ペーパーレス化によって、業務効率化を実践している企業が増えてきています。ペーパーレス化を行うことで、押印を行うためだけに出社するなどの手間がなくなり、テレワークの実現などにもつながります。
今回は、ペーパーレス化が必要とされる理由や課題、具体的な業務内容を例に解説をしていきます。ペーパーレス化を行うことに悩んでいる企業の方は、ぜひ参考にしてみてください。
ペーパーレス化とは
ペーパーレス化とは、企業においてこれまで紙で行っていた業務をデジタル化させることで、紙の資料や文書などを減らす取り組みのことです。業務のデジタル化を行うことで、これまで紙で行っていた文書作成や資料作成がすべて電子化へと移行されます。
電子化されたデータは、紙での資料と比較して保管がシステム上で行えるため、物理的なスペースが要らなくなったり、該当の資料を探す際に検索が容易になったりするなどのメリットがあります。そのため、業務効率化や生産性向上につながり、多くの企業がペーパーレスへの取り組みを進めています。
ペーパーレス化が必要とされる理由・目的
ペーパーレス化が必要とされる理由として、「業務のデジタル化」が挙げられます。
これまで紙で行っていた業務をデジタル上で行うことによって、業務効率化や生産性向上につなげる動きが活発になってきました。背景には、政府が推進しているDX(デジタルトランスフォーメーション)があります。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、最新のデジタル技術を活用することで、社会の変化に対応し、自社の競争力の維持や強化を測るものです。2018年に経済産業省が「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」を発表しており、業務をデジタル化させることで、これからのビジネスに対応するように求めています。ペーパーレス化は、このような業務のデジタル化の一環として取り上げられています。
また、昨今多様な働き方への対応も企業は求められるようになりました。時短勤務やテレワークなど、必ずしも会社に出社しなければ行えない仕事の環境は、今後淘汰されていくと考えられます。
テレワークを行うためには、会社に出社した時と同様に業務が行える環境を整えなければなりません。しかし、紙での業務が多く残っていた場合、物理的にテレワークを行うことは難しくなってしまいます。そのため、ペーパーレス化を行い、すべての業務をデジタル上で行えるようにすることで、こうした多様な働き方への対応も可能になります。
ペーパーレス化が必要とされる理由は、あくまでも業務のデジタル化を達成するための手段の一つといえます。
ペーパーレス化の現状
2021年にコクヨ株式会社が行った「ペーパーレス化に関する現状の調査」によれば、新型コロナウイルスの感染拡大によって、ペーパーレス業務が進んだかという質問に対して、約36%の企業が「あまり進んでいない」「まったく進んでいない」と回答しています。
また「少しは進んだと思う」という企業が39.5%となっていることからも、全体的に見てもペーパーレスが促進されている企業は少ないことが分かります。
こうした現状において、ペーパーレス化が進まない原因としては次のようなものが考えられます。
- 紙文化の根強い考え方
- ペーパーレス化を進めようにも、自社のみの取り組みでは進行できない
- 中小企業は、そもそもペーパーレス化まで手が回らない
「紙で印刷しておけば安心」「これまで紙で行っていたので、いきなり変える必要はない」など、紙文化の根強い考え方が中小企業を中心に残っていると考えられます。また、ペーパーレスを進めようとしても、「契約書のやり取りは顧客が紙文化のため変更ができない」「考えてはいるが、業務改善まで手が回らない」という企業は多いです。このような考え方や課題を解決できれば、ペーパーレス化はさらに浸透していくものと考えられます。
ペーパーレス化を進めるにあたっての課題
ペーパーレス化を進めるにあたっては、次のような課題が挙げられます。それぞれについて解説していきましょう。
- 紙文化からの脱却ができない
- 紙で行う業務の取捨選択ができない
- メリットが理解できていない
- 自社のみで解決できない課題がある
紙文化から脱却できない
ペーパーレス化が少しずつ進んでいるとはいっても、紙文化から脱却できない企業が多いことは事実です。「これまで紙での運用だったので、今さら変えることはできない」「上長や経営層は承認には紙での提出を求めてくる」など多くの企業が、これまでの運用面や企業文化として紙文化を継続してしまっています。
紙文化から脱却するためには、経営層を巻き込んでこれまでの業務のあり方を変えていくように働きかけたり、トップダウンで紙の資料を撤廃する宣言を行ったりすることなどが求められます。
紙で行う業務の取捨選択ができない
ペーパーレス化は全社的に展開していくものですが、いきなり全社的に展開するのではなく、優先順位をつけて少しずつ変えていくものです。そのため、紙で行っている業務のどこからペーパーレス化を行うかが重要です。
