社会保険の被扶養者

企業で人事や労務を担当している方は、社会保険の手続きや扶養条件について、正しく理解していますか?今回は、社会保険の扶養条件や手続き方法、メリットやデメリットなどについてわかりやすく解説します。

扶養家族がいる社員が多いほど、労務担当者の手続きはより複雑化します。従業員から問い合わせがあった際にしっかりと対応できるよう、仕組みを正しく理解しておきましょう。

社会保険における「扶養」とは?

社会保険における扶養とは、自身の収入で生活を立てられない家族などに対して、経済的に援助する仕組みのことです。

扶養される対象となる「被扶養者」には、配偶者や子ども、両親などが該当し、扶養者が被扶養者に対し経済的に援助することで、生計を維持します。

また、社会保険は次の5つの保険の総称であり、それぞれの保険にて日常生活で起こり得る病気やケガ、災害などのリスクを保証しています。

社会保険の種類概要
健康保険民間企業等で働く人と、その家族が加入する医療保険制度
厚生年金保険厚生年金保険の適用対象となる事業所に勤務する70歳未満の会社員や公務員などが、原則加入する公的年金制度
介護保険要介護者の費用を給付し、適切なサービスを受けられるために援助する保険制度
雇用保険労働者が失業して所得を失った際に、生活資金の援助や再就職促進を目的に失業給付などを支給する保険制度
労災保険業務が原因による労働者の負傷や疾病、障害や死亡に対して、労働者やその遺族を対象に保険給付を行う保険制度

ちなみに、扶養は「社会保険上の扶養」と「税法上の扶養」の2種類に分かれており、それぞれ扶養条件も異なります。

扶養の種類概要扶養控除の対象範囲
税法上の扶養家計の生計を担う扶養者の配偶者や子どもなどの年間の合計所得金額が48万円以下(給与収入なら年間103万円以下)の場合に、納税者の所得から一定の金額を控除できる制度配偶者以外の親族(6親等内の血族および3親等内の姻族)
社会保険上の扶養・家計の生計を担う被保険者(健康保険・厚生年金)の被扶養者になる ・被扶養者は扶養者と同じ社会保険に加入する主に家計の生計を担う被保険者の配偶者、および扶養者の3親等内の親族 ※詳しくは記事内にて後述

本記事では、社会保険の扶養に関して、主に被扶養者となるための条件や手続き方法などについて解説します。

社会保険の扶養条件は?

続いて、社会保険の被扶養者となるための扶養条件について詳しく解説します。

  • 被扶養者の範囲
  • 被扶養者の収入条件①(被保険者と同一世帯の場合)
  • 被扶養者の収入条件②(同一世帯ではない場合)

扶養条件を理解するためには、上記に挙げた「被扶養者となる範囲」「扶養家族(同一世帯)の収入条件」「扶養家族(非同一世帯の収入条件)」の3つの理解が必要です。では、それぞれ詳しく解説しましょう。

被扶養者の範囲

社会保険の扶養に入るための「被扶養者の範囲」は、次の8つです。

被扶養者となれる範囲

1. 配偶者(内縁関係も含む)
2. 子ども
3. 孫
4. 父母
5. 祖父母等(直系尊属)
6. 配偶者の父母
7. 配偶者、子ども、孫、父母、祖父母(直系尊属)以外の3親等内の親族
8. 配偶者(内縁関係含む)の父母および子ども(配偶者の死後も同居し続ける場合も含む)

また、上記6〜8の場合は、被保険者と同居していることが条件です。それ以外の1〜5については、被保険者と同居していなくても被扶養者の対象となります。

被扶養者の収入条件①(被保険者と同一世帯の場合)

被扶養者の年収が130万円未満であり、なおかつ被保険者の年収に対して2分の1未満であれば、被扶養者の収入条件として認められます。

ただし、被扶養者の対象が60歳以上、または障害厚生年金を受給している場合は、年収180万円未満が収入条件となります。

障害厚生年金とは?

障害や病気によって日常生活や労働が困難になる場合に、国から支給される公的年金の一つ。受給対象となるには、障害等級表に定める1級から3級のいずれかに該当している必要がある。
参照元:障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額(日本年金機構)

被扶養者の収入条件②(同一世帯ではない場合)

