企業の人事や労務に携わっている方は、雇用保険被保険者証の扱いについて正しく理解しているでしょうか?今回は、雇用保険被保険者証の再発行の手続き方法や必要または不要になるケース、よくあるQ&Aなどについて解説します。
人事や労務担当者であれば、いずれも知っておきたい内容です。従業員から問い合わせがあった際にスムーズに回答できるよう、知識を固めておきましょう。
雇用保険被保険者証とは?
雇用保険被保険者証とは、雇用保険に労働者が加入した際に発行される証明書のことです。雇用保険の加入に該当する条件は次のとおりです。
・31日以上の雇用見込みがあること(短期契約を繰り返す場合も対象)
・1週間辺りの所定労働時間が20時間以上であること
これらの条件に該当する場合は、アルバイトや派遣労働者などの雇用区分に関係なく、雇用保険への加入が義務付けられています。ただし派遣労働者については、派遣先の企業ではなく派遣元の企業にて雇用保険の加入手続きが必要になります。
条件に該当する従業員を雇う場合、企業は公共職業安定所(ハローワーク)に対して雇用した月の翌月10日までに、雇用保険被保険者資格取得届を提出しなければなりません。
雇用保険被保険者証が不要なケース
従業員を雇う際に、雇用保険被保険者証が不要になるケースは、次の2つです。
・雇用保険の加入条件を満たしていない
・公務員である
それぞれ解説しましょう。
雇用保険の加入条件を満たしていない
雇用保険の加入条件を満たしていない場合は、当然ながら雇用保険被保険者証の発行はできません。次の条件に従業員が該当するのであれば、雇用保険被保険者証の加入手続きは不要です。
- 雇用期間が31日未満
- 週の所定労働時間が20時間未満
- 学生(通信教育、夜間、定時制の学生を除く)
また、学生については、昼間学校に通う高校生や大学生は加入対象とはなりません。通信教育や定時制の学生など、本業が学生でない場合は加入対象となるため注意が必要です。
公務員である
公務員の場合、国家公務員退職手当法による退職手当があるため、雇用保険の適用対象とはなりません。
地方公務員は各自治体で定められた条例にもとづき、退職手当を受け取ります。離職時に受け取る退職手当が、雇用保険でいう「失業手当」の代わりとなるため、公務員は雇用保険の加入対象とはなりません。
雇用保険被保険者証はどこが発行する?
雇用保険被保険者証は、公共職業安定所(ハローワーク)から事業主を通じて発行されます。
会社は公共職業安定所(ハローワーク)に対し、雇用月の翌月10日までに、雇用保険被保険者資格取得届を提出する必要があります。また、ハローワークから雇用保険被保険者証が発行されたら、会社で保管するのではなく、必ず従業員本人へと手渡しましょう。
会社で雇用保険被保険者証を保管してはならない理由については、最後のQ&Aの項目にて詳しく解説します。
雇用保険被保険者証はいつもらえる?
雇用保険被保険者証を従業員がもらえるタイミングは、主に次の2とおりです。
- 入社してから1ヶ月程度
- 従業員本人の退職時
ただし、前項でも解説したとおり、雇用保険被保険者証は本来会社ではなく従業員本人が保管するものとされています。紛失防止などを目的に会社側が保管している場合は、退職時に本人へと手渡されるケースがほとんどです。
一方、会社で保管せずきちんと従業員本人へ渡している場合は、概ね入社1ヶ月程度で会社から本人へと渡されます。
雇用保険被保険者証はいつ必要になる?
雇用保険被保険者証が必要になるタイミングは、次の3つです。
・転職時:転職先で雇用保険の再開手続きをする際は、雇用保険被保険者証が必要です。
・失業保険の給付時:離職期間ができ失業給付を受ける際は、ハローワークでの手続き時に雇用保険被保険者証が必要になります。
・教育訓練給付金の利用時:「教育訓練給付金」の支給を申請する際は、雇用保険被保険者証が必要になります。利用時の手続きについては、後ほどQ&Aにて詳しく解説します。
雇用保険被保険者証の再発行は可能?
