60歳以上の厚生年金加入は義務

現在会社員として働いている方の中には、老後の収入の柱となる「厚生年金」について不安を抱えている方もいるのではないでしょうか?

今回は、60歳以上の厚生年金について、加入義務の有無や加入によるメリットとデメリット、厚生年金についてのよくあるQ&Aなどについて解説します。

年金制度は複雑な用語も多くわかりにくいですが、老後の不安なく過ごすためにもきちんと理解しておく必要があります。会社員の方で「厚生年金」について不安がある方は、ぜひ最後までご覧ください。

60歳以上の厚生年金加入は義務?

結論からお伝えすると、60歳を過ぎても会社員として勤務するのであれば、厚生年金に加入して70歳まで保険料を納める義務があります。

日本の年金制度は2階建て構成になっており、1階部分が国民年金から形成される「老齢基礎年金」、2階部分が厚生年金保険から形成される「老齢厚生年金」という構成です。

国民年金は、原則としてすべての国民(20歳〜60歳)が加入対象で、保険料を40年間納めれば満額で老齢基礎年金を受給できます。

一方、厚生年金保険については、厚生年金保険に加入済みの事業所に勤務する従業員(70歳未満)が対象となる保険です。

国民年金については、下記の条件を満たせば60歳以降も任意で加入できます。

1.日本国内に住所を有する60歳以上65歳未満の方

2.老齢基礎年金の繰上げ支給を受けていない方

3.20歳以上60歳未満までの保険料の納付月数が480月(40年)未満の方

4.厚生年金保険、共済組合等に加入していない方

5.日本国籍を有しない方で、在留資格が「特定活動(医療滞在または医療滞在者の付添人)」や「特定活動(観光・保養等を目的とする長期滞在または長期滞在者の同行配偶者)」で滞在する方ではない方

上記の方に加え

・年金の受給資格期間を満たしていない65歳以上70歳未満の方も加入できます。

・外国に居住する日本人で、20歳以上65歳未満の方も加入できます。

※1.の60歳以上65歳未満の方は、60歳の誕生日の前日より任意加入の手続きをすることができます。

引用元:任意加入制度|日本年金機構

国民年金は60歳以降の加入が任意なのに対し、厚生年金は60歳以上も会社員であれば加入する必要があります。つまり、60歳を過ぎても会社員として働く限り、70歳までは厚生年金に加入し保険料の納付義務が生じるのです。

わかりにくいと感じた場合は、60歳以降の年金は「国民年金は任意」「厚生年金は義務」と覚えておくと良いでしょう。

厚生年金に加入するメリット

厚生年金に加入するメリットは、次の3つです。1つずつ詳しく解説します。

メリット

・厚生年金の受給額が増える
・配偶者(扶養)の老齢基礎年金の受給額が増える
・健康保険に加入できる

厚生年金の受給額が増える

・健康保険に加入できる

厚生年金の受給額が増える

厚生年金は加入期間が長ければ長いほど、将来受け取れる年金額が増えます。

先ほど、日本の年金制度は、国民年金が軸の1階部分「老齢基礎年金」と厚生年金が軸の2階部分「老齢厚生年金」の2階建て構成ということを説明しました。

年金の1階部分である「国民年金」については、20歳から60歳までの40年間(計480ヶ月)の上限額の範囲内でしか受給できません。

一方、年金の2階部分である「厚生年金」については、上限が設定されていません。そのため、加入期間が長ければ長いほど、平均標準報酬月額や平均標準報酬額が増える仕組みになっています。

平均標準報酬月額とは?

「被保険者であった期間の標準報酬月額の合計」を「被保険者であった期間の月数」で割った額のこと。年金額の計算の基礎部分です。

平均標準報酬額とは?

