中小企業でも従業員の働き方改革の流れが進んでいます。中でも、時間外労働の上限制限が厳しく規定されたため、従業員の残業時間の管理は早急に対応する必要があります。
今回は、時間外労働の上限制限が策定されたことで、企業は何に注意しなければならないのか、課題や取り組むべきことについて解説します。
働き方改革とは?
働き方改革とは、多様な働き方や柔軟性のある働き方などを認め、多くの人が働ける社会を目指すための施策です。
背景には「労働人口の減少」が挙げられます。国立社会保障・人口問題研究所の調査によれば、2015年には7,728万人いた生産年齢人口が、2065年には4,529万人にまで落ち込むとされています。
そのため、長期的に見ると人手不足に悩む企業は増加すると考えられており、現在から働き方改革が求められています。働き方改革をきちんと行えば、生産性向上や業務効率化などが実現でき、人手不足による倒産危機などを回避できます。
また、政府としても働き方改革を推進しており、2019年4月には「働き方改革関連法」が施行されています。中小企業にも適用範囲は広がっているため、働き方改革を進める取り組みはますます加速すると考えられています。
時間外労働の上限制限
働き方改革法案の中の一つとして「時間外労働の上限制限」があります。
時間外労働とは、文字通り、所定の労働時間を超えて働く時間のことです。働き方改革法案が施行されたことで、時間外労働の上限が「原則45時間/月・年360時間/年」と定められました。
また、月45時間の残業ができるのは、年6ヶ月までという規定も設けられ、違反してしまうと罰則が科されるようになりました。
参照元:時間外労働の上限規制 わかりやすい解説(厚⽣労働省・都道府県労働局・労働基準監督署)
改正前と改正後の変更点
改正前と改正後の変更点は次のとおりです。
<改正前>
- 時間外労働:原則45時間/月・年360時間/年
- 罰則規定:なし
<改正後>
- 時間外労働:原則45時間/月・年360時間/年
※1.最大100時間未満/月、720時間以内/年
※2.45時間/月が許されるのは、年6ヶ月まで
罰則規定:30万円以下の罰金、6ヶ月以下の懲役
改正前と改正後で、時間外労働の上限時間は変わりません。しかし、罰則規定がなかったため、時間外労働が横行しており、意味を成さないものとなっていました。
改正後は罰則規定が設けられているため、企業側は厳格に規則として守ることが求められます。
所定外労働時間と法定外労働時間の違い
時間外労働時間は「所定外労働時間」と「法定外労働時間」の2つに分けられます。働き方改革法案で対象となる上限時間は「法定外労働時間」であるため、それぞれどのような違いがあるのかを認識しておくことが大切です。
所定外労働時間
所定外労働時間とは、企業が就業規則で定めている、所定時間を超えた労働時間のことを指します。たとえば、就業規則によって8時半から17時半が労働時間に定められている場合は、17時半以降の労働が所定外労働時間に該当します。
法定外労働時間
法定外労働時間とは、労働基準法によって定められた労働時間を超えた労働時間のことを指します。労働基準法を基準としているため、就業規則等で定められた所定時間などは関係ありません。
労働基準法によって、労働時間は8時間/日、40時間/週と定められています。企業の担当者は従業員が法定労働時間を超えて残業を行っていないかを、きちんとチェックすることが求められます。
36協定とは
残業時間の取り決めとして挙げられるのが「36協定」です。
36協定とは、残業や休日労働に関する取り決めを労使間による話し合いのうえ、締結するものです。労働基準法で定められている「8時間/日、40時間/週」を超えて働かせるためには、この36協定を締結し、労働基準監督署に届け出を提出する必要があります。
36協定における残業時間の考え方
多くの企業が36協定を「特別条項付き36協定」を結び、働かせていました。特別条項付き36協定とは、残業時間の上限がなくなる協定のことです。
そのため、企業側は労働者に対して、無制限に残業させることが可能でした。加えて、36協定には罰則規定はなく、違反を行っても行政指導が入るのみだったため、労働者の健康が守られていないとの指摘も多く入っていました。
みなし残業制とは
みなし残業制とは、給与の中にあらかじめ一定の金額の残業代を含めて労働者に支払う制度のことです。固定残業制度とも呼ばれています。
たとえば、みなし残業が月に20時間と定められており、給与が月25万円の場合、20時間の残業を行わなくても20時間分の残業を含めた25万円になります。
しかし、みなし残業制を導入した場合でも、次のケースで残業代が発生します。
- みなし残業によって定められた時間を超えた残業時間があった場合
- 深夜残業、休日残業などを行った場合
それぞれのケースでは、みなし残業代に加えて別途残業代を加算して支払う必要があります。
残業代の算出方法
残業代の算出は、次の手順で進めていきます。
- 法定時間外労働の時間数を計算する
- 1時間あたりの賃金を計算する
- 残業代を計算する
人事給与の担当者は、該当するすべての従業員の残業代を算出する義務があります。残業代が支払われていない場合、法定違反になってしまうため注意が必要です。また、従業員側に残業代の算出方法についての説明を行えば、給与に対する理解が深まります。
法定時間外労働の時間数を計算
法定時間外労働は、「8時間/日、40時間/週」を超えた時間です。そのため、1日8時間以上の労働時間および1週間40時間以上の労働時間を合算した時間が対象です。
所属している従業員一人ひとりが超えていないかを算出していきます。なおフレックスタイム制や裁量労働制を採用している場合には、計算方法が異なるため注意が必要です。
1時間あたりの賃金を計算する
法定外労働時間数を算出した後に、1時間あたりの賃金計算をしていきます。算出方法は「月給÷1ヶ月当たりの平均所定労働時間」です。
なお、以下の手当は1時間あたりの賃金計算に含まれないため、あらかじめ外して計算するようにしてください。
- 家族手当
- 扶養手当
