賞与支払届の提出は、年に1~3回と限られています。臨時的な手続きのため、手続き方法を忘れてしまう人事・労務担当者の方もいらっしゃることでしょう。
賞与支払届は賞与にかかる社会保険料を算出するための書類のため、提出に不備があると従業員が将来受け取る年金額に悪影響があります。そのため、適切に届出をする必要があります。
そこで今回は、賞与支払届を提出するまでの流れと電子申請の方法、手続きをする上での注意点などをわかりやすく解説します。今回お伝えする内容を参考に、賞与支払届の適切な手続き方法をおさらいしましょう。
賞与支払届とは
賞与支払届とは、企業が賞与を従業員に支給したときに提出する書類のことです。提出した賞与支払届の内容に応じて、賞与にかかる社会保険料が算出されます。
対象となる賞与は年3回までで、年4回以上支給される場合は、標準報酬月額の対象となります。賃金や手当、賞与などの名称にかかわらず、労働の対価として支給する場合、提出が必要です。労働の対価でない出産手当金などは、対象外です。
賞与支払届の内容をもとに算出された社会保険料を納めると、従業員が将来受け取れる年金額の計算の基礎に加算されます。そのため、賞与支払届の提出は適切に行う必要があります。
ここからは、賞与支払届の提出先や提出期限、対象となる人をみていきましょう。
提出先
賞与支払届の提出先は、日本年金機構または事業所所在地を管轄する事務センターです。1ヶ所に送付することで、健康保険と厚生年金、両方の手続きを完了できます。
ただし、加入している健康保険組合が全国健康保険協会(協会けんぽ)以外の場合、加入している健康保険組合に対しても提出が必要です。この場合、健康保険組合用を健康保険組合に、厚生年金用を日本年金機構に送付するため、2ヶ所に送付します。
提出期限
賞与支払届の提出期限は、賞与支給日から5日以内です。提出を怠ると、管轄の年金事務所または事務センターから「被保険者賞与支払届の提出について」という催告状が届きます。
提出期限を過ぎても提出は可能ですが、支給日から2年を経過すると時効により受け付けてもらえなくなります。そのため、可能な限り早く提出しましょう。
反対に、賞与支給日以前に提出を行うと、年金事務所によっては返却される可能性があります。
対象となる人
賞与支払届の提出が必要な人は、賞与の支払いを受けた健康保険・厚生年金の被保険者および70歳以上被用者です。被保険者には役員も含みます。
アルバイトやパートなどで社会保険に加入していない短期間労働者がいる場合は、対象外です。また、賞与の支払いをしていない従業員がいる場合も対象外です。
賞与支払届の提出は、賞与支給日までに在籍している人が対象のため、賞与支給日以前に退職した人に賞与を支給した場合、その人の分の賞与支払届は提出する必要がありません。
賞与支払届を提出するまでの流れ
ここからは、実際に賞与支払届を提出するまでの流れを説明します。手順を一つずつ、具体的に解説していきましょう。
ステップ1:届出書類を受け取る(またはダウンロードする)
ステップ2:保険料を算出する
ステップ3:被保険者賞与支払届など必要書類を作成する
ステップ4:日本年金機構に必要書類を提出する
ステップ5:保険料を納付する
ステップ1:届出書類を受け取る(またはダウンロードする)
まず、賞与支払届提出に必要な届出書類を受け取ります。必要な届出書類は、「賞与支払届」または「賞与不支給報告書」です。賞与を支給した場合は賞与支払届、支給しなかった場合は賞与不支給報告書が必要です。
届出書類は、日本年金機構や健康保険組合から、賞与支払予定月の前月に郵送で送られてきます。届出書類には被保険者の氏名や生年月日などが既に印字されていますが、印字ミスがないかどうか内容を必ず確認しておきましょう。
また、印字のタイミングによっては、新しく入社した従業員の分は印字されていない可能性があります。その場合は、手書きで従業員情報を記入しましょう。
届出書類は、日本年金機構の公式ホームページからもダウンロードできます。公式ホームページでは、PDFとExcelの2種類の様式が用意されています。Excelの場合、内容をパソコンで入力してから印刷することが可能です。
他にも、届出書類は給与システムから直接出力できる場合があります。ただし、加入している健康保険組合によっては、指定のフォーマット以外受け付けていない可能性があります。そのため、事前に確認をしておきましょう。