厚生年金保険料や健康保険料といった「社会保険料」を算定する際の基準額のこと。労働者が受ける給与などの「報酬」を等級で区分し、等級に応じて保険料を算出します。

厚生年金に加入して保険料を納付している限り、その分が年金額に反映されます。つまり、2階部分の厚生年金が増えることで、年金全体の受給額が増えるという仕組みです。

働く期間が長く給与の支給額も多いほど、厚生年金の受給額は増えるということを覚えておきましょう。

配偶者(扶養)の老齢基礎年金の受給額が増える

60歳を超えて厚生年金に加入することで、配偶者(扶養)の老齢基礎年金の受給額が増額します。これは、被保険者の扶養に入っている配偶者や子どもがいた場合、加給年金額の受給額が増額するためです。

加給年金額は、厚生年金の被保険者が下記の2つの条件を満たしている場合に加算されます。

  • 厚生年金保険の被保険者期間が原則20年以上
  • 65歳で老齢厚生年金を受け取る時点(または特別支給の老齢厚生年金の定額部分を受け取る年齢に達した時点)で扶養している配偶者または子がいる

加給年金額は、いわゆる年金における「家族手当」に該当するものです。被保険者に扶養家族がいる場合は、通常の老齢厚生年金にプラスして支給されます。

ただし、加給年金を受け取るには、配偶者や子どもが下記の条件を満たしている必要があります。

  • 配偶者が65歳未満であること
  • 子どもは18歳到達年度の末日まで(1・2級の障害状態にある子どもは20歳未満)
  • 配偶者が被保険者期間20年以上の厚生年金を受け取る権利がないこと ・年収850万円未満(所得655万5000円未満)であること

上記の条件を満たしていれば、加給年金額がプラスされます。

※注意

令和4年(2022年)4月以降に加給年金の支給規定が見直されました。配偶者が年金を受け取る権利がある場合は、加給年金が「支給停止」となるため注意が必要です。

厚生年金保険の加入期間が増えれば加給年金額もその分加算されるため、結果的に扶養家族の老齢基礎年金の受給額も増えることになります。

健康保険に加入できる

60歳以降も厚生年金に加入し続ける大きなメリットとして、健康保険に加入できることが挙げられます。

  • 健康保険料の半額を会社が負担
  • 傷病手当金や出産手当金制度の支給
  • 扶養制度による世帯における保険料額の減額

上記のような健康保険へ加入することでのメリットを、現役世代の会社員と変わらずに得られます。老後はどうしてもケガや病気のリスクが高まるもの。傷病手当金の支給など、健康保険へ加入することで得られるメリットは大きいでしょう。

厚生年金に加入するデメリット

ここまで厚生年金に加入することでのメリットについて解説してきましたが、一方で厚生年金に加入することでのデメリットも存在します。

デメリット

・手取りが減ってしまう
・年金カットの可能性がある

上記のようなデメリットを考慮して、60歳以降は労働時間を減らすなどして厚生年金に加入せずに働くことも一つの方法です。

手取り額が減ってしまう

今まで扶養の範囲内で勤務していたパートの方などは、厚生年金に加入することで手取り額が減ってしまうデメリットがあります。たとえば、月額賃金が8〜9万円程度であれば、年間で15万円ほどの社会保険料が給与から引かれることになります。

したがって、手取り額を減らさないためには厚生年金に加入せずに働くか、業務委託契約(フリーランス)として働くなどの対策が必要です。パートやアルバイトで働き厚生年金に加入するのであれば、今の収入が減ることを考慮しつつ、将来設計を視野に入れた検討をする必要があるでしょう。

年金カットの可能性がある

60歳以降は厚生年金に加入して働きつつ、老齢厚生年金を受け取ることもできます。いわゆる在職老齢年金と呼ばれるものですが、加入者の賃金と年金額によっては年金額の一部または全部が支給停止される可能性があります。

賃金と年金額の合計額が47万円を超えた場合は、47万円を超えた金額の半分が年金額より支給停止となるため注意が必要です(老齢基礎年金は全額支給)。在職老齢年金による調整後の、年金支給月額の計算式は次のとおりです。

  • 年金支給月額基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-47万円)÷2

※基本月額と総報酬月額相当額との合計が47万円を超える場合に適用

また、令和4年(2022年)3月以前の65歳未満の方の場合は、条件により計算式が複雑化します。計算式の詳細については、下記の日本年金機構の在職老齢年金の計算方法で確認できます。

60歳以上の厚生年金「よくあるQ&A」

年金手帳

最後に、60歳以上の厚生年金に関するよくあるQ&Aを紹介します。「106万円の壁」や「パート主婦の厚生年金への加入」など、悩みがちなケースをまとめていますので、ぜひ参考にしてみてください。

Q1:健康保険だけ加入したい

「厚生年金」だけや「健康保険」だけといった、どちらか一方のみの制度に加入することは認められていません。

健康保険に加入したいのであれば、厚生年金にも加入し保険料を納める必要があります。

Q2:嘱託社員は厚生年金に加入できる?