- 子女教育手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 単身赴任手当
- 住宅手当
- 結婚手当、出産手当等
残業代を計算する
法定外労働時間の時間数と1時間あたりの賃金計算が算出できれば、残業代の計算が可能になります。
算出方法は、「時間外労働の時間数×1時間当たりの賃金×1.25」です。1.25は時間外労働にかかる割増率25%です。
2022年8月現在では、中小企業も割増率25%で計算されますが、2023年4月以降は50%に引き上げられるため注意が必要です。
残業時間の規制による課題
残業時間が規制されることによる課題もあります。主な課題は次の3点です。それぞれの課題について解説していきます。
・残業代削減により給料が減少する
・業務効率化につながらずサービス残業が増加する
・従業員の労働時間を把握する
残業代削減により給料が減少する
残業時間の規制されることは、残業代が削減されることを意味します。従業員の健康には大きく貢献しますが、これまで残業代をあてに働いていた従業員は、給与の減少によって生活苦に陥ってしまう可能性もあります。
そのため、繁忙期でないにも関わらず、不必要な残業をしたがる従業員がいた場合には、丁寧に説明するなどの対応が必要です。また、説明だけではなく、基本給を上げる、残業しないことによる賞与、成果を上げたことによるインセンティブ、福利厚生を厚くして従業員の満足度を上げるなど、削減された残業代を別の形で従業員に還元させる取り組みが必要です。
業務効率化につながらずサービス残業が増加する
残業時間の削減だけを行っても、働き方改革にはなりません。なぜなら残業が発生しているということは、業務時間だけでは完了できない仕事量になっているからです。
そのため、残業を減らすことだけに囚われるのではなく、業務量や業務効率の施策を行うことで、結果として残業時間を減らすというのが正しい考え方だといえます。
残業時間の削減だけを行ったとしても、残業代の発生しないサービス残業が増加してしまいます。サービス残業により問題が発生してしまうと、より大きな損害につながってしまうため注意が必要です。
残業時間の削減を達成するために、自社でムダな業務はどこになるのか、業務量は適切か、人員配置は適切かなどを確認し、業務効率化を図っていくことが大切です。
従業員の労働時間を把握する
残業を削減するためにも、従業員の労働時間を正確に把握することが大切です。従業員の労働時間を正確に把握していなければ、知らないうちに法定労働時間を超えており、罰則の対象となってしまうからです。
また、労働時間の把握もリアルタイムでわからなければ、ある従業員が、今月あと何時間まで残業が可能かどうかを見極めることができません。
こうしたリスクを避けるためには、業務のデジタル化を行うことが大切です。労働時間を把握するためには、勤怠管理システムの導入が最も効果的でおすすめです。なぜなら、従業員の労働時間をリアルタイムで把握できることはもちろん、残業時間が多くなっている従業員に対してはアラートを出すことができるため、知らないうちに法定労働時間を超えていたなどのリスクがなくなります。
労働時間を適切に管理、把握することは残業時間を削減することにもつながるため、非常に重要です。
残業時間の規制によって企業が取り組むべきこと
残業時間の規制によるデメリットをなくすために企業が取り組むべきことは、主に次の3点です。それぞれについて解説していきます。
・業務効率化による業務量の均一化
・管理者の率先した残業廃止
・アウトソーシング等の外部リソースの活用
業務効率化による業務量の均一化
繰り返しになりますが、業務効率化の結果として残業時間の削減があります。残業時間の削減のみを行い、業務量や業務効率が変わらないままだとサービス残業が増加してしまうなどデメリットが大きくなってしまいます。
そのため、現在の業務フローを見直し、工数が多くかかっている業務や業務効率が悪い業務などを洗い出し効率化していきます。昨今、業務のデジタル化が叫ばれており、バックオフィス業務から営業活動の業務まで、業務効率化が行えるさまざまなシステムやツールが提供されています。
まずは業務効率化を行う業務を一つ選定し、デジタル化を行っていくと良いでしょう。また、併せて業務量が問題ないかの確認も行います。
残業している従業員の中には、スキルなどは問題がないのに、業務量が多いために残業をしているという場合もあります。特定の従業員の負担が大きくなっているのであれば、人員配置の見直しなどを行うことで、業務負担の分担を行い、均一化を図ることも大切です。
管理者の率先した残業廃止
残業時間の削減には、経営層から管理者、現場の従業員までの意識の変化も欠かせません。特に、残業が常態化している企業では、いざ改革を行っても残業している従業員が減らないケースもあります。
そのため、まずは管理者が積極的に定時で退社することがおすすめです。上長が定時で帰ることで、現場の従業員も定時で帰れる雰囲気が醸成されます。まずは、管理者が率先した行動を見せることで、社内の雰囲気を変えていくことが大切です。
アウトソーシング等の外部リソースの活用
自社内で定型業務などが多い場合は、アウトソーシング等の外部リソースを活用することも良い方法です。アウトソーシング等を活用することで、その業務にかかる負担はなくなり、企業は注力したいコア業務に人員を割くことが可能です。コア業務に人員を集中できれば、自社の生産性向上にも貢献できるでしょう。
昨今のアウトソーシングサービスは、給与計算業務やシステムの運用保守など多方面で広がりを見せています。自社のリソースを有効活用するためにも、アウトソーシング等の外部リソースの活用を検討してみてください。
まとめ
働き方改革法案の施行によって、従業員の残業時間をより厳格に管理することが求められました。しかし、残業時間の削減だけに囚われていては、本質を見誤ってしまいます。
自社の業務を見直し、業務効率化などの組織改革を行った先に残業時間の削減があります。ぜひ自社の働き方改革を推進し、残業時間削減を実現してみてください。
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