被扶養者が被保険者と同一世帯でない場合、被扶養者の年収が130万円未満であると同時に、被保険者からの仕送り額が収入額より少なければ、収入条件として認められます。

また、同一世帯の条件と同じように、被扶養者の対象が60歳以上、または障害厚生年金を受給している場合は、年収180万円未満が条件です。

社会保険の扶養に入るメリットとデメリット

続いては、社会保険の扶養に入るメリットとデメリットそれぞれについて解説しましょう。

メリット

社会保険の扶養に入ると、次のようなメリットを得られます。

メリット

社会保険料の負担がなくなる:給与から社会保険料が引かれないため、手取りが増える
配偶者控除が受けられる:配偶者控除により被保険者の納付額が減るため、世帯収入(手取り)が増える
年金保険料の納付義務がなくなる:国民年金の第3号被保険者となり、年金保険料の納付義務がなくなる(納付したと見なされ、国民年金も受給できる)

また、会社側で規定を設けている場合は、扶養家族がいる従業員に対し「扶養手当」や「家族手当」を支給する必要があります。労務や総務の担当者は、扶養手当や家族手当の支給要件についても、正しく理解しておきましょう。

デメリット

社会保険の扶養に入るデメリットとしては、主に次のようなものがあります。

デメリット

・給与収入に制限が生じる:扶養対象から外れないように、勤務日数や時間をセーブする必要がある
・老後の年金受給額が減る可能性がある:老齢厚生年金が上乗せされないため、老後の年金受給額が減る可能性がある
・収入額の管理が複雑化する:月収や年収など、収入要件を満たすための管理が複雑化する

従業員側としては、主にこういったデメリットが生じます。

また、会社側のデメリットとしては、扶養内で勤務する従業員が増えると、勤務日数や勤務時間の調整が複雑化するため、管理が難しくなるというデメリットが生じます。

さらに、扶養内で働く従業員が増えることで、勤務時間を穴埋めするための配置転換や、中途社員の雇用といった業務が増える可能性もあるでしょう。

社会保険扶養の手続き方法

それでは、社会保険扶養の手続き方法に関して、手続きの時期や必要となる書類について解説しましょう。

  • 手続きの時期
  • 提出が必須の書類
  • 場合によっては必要となる書類
  • 書類の提出先
  • 書類の提出方法

これら5つの項目について、一つずつ解説していきます。

手続きの時期

企業の担当者は、被保険者から被扶養者が発生する報告を受けた5日以内に、日本年金機構や全国健康保険組合への届け出が必要です。手続きの際には「被扶養者(異動)届」以外にも、さまざまな書類が必要になります(詳しくは後述します)。

事実発生から5日以内と、短期間での届け出が必要となります。そのため、従業員から扶養の申し出があった際は、次の項目を確認しておくとスムーズです。

従業員から扶養の申し出があった際のチェック項目

・被扶養者の氏名(フリガナも)
・被扶養者の生年月日
・被扶養者の続柄
・被扶養者のマイナンバーもしくは基礎年金番号
・被扶養者との同居の有無(別居なら住所も聞く)
・被扶養者の職業
・被扶養者の年収
・扶養となる理由
・被扶養者の電話番号(配偶者の場合)
・被扶養者となる日
・被扶養者が国内にいない場合は、不在の理由を聞いておく(留学中など)

上記のチェック項目を参考に、被扶養者が発生する事実を確認したら、企業の担当者は速やかに手続きを取りましょう。

提出が必須の書類

日本年金機構への提出が必須となる書類は次のとおりです。

提出が必須の書類

1. 健康保険被扶養者(異動)届 国民年金第3号被保険者関係届※「被扶養者(異動)届」の正式名称
2. 被扶養者の戸籍謄本
3. 住民票の写し(被保険者が世帯主かつ被扶養者と同世帯の場合)
4. 被扶養者の収入が分かる書類

上記「2. 被扶養者の戸籍謄本」と、「3. 住民票の写し」に関しては、提出日から90日以内に発行されたものでなければなりません。

ちなみに、届書にマイナンバーの記載があれば、被扶養者の戸籍謄本と住民票の写しは提出不要です。また「被扶養者(異動)届」の項目別の書き方については、次のとおりです。

被扶養者(異動)届の記入項目書き方のポイント
事業所整理番号法人に付与された記号を、事業者本人が記入する
事業主確認欄事業主が収入要件を確認し、「1.確認」を〇で囲む
被保険者整理番号被保険者ごとに企業が割り振った番号を記載する
収入被保険者の今後1年間の年収(見込み額)を記載する
提出日被保険者が事業主に提出した日を記載する
被扶養者(第3号被保険者)になった日被保険者の健康保険加入と同時に提出するのであれば、「被保険者欄」の「取得年月日」と同日を記載する   同日以外のタイミングで提出するのであれば、実際に被扶養者(第3号被保険者)となった日を記載する
備考被扶養者情報に変更がある場合の、変更内容と理由を記載する 被保険者と別居している場合は、1回あたりの仕送り額も記載しておく
その他の被扶養者欄配偶者以外の子どもや父母が被扶養者となる場合、対象者の氏名、生年月日、続柄、個人番号などを記載する

