加入させる企業側のメリット・デメリット、加入手続きについて解説しました。

パートを雇用保険に加入させることで、社会的な信用が高まり、さまざまな助成金が受け取れたり、トラブルを防げたりといったメリットがあります。一方、雇用保険料や事務手続きの負担が増えることがデメリットです。

雇用保険の加入手続きを怠ると、罰則を与えられる可能性があります。加入対象者がいる場合は、必ず手続きを行いましょう。

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