産休中に給与の支払いは必要なのか、気になる人事労務担当者の方もいらっしゃることでしょう。産休中の給与の支払いは義務ではないため、支払わなくても問題ありません。
しかし、給与を支払わなくても、社会保険の手続きが必要です。場合によっては、手当の申請を従業員から依頼される可能性もあります。
今回は、産休中の給与や社会保険、税金、国から支給される手当などについて解説します。産休中の手続きを滞りなく進められるように確認しておきましょう。
給与計算における産休とは
給料は、毎月給与計算を行った上で、従業員に支払われています。給与計算は労働に対する対価のみならず、労働していない休日である有給休暇や保険料、手当なども含めて計算します。
そのため、企業の規定によっては、産休時の給与計算方法が通常と異なる場合があります。まずは、産休について解説していきましょう。
産休の期間
産休の期間は、出産予定日の6週間前から出産翌日の8週間後までです。双子以上の場合は、産前休業が14週間前から取得できます。
産前休業の開始日は、出産予定日の6週間前(双子以上の場合は14週間前)から出産当日までの間で自由に決められます。そのため、産休予定の従業員が希望すれば、出産予定日ぎりぎりまで働くことが可能です。
産後休業は原則として、「出産日の翌日から8週間は就業できない」と法律で決まっています。ただし、産後6週間を経過した後に本人が請求し、医師が支障ないと認めた業務はできます。
産休の条件
産休の条件は、従業員本人が妊娠していることです。他に条件はありません。
産休を取得するのに、雇用形態は関係ありません。アルバイトやパートなどの短期間労働者でも、請求すれば産休は取得できます。産休の取得対象者は、企業で働いているすべての女性です。
産休の取得方法
産休は、一般的に次のような流れで取得します。
本人が妊娠・出産を会社に申し出る
会社側は育児休業などの制度について個別に周知し、取得意向を確認する
出産予定日にあわせて、休業の予定を決める
休業の申請を従業員が行い、会社側が承認する
手順2の「会社側が制度を説明し、取得意向を確認する」のは、会社の義務です。育児・介護休業法第21条で定められているため、どの企業も対応が必要です。
また、産前休業は義務ではありませんが、産後休業は法律で定められているため、従業員に必ず取得させましょう。他にも、就業規則で手続き方法が定められている場合は、就業規則に従って手続きを行います。
産休中に給料の支払いは必要?
産休中の給料の支払いは、会社の義務ではありません。支払うかどうかは、会社の規定によります。
近年では、福利厚生制度の一つとして、産休中に給与を支払う企業もあります。企業が給与を保障すると金銭的な不安がなくなるため、従業員は安心して休養に入ることが可能です。
会社が給料を支払わなかったとしても、健康保険や雇用保険に加入している従業員は、手当が受け取れます。しかし、給与の支払いがあると、手当金が一部または全額受け取れない可能性があります。
産休中の社会保険料と税金の取り扱い
産前産後休業中の健康保険と厚生年金の保険料は、申請をすれば免除できます。免除をする際に、給与の支払いがあるかどうかは関係ありません。
事業主が事業所管轄の年金事務所に申請すると、被保険者・事業主ともに社会保険料が免除されます。社会保険料の免除をしていても、健康保険の給付は通常通り受けることが可能で、将来受け取れる年金額にも影響はありません。
雇用保険料は、会社から給与が支払われていなければ支払う必要がありません。給与支払時に給与額に応じて徴収するためです。
社会保険料と税金の中で、住民税だけは前年の所得に対してかかるため、産休中も唯一徴収されます。支払方法は会社によって異なるため、就業規則などでルールを確認しておきましょう。
参照元:従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が産前産後休業を取得したときの手続き(日本年金機構)
産休中の手当
産休中には、健康保険やハローワーク、市区町村から手当が支給されます。
産休中の手当はいずれも非課税であるため、所得税の控除はありません。また、手当の金額は次年度の住民税の計算で使う算定基礎額にも含まれません。
産休中に受け取れる手当は4種類あります。それぞれ解説していきましょう。
・出産手当金
・出産育児一時金
・育児休業給付金
・児童手当
出産手当金
出産手当金は、産前産後休業の期間中に支給される手当です。出産日以前42日(双子以上の場合は98日)から出産日の翌日以降56日までの期間を対象として支給されます。
出産日が出産予定日より後になった場合、遅れた期間も支給対象となり、出産日の翌日以降はそのまま56日間分の手当を受け取ることが可能です。出産日以前42日(双子以上の場合は98日)から出産日の翌日以降56日までの金額に加えて、出産予定日から遅れた出産日までの日数分の金額が支払われます。
支給の対象者は、健康保険の被保険者です。会社の申請により、出産手当金を受け取ることができます。
原則として、1日につき賃金の3分の2相当額が支給されます。1日あたりの支給額は、支給開始日の以前12ヶ月間の各標準報酬月額を平均した額÷30日×2/3で計算が可能です。
支給開始日以前の期間が12ヶ月に満たない場合は、次のうちいずれか低い金額を使用して、計算します。
- 支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均額
- 標準報酬月額の平均額(300,000円)
