入社誓約書の書き方

企業が人材を採用する際は、さまざまな書類を作成して労働契約を結びます。そのなかの一つに入社誓約書があります。本記事では入社誓約書の概要や書き方、必要事項、対応方法などを解説します。これから人材を採用する企業の担当者はぜひ参考にしてください。

入社誓約書とは

入社誓約書とは、企業が従業員を採用する際に用意する書類の一つであり、従業員が会社の一員として守るべきことを確認、約束してもらう書類です。従業員が書面の内容に違反した場合は、社内規定や就業規則などに従って損害賠償を請求できる場合があります。

無効な内容の場合は法的効力がない

企業が人材を採用する際に入社誓約書を作成しても、その内容が従業員にとって不利益な内容を強制させる場合は法的拘束力はありません。よって、入社誓約書は常識的な内容にする必要があります。

入社誓約書の記載事項は後述しますが、法的効力を持たせるには服務規定や秘密保持、人事異動などに関して合法的な内容にしてください。損害賠償の請求に関しても重過失や故意による内容でなければ、記載できません。

就業規則との関係性

入社誓約書は就業規則に定めた内容を従業員本人に理解してもらうための書類でもあります。そのため、入社誓約書と就業規則は整合性が取れる内容にすることが大事です。両者に整合性がないと、従業員が入社誓約書の内容を破ったとしても、それを理由に懲戒処分を下せません。

まずは就業規則をしっかりと定め、入社誓約書で包括的な同意を得る流れを整備してください。従業員のなかには入社後に就業規則の存在を「知らない」「聞いていない」など、就業規則の適用を逃れようとする方がいます。

そのような従業員が存在すると配置転換や懲戒処分ができません。後々のトラブルを避けるためにも、入社誓約書は「就業規則の内容に従う」旨を盛り込む必要があります。

内定誓約書や入社承諾書などとの違い

企業が人材を採用する際は、入社誓約書以外にもさまざまな書類が必要です。具体的には「内定誓約書」「入社承諾書」「内定通知書」「労働条件通知書」などが挙げられます。

まず入社誓約書と同様の意味を持つ書類には「内定誓約書」「内定承諾書」「入社承諾書」などがあります。これらの書類は企業が応募者や従業員に対して入社の意思を確認する内容であり、入社時に約束して欲しいことを記載します。

一方「内定通知書」「採用通知書」は、応募者に内定や採用を知らせる書類です。入社誓約書などとともに応募者に送る書類となります。また「労働条件通知書」は従業員に賃金や労働時間などを示す書類です。法律で交付が義務付けられている書類であり、必ず盛り込むべき項目が定めてあります。

これらの入社に関する書類をそれぞれの役割を把握して、従業員とやり取りすることが求められます。

【企業担当者向け】入社誓約書の必要項目

入社誓約書の必要事項を企業担当者向けにまとめました。次に紹介する9つの内容を盛り込んで、入社誓約書を作りましょう。

必要項目

・服務規定の遵守
・秘密保持の約束
・虚偽がないことの確認
・人事方針の遵守
・ソーシャルメディアなどの約束
・退職時の引き抜きの禁止・防止
・退職時の顧客持ち出しの禁止・防止
・損害賠償に関すること
・署名や捺印

服務規定の遵守

まずは服務規定の遵守です。服務規定の遵守の内容は、就業規則や諸規則、指揮命令を遵守して業務に専念する点を記載します。服務規定の遵守の内容を盛り込まないと、従業員とトラブルになったり自社が損害を被ったりします。

また、服務規定の遵守に関する記載内容は一番目に記載して、従業員に重要性を伝えてください。例文として下記を参考にしましょう。

「就業規則その他規則の規定内容が労働契約の内容となることを確認し、就業規則等を遵守します。」

秘密保持の約束

次は秘密保持の約束です。どのような企業もさまざまな情報を扱い、業務にあたったり事業を展開したりします。従業員は日々、社内の情報に触れるわけです。その情報のなかには社外に漏れると、取引先に損害を与える内容もあります。

自社のノウハウが流出すれば、大きな損害を被る可能性もあるでしょう。そのような機密情報を流出させないことや不正利用をしないことを、あらかじめ提示してください。例文は下記を参考にしましょう。

「貴社および貴社の顧客や取引先の企業秘密、営業秘密、その他業務上で知り得た機密事項は、在籍中はもちろん退職後も他に漏洩せず、不正利用および開示をしません。」

虚偽がないことの確認

入社誓約書では、選考で応募者から提出してもらった履歴書や職務経歴書などの書類に虚偽がないことを確認する必要があります。例えば、学歴や職歴に虚偽があれば、企業が求める人物ではない可能性が高まります。

結果として自社が不利益を被り、企業活動に影響が出てしまいます。そのため、経歴詐称などを防ぐために入社誓約書で確認する必要があるのです。

仮に経歴詐称などが発覚した際には、解雇処分を含めた厳しい対応をすることも検討しておきましょう。例文は下記を参考にしてください。

「採用選考時又は採用決定時の提出書類や申告事項は事実と相違しません。」

人事方針の遵守

事業の進展や採用する従業員の特性などを踏まえて業務内容の変更を命じたり、転勤で勤務地が変更したりする可能性がある場合に、人事方針に従うことを確認します。ただし、人事方針に関しては、求人票や募集要項に掲載したり面接時に確認したりすることも大事です。

