懲戒処分は長期間の無断欠勤や業務命令の拒否など、規律違反行為をした従業員に対し、下される処分です。処分の種類に応じて、従業員に生じる影響度合いは異なります。
では、懲戒処分には、どのような種類があるでしょうか?今回は、懲戒処分の種類や目的、手順について解説します。
懲戒処分とは
懲戒処分とは、ハラスメントや情報漏洩など、規律違反行為を犯した従業員に対する制裁です。
規律違反行為の内容や常習性の有無などを考慮し、懲戒処分の内容を決定します。また、就業規則に明記された内容に基づいて、懲戒処分を下すことが原則的なルールです。
ただし、就業規則に記載していても従業員に周知していない場合は、無効とみなされる可能性があります。内部統制の強化を図る前にも、就業規則や懲戒処分に関して周知する場を設けることが重要です。
懲戒処分を下す目的
無断欠勤やパワハラなど、問題行動を起こした従業員に対しては、懲戒処分が下されます。懲戒処分を下すと、どのような効果が期待できるでしょうか。懲戒処分を下す目的は、次の2つです。
- 職場の秩序維持
- 規律違反行為の再発防止
職場の秩序維持や規律違反行為の再発防止のため、懲戒処分を下します。
職場の秩序維持
懲戒処分を下す1つ目の目的は、職場の秩序維持や風紀改善のためです。ハラスメントや機密情報の漏洩など、重大な規律違反行為を犯した従業員に対し、企業として厳しい姿勢を打ち出します。
不祥事が起きても企業として何も処分を下さない場合、他の従業員に不信感を与えます。職場の雰囲気が悪化し、従業員のモチベーション低下や離職者の増加は避けられないでしょう。規律違反行為を厳しく罰することで、職場の秩序を維持します。
規律違反行為の再発防止
懲戒処分を下すもう一つの目的は、規律違反行為の再発防止です。実際に違反行為を犯した従業員に対して懲戒処分を下し、反省と改善を促します。
また、規律違反行為へ厳しく対処する姿勢を他の従業員へ印象付けることも重要な目的です。状況に応じて懲戒処分の内容を従業員に周知し、抑止力を高めます。
懲戒処分の種類
従業員が起こした行動の内容や常習性の有無を判断し、7種類ある懲戒処分から処分内容を決定します。
・戒告
・譴責
・減給
・出勤停止
・降格
・諭旨解雇
・懲戒解雇
初めて規律違反行為をした従業員に対しては、「戒告」や「譴責」など、比較的軽い処分から下していくことが一般的です。
戒告
戒告とは、口頭で厳重注意を行い、反省を促す処分のことです。懲戒処分の中で最も軽い処分で、就業規則に記載されていない場合も多くあります。
譴責
譴責とは、始末書の提出を求め、反省を促す処分です。反省や謝罪の言葉を述べた文書を提出させ、再犯防止に努めます。
従業員が始末書の提出を拒否した場合、人事評価や賞与の支給額に影響する可能性があります。
減給
減給とは、毎月支給している給与から賃金の一部を差し引く処分です。1回の規律違反行為に対して、減給処分を下せるのは1回です。労働基準法に基づき、差し引ける金額は下記のように定められています。
- 1回の減給額は平均賃金日額の半数以下
- 複数回の規律違反行為に対して処分する場合、減給総額は一賃金支払期における賃金総額の1/10
また、遅刻や早退、欠勤が発生した場合に、賃金を差し引く行為は欠勤控除です。懲戒処分での減給とは異なるため、混同しないように注意してください。
出勤停止
出勤停止とは、一定期間の出勤を禁止する処分のことです。出勤停止期間中の給与は支給されません。停止期間が長いほど経済的負担は大きくなります。停止期間は規律違反行為の内容によって判断しますが、1週間〜15日前後と定めることが一般的です。
降格
降格とは、役職や職位、職能資格を現在より下位の位置に引き下げる処分のことです。
役職給や職務給の支給額が減額となるため、継続的に経済的な影響が発生します。従業員に与えるダメージも大きく、懲戒権の濫用に当たらないか、慎重な見極めが求められます。
一方、降格処分を受けた従業員が元の役職に戻るまでには、多くの時間が必要です。規律違反行為によって失った周囲からの信頼を取り戻さなければなりません。
また、懲戒処分で降格を下す場合、就業規則の規定に従うため、事前に降格の内容を明示しておく必要があります。
諭旨解雇
諭旨解雇とは、一定期間以内に退職願の提出を求め、提出があった場合は自主退職とみなす処分のことです。退職願の提出がない場合は懲戒解雇に踏み切るため、懲戒解雇に次いで重い処分です。
情状酌量の余地があった場合、これまでの貢献度が大きかった場合、諭旨解雇が下されます。諭旨解雇によって自主退職扱いとなると、解雇予告手当や退職金が支給されます。