ただし、休業している間に会社が給与を支給していて、その給与が出産手当金より多い金額の場合、手当金は支給されません。出産手当金の金額よりも少ない給与が支払われているときは、給与と出産手当金の差額分のみ支給されます。
参照元: 出産手当金について(全国健康保険協会(協会けんぽ))
出産育児一時金
出産育児一時金は、出産したとき1人につき420,0000円が支給される制度です。ただし、参加医療保障制度加算対象出産でない場合は、1人につき408,000円になります。参加医療補償制度は、出産時になんらかの理由で重度脳性麻痺となった赤ちゃんの補償制度で、加算対象出産かどうかは出産した医療機関で確認できます。
出産育児一時金は、医療機関などが被保険者に代わって申請を行い、直接手当を受け取ることが可能です。この仕組みを、「直接支払制度」といいます。直接支払制度を利用すると、被保険者本人は医療機関の窓口で、出産にかかった費用を支払う手間が省けます。この制度を利用できるかは、出産予定の医療機関にご相談ください。
上記の制度を利用できなかった場合、被保険者が医療機関に出産費用を支払った後、自ら申請を行います。「健康保険出産育児一時金支給申請書」に出産費用の領収書の写しなどを添付して、全国健康保険協会(協会けんぽ)に申請が必要です。
出産育児一時金の金額より出産の費用が少ない場合、「健康保険出産育児一時金内払金支払依頼書」または「健康保険出産育児一時金差額申請書」を提出すると、差額が本人に支給されます。申請者は、被保険者本人です。
出産育児一時金は、海外で出産した場合でも申請ができます。その場合、申請した内容を海外の医療機関に確認するため、支給決定までに時間がかかります。
参照元:出産育児一時金について(全国健康保険協会(協会けんぽ))
育児休業給付金
育児休業給付金は、1歳未満の子を養育するために育児休業を取得したなど、一定の要件を満たすと支給されます。支給要件は次の4つで、すべての要件を満たすことが必要です。
・1歳未満の子を養育するために、育児休業を取得した被保険者である(2回まで分割取得可能)
・休業開始日前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上または就業した時間数が80時間以上の月が12か月以上ある
・一支給単位期間中の就業日数が10日以下または就業した時間数が80時間以下である
・養育する子が1歳6か月に達する日までの間に、労働契約の期間が満了することが明らかでない
保育所に入れないなど事情がある場合、最長2歳に達するまでに取得した育児休業が対象です。
育児休業給付金は原則として、休業開始後6ヶ月間は休業開始前に受け取っていた賃金の67%、それ以降は50%が支給されます。雇用保険から支給されるため、育児休業給付金の問い合わせ先はハローワークです。
支給を受けるには、事業主が事業所を管轄するハローワークに対して、受給資格確認手続きをする必要があります。「雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書」と「育児休業給付受給資格確認表」、初回のみ「育児休業給付金支給申請書」を提出します。提出時には添付書類として、賃金台帳や母子健康手帳が必要です。
児童手当
児童手当は、中学校卒業までの児童を養育している人に支給されます。支給金額は3歳未満の場合、一人あたり一律で月額15,000円です。
支給時期は、原則として毎年6月と10月、2月の3回で、それぞれ前月分までの手当が支給されます。たとえば、6月には2月から5月までの分の手当が受け取れます。
児童手当の申請者は、従業員本人です。子どもが生まれたら、自宅がある市区町村に対して、「認定請求書」を提出します。
原則として、申請した月の翌月から児童手当が支給されます。ただし、「15日特例」があり、生まれてから15日以内に申請すると、申請が翌月になっても申請月分から受け取れます。
参照元:児童手当制度のご案内(内閣府)
産休中の給与計算方法
産休中に給与の支払いをしないとしても、住民税が控除されるため、給与計算は必要です。給与支払いがない企業の産休中の給与計算方法は次のとおりです。
- 支給額=手当額-控除額(住民税)
健康保険と厚生年金、給与支払時にかかる雇用保険料はかからないため、住民税のみ控除します。
産休に入った月の給与の計算は次のとおりです。
- 支給額=基本給+各種手当額-控除額(健康保険・介護保険・厚生年金・雇用保険・住民税)
また、産休中も企業が給与を支払う場合は、雇用保険料の負担が必要です。
まとめ
産休中の給料の支払いは、会社の義務ではありません。支払うかどうかは、会社の規定によります。会社が給料を支払わなかったとしても、健康保険や雇用保険に加入している従業員は、手当が受け取れます。
産前産後休業中の健康保険と厚生年金の保険料は、申請をすれば免除できます。免除をする際に、給与の支払いがあるかどうかは関係ありません。住民税は産休中でも関係なく、支払が必要です。
産休中の給与計算は、手当額-控除額(住民税)で計算ができます。企業が給与を支払う場合は、雇用保険料の負担も必要です。
産休中には社会保険や手当の手続き、給与計算など必要な手続きが多くあります。そのため、人事・労務担当者の業務負担を軽減するために、当社ディップ株式会社が提供する「人事労務コボット」を導入すると便利です。
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