
休憩中や休日などに、つい従業員へ業務連絡をしてしまうことは少なくありません。しかし、従業員側はせっかくのプライベート時間が中断され、ストレスになります。また、店舗側にとっても「連絡して大丈夫だろうか」と気をつかう精神的な負担が生じがちです。
こうした課題の解決策として、近年「つながらない権利」が注目されています。業務時間外の業務連絡を控えることで、従業員の満足度と職場の生産性の両立が期待できます。
当記事では、業務時間外の業務連絡による問題と影響、つながらない権利の概要と必要性、つながらない権利を実現する方法について解説します。
休日や業務時間外の業務連絡が引き起こすストレス

労働者にとって、休日や業務時間外はプライベートの時間です。仕事から離れている時間に業務連絡が入ると、プライベートの貴重な時間が奪われてしまいます。
休日に心身をリフレッシュしようと思っても、業務連絡が入ると途端にストレスを感じるものです。休日の業務連絡が繰り返されると、仕事とプライベートの境界が曖昧になり、精神的な疲労や不満が高まってしまいます。
業務時間外の連絡にストレスを感じるのは従業員だけではありません。連絡をする立場の店長(責任者、リーダー)も、休日中のアルバイトに連絡することを申し訳なく思うものです。
また、連絡をためらってシフトの調整が滞ったり、労働基準法違反に該当することへの不安があったりと、別のストレスを感じることもあるでしょう。
休日や業務時間外の業務連絡は、従業員と店長の双方にとってストレスを感じやすい行為といえます。
休日や業務時間外の業務連絡が引き起こす問題

休日や業務時間外に業務連絡をした場合、以下の問題が起こる可能性があります。
労働基準法違反になる可能性がある
休日や業務時間外に電話で業務連絡をするのは、労働基準法の観点からみて問題となる可能性がある行為です。
労働基準法における業務時間とは、「会社の指揮命令下に置かれているとき」を指します。休日や業務時間外は指揮命令下にないため、会社から入ったメールやLINEについて、従業員は基本的に返答する義務はありません。
休憩時間に関しては「自由利用の原則」があり、自由な方法で休憩を取ることが可能です。したがって、休憩時間中の業務対応を強制する行為は、労働基準法に抵触する行為といえます。
メールやLINE、SNSによる業務連絡に対し、返答を強要する行為があった場合、労働基準法に違反する可能性があります。
パワハラになる可能性がある
業務時間外の電話やメールでの対応を強く催促すると、パワハラになる可能性があります。
厚生労働省のガイドラインによると「優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)」「業務の適正な範囲を超えて」「身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること」がパワハラに該当するとされています。つまり、職務上の地位が高い店長が、アルバイトの従業員に対し業務時間外に繰り返し連絡するような言動は、パワハラになる可能性が高いといえるでしょう。
ただし、業務の指示や命令ではなく、業務に関係する連絡が必要になった場合、パワハラと受け取られないように伝えることが大切です。連絡が必要になるケースは、翌朝の出勤時間や集合場所が急に変更になった場合や、当日の業務にかかわる重要な連絡事項が発生した場合などが挙げられます。
休日中に連絡する際は迷惑をかけたことを謝ったうえで、対応してくれた相手に対し、感謝を伝えることがポイントです。
参考:パワーハラスメントの定義について|厚生労働省
つながらない権利が注目されている背景