また、自主退職扱いとなれば、キャリアアップや昇給などによる転職と変わりません。再就職への影響も最小限に抑えられ、従業員にとっては再スタートを切りやすくなります。
懲戒解雇
懲戒解雇とは、規律違反行為をした従業員との雇用契約を一方的に打ち切る処分のことです。懲戒処分の中で最も重い処分です。
通常、企業が従業員を解雇する場合、30日前の解雇予告通知または30日分の解雇予告手当を支払う必要があります。
この規定は、労働基準法にも定められています。しかし、懲戒解雇の場合、解雇予告期間を設けずに即時解雇に踏み切ります。労働基準監督署から「解雇予告除外認定」を受ければ、解雇予告手当を支払う必要もありません。
懲戒解雇を受けた経歴は退職後も残り続けるため、再就職に多大な悪影響が及びます。懲戒解雇の経歴を隠して転職した場合、経歴詐称とみなされます。
経歴詐称をした場合、転職先での懲戒解雇や損害賠償に発展する可能性も高いです。懲戒解雇は従業員の人生を大きく左右するため、慎重に決断しましょう。
懲戒処分の判断基準となる事由の例
懲戒処分は、規律違反行為と処分内容が釣り合っているか、正確な判断が求められます。懲戒処分の内容が厳しすぎると、懲戒権の乱用とみなされ、処分が無効となります。規律違反行為に対する具体的な処分の内容は下の表のとおりです。
表:規律違反行為に対する処分例
懲戒処分の種類 | 規律違反行動の例 |
---|---|
戒告や譴責 | ・1日の無断欠勤 ・はじめて懲戒処分を下す場合 ・業務上のミス |
減給 | ・継続的な無断欠勤 ・常習的に欠勤や遅刻が発生 ・戒告や譴責の処分を下しても改善の傾向が見えない場合 |
出勤停止 | ・相手への暴力行為 ・機密情報の紛失または破損 ・転勤や重要な業務命令の拒否 ・職務放棄にともなう損害の発生 ・残業代獲得のみを目的とした残業 |
降格 | ・部下に対するパワハラやセクハラ ・機密情報の無断持ち出し ・保険金の不正受給 |
諭旨解雇と懲戒解雇 | ・14日以上の無断欠勤 ・業務上の横領や着服 ・経歴詐称 ・機密情報の意図的な流出 ・社外での犯罪行為 |
上記の表を参考にしながら懲戒処分の内容を決定してください。
懲戒処分を下す流れ・手順
懲戒処分を下す際は、次の流れに沿って手続きを進めていきます。
・事実内容を確認する
・処分理由を告知し弁明機会を付与する
・処分を下す懲戒処分の種類を検討する
・懲戒処分通知書を送付し公表する
トラブルを避けるためにも、必要な手続きを踏んで懲戒処分を決定することが重要です。
事実内容を確認する
問題行動に関連する関係者から話を聞き、事実内容を確認します。被害者や通報者から話を聞いた後、画像や動画、音声など、物的証拠の収集に移ります。物的証拠は問題行動を客観的に裏付けるためにも、非常に重要です。
最後に、問題行動を起こした対象従業員から聞き取りを行います。対象従業員との聞き取りでは、客観的な視点で話の内容を聞くことが重要です。先入観や主観が入ると、判断を誤る可能性が高くなります。
処分理由を告知し弁明機会を付与する
問題行動の事実内容が確認できた後、懲戒処分の理由を対象従業員へ告知します。理由を開示しない限り、懲戒処分を下すことができません。企業側が懲戒処分を一方的に下す行為は禁止されているため、注意しましょう。
処分理由を告知した後、対象従業員に弁明の場を与えます。弁明する手段は口頭と文書の提出、どちらでも問題ありません。正確な判断を下すためにも、弁明までに一定の準備期間を与えるのが望ましいでしょう。
また、対象従業員が弁明機会の付与を拒否した場合、権利を放棄したと判断し、次の手続きに進んでも問題ありません。
処分を下す懲戒処分の種類を検討する
事実確認や弁明の機会で得られた情報を基に、懲戒処分の内容を最終的に決定します。複数人で協議を重ねた上で、最終的に処分の内容を決定します。次の6つの判断基準と問題行動の内容を照らし合わせて判断します。
- 対象となる規律違反行為の違法性がどの程度か
- 常習性はあるか
- 意図的に起こした行動か
- 社内外にどの程度影響を及ぼしたか
- 就業規則に記載した懲戒事由との整合性はあるか
- 過去に発生した問題行動ではどのような処分を下したか
また、就業規則に明記されている内容に基づき、処分内容を決めることがルールです。就業規則と異なる内容の処分は下せません。
懲戒処分通知書を送付し公表する
