勤怠管理は、企業や事業者が必ず行うべきものの一つです。勤怠管理がきちんと行えていない企業は、職場環境が悪くなってしまうだけでなく、社会的な信用を失ってしまう恐れもあります。
今回は、勤怠管理を行う目的や、管理すべき項目や管理する際の注意点などについて解説します。
勤怠とは
勤怠とは、企業に勤めている従業員の出勤や退勤、欠勤、年次有給休暇の取得状況などの勤務状況を表すものです。労働基準法に基づき、企業は従業員の勤怠状況について、きちんと把握し管理することが求められています。
勤怠管理とは
勤怠管理とは、企業が従業員の労働時間を正しく把握して管理することです。具体的にいえば、出退勤の時間、1日に何時間働いていたか、残業時間は何時間か、休憩時間や早退、欠勤、有給休暇の取得など、従業員の勤務に関わる全般を管理していきます。
勤怠管理をきちんと行うことで、従業員の給与を正確に計算し、従業員のワークライフバランスを適切に守ることにつながっていきます。
勤怠管理を行うことは、労働基準法第108条において、企業や事業者などの「使用者」が雇用している従業員の勤怠管理を行うこととして義務付けられています。また、労働基準法第109条では、使用者は労働者の勤怠管理に関する書類を3年間保管することが義務付けられています。
使用者は、業界や業種、会社の規模に関わらず、従業員の勤怠管理を行わなければなりません。また、昨今テレワークや時差出勤など多様な働き方をしているケースが多くなってきています。こうした場合でも使用者は、正確に従業員の勤怠管理を行う必要があるため注意が必要です。
勤怠管理の目的
勤怠管理の目的は、管理を行うことではなく、収集した勤怠管理に関するデータを正しく活用することです。データを正しく活用することで、健全な職場環境づくりにも貢献します。
使用者による勤怠管理が必要な理由は、次の5つの目的を達成するためです。それぞれの目的について解説していきましょう。
・従業員の働き方の把握と数値化
・従業員への正確な賃金の支払い
・従業員の健康管理
・コンプライアンス遵守
・働き方改革への対応
従業員の働き方の把握と数値化
勤怠管理の主たる目的は、使用者が従業員の働き方を正確に把握することです。正確に把握するということは、従業員一人ひとりの勤務時間から有給取得状況の隅々まで「数値」として把握するということです。
従業員の働き方が数値化されることで、さまざまな問題に対応することが可能です。たとえば、残業時間が非常に多い場合は、業務に負荷がかかってしまっているなど、改善点として見えやすくなります。
つまり、数値化を行うことで、感覚的ではなく目に見える実態として表わされてきます。こうした働き方の数値化を行うことで、現状の分析が行えるようになり、職場環境の改善が可能になります。
従業員へ正確な賃金の支払い
従業員の給与は、基本賃金に加えて働き方によって異なります。休日出勤や深夜労働による割増賃金、残業時間による変動など、月々によっても正確な賃金が変わってくることが多々あります。
そのため、使用者は、正しい給与計算と従業員に正確な賃金を支払うために、勤怠管理を行うことが必要です。
正確な賃金の支払いが従業員にされなければ、使用者と従業員の間で、裁判などのトラブルに発展してしまう可能性もあるでしょう。そのため、きちんとした勤怠管理を行うことは、正確な賃金の支払いにつながり、トラブルを未然に防ぐ結果にもつながるのです。
従業員の健康管理
従業員の健康管理を行うことも、勤怠管理を行う大きな目的です。昨今では、従業員が長時間労働の末、過労自殺に追い込まれてしまったなどが大きなニュースとなっています。
労働基準法では、労働時間を1日8時間、1週間40時間と定められており、企業と雇用契約を結ぶ際は、36協定を結ぶことが義務付けられています。こうした従業員の健康を身体、そしてメンタル面でも守ることは、企業の責任となっています。
当然ですが、自社のために働いている従業員の健康を蔑ろ(ないがしろ)にしてしまう企業には人が集まらず、淘汰されてしまいます。企業として持続的に事業を行っていくためには、勤怠管理によって従業員の健康を守ることが求められています。
コンプライアンス遵守
2017年5月、厚生労働省は労働基準法関連法令違反の事例を企業名とセットで発表し始めています。
公的機関が公に「労働基準法を犯している企業」と発表することは、企業のイメージに大きな傷が付いてしまいます。一度でもいわゆる「ブラック企業」のようなイメージが付いてしまうと、評価を取り戻すのは非常に困難でしょう。
たとえば、自社製品が売れなくなってしまったり、自社を希望する求職者が減ってしまったりといった影響が考えられます。こうした事態にならないためにも、コンプライアンス遵守を守っていくことは大切です。
そのための手段として勤怠管理は、非常に大きな役割を担っています。
働き方改革への対応
昨今、テレワークや時短勤務、フレックスタイムの導入など多様な働き方が推進されています。こうした多様な働き方を推進する目的は、「労働力の増加」「長時間労働の是正」などです。
たとえば、女性は出産や育児などで退職を余儀なくされるケースは少なくありません。しかし、短時間勤務などの働き方が認められることで、働きたい人は働くことができ、企業は労働力を低下させることはありません。