選考過程において説明したうえで、入社誓約書にも盛り込むと従業員とのやり取りでトラブルを防げます。人事方針の遵守に関しては下記の例文を参考にしましょう。

「業務の都合により勤務内容、勤務場所の変更、転勤などを命ぜられた場合は、これに従います。」

ソーシャルメディアなどの約束

近年、TwitterやInstagram、YouTube、LINEなどソーシャルメディアや各種ツールの利便性が高まっています。手軽に多くのユーザーと繋がれるメリットがある反面、個人情報や企業の機密情報を発信するケースも考えられます。

場合によっては自社の名誉を既存する内容を投稿される可能性があります。いずれのケースも企業にとっては損害となるため、入社誓約書で約束することが大事です。ソーシャルメディアなどの約束に関する例文は下記を参考にしてください。

「ソーシャルメディア(Twitter、Facebook、Instagramなど)によって、勤務時間中および勤務時間外に業務上知り得た会社の機密事項、その他会社に不利益になることを一切書き込みません。」

退職時の引き抜きの禁止・防止

従業員が退職する際に引き抜きの禁止や防止に関する内容も入社誓約書に盛り込んでください。従業員の退職と同時に、他の従業員を引き抜かれると自社に大きな損害が生じるからです。

優秀な人材を引き抜かれると組織に大きな穴があいてしまい、業績にも影響が出てしまいます。また、自社のノウハウ流出の危険性もあります。自社と残った従業員を守るために、退職時の引き抜きの禁止や防止については明記しておきましょう。例文は下記をご覧ください。

「在職中および退職から◯年間にわたり、貴社の役員もしくは従業員(雇用形態によらず全ての従業員)を勧誘したり、貴社からの退職を促したりすることをしません。」

退職時の顧客持ち出しの禁止・防止

退職する従業員に対しては、顧客の持ち出しも禁止や防止に努める必要があります。従業員が退職と同時に顧客を持ち出せば、自社にとって大きな損害に繋がります。顧客の持ち出しには、顧客リストも含まれます。

そこで入社誓約書には退職後も顧客と関係を持たない内容を記載してください。なお、顧客落ち出し禁止の期間を極端に長く設定すると、退職者の制約が強くなり法的に無効となる場合があります。禁止期間は退職後1〜2年程度にしてください。例文は下記を参考にしましょう。

「在職中および退職後◯年間にわたり、在職中に知り得た貴社の顧客と直接・間接を問わず取引をしません。」

損害賠償に関すること

入社誓約書には損害賠償に関しても記載します。従業員が入社後に故意もしくは重過失によって会社に損害を与えた場合に、損害を賠償する責任を負う内容にします。ただし、責任を負う線引きの確認も必要です。

例えば「売れ残りは自腹」「些細な過失で破損させても損害賠償」「遅刻は理由を問わず罰金」などは無効になるため、入社誓約書に盛り込めません。

また、入社誓約書で損害賠償の責任を負う旨を記載しても、具体的な金額を予定できません。損害が発生した際の損害額について賠償の責任があることの約束にとどまります。具体的な例文は下記を参考にしてください。

「故意または重大な過失により貴社に損害を与えた場合は、その損額についての賠償責任を負います。」

署名や捺印

入社誓約書の最後は、従業員からの署名欄と捺印欄を用意します。住所と氏名の記入欄を用意して、氏名の横に捺印できるように「印」と記載してください。また、住所や氏名は従業員から自筆してもらいましょう。

入社手続き書類作成の効率化なら「人事労務コボット」がおすすめ

人事労務コボット

入社誓約書など入社手続きや書類作成は、企業担当者にとって負担が多いです。書類作成だけではなく、応募者や従業員とのやり取りがあり、手続きが完了した後も正しく管理する必要があります。

何かと負担の多い入社手続きですが「人事労務コボット」ならば、業務効率化が図れます。

人事労務コボットとは

人事労務コボットとは、入社手続きや雇用契約をペーパーレス化できるツールです。書類の作成や管理をペーパーレス化することで、これまで入社に対応に費やしていた作業時間や人件費を削減できます。

従業員や応募者もスマートフォンやパソコンで対応できるため、書面でのやり取りがなくなります。

特徴

人事労務コボットを導入すると、入社手続きにおける作業時間を約85%まで削減できます。これまでの入社手続きは企業が各種書類を作成し応募者に送付、応募者から返送されてきた書類の確認や保管、さらには応募者からの問い合わせ対応など、非常に多くの工程に対応する必要がありました。

また、書面でのやり取りのため、入社手続きが完了するまで1~2週間程度の時間がかかりました。従来までの入社手続きは非効率な面が多かったのです。一方で人事労務コボットを導入すると、入社手続きが1日~3日程度に短縮できます。入社手続きに関する作業が少なくなれば、他の業務に注力することも可能です。