特定の仕事のみ従事する「嘱託社員」であっても、条件を満たせば厚生年金へ加入できます。

嘱託社員であっても「週の労働時間と月の労働日数が正社員の4分の3以上」に加えて、「2カ月を超えて雇用される見込みがある」のであれば、厚生年金への加入対象です。

また、上記2つの条件に該当しない嘱託社員であっても、下記の条件をすべて満たせば厚生年金へ加入できます。

  • 労働時間が週に20時間以上
  • 月額賃金が88,000円以上
  • 2ヶ月以上の勤務見込みがある
  • 厚生年金の被保険者数が常時101人以上の法人(101人未満でも労使協定で合意があれば加入可)
  • 学生でないこと

Q3:年金を受給しているので加入したくありません

年金を受給していても、正社員と同じように勤務するのであれば厚生年金に加入する必要があります。厚生年金に加入したくないのであれば、勤務時間を減らしたり、業務委託契約(フリーランス)を交わしたりするなどして、働き方を変える必要があります。

Q4:いわゆる「106万円の壁」に該当する条件は?

2022年(令和4年)10月より、パートやアルバイト主婦がいわゆる「106万の壁」に適用される条件が拡大されました。2022年(令和4年)10月以降の条件は、次のとおりです。

  • 従業員の数が常時101人以上の勤務先で働いている
  • 週の所定労働時間が20時間以上30時間未満である
  • 年収が106万円以上(月額賃金が88,000円以上)である
  • 2ヶ月を超える雇用の見込みがある ・学生ではない(夜間学生や休学者は加入対象)

上記の条件に該当する場合は、パートやアルバイトであっても厚生年金へ加入しなければなりません。また、令和6年(2024年)10月以降には、企業規模が50人を超える短時間労働者についても、社会保険の加入対象となります。

Q5:60歳以上のパート主婦は厚生年金に加入すべき?

60歳以上のパートやアルバイトで働く主婦の方で、厚生年金に加入するか悩んでいる方は多いでしょう。

厚生年金に加入して得するか損するかは、目的や状況によって異なります。次のケースを参考に、厚生年金に加入するかどうか検討してみてください。

厚生年金への加入で得するかもしれないケース厚生年金への加入で損するかもしれないケース
・年金額を増やしたい場合:
2階建て構成の2階部分(報酬比例部分)がプラスされるため、年金額が増えます。またケガや障害状態になれば、障害厚生年金も受給できます。
・配偶者が個人事業主の場合:
配偶者が個人事業主、もしくは定年退職している場合は、厚生年金に入ることで保険料が会社と折半されます。夫婦で国民年金に加入するより、負担が軽減される可能性があります。
・配偶者の扶養で働きたい場合:
配偶者が会社員や公務員であれば、配偶者の扶養で働くことで「所得税」や「住民税」を負担せずに済みます。その場合は、年収103万円以下にするのがポイントです。
・年収130万円〜150万円の場合:
厚生年金への加入で所得税などの負担が増える上に、収入も高くないので一番損する可能性があります。103万円以下に抑えるか、150万円以上稼いで負担以上に収入を増やしましょう。  

まとめ

60歳以上の厚生年金への加入について、厚生年金の基礎知識や加入義務の有無、メリットやデメリット、よくあるQ&Aなどについて解説しました。60歳を過ぎても会社員として現役世代と変わらず勤務するのであれば、厚生年金に加入が必要となります。

60歳以降の年金については、単純に「国民年金は任意」「厚生年金は義務」と覚えておくとわかりやすいでしょう。厚生年金へ加入すれば「年金額が増える」「健康保険へ加入できる」などのメリットを得られます。

しかしながら、「手取り額が減る」「年金の一部(在職老齢年金)がカットされる」などのデメリットもあるため、双方の特徴を踏まえて加入するか検討しましょう。