加えて、こういった取り組みが新たな求職者を呼び込む可能性があります。また、「従業員の健康管理」の章ともつながりますが、長時間労働の是正にも働き方改革は貢献します。
しかし、働き方改革へ対応するためには、従業員がどのような働き方であっても、きちんと労働時間を把握することが求められます。そのためには、勤怠管理を適切に行っていかなくてはなりません。
勤怠管理で管理する項目
実際に勤怠管理を行っていくうえで、管理が必要な項目は次の8つです。それぞれの管理項目が必要な理由について解説していきましょう。
・出退勤の時間
・労働時間
・休憩時間
・時間外労働時間
・深夜労働時間
・休日労働時間
・欠勤日数
・年次有給休暇の取得状況
出退勤の時間
その名のとおり、出退勤の時間は、従業員が「出勤した時間」と「退勤した時間」を正確に記録することです。出退勤の時間を正確に記録することで、正しい労働時間が把握できます。
また、給与計算を正確に行うために、始業時刻や終業時刻については1分単位で管理することが必要です。他にも、給与計算を正確に行うために、遅刻や早退があった場合もきちんと記録しておくことが大切です。
労働時間
労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下にある状態であると、「三菱重工長崎造船所事件」の判例で裁判所が定義しています。つまり、労働時間は、就業規則に記載されている時間ではなく、従業員が上司から仕事の指示を受けられる状態であるとされれば、労働時間とされます。
たとえば、次のような時間は労働時間に含まれるとしています。
- 上司から指示を受けて行う、業務の学習時間
- 業務を行う上で必要な制服等に着替える時間
- 休憩時間中に行った電話対応
こうした労働時間は1分単位での記録が求められており、労働者が不利になるような時間管理を行っていた場合は、罰せられる可能性があります。
休憩時間
休憩時間は、労働基準法第34条によって次のように定められています。
6時間を超え、8時間以下の場合は少なくとも45分。8時間を超える場合は、少なくとも1時間
つまり、1日8時間労働を従業員に課す場合は、最低でも1時間の休憩が必須です。また、休憩時間に業務を行える状態にすることは、休憩時間ではないと判断されます。
たとえば、前章で取り上げた「休憩時間中に行った電話対応」などです。業務から切り離され、きちんと休憩時間を取得しているかを管理することが求められます。
時間外労働時間
時間外労働時間とは、いわゆる「残業時間」のことです。繰り返しになりますが、労働基準法では「労働時間を1日8時間、1週間40時間」と定められています。
つまり、この規定された時間を超えて労働した時間が、時間外労働時間としてカウントされます。時間外労働時間の管理が必要な理由は、賃金が変わってくるためです。
時間外労働時間では、25%以上の割増賃金を支払う必要があると定められているため、きちんと記録されていなければ、正確な賃金計算は行えません。そのため、1日10時間の労働をした従業員がいた場合は、「労働時間:8時間、時間外労働時間:2時間」のように、時間外労働時間が把握できるように、記録する必要があります。
深夜労働時間
深夜労働時間とは、22時から5時まで働いた時間を指します。深夜労働時間の管理が必要な理由も、割増賃金が必要になってくるからです。該当の深夜労働時間で働いた従業員に対しては、時間外労働時間と同様に、25%以上の割増賃金を支払う必要があると定められています。
たとえば、飲食店のアルバイトが18時から0時まで働いた場合は、「労働時間:4時間、深夜労働時間:2時間」と、深夜労働時間が何時間だったかをわかるように記録することが求められます。
また、深夜労働時間が時間外労働時間に該当した場合、割増賃金の比率は50%以上となります。正確に賃金計算をするためにも、分けて管理することが大切です。
休日労働時間
休日労働時間とは、文字どおり、法定休日に労働を行った時間を記録することです。法定休日は労働基準法第35条に明記されており、使用者は少なくとも毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければなりません。
法定休日に使用者が従業員に労働の指示を与えた場合、休日労働時間に該当します。休日労働時間を記録する理由も、割増賃金の計算を正確に行うためです。
休日労働時間での割増賃金は、35%以上の割増率が必要です。また、法定休日に労働があった場合は、代休の取得なども必要になるため、きちんとした記録が必要です。
欠勤日数
欠勤日数とは、従業員が労働に従事する予定だった日を休んだ日数のことです。たとえば、体調不良によって仕事を休むなどが挙げられます。
欠勤日数の把握は、給与計算を行う際の欠勤控除に必要になるため、正確な日数の把握が求められます。
年次有給休暇の取得状況
年次有給休暇の取得状況も、勤怠管理では求められています。有給休暇の日数は、雇用形態などによって異なります。
たとえば、正社員での雇用の場合は、雇用から半年で1年あたり10日間の有給休暇が付与されます。また、有給休暇は、1年ごとにさらに勤続年数に応じた日数が付与されます。