しかし、こうしたさまざまある業務の優先度がつけられず、取捨選択ができていないことも少なくありません。「同じ資料を何度も印刷してしまっている」「紙で残しておくと便利かもしれないと思い印刷したが、使っていない」など、業務の中で紙での運用がほとんど行われていない業務については、積極的にペーパーレス化を進めていくと良いでしょう。
メリットが理解できていない
ペーパーレス化を行うメリットは、長期的な視点で見えてくるものです。業務効率化はもちろん、あらゆるコスト削減の達成やスペースの有効活用などメリットはさまざまです。
しかし、こういったメリットを理解できず、現状のままで進めてしまっている企業も多くあります。ペーパーレス化を進めるためには、根気よくメリットを説明し、理解を得ることが大切です。
自社のみで解決できない課題がある
自社でペーパーレス化を進めようにも、経営層が積極的ではなかったり、取引先とのやり取りが紙のままなので変化ができなかったりなど、自社のみで解決できない課題がある場合があります。
特に、現場の人材から声を上げても、経営層に響いていなかったり、業務にそこまで影響が出ていなかったりする場合は、難しくなってしまうでしょう。
自社のみで解決できない場合はペーパーレス化が進みにくいですが、できる範囲から行っていくことが大切です。
ペーパーレス化の進め方
ペーパーレス化を進める方法は、次の4点を意識して進めていきます。それぞれの方法について解説していきましょう。
- 自社の課題を明確にして全社的なプロジェクトを組む
- ペーパーレス化を推進する業務を決める
- 自社の課題を解決し、ペーパーレス化を達成するツール・システムを選ぶ
- 成果や改善点を確認し、他の業務へ広げていく
自社の課題を明確にして全社的なプロジェクトを組む
自社で行っている紙での業務はどのようなものがあるのかを洗い出します。そして、どのように扱われているのか、どのような課題があるのかを明確にしていきます。
たとえば、取引先からFAXで注文書をもらっており、注文書の内容を担当者がシステムに直接手入力を行っているなどの場合、担当者の負担が大きいなどが考えられます。ペーパーレス化を行うことでシステムに直接反映される仕組みを整えられれば、担当者の負担が減るとともに、紙による注文書もなくなっていきます。
このように、自社の課題を明確にして、その解決を行うために全社的にプロジェクトを組み、解決に向けて動き出していくことが求められます。
ペーパーレス化を推進する業務を決める
全社的にペーパーレス化を行うプロジェクトを組んだ後に、プロジェクト体制を中心に推進していく業務を決めていきます。
繰り返しになりますが、いきなり全社的にペーパーレス化を進めようとしてもノウハウなどが貯まっておらず、プロジェクトが頓挫してしまう可能性があります。そのため、ペーパーレス化を進める業務に優先順位をつけて、取り組んでいくことが求められます。
優先順位はペーパーレス化を行うのが簡単な業務や、効果が大きい業務を優先的に行うと良いでしょう。また、先行でペーパーレス化を行った業務のノウハウを貯めていくことで、他の業務へ展開する際にスムーズに進んでいきます。
自社の課題を解決しペーパーレス化を達成するツール・システムを選ぶ
ペーパーレス化を実現するためには、ツールやシステムの活用は欠かせません。そのため、自社の紙の業務での課題を解決してくれるツールやシステムを導入するようにしましょう。
ツールやシステムを導入する際は、課題を解決してくれることはもちろん、担当者の操作感は問題ないか、費用対効果は優れているかなどを確認したうえで選択していくことが大切です。
操作しにくいシステムを導入してしまうと、担当者の負担が増えてしまい、業務効率化につながらないケースもあります。そのため、無料トライアルなどで事前に試験的に導入を行い、問題ないか確認すると良いでしょう。
成果や改善点を確認し他の業務へ広げていく
優先的にペーパーレス化を行った業務の成果や改善点を確認し、どれくらいの業務効率化につながったのか、どれくらいのコスト削減につながったのか確認できれば、全社的に展開する際の説得力につながります。
また、改善点の確認も重要です。ツールやシステムを導入した際に成果につながりにくかった点はどこか、改善することでより成果につながる点はどこかなどを確認しておくことで、次の業務のペーパーレス化を進める際に、より効率的に推進することができます。
ペーパーレス化を進める具体的な業務
続いて、ペーパーレス化を進める際の具体的な業務を紹介しましょう。
主な業務としては、次の4つが挙げられます。それぞれの業務について、どのようにペーパーレス化が進められるのか解説していきます。
- バックオフィス業務
- 契約業務
- 社内ワークフロー
- 社内会議・取引先との会議
バックオフィス業務
バックオフィス業務とは、経理や給与計算などを行う企業のバックボーンを支える業務のことです。これらのバックオフィス業務は、紙を多く利用する業務の代表例として知られており、最も効果が出やすい業務でもあります。