賞与支払届は、電子媒体申請や電子申請もできます。電子媒体申請は、CDやDVDにデータを入れて、郵送する方法です。前回提出したデータの変更点のみ変えて提出できるため、手書きと比較して手間がかかりません。電子申請については、後述します。
ステップ2:保険料を算出する
届出書類を手に入れたら、従業員ごとに保険料を算出します。保険料は、次の式で計算できます。
- 保険料=標準賞与額×健康保険・厚生年金の保険料率
標準賞与額は、税引き前の賞与の総支給額から1,000円未満を切り捨てた額です。標準賞与額には上限があり、健康保険は年間累計額(4月1日から翌年3月31日まで)573万円、厚生年金保険は1ヶ月あたり150万円が上限となります。
健康保険料率は、事業所が所在する都道府県により異なります。令和4年度の保険料額表(令和4年3月分から)はこちらです。健康保険や厚生年金の保険料率は、毎年改正される可能性があるため、最新の情報を確認する必要があります。
ステップ3:被保険者賞与支払届など必要書類を作成する
従業員ごとに保険料を算出したら、被保険者賞与支払届などの必要書類を作成します。「被保険者賞与支払届」には、次の項目を記入します。
・提出日
・被保険者整理番号
・被保険者氏名
・被保険者生年月日
・賞与支払年月日
・賞与支払額
・1,000円未満を切捨てた賞与額
・備考
備考欄には1~3の選択肢があるため、当てはまる場合は記入が必要です。
他にも、事業所整理記号や事業主氏名など事業所情報を記入します。被保険者賞与支払届には、押印は不要です。
本来賞与を支給予定だった日に賞与を支給しなかった場合、被保険者賞与支払届の代わりに、「賞与不支給報告書」を提出します。
賞与不支給報告書には、賞与支払を予定していた年月を記入します。賞与支払年月を変更する場合は、「賞与支払予定月の変更」に変更後の年月、「賞与支払予定月変更前」に変更前の年月を記入することで、変更が可能です。
なお、これまで提出が必要だった「被保険者賞与支払総括表」は手続き簡便化のため、令和3年4月1日以降提出が不要になりました。
参照元:令和2年12月25日より年金手続きの押印を原則廃止します(日本年金機構)
ステップ4:日本年金機構に必要書類を提出する
必要書類を作成したら、管轄の年金事務所または事務センターに必要書類を提出します。提出期限は、賞与の支給日から5日以内です。
全国健康保険協会(協会けんぽ)以外に加入している企業は、加入している健康保険組合に対しても提出が必要です。提出する被保険者賞与支払届や賞与不支給報告書には、基本的に添付書類は必要ありません。
必要書類を提出すると、「保険料決定通知書」が年金事務所や健康保険組合から届きます。決定した内容に誤りがないかどうか、提出済みの被保険者賞与支払届と照らし合わせて確認しておきましょう。
ステップ5:保険料を納付する
保険料が決定したら、保険料を納付します。保険料は同月の給与にかかる保険料と合わせて、翌月末までに納付します。
たとえば、6月に賞与を支給する場合、6月給与の保険料と合わせて、7月末に保険料を支払います。
納付が遅れると、年金機構から督促状が届くため、期限を守って納付しましょう。督促状が届いた場合、速やかに保険料を納付しないと、延滞金を請求される可能性があります。
保険料は給与と同じように、事業主と従業員で半分ずつ納付します。従業員分の保険料は賞与支給時に徴収しますが、賞与支給前に退職した従業員の分は徴収しません。保険料は賞与支給日に企業に在籍している従業員のみ支払が必要です。
賞与支払届を電子申請のやり方
賞与支払届の電子申請は、e-Govで行えます。e-Govは、デジタル庁が運営している総合的な行政のポータルサイトです。e-Govを利用すると、各種手続きをオンラインで完了することが可能です。
電子申請を行うには、電子証明書またはGビズIDを準備する必要があります。利用可能な電子証明書は、認証局のホームページで確認できます。GビズIDの申請方法はこちらからご確認ください。
電子申請のやり方は、「直接入力方式」と「CSVファイル添付方式」の2種類の方法に分類できます。
直接入力方式は、電子申請のウェブページに申請情報を入力し、1件ずつ手続きを行う方法です。CSVファイル添付方式は、作成した届出書データを添付ファイルに設定し、ウェブページで申請します。そのため、1件の手続きで複数人の対象者を設定することが可能です。