場合によっては必要となる書類

別居や内縁関係など、場合によっては提出となる書類は次のとおりです。

被扶養者のケース必要となる書類
被保険者と被扶養者が別居中で、仕送りしている場合・預金通帳の写し
・現金書留の写し
※対象者が学生の場合は不要
被扶養者が内縁関係(事実婚)にある場合・内縁関係にある双方の戸籍謄本
・被保険者の世帯全員分の住民票(原本かつ個人番号の記載がないもの)

被保険者と被扶養者が別居していたり、内縁関係にあったりする場合は追加で書類が必要となります。前項にて記載したチェック項目にもとづき、書類の提出漏れがないように注意しましょう。

書類の提出先

被扶養者(異動)届などの書類の提出先は、次の2つです。

  • 日本年金機構(管轄の年金事務所もしくは事務センター)
  • 全国健康保険組合(協会けんぽ)

ただし、会社の健康保険が協会けんぽでない場合は、協会けんぽではなく各健康保険組合への提出が必要です。

また、各健康保険組合に提出する場合、必要書類が異なるケースがあります。詳細は各健康保険組合で確認しましょう。

書類の提出方法

書類の提出方法は、「窓口への持参」「電子申請」「郵送」の3つから選択できます。電子申請で提出する際は、e-Govを利用した電子申請の他、電子申請(届書作成プログラム)を使った申請も可能です。

また、日本年金機構の事務センターは、郵送受付のみ対応しています。窓口への持参や郵送で届出する場合には注意が必要です。

社会保険の扶養手続きに関してよくあるQ&A

最後に、社会保険の扶養手続きに関するよくあるQ&Aを紹介します。Q&Aの内容を参考に、企業の人事や労務担当者は従業員からの問い合わせに対応できるようにしておきましょう。

従業員が社会保険の扶養から外れる場合の手続き方法は?

配偶者との離婚や収入額の変更などにより、従業員が社会保険の扶養から外れる場合は、社会保険への加入が必要になります(年収106万円以下の場合は不要です)。

社会保険への加入手続きについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

また、従業員(被保険者)の配偶者や子どもが被扶養者から外れる場合も、別途手続きが必要です。企業の担当者は従業員から該当する被扶養者から「保険証」と「健康保険被扶養者異動届(記入済み)」を預かり、5日以内に日本年金機構や全国健康保険組合へ提出します。

被扶養者の就職や年間収入が130万円を超えるなど、従業員の被扶養者が扶養から外れるタイミングは多くあります。迅速に対応できるよう、従業員(被保険者)が扶養から外れる、もしくは配偶者などが被扶養者の外れる場合の対応方法など、担当者はきちんと理解しておきましょう。

従業員から配偶者を扶養に入れたいと要望があったときの手続きは?

従業員の結婚などにより、配偶者を扶養に入れたいと相談があった際は、まず国民年金への加入が必要になる旨を伝えましょう。被扶養者になった場合、配偶者は健康保険料の支払いがなくなりますが、代わりに国民年金に加入しなければなりません。

国内に在住する20歳以上60歳未満のすべての国民は、国民年金への加入が義務付けられています。この場合、被保険者の被扶養者である配偶者は「第3号被保険者」に該当するため、加入者自身が配偶者の会社を通して届出する必要があります。

国民年金(基礎年金)の被保険者の種別対象者保険料の納付方法加入手続き
第1号被保険者自営業者、フリーランス、農業従事者、学生など加入者自身で納付市(区)役所または町村役場に加入者本人が届出
第2号被保険者会社員や公務員など加入者の給与から天引き勤務先の企業が届出
第3号被保険者第2号被保険者に扶養される配偶者(年収130万円未満)配偶者が加入する年金制度が負担 ※自己負担なし加入者本人が配偶者の会社などを通して届出

なお、届出までの具体的な流れは、記事内で解説したとおりです。

まとめ

社会保険の手続き方法や扶養に入るための条件、メリットやデメリットなどについて解説しました。

社会保険の扶養手続きは、従業員から被扶養者が発生する報告を受けた5日以内に、日本年金機構や全国健康保険組合への届け出が必要になります。社会保険扶養の手続きの際に提出が必須となる書類は、次のとおりです。

  • 健康保険被扶養者(異動)届 国民年金第3号被保険者関係届
  • 被扶養者の戸籍謄本
  • 住民票の写し(被保険者が世帯主かつ被扶養者と同世帯の場合)
  • 被扶養者の収入が分かる書類

さらに、被扶養者との同居していなかったり、内縁関係(事実婚)にあったりする場合は、追加で提出となる書類があるため注意が必要です。

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