たとえば、経理業務では注文書の伝票入力や従業員の経費や交通費精算など、紙で行うと手間がかかる業務が多くあります。システムを導入することで、計算が自動化されたり、自動で内容がシステムに反映されたりするなど、業務効率化につながります。
また、これらの業務はすべてシステム上で完結できるため、紙の業務は一切必要ありません。そのため、スムーズに業務が行えるようになるのに加え、テレワークなどの柔軟な働き方への対応にもつながります。
他にも、システムを導入することで備品管理などをペーパーレス化し、より簡単な管理も可能です。バックオフィス業務の中でも残業が多い部署などを選定し、ツールやシステムを導入することで、業務効率に最もつながるところはどこか検討すると良いでしょう。
契約業務
契約業務もペーパーレス化を進められる業務の一つです。具体的には電子契約システムの導入です。電子契約システムとは、これまで紙で行っていたあらゆる契約に関する業務をシステム上で行うことで、手書きでのサインや押印の手間などを削減するものです。
昨今、さまざまな電子署名や電子契約ツールがリリースされています。利用したい機能が備わっているか、費用対効果に優れているかなどを確認して、自社に適した電子契約システムを導入すると良いでしょう。
取引先との契約の電子化が難しくても、雇用契約など自社内の契約のみからペーパーレスを実施している企業も多くあります。
社内ワークフロー
社内での業務では、稟議書など上長の承認が必要な書類が多くあります。稟議書や申請書などを紙で印刷し、上長の押印で確認を取っている企業も多いでしょう。
こうした承認作業であるワークフローをシステム化することによって、ペーパーレス化が実現できます。具体的には、紙での稟議書を発行する必要はなく、書類の作成から承認依頼、上長の承認までをすべてシステム上で行えます。
そのため、上長はいつでもどこでも承認作業を行うことが可能です。また、紙の発行だと紛失してしまったり、承認者のどこかで止まってしまったりする可能性がありますが、システムで運用することで、そういった手間やリスクも低減することが可能です。
社内会議・取引先との会議
社内会議や取引先との会議では、Web会議システムを活用していくことで、ペーパーレス化を実現できます。
Web会議システムでは、利用する資料を事前にPDFなどで共有できるため、印刷を行う手間が発生しません。また、Webでの会議になるため、遠隔地にいる人ともリアルタイムでの情報共有が行えます。そのため、移動にかかる時間や値段のコストを削減することが可能です。
会議はアーカイブとして残しておくことも可能であるため、参加できなかった人も後から内容を確認することも可能です。また、資料などは会議ごとに保管したり共有したりできるため、紛失のリスクはなく容易に確認できます。
ペーパーレス化を進める際の注意点
ペーパーレス化を進める際の注意点は、主に次の3点が挙げられます。それぞれの注意点について解説していきましょう。
- 取引先への確認
- 保存方法の確認
- 法律の確認
取引先への確認
ペーパーレス化は、自社内の業務で完結するものもあれば、契約書や発注書のやり取りのように、取引先が関わってくるものもあります。そのため、電子契約システムなどを導入する場合は、取引先に業務への対応をお願いするなどの必要があります。
中には、自社がペーパーレス化を行ったとしても、相手の業務に対応するために紙での対応が必要な場合もあります。その際は、印刷して発送を行うなど、柔軟な対応が求められます。
取引先などが関わる場合には、取引先への協力依頼など確認を怠らないことが大切です。
保存方法の確認
紙での運用を行う場合は、物理的に保管を行う際の決まりや鍵やキャビネットの管理方法など、保存についての取り決めをしているでしょう。ペーパーレス化によって書類を保管する際にも、保存方法について社内で取り決めを行う必要があります。
アクセス権限はどこまで与えるのか、インシデントが起こった際にはどのように対応するのかなど、運用面での確認が必要です。
加えて、多くの書類を運用するため、保存方法についても決まりがあると良いでしょう。ファイル名やフォルダ名を統一して容易に検索できるようにするなど、保存方法の確立も大切です。
法律の確認
法律の確認も重要です。書類の電子保存を行う場合には「電子帳簿保存法」などを遵守することが求められるからです。
電子帳簿保存法では、保存を行う書類の種類などによって保存要件が異なるため、きちんとした保存と運用を行わなければなりません。また、タイムスタンプの要件や紙での出力による要件なども盛り込まれているため、ペーパーレスに対応する際は押さえておくことが求められます。
まとめ
企業のペーパーレス化は少しずつ進んでいます。今後は多くの企業が自社の業務をペーパーレス化させていくことが予想されます。
その際には、自社の業務の課題を把握し、優先順位をつけてペーパーレス化を実施していくことが大切です。自社の業務で最も紙の書類の業務が多いのはどこか、最もペーパーレス化の効果が出る業務はどこかなどを確認して推進してみてください。
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