CSVファイル添付方式で使用する届出書の作成方法は、3種類あります。
- 届出書作成プログラムを利用して作成
- e-Govの届出書作成画面を利用して作成
- 市販ソフトを利用して作成
具体的な作成方法は、日本年金機構のホームページに掲載されているので確認してください。電子申請で困ったら、電子申請全般に関する質問はこちらで相談できます。
賞与支払届の手続きでの注意点
賞与支払届の手続きをする上では、注意点したいことが3点あります。
・賞与の支給なしの人は賞与支払届に記載しない
・届出が遅れないようにする
・賞与支払届を誤って届け出た場合は訂正をする
これらの注意点を把握しておくことで、適切に手続きを進められるでしょう。それぞれの注意点を詳しく解説していきます。
賞与の支給なしの人は賞与支払届に記載しない
賞与の支給なしの人は、賞与支払届に記入する必要はありません。
賞与の支給なしの人とは、企業から賞与の支払いが通常通りあったにもかかわらず、賞与の支給を受けていない人のことを指します。なぜなら、賞与支払届の提出対象者は、企業から賞与の支払いを受けた従業員だからです。
賞与の支払いを受けていない従業員には、賞与分の社会保険料はかかりません。そのため、賞与支払届に記入する必要はありません。
なお、一部の従業員のみならず、会社全体への賞与支給が無かった場合は、賞与不支給届の提出が必要です。
届出が遅れないようにする
賞与支払届提出の際は、届出が遅れないように気をつけましょう。届出が遅れると、延滞料が発生する可能性があるからです。
賞与支払届の提出が遅れると、年金事務所から督促状が届きます。督促状が届いたら、速やかに年金事務所や健康保険組合に連絡をし、振込の手続きを行いましょう。
督促状が届いた後、督促状の指定する期日までに納付をしなかった場合、延滞金がかかります。延滞金は納付期限の翌日から納付日前日までの日数に応じ、保険料額に一定の割合を乗じて計算されます。
延滞金の割合は、日本年金機構のホームページで確認が可能です。最大で9%近い延滞金がかかるため、届出は速やかに提出するようにしましょう。
賞与支払届を誤って届け出た場合は訂正をする
計算の誤りや支払額の変更により、賞与額に変更がある場合、訂正が必要です。訂正をしなければ、誤った賞与額のまま処理されてしまうからです。
訂正する場合、「被保険者賞与支払届」を再度提出します。訂正用の用紙はありません。1回目に提出した被保険者賞与支払届の訂正部分に二重線を引き、近くに正しい数値を記入します。
書類を提出する年金事務所によっては作成し直しが必要な場合もあるため、提出先に確認し、指示に従って訂正を行いましょう。
賞与支払届の提出を忘れていた・遅れた場合どうなる?
賞与支払届の提出を忘れると、従業員が将来受け取る年金額に悪影響があります。
提出忘れにすぐ気づくことができれば、提出期限を過ぎた後でも提出できますが、賞与の支払いから2年以上経つと、時効により保険料を納められなくなります。保険料を納められないと、本来納める予定だった保険料分、従業員が将来受け取る年金額が減ります。
万が一提出漏れが発覚したら、「事業主からの自主的な申出にかかる申出者リスト(賞与支払届提出もれ用)」という書類を用意し、管轄の年金事務所または事務センターへ速やかに相談しましょう。
また、従業員本人に毎年送られる「ねんきん定期便」で未納が発覚する可能性があります。この場合、従業員とのトラブルに発展する可能性があります。従業員から指摘される前に、速やかに手続きを行いましょう。
まとめ
賞与支払届を提出するまでの流れや電子申請の方法、手続きの注意点などについて解説しました。
賞与支払届は賞与にかかる社会保険料を算出するための書類のため、提出に不備があると従業員の将来受け取る年金額に悪影響があります。内容に誤りがあった場合はすぐに訂正したり、提出を忘れていた場合は気づいたらすぐに提出したり、迅速な対応が必要です。
賞与の支払いがあったときにスムーズに対応できるように、手続き方法を確認しておきましょう。
人事・労務担当者の方の業務負担軽減のためには、当社ディップ株式会社が提供する「人事労務コボット」の導入をおすすめします。
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