雇用保険被保険者証を紛失した場合、従業員本人がハローワークで手続きすることで再発行できます。なお、雇用保険被保険者証の再発行のためには、次のものが必要です。
・顔写真付きの本人確認書類1点(運転免許証など)
・顔写真のない本人確認書類2点
・退職した会社の正式名称、住所、電話番号
・印鑑(もしくは本人による署名)
上記の書類を持ってハローワークの窓口で手続きすれば、即日で再発行してもらえます。
また、ハローワークの窓口に行かなくても、電子申請による届出も可能です。平日にハローワークへ行く時間がない場合は、電子申請での手続きが便利でしょう。
従業員から雇用保険被保険者証を紛失したと報告があった際には、上記の手続き方法を案内し、従業員本人から申請するように伝えましょう。
雇用保険被保険者証の手続き方法
雇用保険被保険者証を発行するための手続き方法は、次の3つのパターンによりそれぞれ方法が異なります。
・新卒社員の雇用
・中途社員の雇用①(被保険者番号を引き継ぐ場合)
・中途社員の雇用②(被保険者番号を引き継がない場合)
それぞれ詳しく解説します。
新卒社員の雇用
新卒社員の場合、基本的に雇用保険への加入が初めてとなります。新卒社員を雇用する場合には、次の項目にもとづき「雇用保険被保険者資格取得届」をハローワークへ提出しなければなりません。
・マイナンバー
・被保険者番号
・取得区分(新卒社員の場合は新規を選択)
・被保険者の氏名
・変更後の氏名(再取得の場合に多く、新卒社員ではまず記入不要)
・性別
・氏名
・生年月日
・事業所番号
・被保険者となる原因(卒業年の3月1日〜6月30日までの新卒入社であれば1を選択)
・賃金(入社時点の賃金、賞与や残業手当は含まない)
・資格取得年月日(試用期間を含む入社日)
・雇用形態
・職種
・就職経路
・週の所定労働時間
・契約期間の定め(ある場合は正確に記入)
上記をすべて記入したら、最後に事業主の住所・氏名・電話番号を記入し、押印すれば完了です。速やかにハローワークへと提出しましょう。
中途社員の雇用①(被保険者番号を引き継ぐ場合)
雇用保険の被保険者番号を引き継いでいる中途社員の場合、まず前会社での雇用保険被保険者証を提出してもらいましょう。雇用保険の適用下での勤務から7年以上経過していない場合は、雇用保険の被保険者番号を引き継ぐ形になります。
雇用保険被保険者資格取得届の「2.被保険者番号」に、被保険者番号を記入しましょう。また、「3.取得区分」については、再取得の扱いです。雇用保険を取得した時点の氏名から変更があった場合は、「4.被保険者の氏名、フリガナ」に変更前の名前を、「5. 変更後の氏名」に現在の名前を記入します。
万が一、採用する中途社員が雇用保険被保険者証を紛失していた場合は、ハローワークで従業員本人が手続きすることで雇用保険被保険者証の再発行が可能です。
中途社員の雇用②(被保険者番号を引き継がない場合)
被保険者番号を引き継げない中途社員を雇用する場合は、新たに雇用保険被保険者証の発行手続きが必要になります。雇用保険の適用から外れて7年以上が経過すると、雇用保険番号が発行元であるハローワークのデータから削除されてしまいます。
そのため、7年以上雇用保険に加入していない中途社員を雇う際は、雇用保険被保険者証の交付手続きを実施し、新たにハローワークで番号を取得しなければなりません。育児や介護などで長期間就労していない中途社員を雇う際は、必ず未就業の期間がどれくらいなのか確認しておきましょう。
雇用保険被保険者証についてよくあるQ&A
最後に、雇用保険被保険者証についての、よくあるQ&Aを紹介します。紹介する内容を参考に、従業員から問い合わせがあった際には、スムーズに回答できるようにしておきましょう。
従業員が「教育訓練給付制度」を利用する際の手続きは?