人事労務コボットの管理画面はシンプルなデザインであり、ツールの操作が苦手な担当者でも使いこなせます。管理画面に従業員の氏名とメールアドレスを入力すると必要書類を送れますし、受信した従業員は電子サインをして返信するのみです。

スマートフォンでの対応も可能であり、従業員も使いやすいツールです。

機能

人事労務コボットには、大きく分けて3つの機能があります。

  • 契約書の電子サイン
  • 個人情報の取得や変更の管理
  • オンライン上での保証人サイン

人事労務コボットでは、入社誓約書や内定通知書、身元保証書など入社時に必要な書類を作成できます。従業員からサインが必要な場合は、電子サインで対応してもらえます。また、サインをもらった書類はPDFでのダウンロードも可能です。

入社時に従業員の給与振込口座や免許証、通勤手段、緊急連絡先などの個人情報の収集や管理もツール上で行えます。収集した個人情報はリアルタイムで反映され、変更時もンライン上で対応可能です。

それから、従業員の身元保証人を必要とする場合も、保証人に書類を電子メールで送りオンラインでの承諾にも対応しています。保証人が離れた場所に住んでいても迅速な契約ができるでしょう。

その他、マイナンバーの管理、社会保険労務士との共同管理、本店と支店間の情報共有なども可能です。人事労務に関する作業の効率化を可能としています。

【就職者・転職者向け】入社誓約書の書き方・対応方法

ここからは就職者や転職者向けに、入社誓約書の書き方と対応方法を解説します。企業側との認識の相違やトラブルを防ぐため、就職者や転職者も書き方を認識しておきましょう。

各項目に必ず目を通す

まずは入社誓約書の各項目に必ず目を通してください。企業側は入社後に守ってほしい項目を記載しており、未確認のまま入社して業務にあたると大きな過失につながる可能性があるからです。

入社誓約書自体は用紙1枚になると考えられますが、記載内容は15項目〜20項目程度になる場合があります。とはいえ、どの項目も簡潔に書かれていますので、1つひとつ確認しましょう。

また、記載内容に不明点があれば企業の担当者に納得いくまで相談してください。記載内容の理解をうやむやにすることで、入試後のトラブルにつながる可能性があるからです。

住所は現住所を記入する

入社誓約書には自筆で氏名と住所を書きます。住所に関しては現住所を記載してください。ここでいう「現住所」とは、文字どおりですが「現在住んでいる住所」です。入社に合わせて居住地を変える場合であっても、入社誓約書に書く住所は記入時点での住所です。

入社に合せて引っ越すのであれば、引っ越したタイミングで企業の担当者に伝えて、必要な手続きをしてください。

捺印はシャチハタを使わない

入社誓約書に捺印をする際は、シャチハタではなく認印を使います。実印の押印が必要な場合は少ないと思いますが、最低限、認印での対応が必要です。シャチハタは朱肉が不要で便利な印鑑ですが、ビジネスシーンでは不適切な場面もあります。

入社誓約書のように業務上、正式な書類であれば認印を使用することがビジネスマナーです。入社が決まっている状態とはいえ、入社誓約書にシャチハタで対応してしまうと企業の担当者からの評価を下げる可能性があります。

日付は入社日が望ましい

入社誓約書には日付の記入欄があります。日付はいつにすればいいか迷いますが、基本的に入社日が望ましいです。もちろん、記入したときの日付を書いても構いません。企業にとって重要となるのは入社の段階で書類が揃っていることであり、入社日以前の日付であれば大きな問題がないからです。

しかし、企業によっては「入社日を記入すること」など、指定されるケースがあります。その点を確認せずに記入日を書いてしまうと、訂正のやり取りが必要となり、企業も自身も余計な労力を使います。

日付の記入に迷ったら入社日を記入すれば問題ありません。それでも不安な場合は、企業の担当者に確認して、正確な日付を記入してください。

同梱する書類を滞りなく揃える

入社手続きの際は、入社誓約書の他にもさまざまな書類が送られてきます。内定通知書や労働条件通知書、内定承諾書などの同梱が考えられます。書類によっては署名や捺印が必要なものもあるため、正確な対応が求められます。

また、入社誓約書のように企業に返送が必要な書類と、企業からの通知のみの書類などを区別して対応してください。返送する書類に必要事項を記入したらクリアファイルに入れるのがおすすめです。書類が折れたり汚れたりすることを防ぎます。

添え状をつける

入社誓約書を含め、返送する書類をまとめたら添え状も同梱してください。添え状は企業に対する簡単な挨拶と、同梱した書類とその数(何通あるか)を記載しましょう。添え状を用意したら、返信用の封筒で企業に送ってください。

まとめ

入社誓約書は企業が従業員に対して入社後に守ってほしいことを約束する書類であり、企業にとってはリスクマネジメントの観点から重要な書類です。服務規定や人事方針の順守など、必要事項を記載することがポイントになります。

人材を採用する前に、記載内容を慎重に検討して作成することが求められます。入社手続きの際は、入社誓約書以外にも必要な書類があったり従業員とのやり取りがあったりと企業の担当者は何かと負担が大きいものです。

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