懲戒処分の内容が決定した後、懲戒処分通知書の作成と交付を行います。懲戒処分通知書には、懲戒処分の内容や該当事由、根拠となる就業規則などを記載します。懲戒処分通知書のフォーマットは、インターネット上で入手が可能です。
また、企業によっては職場の秩序維持や風紀改善のため、懲戒処分の内容を公表する場合もあります。ただし、被害者のプライバシー侵害や社外への情報流出も懸念されるため、十分な配慮が求められます。
懲戒処分を下す上での注意点
ここまで、懲戒処分を下す判断基準や流れについて解説しました。懲戒処分は、判断を誤ると、従業員との関係性や職場の雰囲気に悪影響を及ぼします。そのため、次の4点を意識して、トラブルを回避しましょう。
・就業規則へ記載をしておく
・規律違反行為に対する懲戒処分の基準を把握しておく
・懲戒解雇の判断は慎重に行う
・SNSに関する内容も盛り込む
就業規則へ記載をしておく
懲戒処分は就業規則に規定されている事由のみ実施できます。就業規則に記載されていない懲戒処分の内容を勝手に下す行為は認められません。規律違反行為に対してどのような処分を下すのか、明記しておくことが重要です。
また、企業側は就業規則に記載した内容を従業員へ周知する場を設けなければなりません。懲戒処分に関する内容を明記していても、従業員が知らない場合は無効となる可能性があります。
内部統制の強化や職場の秩序維持を図るためにも、就業規則に関して説明する場を設けることが推奨されます。
規律違反行為に対する懲戒処分の基準を把握しておく
規律違反行為に対して、どのような懲戒処分が妥当かを知っておくことも重要です。問題行動を起こした従業員に対する処分が厳しすぎると、懲戒権の乱用に該当し、処分が無効となります。
一方、処分が甘すぎた場合、従業員の戒めや反省につながりません。再発のリスクが常につきまとい、職場の雰囲気や従業員同士の関係が悪化します。「転勤拒否は出勤停止」「継続的なパワハラは降格」など、規律違反行為に対する処分の基準を把握しておきましょう。
懲戒解雇の判断は慎重に行う
問題行動を起こした従業員を懲戒解雇する場合、慎重な判断が求められます。処分に妥当性が見られないと解雇権の乱用とみなされ、解雇が無効となる可能性があります。
関係者への事実確認や物的証拠の収集など、正式な手続きを踏んでから、解雇に踏み切ることが重要です。また、懲戒解雇に踏み切れる規律違反行為は、業務上横領や意図的な情報漏洩など、自社に莫大な損害を与えたケースが該当します。
常習的に無断欠勤や遅刻を繰り返す従業員に対しては、減給や出勤停止など、軽い処分から下していくことが一般的な対応です。処分を下しても何日も無断欠勤が発生する場合は、懲戒解雇に踏み切りましょう。
SNSに関する内容も盛り込む
どのような投稿が懲戒処分に該当するのか、就業規則に明記しておくことが重要です。
近年、SNSが原因でのトラブルも増加しています。SNSでの不適切な投稿が原因で、イメージダウンや多額の利益損失を被った企業も珍しくありません。
たとえば、従業員が顧客の利用状況や居住地などをSNSに投稿した場合、プライバシーの侵害に該当します。多額の損害賠償を求められるだけでなく、顧客からの信頼も失います。
また、「○○会社を訪問した」「○○の部分が特許に該当する」など、業務上の機密情報を投稿した場合も、懲戒処分を下すのが妥当です。一方、プライベートな投稿に関しては、職場の秩序維持や社会的評価との関連性は薄く、懲戒処分の対象には入れにくいです。
ただし、違法行為や不適切な言動などは、自社のイメージに大きく影響します。プライベートな投稿に関しても、懲戒処分に該当する内容を記載しておくと、トラブルを避けられます。
まとめ
懲戒処分は、職場の秩序維持や風紀改善のために実施します。規律違反行為に対して厳しい姿勢を見せることで、抑止力向上を図ります。対象従業員の反省や再発防止を促すためには、問題行動に対して妥当な処分を下すのが重要です。
正しい処分を下すため、事実確認や物的証拠の収集など、必要な手続きを確実に遂行しましょう。一方的な通知にならないよう、対象従業員に弁明の機会を必ず設けることも必要です。
懲戒処分の判断基準となる事由を知っておくと、判断の正確性も高まります。また、懲戒処分は、就業規則の内容に基づいて下すのが基本的なルールです。就業規則に記載されていない内容を下しても、無効とみなされます。トラブルを避けるためにも、就業規則の整備と周知を徹底しましょう。
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