従業員の有給休暇取得については、働き方改革関連法によって使用者が従業員に対して取得させることが、2019年から義務化されています。前述した年10日以上の有給休暇が付与される場合は、年間5日間以上の有給休暇の取得義務が生じます。
そのため、年度末までに、取得が少ない従業員に対しては、企業側から取得を働きかけることが求められます。従業員の健康管理にもつながるため、年次有給休暇の取得状況についても、正確に把握することが必要です。
勤怠管理を行う方法
実際に勤怠管理を行う方法の中でも、次の4つを多くの企業が導入しています。それぞれの方法を解説しましょう。
・タイムカードの利用
・紙の出勤簿の利用
・Excel(エクセル)の利用
・勤怠管理システムの利用
タイムカードの利用
タイムカードの利用は、職場にタイムレコーダーを設置し、従業員は出退勤や休憩時間の際に自身のタイムカードを差し込んで打刻を行う方法です。簡易的に打刻を行えるため、誰でもすぐに利用ができます。
一方で、タイムカードの利用は、必ず職場に出社しなくてはならないというデメリットや、管理者の集計に時間がかかってしまうというデメリットがあります。
たとえば、営業職が朝から顧客のもとへ直行した場合、後から勤務開始時間を申告する手間が発生しています。また、管理者は月ごとに、タイムカードの時間を給与計算システムなどに集計する手間も発生します。
誰でも簡単に利用できる反面、勤務の詳細な時間把握については難しい方法であるといえます。
紙の出勤簿の利用
紙の出勤簿は、従業員が出勤した時間などを出勤簿に自己申告で記入していき、上長の承認をもらって管理する方法です。アナログな方法ですが、上長としても、きちんと出勤しているかがその場でわかるため、多くの企業で採用されています。
一方で、自己申告制であるため、実際の労働時間と乖離が出てきてしまったり、劣悪な職場環境だと上長が時間を修正するように支持してしまったり、正確な労働時間管理につながらないというデメリットもあります。
そのため、導入する際は、従業員に対する説明や、不正などを防止する措置が必要になります。
Excel(エクセル)の利用
出勤簿として利用するExcel(エクセル)を社内で共有し、従業員は出退勤時に、記録していく運用方法です。
Excelでの運用は関数などを用いて行いますが、現在では必要な関数が入力されたテンプレートがすでに多く公開されているため、すぐに運用を開始できることがメリットでしょう。
一方で、Excelの利用は、改ざんや虚偽申告も容易にできてしまうというデメリットがあるため、厚生労働省のガイドラインでも運用を推奨されていません。管理方法やコスト面については、メリットがありますが、運用上のリスクについても認識しておくことが大切です。
勤怠管理システムの利用
現在では、正確な勤怠管理を行うために、多くの勤怠管理システムがリリースされており、多くの企業で導入が進んでいます。
勤怠管理システムのメリットは、オンラインでの利用ができるため、多様な働き方に対応ができることや、給与計算システムと連携を行えば、管理者が効率的に正確な給与計算が行えるため、業務負担が軽減されることがあります。
一方で、導入にコストがかかってしまうことや、情報漏えいのリスクなどがデメリットとして挙げられます。それでも昨今では、多くの企業が勤怠管理システムを導入しての勤怠管理を行っています。
勤怠管理における注意点
最後に、実際に勤怠管理を行う際の注意点を解説しましょう。
・入力ミスのない環境を作る
・勤務体系によって異なる勤怠管理をきちんと行う
・給与計算や人事評価との互換性を確認する
入力ミスのない環境を作る
勤怠管理を行う際に多いのが、従業員の打刻ミスなどです。打刻ミスをしたとしても、すぐに修正ができる環境であれば問題はありませんが、修正ができずに間違った給与計算などにつながってしまうと問題となってしまいます。
そのため、従業員がストレスなく簡単に入力が行えたり、ミスをしてもすぐに修正ができたりする環境をつくることが大切です。
勤務体系によって異なる勤怠管理をきちんと行う
繰り返しになりますが、現在ではテレワークをはじめとした多様な働き方が広がっています。こうした従業員によって勤務体系が異なる場合でも、きちんと勤怠管理が行えるようにしなければなりません。
異なる勤務体系で働いている従業員が多ければ多いほど、管理が煩雑になりやすくなります。そのため、抜け漏れがないように、チェック体制を整えるなどが大切です。
給与計算や人事評価との互換性を確認する
勤怠管理は、給与計算や人事評価と互換性がなくてはなりません。
たとえば、勤怠管理システムを導入したとしても、給与計算や人事評価との互換性が低ければ、大きな効果は期待できません。勤怠管理の効率化はもちろんですが、他の業務と合わせて効率化ができないかを確認すると良いでしょう。
まとめ
会社を安定して経営していく中で、従業員の適切な勤怠管理は非常に重要です。
勤怠管理の方法は、企業の雇用形態や業務体系などによって、さまざまな方法があります。大切なことは、自社に適した勤怠管理を行うことです。
従業員や管理者がストレスなく勤怠管理を行えるようになれば、職場環境もより良いものになっていきます。
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