「つながらない権利」とは、業務時間外に仕事に関する連絡を受け取らない権利です。この権利が注目されている背景には、以下の3つのことが挙げられます。
「つながらない権利」の定義
「つながらない権利」とは、休憩中や休日などの業務時間外において、仕事に関連する連絡を受け取らず、対応しない自由を持つ権利のことです。「業務時間外に仕事とつながらない権利」や「業務に関連するアクセスから遮断される権利(アクセス遮断権)」と説明されることもあります。
つながらない権利はフランス発祥の概念であり、労働基準法などの法律で明確に定義されている権利ではありません。
日本においては、2021年のテレワークガイドラインにおいて、つながらない権利に関する問題点が指摘されています。2022年7月には、厚生労働省が発表した「これからの労働時間制度に関する検討会」の報告書で、「つながらない権利」という言葉が初めて取り上げられました。
EU(欧州連合)やオーストラリア、アメリカのカリフォルニア州など、欧米の一部では、つながらない権利の法制化が活発化しています。日本における法制化は導入されていないものの、権利を意識する傾向が高まっている状況です。
参考:これからの労働時間制度に関する検討会|厚生労働省
つながらない権利が重要視されている理由
新型コロナウイルスを機にリモートワークが普及し、日本における働き方は大きく変化しました。在宅で働くリモートワークは、仕事とプライベートの境が曖昧になりがちです。
オン・オフの切り替えが難しくなると、心身ともに十分な休息を取れなくなる可能性があります。労働者を守るという観点からも、つながらない権利が注目されているのです。
また、スマートフォンやタブレットなどのモバイル機器やSNSの普及により、業務時間外でも簡単に連絡が取れる状況にあります。従業員のワークライフバランスを守る方法として、つながらない権利は重要な考え方の一つとされています。
つながらない権利のメリット・デメリット
つながらない権利を行使することで、従業員のワークライフバランスが向上し、十分な休息が確保できるようになります。ストレスの軽減や健康の促進、就業中の集中力や生産性の向上など、さまざまなメリットが得られるでしょう。
その一方で、緊急性の高いトラブルが起きた場合、すぐに連絡を取れなくなることが懸念されます。顧客からの連絡で迅速な対応ができないと、顧客の信用を損なうリスクがある点に注意が必要です。
つながらない権利を守るためのルール作り
つながらない権利を守るには、あらかじめルールを整備しておく必要があります。ルールを考える際は、以下の点を考慮しましょう。
労働基準法やパワハラ防止法を遵守する
労働基準法では、労働時間や休日に関する基本的なルールが定められています。時間外労働や休日労働を適正に管理することは、「つながらない権利」を守るうえで不可欠な要素です。
前述のように、電話やメール、LINEなどで業務連絡が入ったとしても、業務時間外であれば、従業員は基本的に対応しなくても構いません。返答を強要する行為は労働基準法に反するため、会社内のルールを見直す必要があります。
また、パワハラ防止法とは、職場におけるハラスメントを防ぐことを目的とした法律です。業務時間外の過度な連絡が従業員に精神的な負担を与える場合、パワハラとみなされる可能性もあるので注意が必要です。
従業員を保護し、働きやすい環境を整備するためには、労働基準法やパワハラ防止法を遵守しましょう。
独自のガイドラインを策定する
企業や店舗は、業務の実態や従業員の働き方に合わせて、独自に「つながらない権利」についてのガイドラインを策定しましょう。ガイドラインを設けることで、業務時間外の連絡に関するルールを明確化できます。
ガイドラインを策定する際は、必要に応じて、社労士などの専門家に相談するとよいでしょう。法的リスクを回避しつつ、店舗や企業に合ったルールを作れるため、より実効性のあるガイドラインが完成します。
緊急時の連絡方法や、例外に該当するケースを具体的に定めておきましょう。
例)
担当者が休日の間に届いた連絡について、対応できる別の人員を用意する。
緊急性の高い問い合わせ用に、担当者に連絡する方法(チャットグループなど)を準備する。
事前にルールを選定しておくことで、社員同士で協力する体制を作ることができ、必要な連絡がスムーズにできるでしょう。
つながらない権利を実践するための環境作り

つながらない権利を実践するには、ルール化に加えて職場環境の整備も必要です。つながらない権利を行使できる環境は、以下の方法で構築できます。
雇う側の意識改革と従業員への啓発
店長やマネージャーなどの上司が、「つながらない権利」の重要性を十分に理解し、意識改革を行なうことが重要です。上司側の一方的な都合で、休日でも構わずアルバイトに連絡を入れていた場合は、これまでの考え方を根本から改める必要があるでしょう。
また、従業員側も「つながらない権利」があることを認識してもらい、適切な連絡ルールを共有することが大切です。研修やミーティングの場で、具体的なケースを交えながら、つながらない権利の理解を深める取り組みを実施しましょう。
コミュニケーションツールの適切な使用
緊急時の連絡手段を明確にし、必要な場合のみ連絡ができる仕組みを整備するには、コミュニケーションツールの活用が有効です。
具体的には、社内チャットツールやビジネスチャットツールなど、業務連絡専用のツールを導入する方法です。プライベートな連絡をするSNSと、業務連絡を完全に切り分けることで、仕事と休日のオン・オフがより明確になるでしょう。
バイトルトークを活用して「つながらない権利」を実現する方法
「ディップ株式会社」バイトルが提供する「バイトルトーク」とは、アルバイトと店長・管理職の間の業務連絡を効率化できる連絡ツールです。
バイトルトークでは、専用のチャットで業務連絡を管理します。従来のように私用のSNSを利用する必要がないため、「つながらない権利」を守りながら円滑なコミュニケーションを図れます。
業務時間外に仕事の連絡についても、緊急度の高い連絡のみ通知が来るように設定ができるので、プライベートの時間をしっかり確保できるでしょう。
さらに、シフト管理機能を活用すれば、シフトの確認や変更がアプリ内で完結できます。シフトに関するメッセージのやり取りを削減できるため、シフトを管理する店長の業務も効率化できます。
つながらない権利を実現するには、「誰でも守れるルール」を作ることが大切です。バイトルトークのように便利なツールを導入すれば、ルールを意識しなくても、無理なくつながらない権利を実現できるでしょう。
まとめ
業務時間外の業務連絡は、基本的に対応する必要はありません。連絡する側の店長や経営者が連絡対応を強要すると、パワハラになる可能性があります。「つながらない権利」を実現することで、休日にきちんと休息が確保でき、ワークライフバランスが整います。
「つながらない権利」を守りつつ、アルバイトと店長が円滑なコミュニケーションを図る方法としては、「バイトルトーク」の活用が有効です。
従業員にルールを周知し、守ってもらうのは簡単ではありません。業務連絡に特化したバイトルトークを導入することで、私的な連絡や不要なやり取りが減り、つながらない権利を守りやすくなります。
店長とアルバイトの心身の健康を守るためにも、つながらない権利を意識した労働環境を作りましょう。