教育訓練給付制度は、雇用保険法における失業等給付の一つです。主に雇用の安定と再就職の促進を目的とした給付制度です。
厚生労働大臣指定の教育訓練を修了した場合に、受講費用の一部が支給されます。教育訓練給付制度は、会社側ではなく、制度を受ける従業員本人による手続きが必要になります。
従業員から教育訓練給付制度の希望があった際は、下の表を参考に必要書類や手続きなどについてサポートしてあげましょう。
教育訓練給付制度の対象となる従業員 | 教育訓練給付金の支給を受けるための書類 |
---|---|
・雇用保険加入期間1年以上で、教育訓練給付金を受給した経験がない従業員 ・前回の受講開始日以降、雇用保険の加入期間が3年以上の従業員 | ・教育訓練修了証明書 ・教育訓練給付金支給申請書 ・教育訓練経費となる領収書 ・本人確認書類 ・マイナンバーがわかる書類 ・雇用保険被保険者証 ・振込先の口座番号がわかるもの(通帳やキャッシュカードなど) ・教育訓練経費等確認書 ・教育訓練給付適用対象期間延長通知書(適用対象期間を延長した場合) |
また、従業員が教育訓練給付制度を受講し、給付金が受給されるまでの流れは次のとおりです。
- 管轄ハローワークにて対象者に該当するか確認する
- 希望講座を選択し、教育訓練給付制度を利用したい旨を伝える
- 教育訓練をカリキュラムに合わせて受講する
- カリキュラム終了後、修了書類や証明書がスクールから渡される
- 必要書類を用意し、管轄のハローワークにて給付申請する(受講修了日の翌日から1ヶ月以内)
- 指定した口座に、給付金が振り込まれる
大まかな流れは上記のとおりですが、従業員本人に対しても、ハローワークへ詳細を確認するようにアドバイスしましょう。教育訓練給付制度については、厚生労働省の次のページにて詳しく解説されています。
雇用保険被保険者証の保管主は?
厚生労働省のサイトでは、事業主に対し「雇用保険被保険者証」を従業員本人に手渡すよう注意喚起しています。なぜなら、雇用保険被保険者証は、労働者に対して公共職業安定所(ハローワーク)から交付される証明書のためです。
しかしながら、「雇用保険被保険者証」は従業員が在職中に使う機会がほぼないため、紛失防止も兼ねて企業側が保管し、退職時に手渡すという企業が多くあります。ただし、雇用保険の被保険者証等を会社で保管することは、雇用保険法施行規則(雇保則)の第10条(雇用保険法施行規則)により、認められていない行為です。
雇用保険被保険者証を会社で保管している場合は、速やかに従業員本人へと手渡しましょう。
まとめ
雇用保険被保険者証の再発行に必要な手続きや、手続きが不要になるケースなどについて解説してきました。下記に該当する従業員を雇う際は、アルバイトやパートタイマーなどの雇用区分に関係なく、雇用保険への加入が必須となります。
- 31日以上の雇用見込みがあること(短期契約を繰り返す場合も対象)
- 1週間辺りの所定労働時間が20時間以上であること
雇用保険被保険者証は、公共職業安定所(ハローワーク)から事業主を通じて発行される証明書です。そのため、雇用保険被保険者証は会社が保管するのではなく、従業員本人が責任を持って保管しなければなりません。
従業員が雇用保険被保険者証を紛失してしまった場合は、従業員本人がハローワークで手続きすることで、即日で再発行できます。また、「新卒社員」や「被保険者番号を引き継げない中途社員」を雇用する場合は、「雇用保険被保険者資格取得届」をハローワークへ提出しなければなりません。
今回お伝えした内容を参考に、企業の人事労務担当者は、雇用保険被保険者証の扱いについて正しく理解しておきましょう。
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